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zoom RSS 『グランド・ホテル』(1932)ガルボ、J&Rバリモア、クロフォード、ベアリーが奏でる人間模様。

<<   作成日時 : 2006/08/21 11:00   >>

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 のちにグランド・ホテル形式と呼ばれるようになる、エドムンド・グールディング監督によるドラマの語り方は当時は斬新であったろうと思われる。たったひとりでも、一本の主演映画を撮ることができる俳優たちを5人集め、五人それぞれに見せ場を作り、ただの顔見世興行的な作品の枠には収まりきらない活き活きとしたシネマを作り出した意気込みに対して与えられた称号が「グランド・ホテル形式」という言葉なのであろう。

 演劇界の実力者一家であるバリモア・ファミリーから出演したジョン・バリモアとライオネル・バリモア(彼らの子孫はドリュー・バリモアです)、大人気を誇ったグレタ・ガルボ、人気ハリウッド女優に登りつめようとしていたジョーン・クロフォード、そして悪役を演じたウォーレン・ベアズリーらの5人によって演じられ、オスカーも受賞したこの作品はいろいろな演出手法を提示した点でも意義が大きい。

 オールスターキャスト作品によくあるような「出ているだけ」などといういい加減さがなく、それぞれに密接に関係してくるドラマを仕立て上げた点をまずは評価したい。場面転換時に用いられる上から見下ろすショットの挟み方の上手さ、円や回転を何度も出すことによって得られる図形が喚起する意味、重要な小道具として使用された電話が持つ可能性などが印象に残っています。

 とりわけ電話の使い方にはアイデアを感じました。冒頭で電話の会話を使い、5人各々の置かれた状況と人物像を自己紹介させる試みは今ではありふれていますが、この作品が製作されたのは1932年なのです。不自然さがなく、しかも効果的に仕上げられた見事な説明シークエンスだと思います。

 ほぼ全篇をグランド・ホテルの室内や共有部分のみで撮りきっているのに、息が詰まるような窮屈さを感じさせないような工夫が必要になってくる。それが5人の群像ドラマだったのかもしれません。きりの良いところで他のドラマに切り替わる演出が成されているために、リズムが停滞することがない。

 今の目で冷静に見ると、ジョン・バリモアが5人のうちに占めるウェイトが大きすぎ、ガルボが霞んでしまっているように感じますが、それぞれのスターたちを立てる演出がされており、各々に見せ場が与えられている。

 エドムンド・グールディング監督は演出上、ジョン・バリモアを演技の柱に据えて、彼に絡むように他のスターたちを配置している。本当に均等にしてしまうと、焦点がボヤけ、バラバラな短編集のようになってしまうのを避けるためにも、彼を中心軸としてドラマを組み立てたのでしょう。その意図は成功したのではないでしょうか。

 ただこの作品で、重要だったのは目立ちやすいジョン・バリモアとグレタ・ガルボよりも、ライオネル・バリモアとジョーン・クロフォードの反応です。ライオネルは演技派として今でも通用するような演技を見せています。クロフォードが金の亡者として上手く立ち回るさまも新鮮で、作品で得をしたのは実はこの二人だったのではないか。クレジットでは3番手、4番手になってしまった二人ですが、作品を支配していたのは彼らでした。

 演技の上手さでは間違いなくライオネル・バリモアが一番でした。また女優の残した見栄えとしてはガルボよりもクロフォードの美しさが際立っていました。ただそれはフォトジェニックな見た目の美しさに過ぎない。女性の可愛らしさという点ではガルボの方が圧倒的な魅力を持っていました。

 どこか冷たい眼差しを持つクロフォードも魅力的ではありますが、ガルボの豊かな表情と比べると見劣りする。まあ、役柄上、打算的な女性を演じたので、どうしてもそのように見えるためかもしれません。

 ガルボの強い意思が働いたのかどうかは定かではありませんが、二大女優の共演シーンはただの一度もありませんでした。5人のうち、他の俳優全てと絡んだにもかかわらず、主演女優同志はツーショット・シーンを一度も見せることなく終わりました。

 若さいっぱいで、これから登りつめようとしていたクロフォードには見た目で勝負は出来ないと自覚していたのでしょうか。自分がそうやって、のし上ってきたからこそ分かる女優だけが持つ強く高いプライドを感じました。

 もっとも印象的だったのは場面転換時に用いられた天井や踊り場など高所から下界を見下ろすようなホテル自身の視点ともいえるショットが劇中で上手く機能していたことでした。人間の浅はかさや刹那的な享楽を淡々と見つめるこの視点があったからこそ、その中でもがく人間たちの哀しさをも表現できたのです。

 図形のイメージは何度も繰り返され、特に円や回転が大きな意味を持っているのではないでしょうか。ホテルの内輪と外世界を完全に区切り、表面上は全てを受け入れたようなホテルの天井から撮られた円。

 それが次には最上階の踊り場からの半円となり、何かが変化していこうとすることを観客に示す。踊りの場面へ行くときにはポスターという二次元の場所に半円が描かれる。徐々に人間世界に下りてきているのは偶然だろうか。

 つぎに出てくるのは円ではあるのですが、それは地面レベルに配置され、ホテル世界と外界とを結ぶ回転ドアでした。回転ドアにはもうひとつのイメージ、つまり十字架が隠されている。運命に翻弄される様子を図形で予感させていた素晴らしいショットに感心しました。

 色の使い方も興味深い。ガルボが着る衣装はふわふわしたもの、白いもの、明るいものが多く、クロフォードの衣装は暗いもの、黒いものが多い。身分の差といってしまえば終わりですが、庶民だって白物は着ます。

 背景もガルボには明るい照明が当てられ、彼女が演じるシーンも明るい場所や静かな場所でのそれが多い。正反対にクロフォードが出てくるシーンには暗い場所、騒々しい場所が多く、女優二人にたいして、監督が明確な意図を持っていることを理解できます。

 単純に考えると、ガルボに引きずられたのかとも思いますが、演技面ではガルボの残した印象よりも、ずる賢い女を演じたクロフォードのそれの方が強い。ガルボを食ってしまった感がありました。

 興味深いのは通常、娯楽映画では主人公二人はハッピーエンドとなり、めでたしめでたしで終わるところをあえてそうはせず、悲劇的な結末を迎えさせる。そして目立たない二人にハッピーエンドを用意する。かなりひねくれた演出ではないでしょうか。

 男3人と女二人のメイン俳優のうち、2泊3日の物語の中で、ハッピーエンドを迎えられたのはわずか二人だけで、他は悲劇をたどるというのはこの当時の製作の仕方とすれば、珍しい部類だったのだろうか。それともメロドラマが主流であったろう当時ではありふれたものだったのだろうか。

 「グランド・ホテルは変わらない。人々が来ては去っていく。全てはもとのままだ。」という名台詞がある。グランド・ホテルをハリウッドに置き換えても十分にこの言葉は機能する。これは映画界全体を表現した比喩的表現なのだろうか。

総合評価 81点

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
用心棒さん、こちらにこの記事があったとは。
>「グランド・ホテルは変わらない。人々が来ては去っていく。全てはもとのままだ。」
なんとも、ペシミスティックで詩情豊かなモノローグなんでしょうか?
グランド・ホテルが単なる建造物を越えた現代の彫像であることを映画的に表現したものなんでしょうね。
グランド・ホテルそれ自体に明確な輪郭を与え、多数の登場人物に与えられた運命に対する普遍性も同時に鮮明とすることができているのだと思います。
二人の女優も素晴らしいですね。特にガルボは、サイレント時代の大仰な演技も垣間見え、それが逆に女性として喜怒哀楽をうまく表現できていたように感じました。
では、また。
トム(Tom5k)
2009/01/14 00:57
 こんばんは!
 この頃の女優さんたちって、本当に「銀幕の」という形容詞がもっとも似合う人たちですね。
 グレタ・ガルボ、スワンソン、ヘイワース(個人的にはリタです!)、ディートリッヒ、グレース・ケリーなどの存在感の大きさを見るにつけ、最近の女優なんて彼女たちの足元にも及ばないことをあらためて認識させられます。
 グランドホテル形式に限らず、オール・スター・キャスト映画を現在作っても、だれがスターなのかよく分からないことも多いので、余計そう思います。
 こうして僕らはまたモノクロ映画しか観なくなっていくのでしょうね。ではまた!
用心棒
2009/01/14 23:26

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