『アンジェラ』(2005)洗練されている21世紀型モノクロ映画。ベタですが、この感覚は好きです。

 モノクロの新作映画をほとんど見かけなくなってから、もうずいぶん経ちます。最近の有名なモノクロ作品というと、洋画では『シン・シティ』、邦画では『ユリイカ』『サムライ・フィクション』まで遡らねばならないほど思い出せません。

 そのなかでリュック・べッソン監督はあえてモノクロを選択しました。白黒はっきりした世界を表現するのはカラー製作に慣れた最近の映画監督及びスタッフにとっては結構難しかったのではないでしょうか。

 べッソン監督のデビュー作品『最後の戦い』がモノクロ&サイレントという一風変わった作品であったこと、そして彼の出世作である『LEON』でのローキー照明の選択と影の使い方を見た時に、もしかするとこのべッソンという監督にはモノクロへの愛着があるのかなあと感じてはいました。それが形となって現れたのが、この『アンジェラ』であろう。

 照明が大きく関わってくる光と影の表現方法や白と黒だけではなく無数にある灰色の中から選び出すために必要な独特の色彩感覚が厳しく問われるモノクロで長編を一本撮るのはリスクが高い。カラー映画では誤魔化される色のバランスやら配置の不自然さがはっきりとフィルムに映ってしまうのがモノクロの恐さです。

 おかしなものを作るとすぐに批判されるし、しっかりした構図を構築しないと見るに堪えない産物をファンの目の前に曝け出すことになる。また優れた脚本が無いとカラー慣れしてしまっている観客をスクリーンに集中させ続けるのは困難である。

 フランス本国では興行的に失敗したようですが、シンメトリーにこだわった画面配置、登場人物の状況と主人公の成長に合わせて変化していくカメラ・アングルの妙(目線やカメラ自体の位置)などを見ているだけでも十分に興味深い一本でした。

<以下ネタバレあり>

 特に印象に残っているのは地元の親分の部屋に置いてある首のない天使の石像を手前に置き、後ろにいるリー・ラスムッセンを一直線上にカメラで捉えた時に天使の首から上の部分にリーの顔が来るようなアングルはあまりにも作為的ではありますが、その構図が暗示するイメージは観客を楽しませる。

 ストーリーはダメ男役のジャメル・ドゥブーズが借金で首が回らなくなり、パリの街を流れる川に掛かる橋から飛び降りた時に、ほぼ同時に飛び降りたグッチ・モデルで180cmを超える大女系天使役のリー・ラスムッセンを助けてから、彼女と行動を共にするようになる。

 小男が彼女と会うまでに生きてきた世界は絶望と孤独でしかない。そんな彼は上背も小さく、やることも嘘と小細工ばかりで真実味が皆無である。それを変えるのが大女天使の使命である。彼女は彼が一人で生きて行けるようになるまでそばで見守らねばならない。

 彼女の助けを借りながら徐々に男らしさを取り戻していくという「ドラえもんとのび太クン」的展開を見せます。もちろん大人向きなのでタケコプターは出てきませんが、自分探しの旅の途中に人種差別、孤独、暴力、お色気、お説教的会話などを合間合間に挟んでいきます。

 大女ラスムッセンは序盤から後半にかけて、常に上からドゥブーズを見下すような視線をとり、カメラも彼女を上位に置いています。それが徐々に変わっていく様子が興味深い。内面に女性的な男、男性的な女を抱えるこの二人がお互いに惹かれあい、本来の男性、そして女性を取り戻していく過程はあまりに単純だが、むしろ力強い。

 べッソン監督に関しては名声を得てハリウッド的になってしまったかと思う向きもあるかもしれませんが、彼の血(作風)にはフランス映画の血が受け継がれているのを再確認できる作品でもあります。

 ハリウッド映画がどんなに世界を支配しようが、映像のタッチというか構図やリズムなどには国民性があるように思える。左右対称、図形の類似性、遠近法の利用などはニュアンスがアメリカ人のそれとは違うように見える。

 また台詞の選び方も独特である。洗練された台詞の良さはフランス映画の特徴のひとつであり、アメリカ映画では味わえない奥行きを持つものが多い。御伽話に過ぎないこのような作品の中にも、同系統のアメリカ映画ではお目にかかれない、一見すると映画的ではない非ロマンチックな知的な会話が出てきます。

 オチを言ってしまうと興味が削がれてしまうのであまり言いたくはありませんが、全ては橋から飛び降りてから、岸にたどり着くまでの一瞬の夢に過ぎなかったという夢オチにならなかったことが救いでした。彼女が天使であることが土壇場まで分からないわけではなく、作品の中盤ですでに解ってしまうのは(しかも自分からばらす。)明らかに脚本のミスである。

 また不必要なシーンのひとつに天使に羽が生え、天上に舞い戻ろうとするシーンがあります。このときに生えてくる羽がまるでデビルマンのそれであり、すぐに思い出したのが妖獣シレーヌでした。変身前に目が恐くなり、人相が変わる様子はほとんどホラー映画のようでした。これは無くても良かったシーンです。

 エンディングにしても、もし夢オチにすれば、彼の悲惨さと陳腐さは一層際立ちますし、モノクロの暗い画調と照らし合わせれば、むしろ救いのない話に持って行っても良かったかもしれません。しかし劇場で映画を観て、帰る時の観客の気持ちを考えれば、ハッピーエンドの閉じ方を選択したべッソン監督は正しかったのではないでしょうか。 

 その他気付いたのは音響の良さでした。クラシックのモノクロ作品を見慣れているとモノラルが当たり前になっているので、ステレオ音声でエコーの奥深さが楽しめる21世紀型モノクロ映画には新鮮な印象を受けました。ただタイトルの『ANGEL-A』を見た段階で彼女が天使だと解ってしまうのが残念でした。まるで馬場だと誰もが判っているのにザ・グレート・ゼブラを名乗った覆面レスラーのようだ。

 べッソン監督に望むのはナタリー・ポートマン主演での『マチルダ』の製作です。ナタリーが崩れる前に、出来るだけ早く製作して欲しい。レオン・ファンの希望です。

総合評価 73点

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この記事へのコメント

2007年05月06日 03:53
 TB&コメント有難うございました。

 評価は分かれていないと思うんですね。用心棒さんが足し算的、私が掛け算的な評価方法を取っているからだと思います。
 分析結果はほぼ同じ。
 映像はvery goodですが、内容には些かがっかり。天使であると正体を早めに明かしたので、折角こちらが「ああ、天使の話なのね」と一人悦に入る気持ちが萎んでしまう。
 パトリス・ルコントの「橋の上の娘」に対抗したつもりなのかなあ?

 ベッソンは監督作品では結構<非ハリウッド的>だと思いますよ。その辺りが不思議。
2007年05月07日 01:45
 オカピーさん、こんばんは。
 映画監督は監督業に精進し、製作総指揮とかは止めて欲しいですね。特に監督でもないのに前面に「製作」の肩書きで有名監督の名前がクレジットに出てくるのはどうも馴染めないのです。古いんでしょうけどね。
 ハリウッド全盛期のタイクーンと呼ばれた人々ならばともかく、名の売れた監督の名義を使い、宣伝に使う映画会社の姿勢にも疑問を感じます。
>正体を早めに明かした
 あれにはがっかりしましたね。要らざることを何故あのような解り易すぎる形で提示したのでしょうか。最後まで羽根など出さないで欲しかったというのが実感です。
 名前だけで「天使」の映画なのだろうなあというのが解ってしまっていました。
 ではまた。
シュエット
2008年03月13日 12:56
上でプロフェッサーさんが言われているので、今さら私が…なんですが。映像は全く素晴らしかった。冒頭のセーヌ川を臨むパリの街角など、モノクロといっても靄のかかった、シンとした雨上がりのような映像。これに尽きますね。内容は、途中から俄然現実的になってきて、夢が欲しかったなって思いましたね。やはり皆さん思うことは同じなんですね。どう評価していいのか分からなかったんですけど、用心棒さんの記事拝読してなんか納得できました。
2008年03月14日 02:08
 これは最近見なくなった、とっても綺麗なフィルムの塊でしたね。
 ストーリー展開はグダグダな部分もありますが、ストーリーだけを映画に求めるのはハリウッド病です。
 目に沁みる綺麗なフィルムも評価されるべきではないかと思います。観ていて飽きない映像でした。名作とはけっして言えませんが。

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