『フェスティバル・エクスプレス』(2003)ジャニスの絶唱と叫びを聴け!
『フェスティバル・エクスプレス』と言っても、なんだかピンと来ないでしょうが、これは1960年代後半に盛り上がりを見せた、ウッドストックなどの各地で行われたロック・フェスの一つを撮影し続けたドキュメンタリーの音楽映画です。
『ウッドストック』や『バングラデッシュのコンサート』のように通常のコンサートやフェスが大きな会場や広場に大観衆を動員して、多くのバンドをブッキングして、立て続けにライブ演奏させて、1日で盛り上げます。
それに対し、この企画が他と違う特徴としては貸し切りの長距離列車の食堂車内にアンプや楽器類を持ち込み、いつでも自由に演奏できる状態にしておいて、各バンド・メンバー達には寝台車をあてがい、各々が好きなように過ごしながら、転々と移動していくという宿泊所とツアーを兼ねる移動方法でした。トレーラーの代わりをしたのが寝台列車ということです。
カナダの東部トロントからウェニペグを経由し、最終目的地となる西部のカルガリーに向け、長距離列車は一週間近くものんびりと時間を掛けて走っていき、途中駅にある各会場でコンサートを行っていく。
集められたミュージシャンたちも最初は緊張していたのが徐々に慣れて行き、食事やドラッグ、アルコールで常にベロベロになりながらも、常に車両内でセッション出来る環境下で参加者の連帯感を増していく。
このフィルムには今現在と同じように厚かましいクレーマーがタダで見せろと会場の外で暴動を起こし、地方の政治家も彼らの票を得るために圧力を掛けてくる様子が描かれています。
エクスプレス一行は迷惑な物乞いたちにモヤモヤしながらも、どんちゃん騒ぎと乱痴気騒ぎを繰り返し、酒が無くなれば、途中で停車し、地元の酒屋で買い占めてくる。
みんなで騒いで、行く先々で起こった出来事を記録するというアイデアはすでに過去にも試されていました。たぶんビートルズが『マジカル・ミステリー・ツアー』でやりたかったのはこういうことだったのだろうなあと思いながら、画面を眺めています。
今回のフェスに参加したのはザ・バンド、グレイトフル・デッド、シャ・ナ・ナ(彼らが歌った『アット・ザ・ホップ』のライブ・テイクは大好きです。)、そして在りし日のジャニス・ジョプリンらです。
ライブと途中のドキュメンタリーのインタビューは主にグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが答えています。彼らの音に対してのイメージはサイケデリックでインプロヴィゼーション演奏を延々と続けるという印象でしたが、この映画ではそれらはバッサリとカットされてしまっているようで、アコースティックギターを掻き鳴らしながら、キリストのことを歌い上げるフォークグループみたいな感じでした。
バディ・ガイも『マネー』を熱唱し、カッコいいのですが、それでも圧巻の演奏で格の違いを見せたのは『ザ・ウェイト』『アイ・シャル・ビー・リリースト』を哀愁を漂わせながら、リチャード・マニュエルが歌い上げるザ・バンド、そして圧倒的な迫力で観客を引き込んでいくジャニス・ジョプリンでした。
製作側の意図として、みんなが見たいのはジャニスなのに、それを分かっていて焦らすように彼女にはカメラは向けられず、我慢強く見ていても、中盤になっても出てこず、彼女目当てに見る人はお預けを食らいますが、後半以降、ついに真打ちが登場してきます。
ヘロインとアルコールでベロベロに酔っ払ったジャニス・ジョプリンが映し出されるが、彼女は薬物とアルコールの過剰摂取でこのツアーが行われた1970年に急死しました。
ステージで見せる圧倒的な存在感とステージ外での表情の差は深刻で、27歳にしてはえらく疲れ切った様子で、楽しそうではあるものの、なんだか老け込んでしまっているように見えるのはもはや心身ともに消耗し切っているのが表面上でも分かるようになってしまったということなのでしょう。
それでも在りし日の、それも死の間際のジャニス・ジョプリンの姿を見られるだけでも価値が高い。他を圧する迫力と繊細さと何処か寂しさが同居する彼女の歌は今聴いても新鮮です。
彼女の死後、1968年から1970年にかけての音源をまとめたライブ盤『ジョプリン・イン・コンサート』が発売されましたが、このツアーでトロントからカルガリーに辿り着くまでの演奏が6曲ほど収められています。
CDでの曲順で言うと9~14曲目の『ハーフ・ムーン』『コズミック・ブルース』『ジャニスの祈り』『トライ』『愛は生きているうちに』『ボールとチェーン』がフェスティバル・エクスプレスでの演奏です。ぼくはアメリカ盤レコードと日本盤CDを持っていますが、ブルースやロックの解釈や音圧は本場のレコード時代のほうが優れています。
この映画では2曲が収録されていて、アバズレ感満載のジャニスが『クライ・ベイビー』『テル・ママ』を歌いだした瞬間、会場は彼女に釘付けになってしまいます。ぼくも50年前の映像に引き込まれてしまいました。
ジャニスとグレイトフル・デッドのメンバーたちとの食堂車内でのセッションがとても楽しそうで、ステージでは千秋楽のときに「また呼んでね!」とニコニコしていた姿に泣きそうになります。色々とトラブルがありますが、列車内での彼らは揺られながら、カナダの田園風景に溶け込んでいき、人間性を取り戻していくようでした。
楽しかった夏はあっという間に終わってしまい、1970年は10月に亡くなったジャニス・ジョプリンだけでなく、ジミ・ヘンドリックスも9月にこの世を去ってます。ビートルズも解散し、なんだかつまらない時代になりつつあるなあと感じながら、当時のファンは新しいスターを求めたのでしょうか。
ミュージシャンが素晴らしいのはもちろんなのですが、一番興味深いのは当時の状況を語る主催者のケン・ウォーカーのインタビューです。地元政治家や物乞いの群衆に対する毅然とした態度、赤字になろうがお構いなしに興行をやり遂げる心意気に熱くなります。
総合評価 70点
『ウッドストック』や『バングラデッシュのコンサート』のように通常のコンサートやフェスが大きな会場や広場に大観衆を動員して、多くのバンドをブッキングして、立て続けにライブ演奏させて、1日で盛り上げます。
それに対し、この企画が他と違う特徴としては貸し切りの長距離列車の食堂車内にアンプや楽器類を持ち込み、いつでも自由に演奏できる状態にしておいて、各バンド・メンバー達には寝台車をあてがい、各々が好きなように過ごしながら、転々と移動していくという宿泊所とツアーを兼ねる移動方法でした。トレーラーの代わりをしたのが寝台列車ということです。
カナダの東部トロントからウェニペグを経由し、最終目的地となる西部のカルガリーに向け、長距離列車は一週間近くものんびりと時間を掛けて走っていき、途中駅にある各会場でコンサートを行っていく。
集められたミュージシャンたちも最初は緊張していたのが徐々に慣れて行き、食事やドラッグ、アルコールで常にベロベロになりながらも、常に車両内でセッション出来る環境下で参加者の連帯感を増していく。
このフィルムには今現在と同じように厚かましいクレーマーがタダで見せろと会場の外で暴動を起こし、地方の政治家も彼らの票を得るために圧力を掛けてくる様子が描かれています。
エクスプレス一行は迷惑な物乞いたちにモヤモヤしながらも、どんちゃん騒ぎと乱痴気騒ぎを繰り返し、酒が無くなれば、途中で停車し、地元の酒屋で買い占めてくる。
みんなで騒いで、行く先々で起こった出来事を記録するというアイデアはすでに過去にも試されていました。たぶんビートルズが『マジカル・ミステリー・ツアー』でやりたかったのはこういうことだったのだろうなあと思いながら、画面を眺めています。
今回のフェスに参加したのはザ・バンド、グレイトフル・デッド、シャ・ナ・ナ(彼らが歌った『アット・ザ・ホップ』のライブ・テイクは大好きです。)、そして在りし日のジャニス・ジョプリンらです。
ライブと途中のドキュメンタリーのインタビューは主にグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが答えています。彼らの音に対してのイメージはサイケデリックでインプロヴィゼーション演奏を延々と続けるという印象でしたが、この映画ではそれらはバッサリとカットされてしまっているようで、アコースティックギターを掻き鳴らしながら、キリストのことを歌い上げるフォークグループみたいな感じでした。
バディ・ガイも『マネー』を熱唱し、カッコいいのですが、それでも圧巻の演奏で格の違いを見せたのは『ザ・ウェイト』『アイ・シャル・ビー・リリースト』を哀愁を漂わせながら、リチャード・マニュエルが歌い上げるザ・バンド、そして圧倒的な迫力で観客を引き込んでいくジャニス・ジョプリンでした。
製作側の意図として、みんなが見たいのはジャニスなのに、それを分かっていて焦らすように彼女にはカメラは向けられず、我慢強く見ていても、中盤になっても出てこず、彼女目当てに見る人はお預けを食らいますが、後半以降、ついに真打ちが登場してきます。
ヘロインとアルコールでベロベロに酔っ払ったジャニス・ジョプリンが映し出されるが、彼女は薬物とアルコールの過剰摂取でこのツアーが行われた1970年に急死しました。
ステージで見せる圧倒的な存在感とステージ外での表情の差は深刻で、27歳にしてはえらく疲れ切った様子で、楽しそうではあるものの、なんだか老け込んでしまっているように見えるのはもはや心身ともに消耗し切っているのが表面上でも分かるようになってしまったということなのでしょう。
それでも在りし日の、それも死の間際のジャニス・ジョプリンの姿を見られるだけでも価値が高い。他を圧する迫力と繊細さと何処か寂しさが同居する彼女の歌は今聴いても新鮮です。
彼女の死後、1968年から1970年にかけての音源をまとめたライブ盤『ジョプリン・イン・コンサート』が発売されましたが、このツアーでトロントからカルガリーに辿り着くまでの演奏が6曲ほど収められています。
CDでの曲順で言うと9~14曲目の『ハーフ・ムーン』『コズミック・ブルース』『ジャニスの祈り』『トライ』『愛は生きているうちに』『ボールとチェーン』がフェスティバル・エクスプレスでの演奏です。ぼくはアメリカ盤レコードと日本盤CDを持っていますが、ブルースやロックの解釈や音圧は本場のレコード時代のほうが優れています。
この映画では2曲が収録されていて、アバズレ感満載のジャニスが『クライ・ベイビー』『テル・ママ』を歌いだした瞬間、会場は彼女に釘付けになってしまいます。ぼくも50年前の映像に引き込まれてしまいました。
ジャニスとグレイトフル・デッドのメンバーたちとの食堂車内でのセッションがとても楽しそうで、ステージでは千秋楽のときに「また呼んでね!」とニコニコしていた姿に泣きそうになります。色々とトラブルがありますが、列車内での彼らは揺られながら、カナダの田園風景に溶け込んでいき、人間性を取り戻していくようでした。
楽しかった夏はあっという間に終わってしまい、1970年は10月に亡くなったジャニス・ジョプリンだけでなく、ジミ・ヘンドリックスも9月にこの世を去ってます。ビートルズも解散し、なんだかつまらない時代になりつつあるなあと感じながら、当時のファンは新しいスターを求めたのでしょうか。
ミュージシャンが素晴らしいのはもちろんなのですが、一番興味深いのは当時の状況を語る主催者のケン・ウォーカーのインタビューです。地元政治家や物乞いの群衆に対する毅然とした態度、赤字になろうがお構いなしに興行をやり遂げる心意気に熱くなります。
総合評価 70点
この記事へのコメント
ジャニスの歌うサマータイムをYouTubeで観ましたよ。声量や存在感、なにもかもに圧倒されます。
剥き出しの魂みたいで、痛みを感じます。
クラウス ノミも、観ましたよ!なんてチャーミングな、で、お歌が上手です。高らかに歌い上げていた。着こなしも上々。微笑ましい?笑ってしまいましたシンプルメーンって!?huhuhu。
歌を楽しめる映画では、昔の邦画の『鴛鴦歌合戦』は、お気に入りです。『フェスティバル・エクスプレス』は、一部観たことがある気もします。CSで。
いつか観たい映画です。
梅雨どきです。体調に気を付けていきましょうね。
>ジャニス
ガーシュインもあれだけ見事に歌ってくれたら、音楽家冥利に尽きるでしょう!
>クラウス
たぶんわが国ではほとんど知られてないでしょうが、女性のような声、カストラートでしたっけ?
彼の声の良さは忘れられません。
『コールドソング』が最高ですよ。
>鴛鴦歌合戦
お目が高い!
「ほ〜れほれほれ、この茶碗♫」(だったかな?)
志村喬の歌が上手いのは『ゴンドラの唄』の前から分かっていたということでしょうね。
あの暗い世相でよくぞ楽しい映画を作ってくれたものです。
ではまた!
用心棒さん、鴛鴦のときの彼の年齢は?など、作品ごとの時系列を、頭に入れておられるんですね。
インプット→反芻→アウトプットの課程が、有機的かつ、鍛練されたものなのかな?などと、感心することがあります。
機械でなく、人間ならではの豊かさですね。
私は、感覚的に判断して好みを選り分けてきましたが、ちょっと趣向の違ったものにもtryして、面白いです。
鴛鴦、ディック ミネの伸びやかな声も屈託なく、良い映画でしたね。
?だっけ?と、カストラートを調べてみると、去勢された男性歌手とのことでした。
クラウスノミは、カウンターテナーですって。
コールドソングは、癒されますね。歌詞は悲しいけど、彼には崇高な気配もあります。命いっぱい、生きたのでしょう。
>鴛鴦
とても出来が良い作品ですし、もっと若い人たちにも知られて欲しいですね。
>ディック・ミネ
久しぶりにというか、昭和以降で初めて話題にしますww
ぼくはおぼろげにしか覚えていませんが、歌謡番組に大御所として出演されていたのを何度か見ました。
>コールドソング
もともと最初に聴いたのはスネークマン・ショーの一枚目のアルバムでした。収録曲の中では一番地味なナンバーでしたが、数十年経っても、また聴きたいなあと思わせる名曲で、先日、リサイクルショップで出ていたのを反射的に購入しましたwww
アナログでしたので味はありますが、彼の声をもっと聴きたくなり、CDでベスト盤を買いましたwww
1983年に友人が持っていたスネークマンショーのアルバム二枚を借りて、何度も聴いたのは良い思い出です。その翌年にFMfanか何かの雑誌の新譜欄でクラウスの記事を見つけ、読み進んでいくとまさかの訃報だったを知り、友人と話したのを覚えています。
彼はAIDSで亡くなった最初の有名人として名前が残っているようですが、彼の歌声を忘れることは出来ません。
話は変わりますが、再びアナログに引き込まれているため、オークションでキング・クリムゾンの『クリムゾンキングの宮殿』『太陽と戦慄』『暗黒の世界』『レッド』のLP4枚を競り落とし、繰り返し聴いています。
なかなかレコード地獄から抜けられず、かなり困ったことになっていますが、ドアーズの『ハートに火をつけて』あたりを落としたら、一区切りつけようかと思っていますwww
ではまた!
ではまた!