『イエスタデイ』(2019)ビートルズが存在しないこの星はなんとも味気ない。皮肉がこもったパラレルワールド映画。

 しばらく前に劇場予告編を眺めていて、始まったら見に行きたいなあと思っていたものの、近所の映画館の上映作品をチェックしていても、なかなか予定が記載されない作品がありました。それがこの『イエスタデイ』だったのです。

 まだ公開されていないのかなあと不審に感じながら、大阪でたまに通っていたマイナー館のスケジュールを見たら、普通に公開されているのが分かりました。自宅からそこまでは一時間弱掛かりますが、電車を乗り継ぎする必要がないので苦痛ではない。

 久しぶりにお目当ての映画館がある駅前に来ましたが、最近のやたらキレイだが、無機質なシネコンとは違う昭和感満載のどん帳が何とも言えない深い味わいを出しています。やさぐれたオジサンが普通にタバコを上映中にプカプカとふかしそうな、昔の映画館にあった大人向けで怪しい雰囲気を醸し出しています。

 売店のガヤガヤした音が上映開始まで締め切られないドアの向こうから聞こえてきます。思わず、安っぽそうなアメリカン・ドックとパサパサっぽいポップコーンを買い、上映に備えました。買ったばかりなのに温かくないポップコーンは思った通り、パサパサである意味期待通り過ぎて、笑ってしまいます。

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 まあ、クレームを入れるようなヤボなヒマ人は居らず、そもそもみんな何かしら食べ物を持ち込んでいるようで、カバンをゴソゴソやってました。それなこんなでダラダラと上映が始まりました。

 内容は「もし、この世界にビートルズが存在していなかったら」というドリフのもしもシリーズのコントを思い出させる感じです。全世界のビートルズ・マニアにとっては味気ない星になってしまう恐ろしい作品世界です。

 世界規模で12秒間の大停電が起きた瞬間にすべての人の記憶と思い出からビートルズが抹消され、オアシス、ハリー・ポッター、コカ・コーラがついでに消えてしまいます。ローリング・ストーンズやペプシはパラレルワールドにも存在します。

 Googleでググっても、“ビートルズ”がヒットしない異様な世界が幕を開けます。主人公ヒメーシュは停電時にちょうど気を失うほどの事故に遭い、たまたま記憶をとどめます。

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 ビートルズを誰も知らない世界で成功を掴み出す主人公(ヒメーシュ・パテル)には人気歌手、エド・シーランが接触してきます。シーランは本人役で登場し、ビートルズの記憶を頼りに驚異的な“天才性(ジョンやポールのナンバーを次から次にリリースするのだから当然!)”を発揮するヒメーシュと即興曲作り対決を行い、『ロング・アンド・ワインディング・ロード』に完敗する。

 笑えるのはヒメーシュが自信満々で名曲の宝庫であるビートルズナンバーをみんなの前で演奏しても、本人のルックスが並以下のため、誰も見向きもしないことで、本家の魅力は楽曲はもちろんのこと、彼らが持っていたカッコ良さや可愛らしさもあったのだと示される。

 自分で良し悪しを判断せずに他人の評価を鵜呑みにするうわべだけの音楽ファンを揶揄する表現が多く、曲をしっかりと聴こうとしない観客はビートルズも何も理解しておらず、ただ人気と権威だけで判断しているのがよく分かります。

 その後はアルバム制作に入るが、タイトル案としてヒメーシュが出した『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は「訳がわからない!」「長すぎてダサい!」という理由で、『アビーロード』はただの道と対向車が走っているだけでつまらないという理由でボツにされる。

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 そして『ザ・ビートルズ』、いわゆるホワイト・アルバムも人種問題に敏感なアメリカでは“白”が多過ぎるというコンプライアンス的な理由でタイトルとアルバム・ジャケットが却下されて、『ワン・アンド・オンリー』(ビリー・シアーズみたい)などと変なタイトルがマーケティング本部に付けられてしまいます。

 普段の会話に浸透しているビートルズ・ナンバーの歌詞が身近な事柄を扱っていたのかがよく分かりますし、音楽ビジネスという産業が如何に肥大して、多くの欲張りで怪しげな人々の飯の種になっているのかを皮肉っています。

 もっとも皮肉に満ちているのは偉大な人類の資産であるビートルズ・ナンバーの全曲を無料配信して、世界中に解放するシーンでしょう。自分が作曲したものではない楽曲で商売をすることに良心の呵責を感じての主人公の行動ですが、これもメンバーの遺族やレコード会社への当てつけでしょう。

 いい加減にリスナーの足元をうかがいながら、私利私欲を求め続けるアコギな商売を止めるべきでしょう。ファンとして興味深かったシーンがあり、一つはビートルズの楽曲で成功した主人公が夢でポールとリンゴに告発されるところです。これは後の出会いのシーンの伏線になっています。

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 成功した主人公はエリナー・リグビーやイエロー・サブマリン、ストロベリー・フィールズ、ペニー・レインなどビートルズの記憶を持ち続けている中年夫婦から、ある場所を書いたメモを渡されます。

 それはビートルズではなかった為に暗殺されることもなく、静かに一人暮らしを楽しむジョン・レノン(演じたのは名優ロバート・カーライル)の住所が書かれたもので、78歳になったジョンが小屋からゆったりと出てきて、主人公と会話するシーンはファンとしては心が熱くなります。

 これが伏線の意味で、主人公がもともと居た世界、つまり僕らの世界ではすでに生きているビートルズはポールとリンゴだけですが、暗殺されていない世界では別の時間が刻まれているので、ジョンが死んでいるというのは主人公の思い込みなのです。色々楽しませてくれるパラレルワールド物でした。

 エンディングには劇中で“相棒”を意味する“デュード”に改変されてしまう『ヘイ・ジュード』が選ばれ、劇場の大音響とともに最初からコーラスのフェイドアウトまで完全に流れます。

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 ぼくはコーラス前の“Fucking Hell!”に集中して聴いていましたが、今回も消されることなく、しっかりとサウンドの奥でポールが叫んでいました。ジャンル的にはドラマなのかSFに分類されるのか分かりにくいですが、ファンとしては見ておきたい1本です。

 もうちょっと主人公を演じる俳優が若くてカッコ良かったら、より良い感じになるところでしたが、さえない男でも曲が良ければなんとかなるということでしょうか。ルーフトップ・コンサートのアイデアが使われているのもファンとしては嬉しい。

 ビートルズが出演しないビートルズ映画の中ではロバート・ゼメキス監督の『抱きしめたい』以来の楽しさでした。『バック・ビート』もありますが、どうも切なくなる作品ですので、僕の中では今でも『抱きしめたい』が一番上位に来ます。パロディではモンティ・パイソン『ラトルズ 4人もアイドル』のレベルが高い。

 ハイライトは前述の通り、ジョン・レノン降臨シーンですが、彼を演じたロバート・カーライルの凄さを十分に堪能してほしい。まるで本人が抜け出してきたような仕上がりで、いかにもジョンが言いそうなことを言ってくれます。

総合評価 72点

イエスタデイ(オリジナル・サウンドトラック) - ヒメーシュ・パテル


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