『幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬』(1986)高校時代に先輩に無理やり観に行かされた映画。

 主演を務めた武田鉄矢には昭和の頃は金八先生の教育者というイメージよりも、コミカルで西田敏行と仲良しで、やたらと坂本龍馬好きというイメージのほうが強かった記憶があります。

 この『青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬』はそんな彼が憧れの偉人である坂本龍馬役を自身で演じた、かなり自己満足が全面に押し出された作品でもあります。後に彼が愛読した『竜馬がゆく』の原作者の司馬遼太郎と会う機会が設けられた時に彼から「若い頃にはああいう人に憧れることもある。」とボソッと言われてからは冷静になったという話を武田鉄矢自身のインタビューで聞いたことがあります。

 そのためか、当時はこの映画の公開中にも製作が噂されていた今回の続編、つまり龍馬の最後が描かれる作品が製作および公開されることはついにありませんでした。この作品を公開した頃はまだ武田鉄矢が坂本龍馬に惚れ込んでいたこともあり、作品に冷静な視点としての客観性はあまり感じられず、彼が思いのたけをぶつけた個人的な映画です。

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 彼の熱い想いは十分に伝わってきますが、当時から見る人によっては暑苦しすぎて楽しめなかったという感想を持った観客も少なからずいました。ぼくは公開初日に部活の先輩、同学年の友人ら総勢十名以上のグループで見に行きました。

 坂本龍馬と吉田拓郎の大ファンだった先輩が普段から熱く語っていた坂本龍馬がテーマでしたので公開前から観に行く人数を集めていました。この先輩は拓郎に無断でリリースしようとしたエレックレコードと揉めた権利問題により、廃盤になってしまっていた『たくろう オン・ステージ 第二集』を日曜日に部活を休んで県外の大都市まで三時間かけて出向いていき、10000円以上を費やして中古レコードを買い、そのまま日帰りで帰ってくるという猛者でしたので先輩にとっては行くべき映画のようでした。

 このライブ盤は大学進学後に先輩の住んでいたアパートに泊まりに行った際に徹夜でファミスタをやり続けていたBGMとして3回ほどヘヴィロテで流されていました。『青春の歌』のセルフ・パロディ『老人の歌』やレコード時代に2枚組のD面丸々20分以上を掛けて、狂ったように演奏される『人間なんて』のイメージは強烈で、それから二十年位経ったヤフオク全盛期に思い出の一枚として競り落とし、聴き直しました。

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 そんな吉田拓郎もこの映画ではぶっ飛んだような怪演を見せています。主役二人がかなり男臭く、昭和でも暑苦しく感じたので、令和の世には受け入れられないでしょう。

 話を当時に戻しますと、この先輩は半ば強引に部活メンバー十名以上を男女の別なく、しかも一円も奢ることなく連れて行くような人でしたが、当時は昭和、場所は田舎町で、先輩の言うことは絶対、セクハラもパワハラもその概念すらない時代で、めちゃくちゃな頃ではありましたが、今となってはそれらも楽しい思い出となっています。

 自分の気持ちや損得勘定だけで生きていると、回り道の楽しさや理不尽なことをされたときに取れる対応が限られ、器が小さい人間になってしまいます。その場は乗り切れるのでしょうが、頼りにならない人物のまま生涯を終えそうです。

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 現在の高校生にとって熱くて短い人生を駆け抜けた坂本龍馬のような人物はどのように捉えられているのだろうか。歴史の教科書からも削除されてしまう傾向があるのも気がかりです。天下国家を憂う国士が一人くらい教科書に載っていても良いじゃないかという気持ちがあります。

 内容は明治維新前の幕末を描き、高杉晋作と坂本龍馬に焦点を当てています。坂本龍馬役を演じた武田鉄矢も高杉晋作を演じた吉田拓郎もともに熱く、というかかなり暑苦しい演技で幕末の息吹きを感じさせてくれましたが、時代はこれからバブルに突入していく時期でしたので、どれだけ当時の観客に想いが伝わったかは疑問でした。

 ただそれでも作り手の作品に賭ける強い想いはしっかりと伝わってきます。クライマックスでは高杉晋作率いる奇兵隊が勢いに乗って押し寄せていくも、幕府軍が待ち受ける砦の前一面に広がるお花畑でジャンゴのようなガトリング砲の集中砲火を浴びて、志士たちの若い純粋な血で染まっていきます。

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 若き思想は甘っちょろくお花畑のようだという暗喩にも思えましたが、これは志士たちに待ち受ける残酷な運命と可憐に咲く花との対位法的な狙いがあったのでしょう。

 『西部戦線異常なし』の厳しい戦いを終えた刹那、蝶々に心を奪われて生命を落とした無名兵のような感覚です。楽しいことなど何一つなく、開国に向かって突き進んで行った志士たちが全国で憤死してからまだ二百年も経っていません。

 士農工商の厳しい身分制度の元、何も逆らえなかった底辺の人たちが立ち上がって、進歩的な武士や商売人が彼らや外国の列強を上手く利用して成し遂げたのが倒幕と開国でした。今現在の日本人に彼らのような苛烈な生き様は求めようもありませんが、こういう名もなき人々の犠牲があってこその繁栄であり、その後の大戦の犠牲があってこその現在があることは忘れてはならない。

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 バブルの時代になりゆこうとするギリギリの時期に作られた男祭りの映画ですが、全編がシリアスという訳ではなく、あちこちに下ネタが入る下世話な感じが楽しい作品でもあります。

 今は亡き夏目雅子も出演予定でしたが、撮影中に病魔に侵され、途中で原田美枝子に変更されています。亡くなった時は衝撃的で、ぼくらがガキだったころに演じた『鬼龍院花子の生涯』での「なめたらいかんぜよ!」の決め台詞は強烈な印象を残しました。

 見たこともなかった映写機に映し出される金髪美女のストリップの衝撃はラ・シオタ駅に走り込んでくる機関車の比ではないでしょう。ただ明治維新前は1850年代、リュミエール兄弟やメリエスが活躍したのは1890年代前後なので時代考証的にはどうなのだろうか。まあ、良いか!

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 音楽が優れていて、吉田拓郎『RONIN』、吉田拓郎&加藤和彦『ジャスト・ア・RONIN』などがよくラジオでも掛かっていました。武田鉄矢と吉田拓郎のコンビだと『刑事物語』の主題歌で吉田拓郎が熱唱する『唇をかみしめて』が特に思い出深い。

ええかげんな奴じゃけ~♪

ほっといてくれ~んさ~い

アンタといっしょに~♪

泣きと~はあり~ませ~ん~♪


という方言丸出しで歌われる名曲で、当時はシングルレコードを買いました。

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総合評価 65点

幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬 [DVD] - 武田鉄矢, 吉田拓郎, 川谷拓三, 伊武雅刀, 榎木孝明, 柴俊夫, 竹中直人, 古尾谷雅人, 原田美枝子, 石坂浩二, 河合義隆


Music From The Motion Picture "Ronin" - サウンドトラック(サントラ)

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この記事へのコメント

2020年02月11日 00:16
用心棒さん、こんばんは。
青春幕末グラフィティのシリーズは、この外にTVドラマで西田敏行の渋沢栄一、中村勘九郎の福沢諭吉があったと記憶しています。このシリーズよりずっと後でしたが、「長州ファイブ」も好きでした。私はすべてお気に入りでしたよ。特に西田敏行の渋沢栄一は先見だと思います。
学生時代、「福翁自伝」や岩波の「福沢諭吉」を夢中で読んでいたことを懐かしく思い出します。
おっしゃるように幕末の志士たちの闘いから二百年も経っていないこと、もっといえば士農工商の身分制度から解放されてからもそれだけの時間しか経ていないのですよね。
現代まで随分とすべてが悪い意味で受け身の時代になってしまいました。
ただ、現代もこの時代からの進歩は経ていると思いますし、いい意味でこれからもっと時代は進んでいくのだと信じたいものです。

>残酷な運命と可憐に咲く花との対位法的な狙い・・・
なるほど、確かに説得力のある印象的なシーンでしたね。私にとっては黒澤明の「影武者」での長篠の戦いも似た印象でした。
では、また。
用心棒
2020年02月12日 00:40
こんばんは!

>青春幕末グラフィティ
Kプラスさんに福沢諭吉など何本か在庫があるようです。

>幕末の
まだ150年ちょっとなのですよね。ついでに言うと日本の最後の内戦は西南戦争ですので、これも珍しい例ですね。

>時代は進んでいく
マスコミやいわゆる賢いと言われるような人はたいていがネガティブで後ろ向きな意見が多く、ネガティブな方が思慮深く見えますが、個人的には明るい時代が来ることを信じていますし、科学的な大発展を遂げるシンギュラリティはたしか2037年に来るような予測もありますので、そこまでは健康第一に生き残り、見届けたいと思っていますwww

格差社会とは言われていますが、生活していくためのお金はコンビニ、ユニクロ、吉野家などの外食、携帯スマホなどによりかなり安く済むという不思議な世の中になっているのが日本です。

スマホなんて、15年位前のノートPCよりもずっと性能が良いですし、吉野家の牛丼やラーメンを外国で食べようとすれば、3倍くらい掛かるそうです。実際、ぼくがアメリカでラーメンを食べた時、たしか1500円くらいでした。日本は物価が安すぎるのかなあと思っています。社会からの値下げ圧力が異常に強いのは良い国の状態とは言えませんね。

>長篠の戦い
戦いの概念が覆った革命的な瞬間ですね。片方は由緒正しき騎馬軍団が正々堂々と攻め掛かり、もう片方は柵の内側から誰かれなく銃弾を撃ち込んで殲滅戦を仕掛けるという近代的な戦術でした。ペレのいた時代のブラジルと80年代後半のACミランが戦うような感じです。

ではまた!