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zoom RSS 『現金に体を張れ』(1956) キューブリック監督の才能がほとばしる、フィルム・ノワール。

<<   作成日時 : 2006/01/07 01:26   >>

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 スタンリー・キューブリック監督、1956年の製作作品。一般にキューブリック監督が我々に与えてくれるイメージとしては、『2001年 宇宙の旅』、『スパルタカス』、『バリー・リンドン』などお金のかかる大作を撮る一方で、『時計仕掛けのオレンジ』、『ロリータ』、『アイズ・ワイド・シャット』などセクシャルでセンセーショナルな作品を世に問うスキャンダラスな映画作家である、という感じではないでしょうか。

 しかし長いキャリアを持つ、彼がカラー作品を撮る前に取り組んでいたものは、実はフィルム・ノワールの犯罪物であり、シニカルな反戦物でした。前者には『非情の罠』・『現金に体を張れ』があり、後者には『突撃』・『博士の異常な愛情』があります。きめ細かい、映像への病的なまでのこだわりや自然光を上手く利用した光源の使用法は、既にこの頃からしっかりと確立されています。

 さてこの作品の頃の彼には、まだ十分な予算もつけられずに、自分の会社及び親類からの現金の持ち出しがかなり多かったようです。そのため後の大作群のような貫禄はありませんが、脚本の出来栄えという面から言えば、むしろこの頃の作品の方が優れているのではないかと思います。

 シニカルで、登場人物への愛情を感じない、突き放したような視点と態度は作品を覆いつくしています。全ての作品に通じる視点はこの作品にもおおいに表れています。本当に冷たい人のようで、見ていても温かみというものを彼の作品から感じたことはありません。非常にクールな、いかにもイギリス人らしい映画作家です。

 モノクロ作品であるこの作品では、見た目で重要なことのひとつに光源のとり方があります。光の取り方に工夫があり、暗い室内で間接照明と自然光を複数使い、前面と後面、そして中間点での三角形を作るように光のバランスを整えて撮影を行っている場面が多くあります。

 自然光での撮り方はヌーヴェル・ヴァーグなどでも同じように使われていますが、キューブリック監督も既に工夫しています。アピールしないだけです。馬のショットも効果的で、時間や場面転換をする時のつなぎに頻繁に使われています。「馬」は計画進行の順調さをも象徴しています。

 次に脚本とプロットの繋ぎ方は、キューブリック監督という映画の巨大な才能がついに花開き、動き出したことを実感させてくれます。時間軸をずらし、簡単な物語に「ひねり」を加えて、作品のレベルを何ランクも上げています。また、無意味な会話を挟み込むことで、登場人物に人間味を加え、感情移入しやすくする。そして何人ものキャラクターたちを、複雑なプロットに組み込んで、多重構造のストーリーを展開させていく。

 このように書くと、ある一人の映画監督を思い出します。クエンティン・タランティーノ監督です。『レザボア・ドッグス』・『パルプ・フィクション』が、この作品の焼き直しに過ぎないことが、すぐに理解されるでしょう。特に『レザボア・ドッグス』が影響を受けまくっているのは明らかです。間違いなく、タランティーノ監督は、この作品を見ています。知らないでは済まされないほど似ています。

 なにはともあれ、この作品は映画本来の魅力である、時間の使い方がとりわけ優れています。頻繁に作品中に行ったり来たりする時間。周到に展開される、犯罪計画時の同時間内での犯罪一味の行動。フィルム・ノワールの、言い換えれば犯罪映画としても一級品の作品でもありました。

 見所としては、なんといってもラスト30分間での一味の行動と各々が迎える結末の様子の、小気味良い描き方につきます。ここでの時間の演出と「紙」の映像の意味が特に素晴らしい作品です。

 競馬場で舞っているハズレ馬券の紙ふぶき、空港でバカ犬によって人生計画を狂わされ、ジェット機の風圧で、報酬であるはずの全ての紙幣が夜空に舞っていき、破滅を迎える主人公。人生レースに負けた彼には紙幣もハズレ馬券も変わりはない。

総合評価 82点現金(ゲンナマ)に体を張れ
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