『アメリ』(2001)素敵な作品ですが、見続けるか、DVDを止めるかは最初の10分で決まる。

 2001年に製作された、観る人によって好き嫌いがはっきり分かれるだろう、ジャン=ピエール・ジュネ監督、オドレイ・トトゥ主演による作品です。公開時には、なぜか日本でかなり人気を博した作品であったと記憶しています。

 いったい何故こんなに、この作品が人気映画となったのかは大いに謎です。わかりやすい映画とも思えませんし、オドレイ・トトゥにしても個人的には注目している女優ではありますが、彼女一人の魅力でお客が呼べるような大女優ではありません。

 オープニングからのかなりエキセントリックな演出と映像、ナレーションと共に繰り広げられる、小技が一杯な登場人物たちの「趣味」でまとめた紹介シークエンスを見て戸惑う人もいることでしょう。

 そして、あまりにも強い癖のある映像に直面して、観客は選択を強いられる事でしょう。「これは見続ける価値があるのか」もしくは「なんだか分からんが奇抜で刺激的だ」のどちらかの立場のもと、時間の使い方を決める人も出てくる作品ではないでしょうか。

 つまり、かなりクセの強いブルー・チーズ(フランスだから、ロックフォールみたいなやつ)のような味わいのある作品なのではないかという事です。個人的には好きな感覚です。

 ショック・アブソーバーの「プチプチ」を潰すのが趣味の人、証明写真の失敗した分を集めてアルバムに貼る人、石ころを川面に水平に投げて、何回跳ねるかを見るのが好きな人など気持ち悪いが誰でも何かしら持っている「なくて七癖 悪い癖」を画面に曝け出させて、作品でのキャラクターの深い個性を描き分けて観客の感情移入を助けていきます。

 セピア調の色彩を好んで使うジュネ監督らしい映像世界が繰り広げられ、ミステリアスなオドレイの個性と上手く結びついて魅力的な作品に仕上がっている。やっていることはかなり「えぐい」のですが、何故か嫌味ではない。

 可笑しいのだけれども、他人からされると、かなりむかつく事を執拗にやり続けるオドレイの様子は偏執狂的な大人になりきれない女の子を見事に表現している。かなりおかしな女を演じています。

 一歩間違うと、というかほとんど犯罪行為をなんとも思わずに実行していく彼女の役柄は自分にしか興味がない世代や世相の表れのようだ。彼女のように可愛ければ、許されるのかもしれませんが、そうでなければただの変人扱いされるだけです。

 小さいネタも一杯で、ニルヴァーナのアルバムジャケットを連想させるショット、『ターミネーター』のように電話帳の名簿から同姓同名に片っ端に電話して人を探したり、ルノワールの絵画について散々語った後にフェルメールの絵画をバックに会話シーンを入れて見たり、『怪傑ゾロ』の格好をして証明写真を撮ったり、小人の置物だけを世界旅行させて、NYやパリやアンコール・ワットで記念写真を撮ってみたりとやりたい放題しています。

 オドレイが自分の嫌いな人々にしていく「仕置き」も犯罪的だが、思わず笑ってしまうものが多い。サッカー・ファンの親父に仕返しをする時に、彼の家の屋根に上り、自分はラジオを聴きながら、ゴール・シーンになるとアンテナの線を抜き、彼に決定的なシーンを見せないようにするところは大笑いしました。

 サッカー・ファンは90分の中で、普通2回か3回、下手すると1回もない贔屓のクラブのゴールシーンを見るために、ずっと真剣に試合展開を読みながら、TVを見ているのです。自分も昔、Jのクラブのサポーターの一人として、ゴールの裏で旗を振っていましたので、一点の重みがよく解ります。

 夏場の試合があるときは試合開始の2時間前から「飲まず食わず」の状態にして試合に備え、終わってからようやく水分を口にしたものです。トイレ行った瞬間にゴールが決まってしまえば、そしてそのゴールが唯一のゴールだったならば、行った意味がなくなります。それを知っているので、このシーンには特に笑えました。

 登場人物の多くがエキセントリックに誇張されていて、フェリーニ映画に出てきそうな人格ばかりなのですが、共通するのはすべての人が孤独であるという事でした。


 不器用な人々は本当は幸せになりたいのだが、どうすればそうなれるかの方法を知らないだけなのです。少しずつ歯車が合わないために、結果として不幸な人生を送る人々への愛情に満ちた作品です。ラスト・シーンでついに好きな人と結ばれて、バイクを二人乗りするオドレイの顔はとても幸福そうでした。

総合評価 77点
アメリ
アメリ [DVD]

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