『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)タランティーノ4年ぶりの新作。あっという間の160分でした!

 原題はカタカナ表記にすると、なんとも長い『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ですが、❝昔々のハリウッド❞といったところでしょうか。1960年代後半のことを昔々で片付けるには時間の経過は十分とは言い難い。

 モチーフとなったシャロン・テートの被害者家族はもちろんロマン・ポランスキーはじめ存命で、加害者側の首魁もつい先日まで牢獄に繋がれていました。つまり今回の作品は『哀愁の花びら』『ポランスキーの吸血鬼』などでブレイクしかけていた若手女優シャロン・テート殺害事件をタランティーノがどう解釈し、味付けしたのかという作品のようです。

 よって、ある程度はチャールズ・マンソンや彼のファミリー(プッシーキャット、スクィーキーなど可愛い名前がついているが、狂信カルトです)について、被害者の夫だったロマン・ポランスキー『ローズマリーの赤ちゃん』、ビートルズ『ヘルタースケルター』から受けたとする啓示についての知識があったほうがより楽しめるのかなあという印象があります。

 事件そのものを描いた、その名もズバリの映画化作品『ヘルタースケルター』(https://yojimbonoyoieiga.at.webry.info/201205/article_4.html)や事件直後に公開されたラス・メイヤー『ワイルド・パーティ』なども見ていると、より理解が深まりそうです。

 シャロン・テート事件について初めて知ったのはビートルズの『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』を買ってからでしたが、レコード時代に『ヘルタースケルター』を聴いても、どこを聴けば、人殺しに走るのかはさっぱり分かりませんでした。

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 マンソンについての知識は『アメリカン・バイオレンス』(https://yojimbonoyoieiga.at.webry.info/200907/article_2.html)という今では放送不可能なドキュメンタリー映画からで、劇場公開もされていました。内容はチャールズ・ホイットマン、チャールズ・マンソン、テッド・バンディ、エド・ケンパーらが殺害した犠牲者たちの凄惨な事件後の映像やスチール写真、自身が警官らにより射殺された様子などショッキング映像が延々と続く。

 なかでも人民寺院やマンソン・ファミリーなど狂信的なカルト集団が引き起こした残虐な事件は今でも語り継がれたり、中心人物だったチャールズ・マンソンがつい先日、獄中で死んだときにニュースになる程なので、当時はかなり衝撃的に報じられたことでしょう。

 ちまたではブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオが共演したことが話題になっているようですが、内容的に考えると、ミーハーが喜びそうな軽いモノではない。もちろん、タランティーノの作風を理解している血みどろに耐性を持っている客層からすれば、むしろ物足りなくなりそうな程度です。

 160分を超える上映時間には好き勝手にやれる実績を作ってきたタランティーノのこだわりが詰まっています。そして、今作品についても、上映時間160分以上と聞くと身構えてしまいますが、見せ方が上手い監督なので、飽きることなく3時間弱が過ぎていきます。

 『レザボア・ドッグス』(https://yojimbonoyoieiga.at.webry.info/200601/article_13.html)、『パルプフィクション』(https://yojimbonoyoieiga.at.webry.info/200602/article_4.html)を見たときの驚きと新鮮さはさすがに無くなっていますが、それでも依然として作品レベルは高く、楽しみに新作を待つ監督です。

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 ストーリー展開は起承転結がタランティーノ作品としては時間軸のずらせ方がそれほどキツくなく、かなり分かりやすい方で、前半から中盤にかけてはダラダラ続いていきます。悲劇のヒロイン、シャロン・テートはマーゴット・ロビーがかなりキュートに演じています。

 物語の緊迫感が増してくるのはマンソンたちが不法占拠している牧場にブラピが一人で乗り込むシークエンスからです。無言で迫ってくる大勢のチャーリーズ・エンジェルたち。かなり不気味で異様な雰囲気を漂わせながら、取り囲もうとする彼女たちの様子は劇中、もっとも緊張するシーンかも知れません。

 ブラピのクルマをパンクさせた牧場の世話係を殴りつけて修理させる、その一方で緊急事態を告げられて帰ってくるテックス(オースティン・バトラー)とのクロス・カッティングでサスペンスが強くなり、いざ帰ってくるとすでに立ち去ろうとしている後ろ姿を見せて、一気に弛緩させる。タランティーノがニヤニヤしている様子が思い浮かびます。

 天使たちの一人を演じているのは天才子役と呼ばれたダコタ・ファニングでしたが、この作品にも強烈な印象を残した子役がいました。彼女の名前はジュリア・バターズ。覚えておいた方が良い名前です。今後は大化けするか、消えてしまうかは分かりませんが、パッと出ただけで印象に残るインパクトのある子役でした。

 シャロン・テート事件を題材に取った、大胆な作品なので、ラスト・シークエンスを迎える観客は「いよいよ狂気の惨殺が来るな。」と待ち構えてしまい、この作品がフィクションであることをどこかで忘れてしまい、タランティーノのミス・ディレクション、或いは大胆なイタズラ心にまんまとしてやられます。

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 ダコタ・ファニングやマーガレット・クアリーらが演じるマンソン・ファミリーのまるでゾンビのような薄気味悪さに目を奪われます。緊迫感溢れるブラピのピンチのシーンの後に、落ちぶれたスター、レオナルド・ディカプリオの突然の再ブレークがあってすぐにラスト・シークエンスに突入していく見事さはさすがのタランティーノで、物語の進め方が素晴らしい。

 侵入を試みる寸前で逃げ出すメンバーや襲撃する家を間違える間抜けなマンソン・ファミリーの実行犯リーダーにも笑えました。イタリアから疲れ切って帰ってきた深夜に賊を返り討ちにするディカプリオとブラピの最強タッグ、そして愛犬ブランディの猛烈な噛みつきに全滅するチャーリーズ・エンジェルはやられる為に出てきたショッカーみたいな役回りでした。

 今回も悪党撃退に用いるのはロベール・アンリコ『追想』仕込(?)の火炎放射器で、レオナルド・ディカプリオがチャーリーズ・エンジェルをバーナーで丸焼きにします。ブルース・リーを茶化すシーンが物議を醸しているようですが、Blu-ray化の際には大人の事情で、『トイストーリー』のように「なかった」ことにしてカットしないで欲しい。

 劇中で描かれるブルース・リーは鼻持ちならない理屈っぽいアジア人で、自信満々にスタントマンのブラピに対戦を吹っかけて、見事にあしらわれてしまいます。エンディングでも簡単に格闘技の練習パートナーに一本取られてしまい、苦々しげな表情をしている様子が描かれる。

 ただ『キル・ビル』でユマ・サーマンにブルース・リーの『死亡遊戯』での黄色いコスチュームを着せたタランティーノがブルース・リーを嫌いなはずはなく、今回の彼の意図は不明です。何か、その後に権利関係などでひと悶着あったのでしょうか。

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 ブルース・リーがシャロン・テートに武術指導をするカットが一瞬流れますが、これはディーン・マーティン主演作品『サイレンサー破壊部隊』に彼女が共演した際にリーがアクションをつけたことから挿入されたようです。

 亡くなったのが26歳で、その時はロマン・ポランスキーの子どもを身ごもっていた状態でしたので、マンソンたちの犯罪はより悪質で極悪非道です。マンソンのTシャツを着ている者を見かけたことがありましたが、犯した罪や意味が分かって着ているのだろうか。

 チェ・ゲバラTシャツを見たときも、民主主義の国でファッション感覚で極左ゲリラのリーダーがプリントされた服を着ている若いヤツに違和感がありました。

 有名人が実名役で登場するのも特徴で、ブルース・リー、ロマン・ポランスキー、シャロン・テートなどが出てきますが、彼女を狙っていた風のスティーブ・マックイーンらも登場します。ブルース・リーに対しては若干の悪意を感じましたが、マックイーンについては特に批判はないようです。

 レオナルド・ディカプリオがもしかするとスティーブ・マックイーンが『大脱走』で演じた役を自分がやっていたかもという噂にまんざらでもない態度で否定するシーンがあります。

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 音楽が優れているのは彼の作品の特徴の一つであります。今回もサイモン&ガーファンクル『ミセス・ロビンソン』、ディープ・パープル『ハッシュ』『ケンタッキー・ウーマン』、ローリング・ストーンズ『アウト・オブ・タイム(ただ、こんなコーラスあったっけというテイクなのでカバーだろうか?『アフターマス』とモノラル・テイクを持っていますが、こんなんだっけ?ボーカルはミックのようだが?)』が掛かった時は嬉しくなりました。

 ホセ・フェリシアーノ『カリフォルニア・ドリーミング(オリジナルはママス&パパス)』、そして襲撃シーンの前に掛かるヴァニラ・ファッジの『キーフプ・ミー・ハンギング・オン』が印象的でした。

 特にヴァニラ・ファッジの曲の感じがタランティーノが編集しているため、『地獄の黙示録』でウィラード大尉(マーティン・シーン)がカーツ大佐(マーロン・ブランド)に襲いかかるシーンで流されるドアーズ『ジ・エンド』の中間部のような迫力で興味深く聴いていました。

 その他ではスタッフロールの後、CM撮影を毒づきながら行うレオナルド・ディカプリオの短いシーンが入り、更にその後にテレビ放送時の『バットマン』のテーマが掛かる。タランティーノ監督の次回作はまさかの『バットマン』なのだろうか。傑作『ダーク・ナイト』を超える作品への期待が生まれました。

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総合評価 85点

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド オリジナル・サウンドトラック - オリジナル・サウンドトラック
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