『ドアーズ』(1991)ドアーズの伝記映画と思ったら、ストーン監督のいつもの映画でした。

 はじめてドアーズの『ジ・エンド』を聴いてから、すでに40年近くは経っています。普通はラジオかレコードなのでしょうが、映画ファンらしく、ヘリのプロペラ回転音で幕を開ける、フランシス・フォード・コッポラ監督の狂気に満ちた問題作『地獄の黙示録』のサントラで耳にしたのが最初でした。

 もっともしっかりとドアーズのアルバムを聴くようになったのは大学時代の頃で、ジャケット写真が印象的なデビューアルバム『ハートに火をつけて』も近所の中古レコード屋さんで買ってきました。

 その後はシングル盤『タッチ・ミー』『ラブ・ミー・トゥ・タイムズ』『ハロー・アイ・ラブ・ユー』などを買った程度なので、せいぜいファンでしかなく、マニアではありません。それでもこのデビューアルバムにはロックの良さの多くが一枚にギュッと濃縮されていました。

 CDで持ってはいても、どうしても再びレコードで聴きたいアルバムの1つでしたので、ちょっと前にヤフオクでエレクトラ・レーベルのドイツ盤を落札しました。ドイツ盤らしく、高音質でメリハリが効いた良い音を出してくれています。デレク・アンド・ドミノス『いとしのレイラ』、レッド・ツェッペリン『レッド・ツェッペリンⅢ』、ローリング・ストーンズ『スティッキー・フィンガーズ』と共によくわが家のレコードプレーヤーのターンテーブルに載っています。

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 上記の二枚とも曰く付きでデレク・アンド・ドミノスの唯一のアルバムはCD化されたものの、何が気に入らないのか、何度も繰り返しリマスターされています。アナログ時代にはあった混沌とした当時の雰囲気とか空気感、あるいは奥行きとか音の広がりとか立ち上がりとかの細かいニュアンスが再現されていないのか、そもそも一度も満足にセッションのパッションが伝わっていないのかもしれません。

 レッド・ツェッペリンの三枚目もファンからは期待したハードなメタリック・サウンドとは正反対のアコースティックで静かな世界観が賛否両論を生んだようですが、ぼくは意外と好きなアルバムです。ヤードバーズを経て、ジミー・ペイジがレッド・ツェッペリンを結成し、1969年にたった30時間のレコーディングを敢行して製作したのが1枚目のファーストでした。衝撃のデビューを飾った同じ年に創作意欲にあふれたペイジは『胸いっぱいの愛を』『ハートブレイカー』を配したセカンドを発表し、さらに翌年の1970年には『移民の歌』をトップに置いた三枚目『Ⅲ』をリリースしました。

 さすがに同じようなものばかり出すのは飽きていたのでしょうし、実験的な要素や芸術性を含めて色々と試したかったのではないかと思います。ここでの試行錯誤があったからこそ、傑作『Ⅳ』に繋がったのでしょう。ジミー・ペイジのギターはアコースティックギターを使ったプレーでも甘ったるくはならず、枯れていて渋い音を聴かせてくれます。

 上記のアルバムはCDでは持っていましたが、こちらもどうも昔レコードで聴いたときに比べると、こじんまりとしていて、音が硬い印象がありました。今回、レコードで聴き直すと音が塊で迫ってきます。CDは解像度が増している点では評価すべきでしょうが、ロックの音としてはレコードが好みです。

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 ローリング・ストーンズ『スティッキー・フィンガーズ』は高校生の頃に大学生の知り合いのお兄さんがアパートを引き払うのに合わせて、ストーンズの輸入盤のデッカ時代のアルバムを中心に10枚くらい譲り受けました。

 『アフターマス』『ガット・ライヴ・イフ・ユー・ウォンテッド』『ゲット・ヤーヤズ・アウト』『ベガーズ・バンケッド』『スティル・ライフ』『ビッグ・ヒッツ1&2』『ブラック・アンド・ブルー』『スティッキー・フィンガーズ』『リワインド』などです。

 その中でも『スティッキー・フィンガーズ』はローリング・ストーンズの代表作に挙げる人もいるくらいの作品であり、僕もこれを一番素晴らしいアルバムだと思っています。ボビー・キーズの豪快なサックスが印象深い『ブラウン・シュガー』がもっとも有名でしょうが、このナンバー以外にも『ワイルド・ホース』『キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング』『ユー・ガッタ・ムーヴ』『ビッチ』『ムーンライト・マイル』『デッド・フラワーズ』など優れた楽曲が多く、ストーンズのアルバムにしては珍しく、カス含有率がまったくない名盤です。

 残念ながら、大学時代の引っ越しの際にレコード・コレクションのほぼ全てが紛失されてしまったので、CDで買い直すハメになりました。今はどうか知りませんが、当時の引っ越し業者は最悪で、友人たちに聞いても、「あれがなくなった」「あれを壊された」とかの話をよく聞きました。

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 部活絡みの後輩が多い奴は彼らに手伝ってもらうという人がいましたが、単純にお金が無かったことに加えて、経験則として業者を信用していなかったのでしょう。それらの思い出と共に再度手に入れたアナログ盤を聴いています。

 今回、オリバー・ストーン監督作品『ドアーズ』を久しぶりに見ようと自宅のビデオ棚やDVD棚を物色しましたが、まったく見つからず、はてさて誰に貸したのだろうかとかを相談しようにも我が家にはコナン君やコロンボ刑事は居ませんので、彼らのように振り返ったものの、すでに記憶の時効を迎えていたようでさっぱり思い出せませんでした。

 仕方なく、まずは近所のツタヤさんに借りに行きましたが、不人気のためか在庫が無かったので、ちょっと遠くにあるGEOさんに向かいました。すると幸い在庫を置いてくれていたので、『チューリップ・フィーバー』とともにすぐに借りてきてDVDプレーヤーにセットしました。

 久しぶりに見ていくと「そうそう!こんな感じ!」と思い出しながら、約140分間という結構長い時間をオリバー主観のドアーズのというよりはジム・モリソンのなんだかよく分からない描写が多い歴史(?)を振り返る内容でした。

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 あくまでもジム・モリソンの歴史であって、ドアーズの歴史ではない。というか、レイ・マンザレクのようなしっかりしたメンバーが存命だった(2015年に死亡)のに彼らの存在感が非常に薄く、ジムの奇行や支離滅裂な言動ばかりにスポットが当てられ、トリップした妄想場面が多く、何を語りたいのかが分かりにくい。

 ロビー・クリーガー、ジョン・デンズモアに至っては更に印象が薄い。ドアーズの魅力はもちろんジム・モリソンの存在そのものと歌い声ではありますが、ともすれば陰鬱な雰囲気に満ちた彼の詩を知性的でポップなオブラートで包むのがレイ・マンザレクのキーボード演奏であり、ベースの不在を感じさせないロビー・クリーガーとジョン・デンズモアのしっかりとリズムを刻むプレーでした。

 そもそもドアーズがデビューしたのは1967年で、同じ年にはビートルズが『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド』を発表していましたが、肝心のオリバー・ストーン監督自身はアメリカ軍に入り、遠くのベトナムで行われていたベトナム戦争に従軍していたはずので、彼らを身近で体感しながら過ごした訳ではない。

 そんなオリバー・ストーン監督にドアーズが理解できるのだろうか。実際、ジム・モリソンが紡いだ歌詞の繊細さや神秘的な魅力を分かっているようには思えない。ドアーズ映画なので、多くの場面で彼らの魅力的で代表的なナンバーが配置されていますが、なんだか居心地が悪い。

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 特に『ジ・エンド』の使い方が微妙で、何度も意味有りげに使用する割りには死の場面やエンディングには持って来ずに終わってしまうので『バックドア・マン』や『L.A.ウーマン』の印象の方が勝ってしまう。

 それでもバンド結成のエピソードや幼少時に遭遇した交通事故によって死亡したアメリカ・インディアンの遺体を目撃したトラウマがいつまでもモリソンの意識に残っていて、影響が少なからずあったことがほのめかされる。軍人(のちにアメリカ海軍提督)だった父親への畏怖と反抗心、母親への複雑な心情は『ジ・エンド』でも歌詞で示される。

 「父さん!」「なんだい息子よ?」「あなたを殺したい!」「ねえお母さん。あなたを犯したい!」とかなり衝撃的です。実際のライブで歌ったときは激怒したハウスのオーナーに叩き出されてしまう様子が劇中でも描かれています。

 恋人で死を看取ったパメラ・カーソン役で若き日のメグ・ライアンがオッパイむき出しで熱演する作品でもあります。実際のパメラはジムの死後三年後に自殺してしまうため、ジムの実像は謎に包まれたままです。

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 一番笑えるのはボケたエド・サリヴァンが司会を務めるエド・サリヴァン・ショーの出番前に、スタッフから再三『ハートに火をつけて』の歌詞の一節の“higher”の部分をボカして、“better”に歌詞を変えるように指示されるものの本番で麻薬の多幸感を表す“higher”をそのまま生放送で全米にお届けするシーンです。

 エド・サリヴァンと言えば、ぼくが知っているイメージはわれらがビートルズが初出演した際の全盛時の紅白歌合戦のような70%近い視聴率の凄さとショービズの大立者のユダヤ人というものでした。

 この業界トップに立つ司会者の番組を貶める暴挙に出たジムの反抗的な態度に激怒したエドは彼らに「二度と出さない!」と叫んだものの、ジムは「ショーは卒業したよ!」と言い返したそうです。

 さらに厳しくなった今の放送コードでなら、彼らには何が出来るのだろうとか考えると興味深い。歴史物としては色々と問題がありそうですし、マニアでなければ、根気よく140分間を付き合うのは難しいでしょうが、それなりに時代の空気感や徐々に人気が下降していくに従い、アルコールと薬物、もしかすると心因的なストレスの影響から激太りしていく様子が痛々しい。ジム役を熱演したのはヴァル・キルマーでしたが、あまりにも似すぎていて最初に見た時はびっくりしました。

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 ライヴ会場で観客を煽るために自身のイチモツを取り出してしごいた為にその場で警察に逮捕されるというアホ過ぎるエピソードもジム・モリソンらしいと言えます。ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、ブライアン・ジョーンズと並び、早死したロック・スターとして永遠に語り継がれるのがジム・モリソンなのです。

 ちなみにジムがパリ滞在時に浴槽で変死したにもかかわらず、検死も死体解剖は行われず、すぐに葬儀が行われたために死因は永久に分かりません。原因を知っていた可能性があるパメラは3年後に自殺しているためでもあります。

 悲しいことが多いのはロック・バンドの常ですが、残された作品群をぼくらファンが聴き続けることで彼らの歌は受け継がれていき、子供世代に何気なくドライブなどで聴かせながら、未来のスターが影響を受けていくのでしょう。

 とりあえず、聴いたことのない方は『ハートに火をつけて』『ジ・エンド』が入ったデビューアルバム『ハートに火をつけて』を買ってくるか、レンタルで借りてみてください。10分以上に及ぶ『ジ・エンド』がまったく長くは感じない不思議な感覚を味わってください。

総合評価 60点

ドアーズ [Blu-ray]


ハートに火をつけて(2017リマスター・エディション)<SHM-CD> - ドアーズ


ドアーズ / まぼろしの世界 [DVD]


スティッキー・フィンガーズ(デラックス・エディション) - ザ・ローリング・ストーンズ

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