『アンダルシアの犬』(1928) シュール・レアリズムって一体なんだ?映像が目に焼きついて離れない

アンダルシアの犬

 スペインが生んだ素晴らしい監督の一人、ルイス・ブニュエル監督の1928年の作品であり、奇才サルバトーレ・ダリが脚本を担当したことで話題になったこの作品ですが、一体全体、何を持ってシュール・レアリズムなのか。

 勉強不足のためにはっきりとは言えません。ただ言えることは、この作品の上映時間である15分少々の中には、当時の最先端のテクノロジーであり、かつ絵画などに見られるようなギャラリー、演劇などに見られる劇場(映画と似た部分のある演劇ですが、生身の人間の演じる演劇は、同じ時間に、一ヶ所でしか出来ない)などの狭い空間に止まることを拒むような意気込みを感じる。

 大衆に広く知らしめる可能性のある未知の芸術分野であっただろう映画の、それ本来が持ちえる表現の可能性を模索しようという、ブニュエル監督と奇才サルバトーレ・ダリの実験的意味合いがとても強く感じられます。

 目に焼き付いて、決して離れない映像美の数々には圧倒されます。刺激的な映像が溢れかえる21世紀現在でも、未だに新鮮なままで、その迫力は衰えてはいません。まさに動く絵画であり、映画と芸術との融合を見ることが出来ます。1895年12月28日のリュミエル監督のシネマトグラフでの『列車の到着』『海水浴』などで産声を上げたフランス映画をはじめとするヨーロッパの映画。

 1900年前後のジョルジュ・メリエス監督のフィクション及び特撮の名作の数々の誕生を受けて、1921年のルイ・デリュック監督の『狂熱』を間に挟み、誕生からまだ30年も経っていなかった当時、ヨーロッパでも、おそらく映画は、海のものとも山のものとも知れないものだったのではないか。

 当然ながら蓄積された理論体系も無く、いまだ最も新しい芸術分野だったであろう演劇と比べても、胸を張って芸術と言えるところまでは、いっていなかったのではないか。いくつかの例外はあったにせよ大衆にとっては、あくまでも新しい娯楽に過ぎなかったのではないか。

 そういう時期に、名声のあった奇才ダリが映画に手を貸したことは、物珍しさや娯楽というだけではなく、映画が最新の第七芸術として存在していくための後押しとして重要だったのではないか。

 意味を求めると、非常に解りにくい作品ではありますが、映像が流れるように進んでいく様子は詩的ですらあります。夢をモチーフに作られたというこの作品ですが、芸術家の見る夢というのは凡人の見るそれとは全く違うようです。しかも悪夢。

 いきなり始まる最も有名な例のシーンから始まる構成は、当時の観客を恐怖に陥れる衝撃的映像だったことでしょう。出だしの1分間で作品の中に観客を引きずり込んでしまいます。もしくは映画館から出て行くか、のいずれでしょう。

 剃刀で眼球をスライスされる瞬間の痛みを思うと身震いがします。刃が当たる痛みも激痛でしょうが、その後に出てくる体液の方が、よりリアルであり吐き気を催す映像です。「月」の「円」と「眼球」の「円」。「月」に刺さる「黒雲」。「眼球」に刺さる「剃刀の刃」。

 「手」に「蟻」という映像も何度も出てくる映像で、男が女と一緒にいて悩む時に必ず登場してきます。何を象徴するのかは心理学の本でも読めば、もっともらしい説明を得られるかもしれない。しかし純粋に映画表現としてみても秀逸な映像です。男の性的なもやもやを表しているのですかね。

 二台のピアノに載せられた二頭の「ロバの死体」と二人の聖職者を引きずる映像も衝撃的なおぞましいものでした。ロバから連想するのは「穏やかさ」「のろま」「勤勉」であり、ピアノから連想するのは「調和」「上流階級」「重厚感」ですが、この作品ではそういった既成のイメージを打ち砕きます。

 もうひとつ出てくるイメージに「切断された手」があります。これは最初のシーンでの刃物で切られる人体のイメージと、「手と蟻」でも出てくる「手」のイメージの融合なのでしょうか。この「手」を文字通りに自分の手に入れた美少年は、直後に車に轢かれて死んでしまいます。

 望みを叶えれば、後は死を待つのみということでしょうか。路上で死ぬのも人を代えて、二回繰り返されていました。虫も二種類登場し、先ほどから何度も出てくる「蟻」と、作品の後半に男に化ける?「蛾」が出てきます。

 作品を通してみていくと「2」に何か拘りがあるのかと思いました。偶数。一対。カップル。余らないもの。映像として見ていくと、わずか15分という短い作品ではありますが、実は作品中では眼球をえぐる時間を基点とすると前後8年を足して、なんと16年間を描いた作品だったのです。

 濃いはずだ。万人向けとは思えない作品ですが、見るものを惹きつけて止まない魅力に満ちた作品であることも間違いありません。
 
総合評価 88点 

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この記事へのコメント

2005年11月16日 17:38
 こんにちは! 
 「アンダルシアの犬」も「黄金時代」も観ましたが、なかなか難物でした。少なくとも理屈で観る作品ではないということしか分りませんが、余りにストーリー優先ばかりの作品が多い昨今、こういう作品で刺激を受けたくなりますね。
 シュール・レアリスムと言えば、マン・レイの「ひとで」やジャルメーヌ・デュラックの「貝殻と僧侶」あたり、観る方法はないでしょうか?
 ブニュエルもメキシコで作った作品などは分りやすいものが多いですが、晩年「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」「自由の幻想」などでまたシュールに帰ってきましたね。さすが作家魂。
用心棒
2005年11月16日 23:46
 こんばんは。『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』はこれぞコメディーの傑作という出来栄えでした。色もとても綺麗で、人物を軽蔑しているような突き放したカメラの撮り方が最高でした。
猫姫少佐現品限り
2007年01月24日 03:00
こんばんは!echo&コメ、ありがとうございました!
あたしはただ、ダリ、と言うだけでしか見ていないのですが、高校生の頃に見た瞳とカミソリが、永遠に生々しく、記憶に残っています。
久々に見たダリ展での今作は、縦横比率無視したワイド画面だったのですが、それぞれの映像は、強烈ですよねぇ。
2007年01月24日 11:08
 猫姫さん、こんにちは。
たった15分くらいの短編と言ってもよい作品ではありますが、インパクトの大きさは強烈でした。一度見て「なんだこりゃ?」と思い、ついつい何度も見てしまう不思議な魅力を持っています。
>ワイド画面
 う~~む。トリミングもしかりですが、画面の改悪は許せませんね。芸術作品なのですから本来の画を勝手に崩してしまう改悪はよくないと思いますよ。ではまた。
シュエット
2008年03月04日 15:53
気後れして…といいながらこちらにもTBさせていただきました(笑)。グリフィスのファンとあったのでリリアン・ギッシュの作品があるかなと「モノクロ」のコーナーをずっと探していたら、リュミエールを、そしてアンダルシアの犬を見つけてしまいました。
これは久しぶりに見て、ゾクゾクしてしまいました。無声でモノクロで、でもひきつけて止まない映像。やはり、夢中で見てしまいます。
@勤務中ですので(笑)この辺で失礼します。いきなりアチコチとお邪魔してしまいました。
2008年03月05日 01:40
 お仕事中に恐縮でございます(汗)
でも僕も経験ありますが、読みたい記事があったら、時間がどんどん経ってしまい、「ヤバイ!」というときがあります。

 しかしいくら芸術とはいえ、痛そうですよね、これ!気持ち悪がってしまった人も何人かいました。ぼくはこのシュールな感性は好きですね。ではまた!
2016年08月20日 22:02
10年以上も前にコメントを残していたんですねえ。
この間に、遠視(但し眼鏡をかけた時)が進み、色々とやりにくいですわ(笑)。

最近の映画は、同じようなものを再生産しているのに過ぎず、全くつまらない。CGが作られる作品のジャンルを偏らせましたね。アメコミの映画化とか、YA小説の映画化とか。みーんな似たようなものばかり。我慢の限度が近づいていますよ。

本作は、他人の批評を許さない芸術映画。しかし、刺激はありますよね。

前衛映画ではないですが、ジャン・エプスタンの「アッシャー家の末裔」がYoutubeで観られます。そういう意味では良い時代になりました^^
2016年08月23日 00:52
こんばんは!

>遠視
ぼくはとうとう老眼の気が出てきましたよ(泣)

ついでに四十肩にやられ、むかしはバカにしていたオジサンの域に達しました。知り合いの爺ちゃんや婆ちゃんに聞くと「四十肩なんかそのうち放っておけば治るよ!」と言われましたが、あのひとたちはあっちこっちが痛いから、忘れているだけではなかろうかと思っています。
>CG
最近は原点回帰でアクション監督も元通り、身体を張ったスタントを見直してきているようで、マッド・マックスでもかなりスタントが頑張ったようです。

>Youtube
驚きますよね。僕はこの前、シュストレムの『霊魂の不滅』を動画サイトで見ましたが、ソフト化されていなくともなんとかなる時代に間に合って良かったなと思うこともあります。

思い出の映画でマニアック過ぎてソフト化されていないものが数多いなか、英語がそれほど苦手でなければ、オリジナル版のフル動画がどこかに落ちていますし、信じられない状況ですよね。

>アッシャー
サイレントですが、カーテンがなびくときに風の音が聞こえてくるようです。

ではまた!

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