良い映画を褒める会。

アクセスカウンタ

zoom RSS 『静かなる決闘』(1949)梅毒と独りで向き合う超人的な青年医師を演じる三船敏郎。

<<   作成日時 : 2013/03/07 20:09   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 4

 たぶん黒澤明監督作品中でこれまでに自分が見た回数がもっとも少ないのがこの『静かなる決闘』です。主演が三船敏郎なのですが、他の作品とはかなり異質な印象を受けます。

 彼の代表作の一つでもある『酔いどれ天使』で観客に定着してしまった悪漢やヤクザというワイルドなイメージを払拭し、一度イメージをリセットして演技の幅を広げるためにはこういった作品に出演することが必要だったのでしょう。

画像


 彼の魅力が全面に出ていたとは言い難い印象ではありますが、俳優としての奥行きが広がる重要な作品だったのではないか。自分のミスとはいえ、戦地で罹患した梅毒とたった独りで真摯に向き合い、近しい人にも事情を語らずに、大切な恋人をも拒絶する高潔な医師を熱演しています。

 タイトルから想像するとジョン・フォード監督の西部劇みたいですが、自分自身と体内に潜む、梅毒のスピロヘータとの戦いなので「静かなる決闘」で正しい。ただ如何せん脚本が大きな原因なのでしょうが、あまりにも三船が超人的で、身体中が力みすぎている感もあります。

画像


 どこか醒めた目で見てしまいますし、恋人や家族にも真実を告げずに独り苦しむ様はさすがに感覚が古くさくなってしまっている。こういうところが好んで視聴をしてこなかった理由です。

 当時の梅毒は恐ろしい病気として認識されていました。そのような性病キャリアが無責任に避妊もせずに性交を行うと、母親にも病気が感染し、産まれてくる子供までも奇形児になるという話の持っていき方は極端なイメージを植え付ける恐れがあるので、黒澤明監督作品中でもあまりスポットライトを浴びにくい。

画像


 高潔な三船と自堕落な植村謙二郎のあまりにも極端な描き分けは人間の二面性を表すために二人に分けて具現化したものなのだろうか。お互いに極端なので分かりやすくしたのでしょうが、かえって不自然な感が否めない。

 とかく黒澤監督というと、時代劇ばかりが話題になるが、ヒューマン・ドラマも数多く手掛けているので苦手な分野ではないものの好みというのは人それぞれなので、結果としてあまり見てきませんでした。

画像


 それでも感染症を扱ったこの作品は後のAIDSなど性病やウィルス感染に対するモラルや避妊などの問題などを考えていく上ではかなりの先見性があったのかもしれません。

 ヒューマン・ドラマとして描く感染症は不治の病を取り扱ってきた作品に比べるとそれほど多くはなかったのではないか。あまり皆が医学的知識がない時代での感染症への警鐘であり、避妊の奨めにもなっているというのは着眼点として優れています。

画像


 今でこそかなりオープンに語られるようにはなりましたが、当時の感覚だといかがわしいとすら思われたのではないでしょうか。あらためてこの作品を見て、時代背景を考慮に入れると黒澤明監督のテーマの選び方の思い切りの良さとチャレンジ精神に驚かされる。

 では映像そのものや見せ方はどうだったのだろうか。オーソドックスに作られていて、あまり気になる部分は見つけられませんでした。湿っぽさと蒸し暑さという南方独特の雰囲気と野戦病院という特異な環境の様子はセットなのでしょうが、よく伝わってきているように思います。

画像


 見所としては自堕落な踊り子だった千石規子が三船と出会い、彼の真摯な態度と向き合ううちに彼が恋人を拒絶する理由を千石に語り、彼女がその後の人生を180度変えるきっかけになる緊張感が張り詰めるシーンが印象的な作品です。

 千石規子という女優はあまりメジャーとは言いがたいが、黒澤作品で彼女が見せる女らしさはみずみずしく、そして他の女優よりも美しく思えます。内面から出てくる美しさが上手く滲み出ているという印象です。若いとか、綺麗とかの単純な外見だけではない本物の美しさに触れられる作品がこの『静かなる決闘』なのでしょう。


総合評価 62点


静かなる決闘 [DVD]
角川エンタテインメント
2008-05-23

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 静かなる決闘 [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
『静かなる決闘』は、実は大変重要な作品だと思います。
医師三船の苦悩と告白は、戦争に行かなかった黒澤の懺悔と思えるからです。
『黒澤明の十字架 戦争と円谷特撮と徴兵忌避』を現代企画室から出し詳述しましたので、どうぞよろしくお願いいたします。 指田文夫
さすらい日乗
2013/04/07 16:43
 指田さま、こんばんは。
コメントをいただきまして、ありがとうございます。

黒澤監督と円谷特撮のつながりで思い出すのは本多猪四郎監督でしょうか。共産主義に傾倒していた青年たちにとっては徴兵忌避を帝国主義への抵抗と考えていたのでしょうが、心のどこかに兵隊になりたくないという本音が隠れていたら、戦後生き残ってもどこか忸怩たるものがあったのかもしれません。

実際、兵隊に取られた山中貞夫監督は戦死しましたし、有名無名の多くの活動屋たちが犠牲になっています。

>現代企画室
出版なさっているのですか!わざわざ当方のような稚拙なブログへお立ち寄りくださいまして恐縮です。

黒澤明監督関係の記事を書くと荒れるところが多いのが非常に残念ですが、応援させていただきますのでがんばってください。

ではまた!
用心棒
2013/04/07 22:16
黒澤は、戦争に行きたかったのです。
彼の父は軍人で、軍人の息子が徴兵されないのは世間に顔向けができない。
そうした意識が、『静かなる決闘』の三船の苦悩、梅毒になったが、自分の責任ではないのだという告白になっているのです。

彼が戦争に行きたかったことは、彼の友人の植草圭之助が本の中ではっきりと書いています。

稚拙とか何かとかは関係ありません。正しいか否かです。
『黒澤明の十字架』は現代企画室のサイト、もしくは私のブログ「さすらい日乗」からアクセスしてください。どうぞよろしく。
逆ですね、黒澤は戦争に行きたかったのです
2013/04/08 09:22
 彼は行きたかったんですか。ご指摘ありがとうございました。ではまた。
用心棒
2013/04/08 22:31

コメントする help

ニックネーム
本 文
『静かなる決闘』(1949)梅毒と独りで向き合う超人的な青年医師を演じる三船敏郎。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる