『めまい』(1958) 特撮好きのヒッチ先生が送る、実験的な要素も多いサスペンス作品。ネタバレあり。

 ヒッチコック監督の1958年製作作品であり、特撮で有名な作品でもあります。ヒッチをあまり知らない人でも『鳥』・『サイコ』と共に、名前だけならば聞いたことがあるだろうと思います。個人的には、主人公の心理面の混乱を、いろいろな映像で示していたあたりが優れているとは思うのですが、突飛過ぎる幽霊話には内容の解りにくさがありました。

 「ネックレス」が触媒となり、一気にクライマックスへという流れをとったようですが、そこへたどり着くまでの主人公のエゴイスト振りというかサディスト振りが、個人的には好みではありません。事実を知った後ならば、なんてことはない展開なのですが、ジェームス・スチュアートの心理描写がところどころ解りにくかったです。いつもならば「ネックレス」はマクガフィンに過ぎず、意味の無いものであることがほとんどなのですが、今回はしっかりと意味を持つものでした。はぐらかしを期待したヒッチファンには少々不満の残る演出ではあります。

 その他にも、必要かどうか理解しかねるアニメ映像や特撮シーンには少々辟易してしまいました。替え玉が引っ掛ける相手に惚れてしまうが結局は...?という展開は、今では使い古されたものですが、それがそう見えてしまうのは、それらの手法が大量に導入されてしまっているからであり、ヒッチ先生のせいではありません。

 ストーリーは各プロットに影響を与える、主人公の高所恐怖症の原因と克服、かなわない不倫(実際には不倫ではない)、そして本当の真犯人の陰謀と目的とその顛末という三重層的なものです。ヒッチ俳優のジェームス(『裏窓』にも出演)は、今回もいろんな事件に巻き込まれながら、そこから逃れようと、もがく役を過不足なく演じています。

 ヒロインとして今回登場のキム・ノヴァクは、ヒッチ好みのブロンド官能美人ではあります。しかし個人的には好きではありません。『逃走迷路』のプリシラを、散々叩いたヒッチ先生が、セクシャルなだけのノヴァクを高評価しているのが不思議でした。

 演出で見ていくと、何か常に新しいものを作り上げようとするヒッチ先生の、今回のハイライトは「階段シーン」です。ここだけを見るだけでも、この作品を見る価値があります。『ゆすり(1928)』でも撮りたかったであろうシーンが、三十年後にようやく完成しています。

 この階段のセットが最高で、あの階段は、実は横向きに作ってあるのだと聞いたときには驚きました。高所恐怖症の方ならば理解してくださると思うのですが、ああいう風に下を覗き見ると、目の後ろくらいから後頭部にかけて「ふぅーっ」と気が引いていく時があるのですが、あのシーンではまさにその感覚が見事に映像で表されています。ヒッチ先生も間違いなく高所恐怖症と思われます。
 
 その他にも、少々長すぎる気もするフォーマリスティックな追跡シーン(あまりにも近すぎていて、本当ならば、ばれてしまうであろうが、映画では画面上の見え方として、あまり離れすぎると解りづらいため、これでOK。)と、時間を経て、同じ人物が違う人物として同じシチュエーション(ドライブ)を追体験する展開は興味深く興奮を覚えました。

 彼女(キム)は最初では恋人として、二回目は容疑者として、そして彼(ジェームス)は最初は恋人として、二回目は真相解明者として現れます。音響面で特に書くものはありませんが、音楽療法なんて効かないというのが笑えました。

 ヒッチの手がけたものの中では、名作群のひとつに数えられる作品ではありますが、ジェームスの病的なまでの女性への迫り方(『マーニー』でのショーン・コネリーよりはまし)と、霊が人格を占拠するという設定に無理を感じます。ジェームスというと、『素晴らしき哉、人生』などのキャプラ作品に出演していた時には、アイドル的な人気を持つ俳優であり、ベビーフェイスの印象が強かったのですが、ヒッチ作品では『裏窓』にしろ『めまい』にしろ変態的な性格を持つ役が多く、彼の芝居の幅を広げてくれる、やりがいのある仕事だったのではないか。

 ただし素晴らしい面も多々あるのですが、中盤にだるさを感じてしまうというのが響き、芸術性(セットなど)だけでは救いきれない散漫さを感じました。ただもしかすると、このだるさこそが最大の「めまい」のための仕掛けだったのかもしれません。この作品の場合は緩急の差がとても大きく感じました。

総合評価  70点
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この記事へのコメント

2006年02月23日 00:56
 TB致しました。
 この作品は大好きで、個人的には一秒の緩みも感じない作品です。
 用心棒さんが長いかもしれないと指摘された尾行場面の陶酔感など撮影が断然優秀(TVで観ると映画館で観たような美しさが全く出てこない)で、歌麿ならぬスコッティをめぐる三人の女性の心理の綾が大変面白い心理サスペンス的恋愛映画として大変楽しみました。ジュディの複雑な心理が面白く、バーバラ・ベル・ゲデスの片思いも味わいがあります。勿論スコッティの倒錯的なまでに強い恋愛感情は実に興味深く、「マーニー」のショーン・コネリーのような中途半端さがないのが良いです。
 これまた用心棒さんが否定的なキム・ノヴァクですが、トリュフォーと全く同意見で、この映画の彼女は大変素晴らしいと思いました。チンピラ女優プリシラ・レインとは比較にならないと思います。
2006年02月23日 02:14
 オカピーさん、こんばんは。TBとコメントありがとうございました。

 >歌麿ならぬスコッチをめぐる三人の女
溝口監督作品に『歌麿をめぐる五人の女』というのがありました。洒落てますね。
 >プリシラ・レイン
 プリシラは別に好きでもないのですが、女優の好みはどうしようもないので、コメントしにくいので避けておきます。ヒッチ作品に出た女優の中では、個人的にはマレーネ・ディートリッヒやエヴァ・マリー・セイントが好きです。

 ではまた。
シュエット
2009年06月10日 16:16
オカピーさんと用心棒さんの会話に私もこそっとお邪魔させていただきます。子供の頃、ヒッチコック劇場ってあっていっつも観ていて、結構何度も観ているんですよね。でも馴染みすぎて、逆におざなりになっているヒッチコックさん。今シネフィルで毎月2本10ヶ月で2×10の特集やっているので性根入れて見てみようかと。「めまい」階段とかのシーンなど高所恐怖症の心理もさることながら、心理サスペンスという、この作品そのものが、そしてラストシーンも「眩暈」そのものだわって思った。ヒッチコックの中でもちょっと異色なカラーみたい。でもこれは好きだわ。
2009年06月10日 17:50
 またまた、こんばんは!
今年はイマジカでずっとヒッチ特集をやってくれるみたいですね。できればヒッチコック劇場も含めて、全作品のオンエアを期待したいところです。

 このまえ『トパーズ』をやってたのをチラッと見ましたが、結局は最後まで見てしまいました。それが先生の力量なのでしょうね。
蟷螂の斧
2018年10月04日 05:54
おはようございます。
ちょっとストーリーに関してわかりにくい面があり、見終えた後にネットで色々調べて「ああ、そう言う事か」と納得した思い出があります

>ジェームス・スチュアート

先日「リバティ・バランスを射った男」を見ました。彼の持ち味が生かされていました

>台風

今度は25号を警戒しなければならないそうです

>彼女が理想的ヒロイン

第21話「じゃじゃ馬娘を助け出せ!」の牧田リエも可愛らしかったです
2018年10月10日 17:48
こんばんは!

本日、退院してきました。通常よりかなり回復が早かったそうです。しかしながら、油断をせずにちょっと気をつけて生活していきます。

この映画って、けっこう分かりにくいことろがありますが、撮影方法などに秀でていますので、個人的には好きな作品に入ります。

>25号
今年は台風が多かったですね。ウンザリしました。

週末まで有休を取っていますので、のんびり映画でも観に行こうと思っていますwww

ではまた!
蟷螂の斧
2018年10月13日 13:16
お大事にして下さい。健康が第一です。

>のんびり映画でも観に行こうと思っています

それが一番です
2018年10月13日 14:26
こんにちは!

無事に退院してきました。

記事でも書きましたが、人の生きざまを見せつけられましたよwww

>健康
その通りですよ。検査でおかしなところがあれば、まだ良いかではなく、すぐにしっかり治療したほうが早く解決します。

>映画
ボチボチ観に行きますwww

ではまた!

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