『マジカル・ミステリー・ツアー』(1967)ビートルズが自分よがりに作ってしまったクズ映画。

 ポップ音楽史上、もっとも意義のあるアルバムだった『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が大成功を収め、意気軒昂だったビートルズの陰で、一人のスタッフが亡くなりなした。彼の名前はブライアン・エプスタインで、長年ビートルズのマネージャーを務めてきました。アメリカでの成功も彼の企画力と熱意が功を奏してのものです。

 しかし、1966年にツアーをやめ、TV出演もほとんどしなくなり、スタジオに引きこもる生活が始まってからはマネージャーである彼の仕事も激減し、徐々に疎外感を味わうようになったようです。同性愛運動に公然と姿を現し、ドラッグにはまり込み、寂しく死を迎えました。

 この『マジカル・ミステリー・ツアー』はそんななか、はじめてビートルズ自身の手によって手がけられたBBCのクリスマス番組用の企画でした。しかし、結果は惨憺たるもので、ビートルズの成功神話に影を落とすことになりました。

 原因としては、まず放映される時のフォーマットがモノクロだったことが第一の原因でしょう。あのカラフルでサイケデリックな映像世界をモノクロで見せられても、視聴者はさっぱり理解できなかった事でしょう。視聴者の側も白黒TVを持つ世帯の方が圧倒的に多く、発信側のBBCまでが、最初からモノクロでこの作品を放映してしまったのは配慮に欠けていると言わざるを得ない。

 本来、そういった雑務や交渉を一手に引き受けていたブライアンの死は、こうしたところでも歪みや無理解を生み出していきます。崩壊のプロセスが始まるのは一般にホワイト・アルバム・セッションにジョンが連れてきた日本人女性、小野洋子が原因とされてはいますが、ブライアンの死こそが根本の原因であると思います。誰よりもビートルズに愛着を持ち、気を使ってきた彼を失ったのはバンドの求心力を急激に落とし、バンドの存続自体にも影響してきます。

 そんな状況下にあった、彼らが犯したはじめての失敗が、『マジカル・ミステリー・ツアー』だったのです。モノクロ・フォーマットで放映された次の日には酷評で埋め尽くされましたが、ビートルズはBBCの責任だとして、再度カラーで放映させました。しかし結果は同じで、恥をさらに大きくしただけだったようです。

 一バンドではなく、業界全体にとてつもなく大きな影響を及ぼすビートルズの失敗は、彼らが示してきた成功の大きさに比例して、業界にも深刻に受け止められたのではないでしょうか。やりたい事と儲かる事は違う、という当たり前の事実に残念ながらビートルズのメンバー達は最後まで気付きませんでした。

 アップルの設立、グループの崩壊、アップル事態の財政悪化、アラン・クラインのマネージャー就任、そして解散と続いていく悪い流れのきっかけとなったのが、ブライアンの死とこの映画の大失敗でした。

 ビートルズ映画で主役を務めてきたリンゴも流石に精彩がなく、存在感も薄い。脚本自体もいい加減で、バスに乗り込んだ彼らとコメディアンらが行く先々で起こることを記録していくという無謀で無思慮な企画だった事もあり、内容は無きに等しく、クズのような映像の合間にビートルズの曲をはめ込んで体裁を整えているだけの仕上がりになってしまいました。

 ドラッグ体験を映像化し、バス旅行のハプニングを同時収録する試みは完全に的を外しました。サイケ映像を高評価する向きもあるようではありますが、それは贔屓の引き倒しというものでしょう。

 ファンが見ても「なんじゃこりゃあー」というのが本音ではないでしょうか。せっかくの幻想的な楽曲に、クズ映像のイメージを植え付けられてしまった事が悔やまれます。『サージェント~』で使われた方法論がここでも使用されて、幻想的なイメージを高めています。

 『マジカル・ミステリー・ツアー』、『ザ・フール・オン・ザ・ヒル』、『フライング』、『ブルー・ジェイ・ウェイ』、『ユア・マザー・シュッド・ノウ』、『アイ・アム・ザ・ウォルラス』の6曲がサントラとして収録されました。綺麗な曲ばかりで、本当にもったいない。

 アルバムとしては6曲というのは少なすぎるためか、イギリスでは6曲入りのEP盤として発売されましたが、アメリカでは上記6曲に『ハローグッバイ』、『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』、『ペニー・レイン』、『ベイビー・ユー・アー・ア・リッチマン』、『愛こそはすべて』というシングル盤ですでに発売されていたものをB面にぶち込んで、アルバム仕立てにして売り出しました。

 現在では、このアメリカ盤のスタイルが世界公認とされていて、イギリス仕様の物はCD化されませんでした。この変更はキャピトル・レコードが行った唯一のビートルズへの貢献です。『リヴォルヴァー』までのアルバムをすべてバラバラに切り刻んだ悪名高いキャピトルではありますが、この『マジカル~』のアルバムだけはファンにも好評です。

総合評価 54点

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この記事へのコメント

和登さん
2006年05月07日 20:38
昨日は 神戸でディランの自伝映画「ノー・ディレクション・ホーム」をメル彼と鑑賞しました。若い頃のディランは やはり20代の青年らしく、茶目っ気もあり、愛くるしいという印象です。本日、家で一人でストーンズの「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」のDVDを用心棒さんのブログみながら鑑賞。仰るとおりよかったです。やはり好きな人と見れば音楽映画は数倍楽しいですね…イエスタディ~♪
2006年05月07日 22:44
 おおっ!DVD買われたんですか。音が段違いに良かったんでしょうね。
 キース・リチャーズが入院したままだそうなのでとても心配しております。
 WOWOWにて今月にこの前の来日公演時のライヴが放送されるようなので、確実にHDに録画しておこうと思っています。
 ディランの20代って、彼の目に圧倒的な力と意志を感じますね。ジョン・レノンが影響されたのも分かるような気がします。
 ではまた。
蟷螂の斧
2017年04月08日 23:10
1977年にNHKで放映された「ビートルズ その時代」を思い出します。「ビートルズの行く手に暗い影が差し込んで来たのです。」その通りです

>雑務や交渉を一手に引き受けていたブライアンの死

音楽に関しては抜群の才能があったビートルズも経営に関してはド素人・・・色々な輩から金を集られる羽目になりました
2017年04月09日 20:36
こんばんは!

マジカルを全編見たのは高校のころでたしかシネクラブ主催の上映会だったと記憶しています。

その後、大学生になってから輸入盤ビデオを購入し、のちに字幕版ビデオを手に入れましたので何度も見てはいますが、贔屓の引き倒しをしてもさすがに素晴らしい作品とは言えませんね。

>ド素人
音楽の才能と蓄財の才能は全く違うものですし、なおかつ自分たちを食い物にせずに守ってくれたエプスタインという最高のマネージャーがいればこその成功だったのは間違いないですね。

ではまた!
蟷螂の斧
2017年04月13日 19:15
>自分たちを食い物にせずに守ってくれたエプスタインという最高のマネージャー

まさに「愛こそはすべて」です

>先々で起こることを記録していくという無謀で無思慮な企画

1984年末にNHKで放映された「コンプリート・ビートルズ」の日本語版(ナレーターは江守徹)を思い出します。
「だが、残念ながら何も起きなかった・・・
2017年04月13日 23:39
こんばんは!

>1984

懐かしいですね。覚えています。ビデオに録って何度も見ましたよw
ハンブルグ時代のヤンキー丸出しの人相の悪さとかは笑いましたww

この作品はその後ビデオで購入しましたし、異常に長いアンソロジーよりもこっちのほうがコンパクトにまとまっていて好きでした。

ではまた!
蟷螂の斧
2017年04月15日 20:21
>こっちのほうがコンパクトにまとまっていて好きでした

同感です

LP「マジカル・ミステリー・ツアー」に関する批判もありました。
ナレーター江守徹「音楽的にはイマイチで『サージェント・ペパーズ』の風変わりな改訂盤と言った感じだった・・・・・

>ハンブルグ時代のヤンキー丸出しの人相

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/originals/56/fd/01/56fd01ecc1ba43f06d9cf580cece2842.jpg

この写真。昔から好きです
2017年04月16日 00:28
こんばんは!

>イマイチ
言ってましたねえ。しかしながら、サージェント収録曲は単品で見るとそれほど良いとは思えません。

曲で見るとマジカルのほうが粒ぞろいだと思います。
「フール・オン・ザ・ヒル」「ブルー・ジェイ・ウェイ」「ユア・マザー・シュッド・ノウ」は大好きですし、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」と「ペニー・レーン」はサージェントの先行シングルですので振替で入っても問題なしですね。

>ヤンキー
ほんとうに酷いのもありますねww

ではまた!
蟷螂の斧
2017年04月16日 06:08
>曲で見るとマジカルのほうが粒ぞろいだと思います。

ほお~。中々通ですな

>「ユア・マザー・シュッド・ノウ」は大好きです

アナログ時代。ヘッドフォンで聞くと、ポールのヴォーカルが右に行ったり、左に行ったり・・・。
それがまた味がありました

>ほんとうに酷いのもありますね

黒いジャンパーに派手なブーツ。まさにBad boy

さて、今日もまた懲りずにハーフマラソンに出場します
2017年04月16日 20:26
こんばんは!

>ヘッドフォン
ステレオで聴いているときよりも細かい音の表情が分かるので発見も多いですよねw

>マラソン
楽しんできてくださいwww

ではまた!
蟷螂の斧
2017年04月18日 19:35
>1977年にNHKで放映された「ビートルズ その時代」

残念ながらリアルタイムではテレビで見れませんでした
友達がその番組をテープレコーダーで録音しました。カセットテープを借りました。一番記憶に残ったのは初めて聞く「Fool on the hill」。マネージャーのエプスタインが亡くなったその時に流れたBGMでした。
初めて聞く曲。それが子供の頃ともなると一生記憶に残ります

>ステレオで聴いているときよりも細かい音の表情が分かるので発見も多い

その通りです

>マラソン

灼熱地獄
ゴールイン後のビールが美味かったです
2017年04月18日 19:49
こんばんは!

コースに桜が残っていたら、気分良く走れそうですねw

評論家の人は後期を評価するのでしょうが、じっさい聴いていたファンは歌詞やサウンドの変遷についていけていたのでしょうかねw

ではまた!
蟷螂の斧
2017年04月22日 19:06
>じっさい聴いていたファンは歌詞やサウンドの変遷についていけていたのでしょうかね

1967年当時のアンケートで「昔に戻って欲しい」と言う意見が多かったです。香月利一氏のビートルズ事典より。

>『フライング』

ビートルズ唯一のインストゥナンバー。味があります
2017年04月23日 01:03
こんばんは!

>昔に戻って
まさにゲット・バックだったんですねww

>インスト
デビュー前には『Cry for A Shadow』を録音していましたが、公式に出したのは『フライング』だけですね。

幻のアルバム『ゲット・バック』にはオープニングでファンキーなギターが印象的な『Rocker』というインストが演奏されています。発売されていたら、2曲だったww

ブートで『サムシング』のテイク37?の音源があり、普通に演奏されてから数分間にわたり、ボーカルなしのセッションが続きます。ブートにハマっていたころはお金がどんどん無くなりましたよw

ではまた!
蟷螂の斧
2017年04月26日 07:48
>普通に演奏されてから数分間にわたり、ボーカルなしのセッション

あれがジョンの「Remember」に結びついたんでしたっけ?

>『Rocker』というインストが演奏されています。

ブートのおかげで日の目を見ました

>『フライング』

エンディングがイマイチと言う評論家もいます。
「彼ら自身まとめたら良いのかわからなかった証拠だ」と
2017年04月26日 15:01
こんにちは!

今日は有休を取り、『SING』を見てきましたww

>結びついた
そうなんですか?ぼくは知りませんでした。

>評論家
たぶん、ポールはこういうでしょう。
「うるせえぞ!ビートルズだ!」

ぼくも「だったら、自分で作れよ」と思います。まあ、それを言っちゃあおしまいよという寅さんのセリフを思い出します。

ではまた!
蟷螂の斧
2017年04月28日 21:57
こんばんは。

>「うるせえぞ!ビートルズだ!」

そうです

さて、話は変わります。
もしかして僕は用心棒さんに怒られるかも知れません。

>「フール・オン・ザ・ヒル」

実は昔から僕はこの曲が苦手なんです。NHK特集「ビートルズ その時代」でエプスタインの死でBGM。悲壮感
そしてその後、初めてステレオでこの曲を聴いた時。それもヘッドフォン。
終盤で右から左(逆だったかな?)に「ピュルルル~」と音が流れる。あれがどうも・・・すみません。
2017年04月29日 00:15
こんばんは!

>フール

好き嫌いはありますよww

アビーロードやサージェントの収録曲を単品で検証していくと「これ、いらんやろ!」と罰当たりなことを考えてしまいますwww

後期の曲って、なんだかこねくり回し過ぎているモノが多く、ストレートに響いてこない曲がいくつもありますね。

野球でいうと技巧派に走り過ぎてしまった投手みたいです。変化球を多用しながら、スピードが落ちてきた直球に緩急をつけて早く見せる感じですww

上手いのでしょうが、見ていてスカッとしない感じですw

昔は速かったのになあと感慨にふけり、ビールを飲みながら観戦する感じですw

ではまた!
蟷螂の斧
2017年04月29日 15:30
>ストレート

アメリカ上陸前の曲っていいですね。
Please please meとかShe loves youとか。

>技巧派

50歳まで投げた中日の山本昌。あっぱれ

>これ、いらんやろ

聞くのが怖いです・・・女王陛下。

>アラン・クラインのマネージャー就任

さらに泥沼・・・
2017年04月29日 19:01
こんばんは!

>アメリカ
キャピトル盤は特にガッツがある音をしています。アメリカ盤『ミート・ザ・ビートルズ』が一番好きです。

>怖い
だいたい分かるのではwww

>泥沼
リンダのお父さんが入っていたら、また違っていたのでしょうが、ポールも揉めているときにわざわざ身内を呼んでしまえば、他のメンバーが拒否するのは明らかだと思うのですけどねww

ではまた!
蟷螂の斧
2017年05月02日 19:57
>リンダのお父さんが入っていたら

そりゃあ、もう・・・
そして作曲家としては超一流だったポール。
あまり親分肌ではなかったと思います。
ウィングスもメンバー脱退が多かったし

>だいたい分かるのではwww

分からないですお前が欲しい

>ミート・ザ・ビートルズ

1曲目がアメリカでのデビュー曲「抱きしめたい」
ビートルズがアメリカにやって来た ヤアヤア ヤア
2017年05月03日 00:15
こんばんは!

>お前が欲しい
ぼくは太陽の王様やポリエチレンを想定していましたww
ていうか、ジョンばっかww
ソロ曲に良いのを使っていて、バンド用のはテキトー過ぎましたね。

ポールは「ジャンク」とかビートルズでボツになった分をソロで使っていたのと対照的ですねえ。

1964年、最初にビートルズをアルバムで聴いた人は幸せですねえ。羨ましい限りです。

ではまた!

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