『原子力戦争:Lost Love』(1978)反原発運動は命がけ?でも戦争じゃないけど…。

 田原総一朗原作の小説から製作された、黒木和雄監督のATG映画の一本であるが、あまり芸術臭というか、ATG臭さは無い。原田芳雄がチンピラに扮し、自分の情婦の死因を究明するうちに、土地ぐるみの原発事故隠蔽工作に巻き込まれていく。と書いていくと、サスペンスを前面に押し出したシリアスな映画に思えるが、ヤクザ映画に原発問題を無理やりに絡ませようとした失敗作として考えた方が良いのかもしれません。

 画調は暗く、出てくる街も原発がもしその町に無かったら、寂れた貧しい田舎の漁師町に過ぎないという風情である。この映画の最大の見所は内容そのものよりも、実際の原子力発電所への突撃ロケであろう。フラフラと原発の敷地内に確信犯的に入っていこうとする原田芳雄にたいして、カメラが回っていることもあり、比較的紳士的に対応していた職員たちではあったが、何度静止させようとしても無視して撮影を続けるスタッフらに次第に怒りと苛立ちを顕わにしていく。

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 この過程は興味深く見ていたが、ふと我に返ると、このシーン自体は作品の展開や内容そのものに何の関連もないし、無意味なロケになってしまっている。それを何故フィクション劇であるはずの本作に挿入したのかが解せないというか、いやらしさを感じる。

 我々は原発反対派ですよというアピールなのだろうが、方法論としては醜く、この映画のあと公開された『チャイナ・シンドローム』などの迫力ある作品に比べると、あまりにも矮小で、意味不明である。この映画が真正面から事故隠蔽を扱った作品であるとは言いがたい。なかなか本質へ迫らず、何が言いたいのかもあまり分からない。ただ、何もしないよりはあの時代に取り組もうとした熱意と事実は褒めるべきでしょう。

 作品中で覚えているのはいつもどおりの無頼の迫力で画面を占領している原田芳雄、妖艶な魅力で原田に迫る山口小夜子、そして原田をたき付けて真相に迫っていくものの、結局は出世と引き換えに長いものに巻かれていくのを良しとする軽薄なジャーナリスト役の佐藤慶でした。

 山口はなかなかのファム・ファタール振りを見せてくれました。謎が多く、この世のものとは思えない物の怪のような容貌と雰囲気は得がたい魅力を放っている。

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 ジャーナリズムも権力側とグルであるという誰でも知っている当たり前の事実をクライマックスに持ってくるという内容は脚本上の唯一の抵抗だろうか。映画は金が掛かるので、配給会社はもちろん、資金集めのためにも大きな会社が嫌がるようなテーマを大々的に採り上げるわけにもいかなかったのだろう。

 結果としては恐らく田原総一朗の原作にはあったであろう、政治的な主張は皆無で、なんだか訳の分からないヤクザ映画に成り果ててしまった。これを見せられた田原の感想はどういうものだったのであろう。満足していたのだろうか、それとも激怒したのか、はたまた訳知り顔でニヤリとしただけだったのだろうか。

 劇映画として、日本で70年代に公開するにはまだまだ早すぎたのだろうか、それとも単なる根性なし映画なのだろうか。作品名は“戦争”を謳っているが、内容はとんだ茶番であると言わざるを得ない。さすがのATGも政治問題だけではない大企業も係わってくるような内容を映画化するにはさまざまな制約があったのでしょう。しかしこの骨抜き振りは酷い。

総合評価 58点


原子力戦争 (講談社文庫)
講談社
田原 総一朗

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