『激突!』(1972)若き日のスピルバーグが発表した傑作、巨大鉄塊が襲い掛かる怪獣映画?

 もともとはテレビ映画として製作された、スティーヴン・スピルバーグ監督の若き日の作品『激突!』はその出来の良さから他国では劇場公開されたほどの傑作です。

 アナログ時代はもちろん、デジタル時代になっても、CSやBSで何度もテレビ放送が繰り返されてきているので、多くの映画ファンが一度は目にしたに違いない。ついでに次の日に『続・激突!/カージャック』が放送されることもあるが、まったくの別物です。

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 そんな名作『激突!』がぼくが住む田舎町から一番近い映画館で一週間ほどリバイバル上映されることがメールで告知されてきましたので、さっそく観に行きました。このタイトルも秀逸で、原題ならば、「DUEL」なので決闘とかになるのでしょうから、映画内容に沿った激突の方がしっくりしますので、ここは邦題をつけた関係者のセンスが良かったのでしょう。

 マニアが集まるかどうかは疑問でしたが、このチャンスを逃すとたぶん後悔しそうだったので、予定を遣り繰りしつつ、何とか座席につきました。平日の午前中ということもあり、本日の上映に集まったのは僕を含めて4人しかいません。

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 ロビーにはかなり多くの人数がガヤガヤしていましたが、ほとんどがアナ雪や相棒、テルマエに流れていまして、内心では「もったいないなあ。こっちのほうが出来が良いのになあ…。」と思いながら、ロビー前で眺めていました。

 何度も繰り返し見てきた作品ですので、ストーリー展開はもちろん、どういう映像なのかも分かってはいます。それでも、なおこれを見たいと思ったのは巨大タンクローリー対アメ車という異種格闘技戦や無差別級試合、もしくは逃げ惑うアメ車対巨大タンクローリーという怪獣映画である『激突!』を味わうには劇場巨大スクリーンに限るだろうという判断からです。

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 上映時間は89分と短めなのは最初に書いた通り、もともとはテレビ放送用に製作された作品だったからです。これが結果的にプラスに働き、『ジョーズ』の大ヒットを受けて、スピルバーグ需要が増えたこともあり、何度もテレビ放送の電波に乗るようになり、新しいファンを掘り起こしていくことに貢献したのではないでしょうか。

 あらためて大きなスクリーンで見たことで、それまで見逃していた細部にも目が届きました。ハイウェイの地面に埃が舞っていたりする様子がより鮮明に写って、西部劇的な荒廃したイメージを思い出させたり、ラストのタンクローリーの車輪が止まるカットの最背面には茫然とする主人公、デニス・ウィーヴァーの様子が捉えられています。

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 サスペンス効果の盛り上げ方と弛緩させる間の取り方が抜群で、観客をハラハラさせながら、フッと緊張を和らげる。貨物列車が通過するまでの踏み切りで待っていると背後からクルマごと押されて、殺されかかるシーンの恐怖。間一髪、列車が通過した瞬間に逃げ出す主人公ウィーヴァー。

 一方で、疲労から眠り込んでしまい、隙だらけになったウイーヴァーはけたたましく鳴り響く貨物列車の警笛で我に返る。ここで凡庸な展開な脚本家ならば、踏みきりの向こう側でタンクローリーが待ち構えていたり、背後の山道から、ウイーヴァーの様子を見下ろすようなショットを入れるかもしれませんが、スティーヴン・スピルバーグはそういう部分をあえて何も付け加えずに、観客と主人公を緊張からいったん逃してくれます。

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 こういったサスペンスをさらに補うのがバーナード・ハーマンが『サイコ』で付けた印象的なスコアをかなり強く意識したと思えるサントラでした。精神的に追い詰められていくウィーヴァーの混乱ぶりや巨大なタンクローリーの恐怖を爆音と煙突から噴き出す真っ黒な排気ガス等の音響に音楽を加えて、さらに画面を分厚く強化していく。

 出世作となる『ジョーズ』のパイロット版としての色彩も感じられ、丘サーファーならぬ丘ジョーズのようにも見える。視点は主にウィーヴァーからのものとストーリー全体を観客に提供するエスタブリッシュ・ショットとしての第三者的なそれがほとんどを占めている。

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 ウイーヴァーを捉えた映像としては追われる者の恐怖や抑圧をより観客に身近に思わせて、感情移入をしやすくする顔の表情のアップを多目に入れてくる。

 ごくたまにタンクローリーの運転手が見た風景ではないかと思えるような視点が出てきますが、襲い掛かっている最中にほんの少しの瞬間のみなので気付きにくい。彼の顔は最後まで謎で、正面衝突させようとするときや自分の前を走らせようと挑発するときの太い二の腕とイライラしながらガソリンスタンドで停車して降りてくるときのくるぶししか映らない。

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 じっさいにこれまで見てきた『激突!』とはかなり印象が違っていて、より怪獣映画的な雰囲気が強くなりました。あまりにもシンプルな一対一の“DUEL”、つまり決闘をこれだけ面白く見せてくれるスティーヴン・スピルバーグはやはり只者ではない。

 西部劇ならば、拳銃を操るガンマン同士の撃ち合いで決着をつけるのでしょう。中世の騎士や日本の時代劇ならば、お互いに切り結んで勝負を決するのでしょう。ここでは20世紀のアメリカを象徴する自動車で勝負をつける。

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 興味深いのは敵対者であるタンクローリー運転手を人間的に肉付けする描写を一切拒むような武骨な語り口です。ヘミングウェイの短編小説『殺し屋たち』を思い出させてくれます。

 セリフはないが、タンクローリー自体の動き(一種のパントマイムではないか。)でウイーヴァーへの敵意がはっきりと伝わりますので、わざわざセリフを入れる必要もなく、また入れないからこそ、追い詰めてくる者の意図が見えにくくなり、理由なき犯行を挑んでくる異常者が一般市民に与える、より一層の恐怖感を観客にも与え続けてくれます。

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 かの文豪はシンプルな単語と言い回し(英語オリジナル版です。)を駆使して、文体のスタイルで勝負し、殺し屋たちとの緊迫したやり取りを見事に描きました。

 20世紀の映画作家であるスピルバーグは小気味良いカット割りや仰角を生かしたカメラの角度や迫ってくる構図の多用、イマジナリー・ライン、緩急のリズムや追い詰められていくウィーヴァーの表情のアップと最後まで顔出しがなく、二の腕と足しか映らないタンクローリー運転手(キャリー・ロフティン)などでシビアで激しい二人の戦いを描き切りました。

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 思い出深いシーンも多々あり、子供たちの送迎バスを押すタンクローリー運転手がなぜ気の弱そうなデニスを追い回し続けるのかがずっと分からないままです。

 ドライブインで休憩中にも不気味に外で佇んでいる巨大なタンクローリーの恐怖に晒されるデニス、追い越しても、道を開けても逃れられないさまは運転手の意図が伝わってこない精神の異常性を体感せざるを得ないというヒッチコックの巻き込まれ型をさらに発展させた感じでしょうか。

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 多くの接近遭遇後に最後の見せ場である決闘シーン、つまり自動車同士のチキンレースが行われます。ウィーヴァーは車外に飛び出してしまうが、重量差を考えれば、これくらいのハンディキャップはあってしかるべきです。

 そして有名な崖からの転落シーンに雪崩れ込んでいく。このシーンのみに劇的効果を最大限に引き出すためにスローモーションを選択しています。猛スピードでウイーヴァーを追い詰め続けたドライバーの末期として、急激な速度変換となるのでかなり効果的かつドラマチックな場面になっています。

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 大音響と共にクラッシュしていく巨大タンクローリーの断末魔はまさに怪獣の最期のようであり、ときおりタンクローリーの軋む音がゴジラの咆哮に聞こえました。

 夕陽に照らされてもなお呆然としているウイーヴァーの様子は勝ち残った者という映画的なヒロイックな感じではなく、ヒッチコックの巻き込まれ型主人公をより現実的に描いたら、たぶんこっちが正解なのだろうなあと腑に落ちるエンディングでした。

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 ぼくらはケーリー・グラントではないので、美しいヒロイン(ウイーヴァーは奥さんに文句ばかりガミガミ言われてしまう。)は助けに来ず、警察(3~4回ほどは通報機会がその他の登場人物にあるはず。)も何度も来るべきチャンスがあったのに一度も来ず、ウイーヴァーと同じように砂漠地帯で放って置かれてしまうのでしょう。

 カッコ悪い主人公像を持ってきたのはまだまだアメリカン・ニュー・シネマの影響が色濃く残っていたからでしょうか。

総合評価 90点


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