『フォーエヴァー・モーツアルト』(1996)ゴダールらしさがしっかりと残っている90年代作品。

 今年の3月に4回生の大学生たちが卒業と就職で退職し、入れ替わりで2回生や3回生がアルバイトをしに会社に来てくれています。そのうちの一人の女の子は現在19歳で音大に通っているお嬢様です。かなり綺麗な娘で、乃木坂とかにいても遜色ないほどです。

 当然、クラシックには詳しいので、彼女にある質問をしました。それは40年近く前にぼくが通っていた小学校で掃除の時間に掛かっていたBGMについてのものです。

 ①ピアノ曲で軽快な感じの楽曲。
 ②ショパンではなさそうだ。数枚買ったショパンのCDにはなかったため。
 ③短めでシンプルな曲。
 ④そして覚えているメロディは「タラタッタ~♪タラタッタァ~♪タラララララッタ、タッタッタ~♪」ってゆう感じ!
と彼女に伝えると、ぼくが口ずさんだメロディを彼女も口ずさみ、「ああ!トルコ行進曲ですよ!」と天使のような笑顔で返してくれました。

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 「えっ?モーツァルトの?」と聞き返すと、「ベートーヴェンもトルコ行進曲を作っていて、ピアノ練習曲としてよく演奏されるんですよ!」とキラキラした微笑みとともに答えてくれました。

 「チャイコフスキーもベートーヴェンも『悲愴』を作ってるあの感じなのかなあ。」とそのまま違う話題に移っていき、「家に帰ってから、Amazonでポチ買いするわ!」と話して、ついでにお礼として、紫外線に弱い彼女へのプレゼントにUVカットのアーム・カバーをついでに購入しました。後日、他の娘にバレないように渡したら、とても喜んでくれました。

 『悲愴』で思い出したのが、1983年にニューヨーク出身のシンガー、ビリー・ジョエルが出した大ヒット・アルバム『イノセント・マン』に収録され、日本でのみシングル・カットされた『今宵はフォーエバー』でした。

 この曲は『悲愴』をモチーフに使って作られたナンバーで、感覚的には平原綾香の『ジュピター』みたいなイメージです。急に聴きたくなり、アルバム『イノセント・マン』のレコード(どうせなら、昔聴いていたレコードの方が温かみがあり、解説や帯も思い出深い。)をヤフオクで探していたところ、ビリー・ジョエル関連レコードを6枚セットで出している人がいました。

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 『ビリー・ザ・ベスト』『ピアノマン』『ストレンジャー』『ニューヨーク52番街』『ナイロン・カーテン』『イノセント・マン』が併せて千円でしたので、オークションに参加しました。

 無事に落札出来たこのセットが土曜日に届きましたので、『ストレンジャー』『素顔のままで』『オネスティ』『ピアノマン』『グッドナイト・サイゴン』『今宵はフォーエバー』『アレン・タウン』『プレッシャー』『ニューヨークの想い』『イノセント・マン』『ロックンロールが最高さ』『ローラ』『ムーヴィン・アウト』などを久しぶりにレコードで聴くと懐かしく、まさに感無量です。

 色々と学生時代に聴いてきた思い出が蘇ってきます。五十代間近になって、今改めて聴く『ニューヨークの想い』は心により深く沁みてきます。都会の孤独を歌っていたビリー・ジョエルはルックス的に見ると、ブサイクなんでしょうが、とても魅力的で素敵な歌を届けてくれていました。

 いつの間にか、音楽を聴く習慣を失っていた1990年代中盤以降、彼がどのような活動をしていたのか知りませんが、今聴いても『ストレンジャー』や『素顔のままで』『オネスティ』は色褪せることなく、スピーカーから流れてきています。

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 そんなこんなで、モーツアルトやベートーヴェン、ビリー・ジョエルと連想していき、今、見ている映画はジャン=リュック・ゴダール監督作品の『フォーエヴァー・モーツアルト』です。

 この映画の音楽はなぜかベートーヴェン『ピアノ協奏曲第五番』から始まります。タイトルがモーツァルトなので、あまりクラシック音楽に興味がない方ならば、間違いなくモーツァルトに違いないと思うでしょう。まるで『トルコ行進曲』と聞いて、モーツァルトかと誤解したぼくみたいに。

 作品は商業映画とは距離を置くゴダールらしく、哲学的な難解さを伴い、かなり取っ付きにくい方に分類されるのでしょうが、『ゴダールの映画史』『アワー・ミュージック』などを見た後なので、「むしろ分かりやすいし、綺麗に撮っているじゃないか!」と感じました。

 後半に出てくる海辺のシーンは美しく、強引なジャンプ・カットも彼独自の伝家の宝刀ですし、カット内にカットを入れる不自然な繫げ方も彼の意志だと理解できます。つまり、ゴダールはしっかりと真面目に映画製作を楽しんでいるのだと嬉しくなりました。

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 想像を膨らませ、意味を膨らませ、各自の意見を模索させるのを楽しんでいるのだろうか。ハリウッド映画のように、一から十まで説明する馬鹿丁寧さはなく、取っ付きにくいでしょうが、年に数本はこういう作品を若い人にも見てもらいたい。

 最近、レコードを再び買い集める中、YMOのデビュー・アルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』のアメリカ編集盤と日本オリジナル盤を手に入れました。そのB面には『中国女』『東風』『マッド・ピエロ(つまり『気狂いピエロ』)』という坂本龍一作品が収録されています。坂本龍一が好きな映画監督はゴダールのようです。

 どれも中学時代に死ぬほど聴いたアルバム曲なので、後にゴダール監督作品を見たときにどうしてもYMOの曲が頭の中で鳴り響いてしまいます。作品中、音楽が静かに流れますが、その合間には舞台となっている内戦時のサラエボの日常が描かれ、軍用機の爆音、戦車の砲撃、機銃掃射、少女への強姦など厳しい現実が炙り出されます。

 殺伐とした現実世界と対比させるように描かれるブルジョア的な感覚全開でこの地に入ってきた文化人たちによる戯曲上演や映画製作とが強烈なコントラストを醸し出しています。

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 海辺のシーンで監督は執拗に自分が納得出来る「oui」(いわゆる「ウィー」ですね)が女優から出てくるまで、この短い台詞を繰り返させる。言葉には細かいニュアンスがあり、役柄をしっかりと理解しているかどうかで違うのでしょう。

 かつての名匠、溝口健二監督は出演者の演技が自身が演出上求めているものと違う時には「反射してください。」と短く、冷徹に注意したそうですが、それを見せられたようです。ジョン・フォード、フェデリコ・フェリーニ、溝口健二をそこかしこに感じる、映画愛に溢れた良作でした。

 映画撮影シーンを撮り終えると、殺伐としたサラエボではなく、ヨーロッパのブルジョア臭に包まれた普段の様子に戻ってきます。本人たちからすれば命懸けで撮影してきたということがあるにしても、理屈っぽくて、つまらなそうな映画よりも、時間を潰すだけで内容はくだらない『ターミネーター4』を見たがるガキ共に悪態をつく様子は皮肉っぽくて、ゴダール自身の自虐ネタのようです。

 ベートーヴェンで始まったこの作品は表題通り、モーツアルトの『ピアノ協奏曲第27番』で終わる。唐突に。そこもジャン=リュック・ゴダールらしい幕切れです。

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総合評価 80点

フォーエヴァー・モーツァルト [DVD]
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ビリー・ザ・ベスト - ビリー・ジョエル
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Yellow Magic Orchestra - YMO
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