『オールド・ボーイ』(2003)タランティーノ監督が絶賛した、というだけで内容も想定内の映画?

 パク・チャヌク監督作品。ネタバレあり。『猟奇的な彼女』以来久々に観た韓国映画がこの作品です。この作品で描かれているものの中で、見逃してはならないのは表面上の暴力よりも、より深刻な近親相姦のほうです。暴力なしで、作品を近親相姦だけで構成しても、俳優陣が素晴らしかったので、作品として十分に成立するのではないかと思いました。

 『猟奇~』を見たときの印象があまり芳しくなかったため、ついつい韓流を無視し続けていました。まあ『猟奇~』にしても作品そのものがまるでだめだったわけではなく、あのチョン・ギ・ヒョンの冒頭の「ゲロ・シーン」が、学生時代のいやな思い出を蘇らせたからでした。

 それは九十年代初頭の福岡は中洲での出来事でした。女友達と飲んでいた帰りに彼女が寝てしまったので引きずって帰っていましたが、その時に仕方なしにおんぶしたまでは良かったのですが、彼女がしばらくしてから「吐きながら」そして「漏らした」のです。この最低の出来事を背中と首筋に焼き付けてからは、その後に女と二人で呑むのがいやになりました。

 本筋に入ります。理由を全く知らされずにいきなり拉致されて、そのまま十五年の長きにわたり監禁生活を送らされる、という普通では考えられない不合理な展開から始まるこの作品は、オ・デスが突然自由を取り戻した後に、自分が監禁された理由を探すというストーリーです。

 表面上テーマとなるのは加害者側の一方的な復讐と、それに翻弄される主人公の苦しみです。しかし全てが明らかになったときに、現れてくる作品のテーマは儒教とキリスト教が入り混じる国での「近親相姦」への対応なのではないでしょうか。。彼を監禁した犯人は、自分の姉と納得づくで近親相姦に走り、やがて姉を自殺に追い込みます。その責任を自分では被らずに全てを主人公に浴びせかけます。主人公に落ち度があるとは思えませんが、犯人の病的な思い込みは徹底されています。

 「恨」の文化が昔から民族性として備わっている韓国でないと成り立たない世界観なのでしょう。また主人公は、犯人の謀略のために知らずにしたこととはいえ、自分の娘と関係を持ってしまいます。日本人の感覚では知らなかったのだから仕方ないで済むと思うのですが、あちらの感覚ではそんなに簡単なことではないようです。他人でも姓が同じというだけで結婚できないあの国のみで通用する論理なのでしょう。

 見所はなんといっても主役の俳優の、「おじさん」らしい汚さの作り込みにつきます。十五年の歳月を、異常な環境で過ごした彼には異常な眼の光が宿っています。加害者となる犯人は、あれほどまでに他人を病的に追い詰めていくサイコとしては少し役不足に見えました。そして娘を演じたカンはとても美しい女優さんであり、個人的にはチョン・ジ・ヒョンよりも数段上だと確信しています。             
 主役がしっかりとした存在感と「もさもさ感」を持っているため、作品に重厚な要素だけでなくコミカルな要素をも与えています。実際に、シリアスな人生の中にも、ガス抜きの部分は必ずあるわけですから、この程度のコミカルさは逆に真実味を与えてくれています。ただ悪役がまるで香港映画のようだったのには苦笑しました。特に手を切り落とされたおじさんはそのまま『ミスター・ブー』でも出られそうでした。

 画面を見ていて、とにかく痛そうなシーンがあまりにも多いのに少々戸惑いました。「切断された手」、「金槌で抜かれる歯」、「突き刺さったままのナイフ」、「ディスクで刺されるのど」、「アイスピックで刺された耳」、そして「はさみを使い、自らの意志で切断される舌」などおぞましさは群を抜いています。カンヌ映画祭で変態タランティーノ監督が絶賛しただけのことはあります。

 タランティーノ監督の映画は全作品を観ましたので、似たようなシーンがタラの映画にもたびたび登場するのは知っています。これらのあからさまな描写に対して彼はパク監督に強いシンパシーを感じたであろうことは間違いありません。いい加減にこういう描写からは卒業して欲しいのですが。

 監禁部屋での催眠音楽がなぜか『ハリー・ポッター』のようだったのには大笑いしました。また切断シーンが多いためか痛そうな「音」が目立ちました。散髪をしてくれてテレビも見られる妙なくつろぎ空間である監禁部屋が笑えます。こんな監禁ならばそんなに苦しくないのではなかろうか。今まで見た韓国作品が少なすぎるために比較に困りますが、筋としてはきちんと作りこみがされており、世界中どこに出しても恥ずかしくない作品に仕上がっています。

 韓国映画という狭い枠組みでなく、映画には「良いものと悪いものがあるだけだ。」ということに改めて気づかせてくれた佳作です。ただ残酷シーンがしつこすぎて、鼻につきます。

総合評価 72点
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この記事へのコメント

2006年02月03日 14:02
遅くなりましたが、TB致しました。
暴力が余り好きではないので、評価しながらも7点に留めましたが、「キル・ビル」より映画としての結構は優れていたような気がします。
しかし、ベスト10選出で、同じ韓国映画の「春夏秋冬そして春」より常に上位にいるのは納得できません。こういう現象に出会うと、映画評論家も若い世代が増えたなあという想いが強いです。小手先の細工やハッタリにすぐにしてやられてしまいますからね。
2006年02月06日 01:59
 こんばんは。テーマから言っても、残酷で派手な映像など本来必要ないのに、無理やり詰め込んでしまい、かえって質を下げた感のある作品ですね。

 「見た目の恐さ」と「精神的な恐さ」との違いと効果がどうも判っていないような作家や製作者が増えているのですかね。

 ただ言えるのは、この手の作品は一度観ればもう十分だという事です。ではまた。
2006年02月07日 12:51
いやあ、見事な文章に感服しました。映画を見たことが有りますが、本当にエグイシーンの連続で、ちょっと引きました。でも、作品としてはとてもクオリティの高い作品ですね。ボクも
娘役の女優さんはお気に入りです。
2006年02月08日 01:59
 ヒロスケさん、こんばんは。コメントありがとうございます。この作品はレベルの高い作品なのに、わざわざレベルを下げていますね。

 何故、性描写と暴力が必要なのか。これは映画が誕生した時からつきまとう永遠の汚点であり、忌むべき対象ではあります。しかし、ポルノと殺人は、もっとも映画表現を発揮しやすいジャンルでもあります。言葉が必要ないですからね。

 反面、最も人々が見たがるのもこれら二つです。見たい者が多くいるから、それらが作られるのか。それらが多く作られるから、多くの者が見る機会が増えるのか。

 難しいですね。ではまた。

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