『戦艦ポチョムキン』(1925)いつのまにかBlu-ray発売!? しかしなんだか、ビデオ時代と伴奏が違う。三パターンあるようです。

 数日前に何気なくAmazonで映画ソフトの検索をしていると、セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の名作『戦艦ポチョムキン』(https://yojimbonoyoieiga.at.webry.info/200605/article_20.html)のBlu-rayが発売されているのが目に入りました。「あれ?Blu-ray化されていたんだ?」と感慨深くなり、調べてみると実は5年前に発売されていましたが、全く気付きませんでした。映像特典として『グルーモフの日記』『センチメンタル・ロマンス』も収録されているとのことでしたので、すぐに購入しました。

 残念ながら、ドイツのヒトラー政権がソビエト連邦に侵攻した際の戦火で大半が消失してしまった『ベージン草原』はスチール写真編集版が存在しているものの、今回のBlu-ray化でも収録は見送られたようです。それでも、これまで発売されなかった『グルーモフの日記』『センチメンタル・ロマンス』が発売されたことには意味があります。

 早く来ないかなあと楽しみにしていると、日曜日にAmazonの配送があり、夜にさっそく再生してみました。Blu-rayだけあり、映像はかなりブラッシュアップされていて、音もクリアになっていましたが、何かがおかしい。音楽をつけているのはショスタコーヴィチです。

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 もともとはサイレント映画なので作品自体が無音なのは当たり前ですが、この作品には戦後すぐの1950年にモス・フィルムの依頼でニコライ・クリューコフが付けたスコアがあります。実は彼が付けた音楽の方が好みなのです。

 発売元のコスミック・インターナショナルがビデオ時代に出していた版は彼が付けた音楽であり、ぼくが見たのは10代後半か、20代前半だったので、印象は鮮烈でその音楽の印象が強い。迫力があり、ショスタコービッチ盤よりもなじみが深い。

 10年以上前に大阪の劇場で観た『戦艦ポチョムキン』ではオリジナルスコアを手掛けたエドムンド・マイゼルが付けた伴奏が流れていたのだろうか。残念ながら、記憶にございません。赤旗を染色していた版を見た覚えがあるので、その可能性は強い。ただどこで染色版を見たのかも定かではない。ビデオ、LD、CS放送、劇場公開、DVD、Blu-rayと色々と交互に見ているので、グチャグチャになっています。

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 それが今回のBlu-rayではショスタコーヴィチのスコアの方が採用されていて、悪くはないのは重々承知はしているものの、どうも違和感が拭いきれない。また特典映像も含め、対訳の字幕が中途半端に入る部分があったり、まったく入らなかったりで購入したものの少々残念な気持ちになリます。

 また、勘違いだったのか不明ではありますが、確かオデッサ階段シークエンスの後、ポチョムキンを追尾するロシア艦隊との接近遭遇時の今すぐにも戦闘の火蓋が切られる刹那、艦隊のマストに共産党の赤旗がたなびくシーンがあり、かつてこの部分だけがパートカラーの“真紅”に染め抜かれていたのを見た記憶がありました。

 それが今回のBlu-rayではモノクロのままでした。ビデオ時代に聴いた音楽との差異と赤旗染色の有無。この二つの演出の相違は大きなテンションの違いを生み、盛り上がりにかなりの水をさされた感があります。

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 何も知らずに初めてこれを見た方は十分に楽しめるでしょうが、映画祭での特別上映やビデオで見てきた世代には違和感たっぷりなソフトでした。また肝心の本邦初の特典映像にも難があります。

 『グルーモフの日記』はYouTubeで約五分の完全版があるのにわずか1分弱のダイジェストにすぎず、『センチメンタル・ロマンス』も歌のシーンに字幕が出ないため、フランス語を理解しない人には何を歌っているのかははっきりとわからない。

 シャンソン風に歌っているので、おそらくは恋人との別れや昔の思い出話などを隠喩と情熱をこめて歌っているのでしょうが、はっきりとは分からない。ただモンタージュで挿入される置き時計の振子がずっと動いていたのが止まってしまうという描写があるので、おそらく主人公の女性にとっては恋の終わりとともに時が止まってしまったような感覚になっているのでしょう。

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 ブルジョア風な演出に忌避感があったためか、亡命ロシア人の哀しみを連想させるためか、エイゼンシュテインはこの作品を自分の創作物とは認めたがらなかったようですが、そこかしこにモンタージュ風味は出ています。あくまでもエイゼンシュテイン研究の一環として持っておけばよい程度の作品ではあります。

 五分に満たない小品に過ぎないのに何故か抜粋だけが収録されている『グルーモㇷの日記』についてはこれ目当てに買う価値はなく、YouTubeで鑑賞すれば十分だと思います。笑うエイゼンシュテインを見ることが出来ますので、お暇な方はご覧ください。

 今回のBlu-rayの良いところとしては画像がかなりシャープにブラッシュアップされていること、そしてサウンドが澄んでいて、ノイズが気にならないことでしょう。ビデオも確認しましたが、どうしてもヒスノイズが大きく、デジタルに慣れた耳には聞き苦しいかもしれません。

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 DVD版では淀川長治さんが解説を入れている盤があり、そこで淀長先生はもっとも優れた映画を二本挙げています。そのうちの一本はチャップリンの名作『黄金狂時代』、そしてもう一本はこの『戦艦ポチョムキン』でした。

 淀長先生は『ストライキ』『イワン雷帝』『メキシコ万歳』についても触れています。いつもは観客に分かりやすく、初心者が引かないように話されますが、ここでは滔々とエイゼンシュテインの凄味を語ります。

 流れるような編集と観客の感情を突き動かす見事さでは他の追随を許さないエイゼンシュテイン作品を味わいましょう。映画の要素にはストーリーだったり、綺麗な映像だったりがありはしますが、映像の順番で感情を誘導していくプロパガンダの恐ろしさを堪能したい。100年近く前の映像の繋がりに今でもパワーが保持されてことに驚きます。

総合評価 90点

戦艦ポチョムキン Blu-ray  エイゼンシュテイン監督のデビュー作『グリモフの日記』、トーキー作『センチメンタル・ロマンス』収録
戦艦ポチョムキン Blu-ray エイゼンシュテイン監督のデビュー作『グリモフの日記』、トーキー作『センチメンタル・ロマンス』収録

セルゲイ・エイゼンシュテインDVD-BOX
セルゲイ・エイゼンシュテインDVD-BOX

黄金狂時代 [DVD]
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戦艦ポチョムキン 復元(2005年ベルリン国際映画祭上映)・マイゼル版 クリティカル・エディション [DVD]
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この記事へのコメント

2019年09月22日 02:21
用心棒さん、お久しぶり、お晩でございます。
BD出てたんですね。
ショスタコーヴィチ版は76年のいわゆる完全版の復元時のもののようですね。そのあとに26年ドイツ公開のマイゼル版が見つかって・・・でもマスターテープとかでなくスコアだったとのこと。05年に新演奏で復元したそうです(元々、マイゼル版が赤旗のパートカラー)。

革命20周年記念式典でのモスクワのボリショイ劇場での初上演では、最後の5巻目が上演中まだ編集作業中で作業が間に合わずフィルムの張り合わせもつばでの仮張りのまま劇場に運び映写機にセットしたそうです。4巻目終了時にはまだ助監督のアレクサンドロフがポリショイ劇場に向かっている途中だったとのこと。
凄い逸話ですよね。
そもそもトーキーなわけですから、このときは、当劇場専属の管弦楽団が「みんなは一人のために、一人はみんなのために」の映画メッセージからの選曲で、ラスト・シーンでベートーヴェン第9最終楽章「歓喜の歌」を伴奏したそうです。
『戦艦ポチョムキン』は、作品というより生き物のような存在ではないでしょうか?
では、また。
トム(Tom5k)
2019年09月22日 16:08
<追記>
BD→BLの間違いでした。すみません。

>1950年にモス・フィルムの依頼でニコライ・クリューコフ
これがゆわゆる「サウンド版」だそうですけれど、やはりスターリン時代の検閲はかなりあってののものだったんではないでしょうか?それとも、後年の復元されたショスタコーヴィチ版、マイゼルの「サウンド版」も完全版なんでしょうかね?

私は、すべて音を消して、持っているフルトヴェングラーの第9のCDを流しながら観てみようかな、と思っていますよ(笑)。
いづれにしてもパブリックドメイン化している作品ですから、これからまだ進化する作品かもしれませんよ?
ポチョムキンの3D化とか・・・何だか怖いですね。
では、また。
用心棒
2019年09月22日 23:53
こんばんは!

お久しぶりです!お元気ですか?
こちらは細々と続けておりますwww

ウェブリの仕様がだんだんショボくなってきているのが難点です。

>マイゼル版
もともとスターリンの検閲などであちこちにズタズタにされて散逸していたものを地道に集めて再現したものなので、完全版というのは難しいでしょうね。

昔LDに収録されている版がたしかパートカラーだった記憶があるのですが、記事でも書いたようにビデオ、LD、DVD、衛星放送、劇場上映、Blu-rayとさまざまなフォーマットで見てきたので、正直どれがどれだったのか分かりにくくなっています。

2006年にロシア映画祭が大阪であったときに観に行ったのですが、その際の音楽がマイゼルだったのか、シェスタコーヴィチだったのかさすがに覚えていませんwww

>生き物
まだ生きていますよ!
感情を動かされる映像の流れは健在です。むしろ何も先入観がない子供たちに『意志の勝利』『民族の祭典』『ストライキ』『戦艦ポチョムキン』を見てもらい、どう思ったか聞いてみたいですね。

>3D
爆音上映も見たいですwww

オデッサの場面とかにサラウンドで一斉射撃の轟音を追加するとか、3Dなら、ラストにポチョムキンが突っ込んでくるところを顔まで突進する感じで音響をかぶせるとかしたら、反論は出るでしょうが、モノクロを見せる試みとしては良いかもしれません。

ではまた!
蟷螂の斧
2019年09月26日 19:26