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zoom RSS 『昆虫大戦争』(1968)小市民ドラマの松竹が製作した、ブラックなSF映画。虫嫌いにはキツイ!

<<   作成日時 : 2006/06/17 20:23   >>

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 1968年というと、アメリカにとってはヴェトナム戦争が泥沼化し、厭戦ムードが戦場だけでなく、本国でも充満していた時期であり、アメリカを扱う映画にもその頃のカッコ悪いアメリカのイメージが色濃く反映されている。

 監督には『宇宙大怪獣 ギララ』を監督した二本松嘉瑞を起用しているが、彼は松竹の本流には位置していなかったのだろうか。松竹の世間に与えるイメージからはかけ離れた、この二作を任された彼は変わり者だったのだろうか。

興味があったのは、あの松竹が畑違いとも思えるSF映画をどのような演出で制作するのかという一点でした。円谷英二、伊福部昭、本多猪四郎、田中友幸を抱える東宝ならば、このジャンルはお家芸といえます。怪獣物でも怪奇人間物でも実力は折り紙つきです。

 東宝がやらない方法で、かつ東宝物を越えるにはどうすればよいのか。やるとすれば、その当時のアメリカン・ニュー・シネマの物語手法である、誰も救われないエンディングに向かって作品を転がすか、ベトナム戦争の戦時下という事情を考えて、明るさを一切排して反戦イメージを込めたシリアス路線を突っ走るか、特撮で自社の独自性を大きく打ち出すかのいずれかしかありません。

 結果として松竹及び、二本松監督が選択したのは反戦的なシリアス路線と衝撃のエンディング場面を作るという方法論を実践しました。特撮はあまり良いとはいえません。ただ、特撮の良し悪しだけで判断してしまうと作品の本質を見誤るので、あくまでも作品を構成する要素のひとつであるという視点が必要になります。

 序盤から中盤にかけてはもたもたした展開が続き、とってつけたような偽ハト派のような反戦的な台詞も見られ、鼻白む場面が多いのですが、米軍のタカ派的な性格が強化されていたので、彼らとの対比をより鮮明にするための演出だったのかもしれません。

 出てくるキャラクターの設定が当時の生々しさをまざまざと見せつける。敵役として登場するのは、ある白人女性です。米軍に対して、敵対心をいだくのは共産党員ではなく、ユダヤ人の収容所の生き残りの女性でした。白人の中でも差別されてきた白人種族の生き残りを悪役として登場させました。

 ナチに陵辱され、認識番号を胸に刺青された彼女は、終戦後に復讐のテロリストと化し、東西陣営にかかわり無く、生物細菌兵器を使用して、世界中の人々の皆殺しを図る工作を進めていく。現在の状況ではとても作れない設定です。

 米軍が傲慢で、徹底的に独善的、秘密主事的、暴力的、人種偏見主義者として扱われているのは監督か脚本家の思想的な怒りから来ているのでしょうが、赤に迎合するこのような姿勢は許されるべきものではない。まあとにかく、この作品での米軍は傲慢に徹しています。

 60年代から70年代には、まだ赤軍派をはじめ、共産主義者が地下に潜って破壊活動を繰り返していましたが、左翼シンパや平和主義者のような態度を取るのが、当時の似非知識人や文化人のファッションでした。

 登場する日本人医師は水爆の悲惨さや反戦を主張するが、いかにも戦後生まれの頭でっかちの日本人らしく、アメリカに対しては終始敵対心を根底に持っている。しかし彼は危機の事態にいても出来るだけのことを行動するだけましでした。

 作品自体は大人向けに製作されたもので、金銭欲や性欲などのダークな貪欲さを前面に押し出す、暗めの演出がなされています。深刻な話に相応しいともいえます。ただせっかく重いドラマを描いているのですが、編集にキレがなく、テンポが悪く、見ていて集中しにくい仕上がりになっています。

 軸としては悪のユダヤ人女性テロリスト、傲慢な米軍、そしてハト派かぶれの日本人医師、そして一組の沖縄人を連想させるカップルによる、水爆と細菌兵器をめぐる攻防ということになります。キャラの描き分けはしっかり出来ているのに、テンポの悪さにより質が下がっているのが勿体無い。

 昆虫を大量に使って、毒虫に改造していく様は生物兵器の恐ろしさを表現したという意味では先見の明に驚かされます。人体実験のシーンもあり、毒虫の毒により、頭を犯されていくシーンでのトリップ映像のような描写には一見の価値があります。

 ベトナムで薬物に犯された黒人兵が、日本配属後に、さらに人体実験の影響で、昆虫毒にも犯され、気が狂い、女性をレイプしようとする映像は差別的とも見えますが、ベトナム戦争後の狂乱の精神状態を表現していたのかもしれません。

 物語としてはラストシーンで、南方の島(沖縄あたり)でテロリストにより異常繁殖させられた生物兵器である虫たちを葬るために、米軍が何も知らない住民もろとも水爆で吹き飛ばすという荒技を使い、美しい南方の島すべてを一瞬で破壊してしまう。

 自国では絶対にやらないことでも、黄色人種しかいないこの国では平気で使ってしまう白人達の傲慢さには呆れるとともに戦慄を覚えます。黒人兵を見るときも、偏見を常に抱いているような応対でした。水爆を投下して、逃げ失せるはずの米軍も生き残りの虫に攻撃され、爆死する。

 イラク戦を見ても明らかなように、米軍はアジア人を人と思っていない。何も変わってはいない。今でも通用する設定である米軍、細菌兵器、テロリストを既に描いていたのが、この作品でした。その意味ではもっと評価されて良い作品ではないでしょうか。上手くやれば、面白いリメイク作が出来るのではなかろうか。

総合評価 62点

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