『チェイサー』(2008)ひと殺しの携帯は4・8・8・5! 後味が悪いのですが、出来は素晴らしい。

 先週、金曜日に会社が夕方五時の定時で終わったものの、その夜の飲み会が八時からのスタートとなったので、急に三時間ほど空き時間が出来ました。迷うことなく、「じゃあ映画だ!」となったぼくはすぐに近くの劇場に飛び込みました。そうしたら、たまたま都合良く、五時過ぎから掛かっていたのがこの映画でした。

 『猟奇的な彼女』以来、韓国映画を観るのは久しぶりとなりましたが、いつものように映画の内容をまったく知らずに観ました。まさか、あれほど過激で、残酷な描写ばかりとは思っていなかったので、正直かなり面食らいました。まあ、ぼくは過去にいくつもの封印作品を観ているので、想定内ではありましたが、それでもこのような不意打ちは堪えました。

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 ハリウッド映画によくあるように、途中は苦しみばかりでも、最終的には救いのある展開になるのと思いきや、ハッピーエンドとは程遠いエンディングでした。アメリカン・ニュー・シネマ的な終わり方なのです。観たあとの後味ということではかなり悪い作品ではありますが、脚本としてはかなりレベルの高い出来映えだったと思います。こういう作品が出てくるということは韓国ではこういうエンディングも許容されるということなので、観客のレベルがかなり高いということの証なのではないでしょうか。

 また、作り手も映画をよく研究しているからこそ、ニューシネマ的な終わり方も試せるということでしょう。配給会社も含め、韓国映画の強気な映画製作姿勢は、及び腰が当たりまえのわが国の姿勢からすると、羨ましい限りです。見せ物映画的なものならば、わが国でもたくさんあるが、脚本も演技もしっかりしている映画を出してくるのは韓国映画が熟成期に入っているといえるのではないでしょうか。

 この作品にはヒーローは存在せず、ほとんどが汚れていて、底辺で生き抜く者ばかりです。ひたすら走り、しんどそうだし、切られたり、殴られたり、痛そうな感じでした。主人公はメタボで狡っ辛い元警官の売春組織の小悪党、救出しようとするのも子持ちの売春婦、事件の犯人もインポの変人という最悪の設定でした。

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 熱いが、ひとに褒められるような生活を送っていない主人公に感情移入できるかで、最後まで観られるかがかかっている。カッコよくありません。スマートでもありません。頭もよくありません。ただ動物的な感情と刑事時代の感覚のみで犯人を追い詰めていく。

 切れが良くない彼は愚直に犯人を走ったり、恫喝したりしながら追い込んでいきます。追い込み方が泥臭いのがこの映画の魅力かもしれません。カラーの劇場の大画面での血しぶきや切断、そして打撃は観ていて気持ち良いものではありません。しかし、こういった描写よりも、スローモーションや残酷描写時のモノクロ映像のほうが不思議に印象に残ります。

 『キル・ビル』や『オールド・ボーイ』を思い出す映画でした。
 
 ナ・ホンジン監督は本作が長編デビューとなる。彼は脚本も手がけており、その手腕は高い。主演はキム・ユンソクで、印象としてはダサく、メタボなのだが、それが逆に現実的とも言え、リアリティは大いに増している。犯人役のハ・ジョンウが普通の青年風なので、彼のする異常行為は余計にそのギャップで際立つ。殺される売春婦役のソ・ヨンヒはとにかく痛そうなシーンばかりで、最後は『オールナイト・ロング』『ギニーピッグ2 血肉の華』なみに分割され、水槽に飾られてしまう。

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 他に印象に残ったのは女刑事を演じていたパク・ヒョ・ジュで個人的に好みのタイプだったので、殺される設定じゃなくて良かったなあ、などとアホなことを考えながら観ていました。

 気持ち悪いシーン、追いかけるシーンが延々と続く。前半はどちらかといえばゆったりと進むが、後半は怒涛のスピードで押し捲る。脚本で興味深いのが「チェイサー」、つまり追いかける者というタイトルが付いているのに、犯人が始まってすぐに警察に身柄を確保されるところである。この設定が最大のポイントで、容疑者が殺害場所を白状しない中で、まだ生きているかもしれない犠牲者たちをひたすら探し続ける仕掛けになっています。

 実際に起こった事件を元に製作されたそうですが、日本で言えば、宮崎事件や秋葉原事件を映画化するようなものなので、遺族感情を考慮する日本映画の状況では到底映画化は出来ないでしょう。さすが韓国だなあと変なところで感心してしまいます。臭いものには蓋をするのではなく、見せて判断させるというスタンスには好感が持てます。封印ばかりの邦画環境の方が不健全に思えます。

 はらはらさせながら、しかもあくまでも愚直に犯人の隠れ家に徐々に迫っていく描写とテンポが素晴らしいので、グロテスクな描写が苦手な方も出来ればご覧ください。しょうもないハリウッド映画を観るよりはずっと有意義に時間を過ごせます。イケメン俳優も美人女優も全く出てきません。どちらかというと脇役俳優ばかりで作ったような映画なのかもしれません。それでもこのレベルは尋常ではない。

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 韓国映画の奥深さというか、表現の幅を見せつけられた思いです。韓国ではこの映画はR-18かR-15で公開されたものの大ヒットを記録したそうです。理由は観れば分かります。宣伝はほとんど見ない映画ではありますが、ミニシアター系とか深夜興行で劇場に掛けたならば、ミッドナイト・ムーヴィーとしてヒットするのではないでしょうか。
 
 深夜に観たほうが相応しい映画もあるということかもしれません。まあ、スプラッターやサイコ系が嫌いな方にはキツイ映画であることは間違いありません。しかしタランティーノのように不必要に血が出るのはなく、あくまでも展開上必要だから出血シーンがあるので、残酷描写だけで判断してもらいたくない作品でした。

 総合評価 72点


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