『仁義なき戦い』(1973)ヤクザ映画という、狭い枠では収まりきれない強い力を感じて欲しい。

 深作欣二監督の代表作ともいえる作品。『仁義なき戦い』という、冠のついた作品は数多くあれど、作品が与えたインパクトの大きさと斬新さにおいて、この初回作を越えているものはただの一本もない。ファースト・シリーズはその後も円熟味が増していき、登場人物の人間性と各々の個性を深く掘り下げていったため、続編を数多く生み出したシリーズとしては、かなりの高水準を保っている。

 アメリカの映画批評家の本で、読んだ言葉に印象深いものがありました。それは「10回以上見た映画は名作である可能性がある」というものでした。実はこれを見たのがただいま6回目です。名作であるかどうかは別にして、何度も見てしまう映画というのが誰にでもあると思うのですが、これは自分にとってそういう作品なのです。

 ヤクザ物映画っていうと、どうしてもおおっぴらに好きだといいにくいジャンルなのですが、「あれいや、これいや」と言っていると、映画ファンとしての器量が狭くなってしまうので、代表的な作品には眼を通していきました。

 映画の素材はヤクザではありますが、くだらない、何の価値もない作品に違いないというような色眼鏡で見てしまうと、大きな損をする映画だと思います。日本映画には珍しい、力で押し切るタイプの演出を行った深作欣二監督の強引なまでの手腕が眩く光る作品です。監督の、出演者の、そして日本のエネルギーを存分に浴びて欲しい。

 演出面で、まず驚かされるのが、オープニング映像です。エノラゲイによって、広島に落とされた、原爆のキノコ雲のおどろおどろしいモノクロ映像そのものが、その後に展開される人間世界の無秩序で歪んだ、エネルギーの暴発を暗示するようでした。日本映画のオープニング映像の中では、一二を争う迫力ではないでしょうか。

 戦後直ぐの広島を舞台にした荒々しく汚い世界の物語であるにもかかわらず、洗練された映像表現と、手持ちカメラによってもたらされる獣のような人間達の躍動感と、地訛りの広島弁がリアリズムを高め、それが心地よく、イタリアのネオリアリズムの影響を受けたあとのフランス映画のような感じでもあり、松竹の家族劇とは違う、もうひとつの戦後社会劇のようでもありました。

 アナーキーなヌーヴェル・バーグとでも言いたくなるほどの衝撃度が、この作品にはあったのです。かつてゴダール監督の『勝手にしやがれ』で解放されたエネルギーと自我の大きさを、『仁義なき戦い』の最初の作品からは感じるのです。

 『勝手にしやがれ』で、ジャン=ポール・ベルモントが演じた役は、刹那的で、獣のような男でしたが、われらが菅原文太は欲得ずくめの世界の中で、己の道を貫いた、まさに極道として気高く描かれています。ヤクザ賛美ととらえられかねない演出の姿勢には、少々疑問もありますが、それを押し切る説得力が文太にはあります。

 この興行の大ヒットに味をしめた東映は、ヤクザ物、なかでも「仁義なき」シリーズを深作監督に撮らせ続け、『広島死闘編』、『代理戦争』、『頂上作戦』、『完結編』を生み出していきます。続編が出来る度に、新鮮さは徐々になくなりますが、ストーリーと演技の円熟度は深まり、新たな魅力が生まれました。

 「仁義」という言葉を、「民主主義」とか「自由」に置き換えると、そのまま我々一般人の生活の考え方と一致します。つまり、ヤクザという隠喩を使いながら、実際に表現しているのは、政治家(組長)、会社(暴力団)、サラリーマン(構成員)であり、わが身を守る事しか頭にない、上の人間から、ただ言われるままに何でもやってしまう、日本の戦後システムの歪みへの批判なのではなかろうか。

 これはヤクザ映画ではなく、戦後社会劇である。その証拠に、ほとんどの人間が、「金」と「欲」で動いている。ヤクザも一般人も違いはない。剥き出しにするか、愛想笑いで隠すかの差である。

総合評価 84点
仁義なき戦い
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この記事へのコメント

オカピー
2006年04月02日 17:58
こんばんは。
時代を切り取る作品は出来栄え以上に価値があるかもしれませんが、そういう作品かもしれませんね。いや、本作が出来栄えが悪いという意味ではないですが。
「インファナル・アフェア」3部作は「ゴッドファーザー」3部作の構成を真似たか、という印象がありますが、同じヤクザ映画なら「仁義なき戦い」シリーズの方が良いですね。おっと、「インファナル・アフェア」は刑事映画だったかな。ちょいと凝りすぎて白けてしまいましたが、用心棒さんはご覧になりましたか?
2006年04月02日 18:17
 こんばんは。『インファナル・アフェア』は未見のため、なんとも言えません。

 ヤクザ物、マフィア物はモノクロを最大限に生かした、『暗黒街の顔役』のようなフィルム・ノワールか、カラーならば、ローキー照明で暗い世界を表現している『ゴッド・ファーザー』シリーズに勝る作品にはお目にかかったことはないです。

 なかでも『ゴッド・ファーザー』のP1、P2の出来栄えは映画史上でも、もっとも最高なものと、ベスト10に入ってもおかしくない作品であり、個人的には、このジャンルに対してのハードルはかなり高く設定されています。

 『インファ~』は機会があれば、一度見ようと思います。ではまた。
2006年10月23日 00:10
「仁義なき」は深作の傑作ですね。
この映画は実録で群像劇です。もちろん、深作の力、斬新なカメラワークもありますが、一番汚いといわれた広島ヤクザの実録であることと、群像劇であるがゆえに、登場人物が画面にあふれ、大スターと大部屋役者が対等に枠に入り込んできます。その大部屋役者のパワー、そして当時の東映、俳優人(文太なども安藤昇のボディガードをしていたくらい)の実情。
これが絡みあってできた渾身の実録路線の傑作だと思います。
2006年10月24日 00:15
 イエローストーンさん、こんばんは。
 文太や小林旭はもちろんですが、金子信雄、田中邦衛、川谷拓三、志賀勝、伊吹吾朗、加藤武ら脇で支えた俳優達の素晴らしい働きがあってこそ、いまでも人気を保ち続けているほどのロングセラー作品となっているのではないでしょうか。
 『仁義なき戦い 完結編』までの作品群にはいまでも暴発しそうな生命力の強さを感じます。しょっちゅう見るという訳ではありませんが、数年に一度は見たくなる映画です。ではまた。
蟷螂の斧
2018年04月15日 21:48
こんばんは。いつもレスをありがとうございます

>演出面で、まず驚かされるのが、オープニング映像です。

掴みはOK

>日本映画のオープニング映像の中では、一二を争う迫力ではないでしょうか。

さすが用心棒教授

>厄介ごとも多いですよww

うまく逃げましょう

>実際、ぼくは金融資産の8割は外貨建てです。

そこまで考える事が出来るなんて・・・羨ましいです

>株主を切るか、一般社員を切るかであれば、株主は切りにくいのではないでしょうか。

駆け引き
2018年04月15日 22:58
こんばんは!

ヤクザ映画でスゴイ映画だなあと思ったのはこの第一作目と『実録・私設銀座警察』の二本です。

言葉使いが乱暴だったり、相手を破滅させるやり方が射殺だったりするのがヤクザ映画ですが、左遷や辞職に追い込むのが会社での権力争いですね。

表現方法が過激なだけであまり大差ないように思います。

>株主
上司と話をしているとこういう話も出てきますし、自社の株価も知らないようではカッコ悪いよねというのを昔聞かされましたよ。

今は自分が部下の子に言っていますがwww

ではまた!
蟷螂の斧
2018年04月19日 07:20
この映画は山守組組長を演じた金子信雄の存在も大きいです。
ケチな親分
奥さんを演じた木村俊恵はその後・・・

>左遷や辞職に追い込むのが会社での権力争いですね。

僕も左遷人事に遭って10年以上・・・

>今は自分が部下の子に言っていますが

カッコいいです
2018年04月20日 20:00
こんばんは!

>ケチ
金子信雄や田中邦衛、山城新伍の姑息でいやらしい性格描写があってこそ、文太や小林旭の凄味が伝わってきましたね。木村敏恵さんは早くに病死していますし、結婚前に死亡というのはなかなか聞かないですね。

>左遷
ぼくも20代のころに経験しています。腹立たしいですが、腐らずにやっていれば、見ていてくれる誰かが引き上げてくれるよと他社の偉いさんから慰められた覚えがあります。

>部下
学生時代にうちの会社に働いていた学生(今回は男子)と卒業後は疎遠になっていたのですが、最近LINEで繋がり、久しぶりに飲みに行きましたww

可愛がっていた子だったので、会ったのは8年ぶりでしたが、ちょっと前に会ったくらいの感覚だったので驚きました。彼も学生時代から株を買っているヤツだったので、資産運用のお話もしていました。お互い大損した話やちょっと儲けた話で盛り上がりましたよww

ではまた!
蟷螂の斧
2018年04月21日 22:16
>金子信雄や田中邦衛、山城新伍の姑息でいやらしい性格描写があってこそ

まさに映画はチームプレー

>木村敏恵さんは早くに病死していますし

ご主人になる予定だった人は初代風車の弥七役

>うちの会社に働いていた学生

バイト学生を育てる会社なんですね
用心棒教授が教育係
2018年04月21日 22:51
こんばんは!

人間の狡すっからさがよく出ていましたね。その後もやくざ映画は色々と製作されましたが、このシリーズの『完結編』までは活き活きとしていました。

>弥七
昔は毎週というか、夕方を含めると月~金でほぼ毎日ご隠居か大岡越前の活躍を見ていましたww

>育てる
難しいですね。出来るだけのことをしてあげても当然というような感覚で平気でいて、何か気に入らないと簡単に裏切る者もいますし、ちょっとした親切を長い間、恩義として感じてくれている子もいますし、いろいろですよ。

最近、かつて同僚だった人で今は出世して上司になったヤツと久しぶりに一対一で話し込みましたが、出てくるのはぼくらより年下の世代の中間管理職の子たち(30代後半ww)へのボヤキと愚痴ばかりで笑いましたよww

ではまた!
蟷螂の斧
2018年04月28日 09:18
>『完結編』

世代交代でした。
そして「これから」を担う松村保を演じた北大路欣也も好演でした

>ご隠居

偽者の水戸黄門の話も良かったです。

>簡単に裏切る者もいます

まさに恩を仇で返す
許せないですね

良きGWを!
2018年04月30日 01:22
こんばんは!

かつての大親分たちと北大路が銃撃を受けるシーンは鮮烈でしたし、手負いの北大路が杯を交わし直すシーンは世代交代の象徴だったような気がします。

>許せない
年々人間関係は深入りしないようにしていますww

ではまた!
蟷螂の斧
2018年05月03日 16:54
>北大路

お坊っちゃん育ちっぽいイメージですが、新しい世代のヤクザの親分をうまく演じていました。

>人間関係は深入りしないように

まあ、それが無難でしょう。

>エノラゲイによって、広島に落とされた、原爆のキノコ雲

「アメリカは世界で一番のヤクザだ」と昭和19年生まれの知人が言ってました
2018年05月03日 19:04
こんばんは!

>ヤクザ
じっさいアメリカは世界中で戦争をしていましたからね。ただ資本主義のやくざと共産主義のやくざならば、資本主義のやくざのほうが数段マシでしょうね。

日本のマスコミはアメリカや中国など戦勝国には忖度して報道していますしね。

まあ、ジャニーズにも忖度して、性犯罪容疑者に“メンバー”という呼称を与えていたのには驚きました。

さんざん財務省の役人をセクハラでギャアギャア批判していたのだから、議員もマスコミもミ―トゥーとかをジャニーズ事務所の前にやりに行くべきでしょう。

なんか及び腰で上っ面だけ批判している感じが見透かされているのが分からないのかなあと思いながら、ワイドショーのコメンテーターのコメントが歯にモノがはさまった言い方をしているのは違和感でいっぱいでした。

「おっぱいさわらせて」はセクハラで、未成年を自宅に連れ込み、キス“など”を強要した準強姦は御咎めなしって、おかし過ぎます。

マスコミの姿勢って、一般人でもある役人(反論の機会がない)を異常に責め立て、大手事務所に所属する人気者ならば、見て見ぬふりというのでは存在価値はないですよ。

ゴチャゴチャ政権批判をする前にセクハラ相談を受けても役人の取材に行かした朝日の上司をまずはパワハラで処分すべきでしょう。

うちの会社でもパワハラがあって、相談があれば、すぐに人事が飛んできて、懲戒事案になりますよ。

被害に遭ったという記者も相談を受けても何も対処できないような鬼畜の会社を訴えるべきだと思いますよ。

ではまた!

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