『夜と霧』(1955)上映時間は僅か30分。戦争の狂気とは何なのか。目を背けてはならない。

 アラン・レネ監督による1955年度監督作品であり、カメラによって淡々と狂気を語られると、その迫力の凄まじさは、より一層我々の心に響いてきます。第二次大戦後の六十周年に当たる去年は、わが国の戦後へのけじめも含めて、いろいろと話題になりました。

 正味30分強のこの作品ではありますが、いつまでも忘れられない、否、忘れてはならない残酷な映像が武骨に編集されていきます。短編作品だとどうしても軽視されてしまい、長編映画に高い評価を与えがちではありますが、この作品の長さはこれでちょうど良いのだと思います。これ以上長いと、そのテーマの深さや重さに耐えられなくなります。

 作品映像は冷たく、淡々と進行していきますが、この冷静な視点により、むしろナチス・ドイツの残虐性への怒りだけではなく、同じ人類として、このようなおぞましい所業をなしてしまった嘆きを感じました。人種、国籍に関わらず、すべての国には戦争の歴史があり、革命やら、戦勝の実際の様子は集団的な殺戮、虐殺、差別、粛清でしかない。

 ただ単に、ナチスへの抗議というだけの意味ではない、人類自体への警鐘と捉えました。収容所の壁のこちら側と向こう側で、地獄と天国が分かれる恐怖は、見ないと理解できません。60年前はそこには地獄が存在していて、多くのユダヤ人たちの人権が蹂躙され、人体実験に使われ、殺され、焼かれ、ブルドーザーで埋められるなど家畜以下の扱いを受けました。

 現在のユダヤ人収容所跡地には、緑の草木が青々と生え、生命を育んでいますが、過去を知る我々にとっては、もっとも不気味な映像が、多くのユダヤ人の血をすすった、この青々とした緑でした。なにせ、これらの草木の下に死体が埋められていたという現実があるのです。まだ掘り返されていない、戦後が終わっていない亡骸もいまだに何処かで眠っているに違いありません。

 だが、これはあくまでも戦勝国側から撮られている作品である事も忘れてはならない。フランス人監督、アラン・レネの撮った作品なのです。フランスというと、ナチスへのレジスタンスの歴史ばかりが強調されています。

 しかし一方で、当時のフランスのリーダーだったぺダン元帥はナチに協力したために、戦後は戦犯として裁かれました。レジスタンスばかり、つまり光の部分は強調するが、陰の部分はまるでそんな歴史などなかったかのように話題にもしない。

 所詮、勝った方はどのようにも歴史を修正、もしくは隠蔽できる権利を持つということでしょう。第二次大戦のすべてが、わが国にとって、都合の悪い事ばかりではなく、良い事も含め、世界に示されるのは、「第三次」大戦の戦勝国に名を連ねるまで待たなくてはなりません。ここで負けると、まだこのまんまでしょう。

 戦争で必要なのは勝利だけであり、敗戦は国の歴史を否定される事になります。負けたから悪いのです。内政干渉、領土侵犯など目に余る行為があったとしても、負けたら何も言えないのが国際社会の厳しい現実です。

 他国が理解や同情を本心から示すはずなどありません。そこには常に、いかに他国を、自国の利益のために利用するかという視点しか存在しないという現実を教育するのが、政府とメディアの責任である。

 話は戻りますが、このユダヤ問題は、ナチスのみでなくヨーロッパ全体の歴史の恥部であり、わが国の対中及び対韓の歴史の恥部とはまた違った問題です。あくまでも個人的な意見ですが、賠償問題も含めて、するべきことはきちんとしていかねばならない時代に入ってきているのではないかと思っています。

 ただあくまでも、わが国がペースを握るべき問題であって、他国にどうこう言われる筋合いはないし、そんな事をいちいち採り上げるテレビ朝日を筆頭にする左翼的マスコミの報道姿勢には、自分が何処に住んでいるのかという視点と、何が自国の利益につながるのかという視点がまったく欠落している。

 個人あっての国ではなく、国あっての個人であるという体制側の自明の理を知りながら、「自由」という名の甘いオブラートで包み込み、誤った方向に国民を誘導するマスコミのくだらなさや、紋切り型の報道には怒りが込み上げてきます。

 国内の問題が山積している今だからこそ、戦後体制そのものの見直しをする時期に来ていると、最近特にそう思います。今回は少々政治的かもしれませんが、たまにまじめに考えて見ました。そういう意味ではいろいろと考えさせてくれる良い映画でした。

 日本の地上波でも、こういうの増やすべきではないでしょうか。学校や職場でこういうことの話をしていくのも日本が真の意味で国際貢献していくための教材になると思いました。

 国際貢献とは良い人ぶることではない、外国語がしゃべれるからコミュニケーションが取れているわけではない。形だけで中身が伴わない理解は誤解を生み出すのみであり、むしろ相互無理解の方がましである。

総合評価 85点
夜と霧



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この記事へのコメント

豆酢
2008年03月11日 22:24
スパムではありません(笑)。本当に申し訳ありません。またもTBをお送りいたします。ストーカーみたいな真似はしたくないのですが(笑)、これっきりにしますのでよろしくお収めください。
私の記事の書き方は邪道であるらしく、映画通の方々からは煙たがられています。お送りした記事に目を通していただければ、その理由も明らかになるでしょう。ひょっとしたらご迷惑かもしれませんが。

長いと怒られたので、いったんここで切ります。
豆酢
2008年03月11日 22:25
…続き。
この映画については大変思い入れも大きく、考えが上手くまとまりませんでした。戦勝国と敗戦国の歴史の明暗以上に、全ての人間に潜む獣性をひしひしと感じ、身震いするばかりです。
そしてナチス問題は、仰るようにヨーロッパ全体の問題として捉えるべきですが、日本が見習わねばならない点もあると思っています。ドイツの事情と日本の事情をいっしょくたにしているわけではありません。日本もやはりきちんと賠償すべき部分はしておかないと、いつまでたっても稚拙な外交に終始する羽目になると思っているだけです。日本のメディアのバカさ加減と政治家のアホっぷりについては今更意見する気も起こりませんが、ただ自分の子供たちには、出来る限り正しい歴史を伝えることを肝に銘じています。私に出来ることといえばそれぐらいしかないかもしれません。
2008年03月12日 15:23
 こんにちは!
 熱いコメントをいただきまして、ありがとうございます。コメント欄も再開なさったようなので、あとで遊びに伺います。
 この作品は短編ではありますが、ずしりと重く、心の中に残り続けます。
 人間の本性が「善」なのか「悪」なのかは定かではありませんが、どちらであるにしても善悪の基準は世界法でも作って遵守すべきでしょう。ただ人間は平和時には人間である前に「動物」でもあるという基本を忘れがちではありますが、それがむき出しになってしまうのが戦争なのでしょう。文化の違う外国人は同じ人間ではない、肌の色が違う者は人間ではない、という思い上がりと民族主義は残念ながら今でも存在し、世界中で、日本で平然と、もしくは陰に隠れるように行われています。
 放送コードなども穿った見方をすれば、ただ事実を隠蔽しようとしているだけのものに過ぎないのではないでしょうか。もちろんそれらの表現により、傷ついてしまう人がいる以上は使用を控えるべきでしょうが、隠すという手法ではなく、それらを提示した上で各自で判断するという手法に改めていって欲しい。
2008年03月12日 15:29
 またおっしゃるように、いつまでも戦争犯罪から逃れようとする姿勢には大いに疑問があります。現在わが国は格差社会が広がり、大変な状況であるのは理解しておりますが、やったことの責任は取るべきでしょう。
 ただ一方で、やられたことへの責任追及もしていくべきで、原爆という人類史上最も残忍な人体実験を行ったアメリカや日ソ不可侵条約を一方的に破って、泥棒まがいな侵略をしたロシア、わが国から援助を受け取りながら自国政府への批判を避けるために対日批判を続ける中国には厳しい視点を持つべきではないかと思います。ではまた!
シュエット
2009年05月18日 10:28
用心棒さん 本作へのTBとコメントありがとうございます。中学時代に「アンネの日記」から始まって、ホロコーストに関する本を読み漁った時期がありました。文字と写真で知らされた衝撃以上に映像は生々しく迫ってきます。
日本の教科書問題が如実に物語るように戦争責任を曖昧なまま21世紀の今に至る日本という国。
ユダヤ人問題はドイツだけに限らず全ヨーロッパが彼らを見捨ててきた恥部でもあるんですよね。
アラン・レネが戦争の傷跡から立ち直りかけてきた戦後10年後に、このような形で生き残った者たちに対し激しく糾弾する形でホロコーストを描いたということに彼の凄さを感じます。
シュエット
2009年05月18日 10:28
ナレーションによって語られる言葉はアラン・レネの我々に向けての厳しいラブレターでもあるでしょう。
息子が小学4年生の時、丸木位里さん俊さんご夫妻の描かれた「原爆の図」展が京都で開かれて、彼らはこれらの絵を持って世界中を回られ傷みが激しく、丸木美術館から外部に出る最後の機会だったので観にいきました。息子はかなりの衝撃を受けたようで途中で観るのをやめました。事実を伝えきることは中断したとしても、衝撃をうけた印象は彼の中に刻まれ、その刻まれた記憶が物事を見る時のある基準として彼の中で生き続けるだろうと思いました。なぜ母親がこれを見せようとしたのか、そのことも自覚しないまでも心に残ると思います。
この映像とアラン・レネが本作で語るメッセージ
こそ、衝撃を受けようとも子供たちに伝えていくべきものだと思う。衝撃という形で子供たちは我が内に刻み込むべきだと思う。衝撃を回避しようとする最近の学校教育や子供も取り巻く社会環境が、血と暴力に鈍感な子供達を生み出しているように思う。
シュエット
2009年05月18日 10:29
日本人が既に忘れ去っていた硫黄島の戦いをアメリカ人であるイーストウッドが描いたことを、毎年参拝問題でマスコミが騒義ながらもそれ以上語ろうとしない靖国を、在日の中国人監督がまざまざと映像で語ってくれたことを、それすら大騒ぎするのに、相変らず戦争をテーマにした最近の邦画は感傷的にしか描きえず……
用心棒さんの記事に触発されて長々とコメントを書いてしまいました。「靖国YASUKUNI」もあわせてTBさせていただきますね。
2009年05月18日 20:11
 熱い思い伝わりました。ぼくらはもし戦争になれば、真っ先に徴兵されそうな年齢なので、最近の北や中国の動きにはリアルに恐怖を感じます。
 昔の今も、勇ましいことや耳障りの良いことを言う奴に限って、いざとなったら軍隊の後ろに隠れますし、派兵を決める輩は戦場には出ません。『大いなる陰謀』そのままですね。
> 最近の邦画は
 本当に苛立ちますね。感動なんかいらないテーマがあることは明白ですし、オブラートに包み込んだ下らない反戦映画、それは似非反戦映画にしか過ぎません。軍部の恥部や政治家の恥部を抉り切ってこそ、言い換えれば、人間の素の姿を白日の下に晒してこそ、はじめて映画作家たり得るのではないでしょうか。
 マスコミもその一員であることを民衆は見破っていますが、いまだに正義感ぶるのが滑稽で、ニュースを見ても、出来事のみを判断し、解説を熱心には聞かなくなって久しい今日この頃です。
 ではまた!
トム(Tom5k)
2014年10月22日 00:56
用心棒さん、こんばんは。
久しぶりに記事をアップしました。
今回は「二十四時間の情事」が、ドロンの若いころのお気に入りの作品であったことを記事にしたので、レネ関連でTBします。
私はフランクルは若い頃に読みましたが、ありきたりですが、あまりに悲惨で本当に憂鬱になりましよ。
レネの「夜と霧」は、フランクルの原作というわけではありませんが、同じくアウシュヴィッツを扱っている点で同様に悲惨でしたが、わたしは現在の自分たちの生活のありがたさを実感出来ました。
17歳のドロンが自らの居場所を求めてインドシナ戦線に志願したように、世界には戦場を居場所ととらえる若者たちも多いような気がします。居場所を求めて好戦的になるのが人間なのだとすれば、ひとりひとりが大切にされる世の中になれば、随分と変わるのではないかなとも思います。

では、また。
2014年10月22日 16:53
こんばんは!お久しぶりです!

『24時間の情事』は僕らにとって懐かしい題名ですが、最近の表記はオリジナルタイトルの『ヒロシマ・モナムール』になってしまっていることが多いようですね。

ドロン関係でしたら、ぼくはナタリーが出演している『サタンの誘惑』を最近見ました。ジャケットに惹かれて見てしまいましたが…。

>戦場を居場所
イスラム国問題はこれからも続きそうです。安易に自分探しに出かけるつもりのような日本の学生たちには事の重要性を理解することすらできないのかもしれませんね。

自前で石油を精製できるという技術力と武力を併せ持つ彼らは厄介な存在ですし、エボラを生物兵器としてテロリストに罹患させて先進国に投入する自爆テロが拡大する可能性も含め、監視を強めていかねばならないので目が離せませんね。

>ひとりひとりが
そうあって欲しいですが、非正規雇用化を推進しようとした小泉政権以来、構造改革という無意味なスローガンのもと、脆弱になってしまった製造業や建設業、希薄になった愛社精神やモラル、日本の良さを叩き潰しかねないTPP、竹中平蔵が幅を利かせて跋扈する派遣法改悪など若者や労働者を食い物にしようとする政策が目白押しなのがより気分を憂鬱にします。

さらに消費税再引き上げが実施されれば、国民所得は減る一方ですし、デフレに逆戻りしそうですね。

嫌なことばっかりですので、とりあえず関西在住の僕らは阪神優勝に希望をかけます(笑)

ではまた!

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