『美の祭典』(1938)凝った映像表現と、光と影を知悉するリーフェンシュタール監督作品。

 1938年製作の、レニ・リーフェンシュタール監督による、1936年ベルリン・オリンピックの記録フィルムである『民族の祭典』の続編である。両方のフィルムに共通するのは、実際の競技に入る前のオープニング映像が異常に長いことです。15分以上も、直接競技には関係のないトレーニング風景やサウナでくつろぐ映像がひたすら続く。

 『美の祭典』で特に注目したいのが、光の使い方でした。記録映画という枠を超えた、リーフェンシュタール監督の持っている美意識と感性が、よりはっきりと出てきていた作品でした。光と影の絶妙なバランスが与える肉体美の表現の素晴らしさは他の作品には見られない。筋肉の躍動と流れ落ちる汗。開放的な雰囲気を持つスポーツ本来の良さを、ナチスによって全体主義が国家を支配していたドイツがアピールしている。奇妙な感覚ではないでしょうか。

 この『美の祭典』で興味深いのは、ナレーションが20分以上全くなく、ひたすらに音楽と映像のみで作品を構成していることでした。少しも違和感なく、作品を見せる力量を持っていたリーフェンシュタール監督が、敗戦後には映画を撮影する機会を奪われてしまったことはドイツ映画界にとっては大変な損失だったのではないか。ナチスに協力したからという理由のみで、機会を奪われるのは正当ではない。

 科学者や財界人は一定期間が経てば許されたり、連合軍に協力することを免罪符にして普通に活躍できるのに、何故芸術家や哲学者は白眼視されなければならなかったのか。リーフェンシュタールしかり、フルトヴェングラーしかり、そしてハイデッガーしかり。とても不公平に感じるのです。

 第二部ではヒトラーの貴賓席での様子や、観客のアップ映像が全くないのも違和感がありました。『民族の祭典』であれほど観客の反応やヒトラーの反応をクローズアップで撮影していたのが、一度も出てこないのです。ただひたすらに、本来の主役である選手達の運動の美しさ、肉体の美しさに焦点が当てられています。

 競技としても『民族~』での単純な速度を競う競技ではなく、総合競技、団体競技、そして器具を使用する競技が多く採り上げられています。ヨット競技、乗馬、射撃、クロスカントリーなど軍人が多く参加する競技が特に多かった記憶があります。サッカー競技の撮り方も迫力があるものでした。決勝のイタリア対オーストリアでは、ついついジュゼッペ・メアッツァを探してしまいました。

 ショットで印象深いのはヨット競技のもので、マルチアングルで撮られているような映像の数々は躍動に満ちた、画期的なものでした。実際の競技中に、しかもあの爆発的なスピードの中で、一体どうやって撮ったのだろうという驚きが湧き上がりました。ローアングルや寄りの迫力は今でも通用するものであり、逆に言うと現在のテクニックは、まったく進歩していないとも言う事が出来ます。

 ヨットの中に乗り込まないと撮れないようなショットもあり、本当に競技中に撮られたのかという疑問が、再び頭に思い浮かびました。海上での俯瞰ショットもあるのですが、ヘリなど無かった時代に気球にでも乗って撮ったのでしょうか。

 『民族の祭典』でも気になったのですが、映像が出来すぎているのです。演出があまりにも多いためか、美しい作品であり、他のオリンピック作品には無い質の高さはあるのですが、自然な雰囲気が皆無であり、全てが人工的に映りました。

 ドイツはこれまでに4回、国威をスポーツで示す機会がありました。このうち3回はワールドカップ優勝によるものである。1954年のスイス大会決勝のハンガリーとの戦いは劇的な逆転勝ちであるとともに、敗戦後、ようやく復活しようとするドイツの決意を世界に示しました。1974年のドイツ大会は1972年のミュンヘン・オリンピックで警察力の権威が失墜した後に、その運営能力と警察力を世界に証明しました。1990年のイタリア大会は統一ムードを盛り上げる起爆剤となりました。

 残りの一回が、このベルリン・オリンピックでありました。悲劇的な近未来に突き進んだドイツのあだ花であるという事も言えるのかもしれません。政治としてのスポーツの効用を一番よく理解しているのは戦前も戦後もドイツなのでしょう。ただベルリン大会も、ミュンヘン大会もオリンピックはドイツにとってはある種の鬼門であると言える。
総合評価 85点
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