『小林多喜二』(1974)視聴困難だった共産党映画。ついにDVD化!

 よくある伝記映画だと思っていたら、凄惨な拷問シーンと横内正がスポットライトに照らされ、突然ギター片手に弾き語りで歌い出し、過去と現在を自在に行き来するナレーションを強引に展開するカオスにまずは戸惑うのが本作『小林多喜二』です。

 つかみはオッケーですが、単なる伝記として構成するのではなく、しばらく事実関係などをナレーションで語ったのちに、「それでは再現フィルムを見ましょう!」的な作り込みをしている風変わりな作風と、現在の生家跡地や街の様子を差し込んでくるので適度な弛緩と緊張が現われる。シリアスな素材を扱うには不思議な作品です。

 小林多喜二は貧乏ではあったが叔父の援助で、小樽高等商業学校(現・小樽商科大学)まで進学し、北海道拓殖銀行に入行した後は『一九二八年三月十五日』『蟹工船』『不在地主』などを書き、銀行を解雇されます。

 その後、投獄された経験を活かし、『党生活者』などで労働者の権利や官憲の横暴を訴え、共産党活動家として非合法運動に身を投じていきます。最終的には治安維持法施行後にスパイの密告により捕まり、激しい拷問を受けて、29歳で生涯を閉じます。

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 特高警察など官憲による残酷な私刑的拷問を直接的に描いている血なまぐささと生命をかけて労働者の権利や時代の変革を訴えるために小説を書き続けようとする多喜二の鮮烈な生き様を描き出す。

 闇が覆う時代に表現の自由とは何かというへヴィーなテーマを問いかける内容であるにもかかわらず、これは娯楽作品として製作され、成立させています。

 『闇があるから光がある。そして闇から出てきた人こそ、一番本当に光の有難さが分かるんだ。』という言葉は宗教的でもありますが、これはプロレタリア小説家だった小林のもので劇中でも語られます。

 監督は『橋のない川』『武士道残酷物語』などを手掛けた社会派の今井正で、音楽はいずみたく。不気味な弾き語りも彼の作品なのでしょうか。主な出演者として、山本圭、森幹太、北林谷栄、中野良子、富士真奈美、長山藍子、横内正、地井武男ら昭和の映画やドラマでよく見ていた人たちがたくさん出ています。

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 つまり商業映画として製作されたはずなのですが、1970年代でもあまり注目がされなかったのか、知名度は低いようです。見れば分かりますが、映画館での公開やテレビ放送などがあれば、間違いなくカルト映画として名前を轟かせていたはずです。

 また12チャンあたりで放映されていれば、トラウマ映画として、ぼくら閑人の映画マニアの心にグサッと刺さるほどのクオリティは持っています。

 なんせ、拷問シーンが何度も登場し、山本圭や共産党員の凄惨な絶叫が続きます。極太の警棒(ステッキ?)で殴打され続け、硬そうな靴底で太腿や股間を蹴りまくられ、内出血する。

 さらに逆さ吊りにされ、五寸釘のように極太な錐で太腿の外側、つまり膝蹴りをされるとメチャクチャ痛いところをグサグサと刺され、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されます。

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 死後に公開された写真と同じく、何度も出てくる彼の遺骸が写されるカットには内出血し、どす黒く変色した拷問の跡がはっきりと残されています。

 それなのに警察発表は心臓麻痺ですし、遺体を持ち込まれた病院もその後のトラブルを恐れて、遺体解剖を断る始末です。拷問に立ち会った警官の中には戦後、映画界で結構な地位を築いた者もいますので、興味のある方はお調べください。

 死んでも葬儀すらまともに出来ない状態、刑務所に収監されている共産党員へ面会に来た人々が小林の名前を出すだけで、役人から怒鳴られる様子は恐怖です。

 権力が大きく肥大して管理と監視を強めて行くとどうなるかが描かれています。ただこれは共産党も一緒で、北朝鮮の様子を見れば分かりやすい。権力を持っていない側が持っている方の批判をしているというだけです。

 軍国主義が悪いという主張は分かるが、自分たちの自前の軍隊を持つのは問題ないというのは矛盾でしょうし、思想統制は軍国主義の十八番ではなく、共産党のそれでもあります。

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 歴史作品らしく、登場人物には芥川龍之介、志賀直哉、宮本顕治、中条小百合などが登場する。宮本とのエピソードはプロパガンダを作るうえで当時の共産党指導者だった彼への忖度だろうか。

 皮肉なのは多喜二が凄惨な最期を遂げた後、現在のシーンに戻り、多喜二の記念碑を訪れる観光客の姿が映し出されているのに、そのバックには自衛隊の戦闘機の爆音が響き渡っていることでしょうか。

 今回、1974年作品が44年ぶりに商品としてDVDのフォーマットで発売されました。見て損はないカルト映画としてお薦めします。

総合評価 75点


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この記事へのコメント

タッキー
2018年08月19日 00:37
ツタヤにありました。
2018年08月20日 00:52
こんばんは!

僕もみましたwww

ではまた!
トム(Tom5k)
2019年06月23日 19:08
用心棒さん、お久しぶりです。
PCの調子が悪くてずっとタブレットの生活で、私のブログもパスワードを忘れてしまい、今日1年ぶりに開きましたよ。(笑)
さて、近所のツタヤでこの作品を借りて観ました。
なんだか凄い作品ですね。昭和40年代の雰囲気も満載で私はどちらかというと息苦しいというか、前衛的過ぎてあんまり好きな作品ではありません。
革命家や反体制派への弾圧はどこの国でもどの時代でも同様に残虐を極めるもので、それをテーマにした映画や小説は、私はつらくなってしまいますよ。

>軍国主義が悪いという主張は分かるが、自分たちの自前の軍隊を持つのは問題ないというのは矛盾でしょうし、思想統制は軍国主義の十八番ではなく、共産党のそれでもあります。

おっやるとおり、全くその通りで思想信条の問題ではないと思います。全く矛盾だらけの無節操な世の中ですよね。

私は、ぼちぼち記事のアップを考えているところです。また、よろしくお願いします。
ではまた。
2019年06月23日 20:25
お久しぶりです!

お帰りなさいwww
>パスワード
ブログの事務局に問い合わせても、教えてくれないんですか?本人なのに忘れるとややこしいんですねwww

>なんだか凄い
拷問が凄まじいです。ぼくはこれを見た時にイヴ・モンタンが主演を務めた『告白』を思い出しました。あれは色調も暗く、ザラザラした印象で、ビデオ時代に見た時にウンザリした記憶があります。

こんな作品があって、強烈だったというのを昔、古い映画ファンの知りあいから教えてもらい、色々探したもののついに見ることの叶わなかった映画がまさか普通にツタヤさんで借りられる日が来るというのは感慨深いです。

演出はブッとんでいて、前衛舞台を見せられている気になりますね。自己満足というか、やりすぎ感が鼻につく感じです。いきなり歌い出すので、不気味でしたwww

最近はゴジラ映画を劇場で見てきましたが、怪獣たちをタイタンと呼んでいるので、たぶん次回作ではオリンポスの12神のように12種類は出してきて、宇宙から来た異分子のギドラはタルタロスに追放されるのかなあと想像していますwww

コングとの戦いを描くようですから、タイトルがゴジラが先に来るのか、コングが先に来るのかで勝者を占いたいところです。

ブログはゆっくりと更新してください。またこちらからも遊びに行きますね!

ではまた!

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