『ジョーカー』(2019)今回のジョーカーはバットマンの永遠のライバルの彼とは別人なのかも。

バットマン・シリーズの人気悪役ジョーカーがどういうバック・グラウンドを背負って誕生したのかを描いた作品で、スター・ウォーズ作品群と同じく、未来や過去に際限無く拡がって行きそうです。

 ただ映画を見て感じたのはバットマンの枠組みを遵守してはいるが、アメリカ映画が大昔に現代劇で描きにくいテーマを西部劇で扱ったように、日本映画が時代劇で社会を風刺したように、今はアメコミを使って、社会問題を描こうとしているのかもしれません。

 リアルな感じに社会問題を映画に取り入れても、なかなか観に来てくれないでしょうが、表面上、誰でも知っている有名キャラクターを使えば、製作者が伝えたいことが大人から高校生くらいまで拒否感を与えることなく、割りと心にスッと入りやすいのを狙ったのでしょう。

 数年後に我が国で公開予定の庵野秀明監督が再び手掛ける『帰ってきたウルトラマン』もこんな感じにダークな仕上がりになるのかなあと考えています。東宝がR15指定をウルトラマンに受け入れるかに掛かってきますが、英断を期待したい。

joker001.jpg

 『ジョーカー』に関してはアメリカで映画公開が始まると賛否両論があるものの概ね観客の評価が高かったようですし、ベネチア映画祭でも金獅子賞に選ばれるなどアメコミの枠に囚われていない製作意図が評論家や審査員に理解されているのは明らかなので一見すべきでしょう。

 バットマン映画は『ダークナイト』辺りから暗く殺伐とした世界観を全面に押し出すようになり、引き続き製作された『ダーク・ナイト・ライジング』も同様に大人の鑑賞に耐える骨太な映画になっています。

 今回の『ジョーカー』もありがちなスピンオフの企画に過ぎないのではという偏見を無くし、まっさらな気持ちで作品に臨みましょう。僕等世代にとってはジャック・ニコルソンやヒース・レジャーが演じたジョーカーのイメージが強烈でした。

 ホアキン・フェニックスが今回演じたように、自らの内面的な精神世界が壊れていった青年がコアな部分で絶望や孤独などの否定的な感情が行きつくところまで行きつくと、それらが積み重なってスイッチになり、ジョーカーに生まれ変わり、外面に狂気がみなぎって来るさまが異様で怖い。

joker004.jpg

 僕らが知るジョーカーのコスチュームを身に纏い、坂道を楽しそうに転がって来る感じで踊る時の姿はこの作品の見どころの一つでしょうし、『雨に唄えば』とか掛けてくれたら、『時計仕掛けのオレンジ』と被ってしまいそうでした。それを避けたのでしょうか。

 個人的に印象が深かったのは常に笑っているホアキンの狂気です。悲しみや絶望を表現したいのにその時でも幼少期の虐待と暴行の後遺症と普段から養母に笑顔になるように強要されてきたため、彼が他者に見せられる感情は笑いしかない。

 なんだか『ワンピース』の悪魔の実の副作用であるSMILEの設定のようです。ジョーカーになるまで数回繰り返される、暗くて急な坂道の階段を家路に向かって昇るシーンは彼のこれまでの苦悩を表しているようです。

 殺人を犯し、自宅に戻った後に落ち着かせるようにピエロのパントマイムを踊るシーンも印象深い。そして同じアパートに住んでいるシングルマザー(ザジー・ビーツ)と恋仲になったホアキンとの深い関係を示すエピソードすべてがホアキンの妄想に過ぎなかったことがのちの映像で示される。

joker006.jpg

 母親を殺害後に彼女の部屋に上がりこみ、彼女と話をするのですが、彼女は彼のことを知らず、観客が「どういうことなの?」と不可解に思っていると、再度、同じシーンの構図が写されるが、そこにはザジーはおらず、ホアキンだけしかいなかったことを見せられる。つまり彼女との付き合いは妄想だったことが暴露される。ここは劇中でもっとも衝撃的な表現でした。

 独身男が幼少時に自分を虐待し続けた(ホアキンは忘れている)母と養子縁組(つまり赤の他人)とは知らされないまま、ずっと彼女の面倒を見ながら、懐かしい感じのテレビショーを一緒に見て、昼間はピエロを演じるサンドイッチマンとして生活を支えている姿は哀れを通り越して、もはや滑稽に見える。

 彼は仕事場でも馬鹿にされた挙句に裏切られて、近所の悪ガキにも蹴り飛ばされ、裕福な証券会社のエリート・サラリーマンにあざ笑われ、友人も恋人もおらず、しまいには解雇されて、その日の食事や薬にも事欠く。市からのセーフティ・ネットは打ち切られ、エリート、養母、裏切ったピエロ仲間とシリアルキラーのように立て続けに殺人を重ねて行く。

 しまいには自分をあざ笑ったテレビ番組の司会者ロバート・デ=ニーロを中継中に射殺する。この中継で貧しい99%の人々に向けて心情を語ると、ジョーカーの魂の叫びに呼応した民衆が立ち上がり、ゴッサムには暴動がおこる。この暴動時にウェイン知事夫妻は暴徒に射殺され、ブルース・ウェイン(バットマンですね!)のみが助けられる。

joker02.jpg

 もっとも最後のシーンでジョーカーは精神科の隔離病棟に拘束された姿で収監されている。これまでぼくらは2時間半近く、スクリーンに映るホアキンの姿をずっと見てきましたが、ここまでの物語はすべてジョーカーの妄想に過ぎなかったのか、それともすべて現実に起こったことなのか。暗闇の中に戻ってしまいます。

 『ダークナイト』シリーズに登場するバットマンに相対するにはここで描かれるホアキン・フェニックスのジョーカーはあまりにも弱すぎるし、武装ひとつとっても何も敵になり得ない。ホアキンはアノニマスのように後半に大挙して登場するピエロたちの一人にすぎず、バットマンの永遠の敵であるジョーカーとは別人なのではないか。

 そんなことを考えながら、エンドロール後に席を立ちました。翌日に会社にバイトしに来てくれている女子大生にこの映画を語りましたが、バットマンとジョーカーの関係性を知らなかったので、「アンパンマンとバイキンマンみたいな感じ」とか「トムとジェリーみたいな感じ」と言うと、「ああ、似た者同士なんですね」と返してきました。なかなか鋭いことを言う娘です。

 劇中で掛かる収録曲が古き良き時代を思い出させるほどにかなりレトロで豪華なのですが、作品の世界観が暗闇の深海で有象無象が騒めくような、地獄でのたうち回る人々を描写している欝々とした感じとは対照的で、異化効果の狙いが素晴らしい。

joker005.jpg

 フランク・シナトラ『ザッツ・ライフ』『センド・イン・ザ・クラウンズ』、ゲイリー・グリッター『ロック・アンド・ロール(パート2)』、ゲス・フー『ラフィング』、そしてチャップリンの『モダン・タイムス』で使用された『スマイル』は劇中劇でも流されるので、映画ファンとしても楽しい。ゴージャスなナンバーが立て続けに流れるが、作品の暗さはどんどん増していき、サントラとの落差に戸惑うかもしれません。

 ただ何といっても、一番強烈なイメージを与えてくれたのは最近、ジンジャー・ベーカーまで死んでしまい、とうとうクラプトン一人になってしまったクリーム『ホワイト・ルーム』でしょう。自らの扇動により、暴力と略奪によって燃え盛るゴッサム・シティの様子をぼんやりとホアキン・フェニックスが眺めるシーンで掛かるこの曲は時代が変わったのだという認識を観客にも与えます。

 この映画を見ていて、思い出したのはロバート・デ―ニーロが主演した二本の映画でした。一つは名作として語り継がれている『タクシードライバー』、そしてもう一本は『キング・オブ・コメディ』です。鬱屈している冴えない男が凶悪な犯罪者になるまでを描く点、かつて自分が出る側だった役が今度はキャスティングする側に回っている点は興味深い。

 ただこれを見た単純な観客が自分の境遇と似ているからといって、暴力行為や犯罪に走るとしたら、あまりにも情けないですし、現実とフィクションを一緒にしないでほしい。それを煽るアホなマスコミも同様に情けない。

joker003.jpg

 総合評価 83点

ダークナイト(2枚組) [Blu-ray]


クリームの素晴らしき世界 (紙ジャケット仕様) - クリーム


ブルーレイ2枚パック  タクシードライバー/イージーライダー [Blu-ray]


キング・オブ・コメディ [DVD]

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント