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zoom RSS 『どですかでん』(1970)黒澤明が放つ、救いのない世界観。

<<   作成日時 : 2017/04/29 00:20   >>

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 『どですかでん』は黒澤明監督作品のなかではもっとも異彩を放っています。自身初の試みとなるカラーフィルムの仕上がり具合を手探りで試すようなセットや手作り感覚溢れる独特の色使いはヨーロッパの作品のようでもあり、現代版の『どん底』のようでもある。

 カラー映画を撮っているのですが、カラーを憎むような汚らしいというか、あえて薄暗くて、どんよりとくすんだ色を多用しているのは何故だろう。

 貧民街に蠢く人間を描くには鮮烈な色合いよりもこういった色調が必要だったのでしょうが、だったらモノクロでも良かったのかなあとも思います。それでも六ちゃんが家に飾っているなんだか崇高な電車の絵を見るにはカラーでないといけません。

 監督の当時の心情が出ているような暗い作風はのちの自殺未遂事件(1971年)を予感させるものだったのでしょうが、後付けならば好き勝手に言えますので何とも言えません。1970年といえば、三島由紀夫が自決した年でもあります。

 『七人の侍』『椿三十郎』など男たちが躍動する時代劇や『生きものの記録』『天国と地獄』などの社会派現代劇を見てきた人にとってはかなり取っつきにくい印象を与えたのではないか。

 現代の社会の片隅、底辺で蠢く人たちの闇の部分を切り取ったオムニバス形式のこの作品は見る者を選ぶ。個人的には子供の頃に毎週見ていた凸凹大学校や笑点の名物司会者だった三波伸介が登場するのが懐かしくもあり、嬉しくもあります。

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 亡くなってからもう40年近くが経ちますので、ぼくらも年齢を重ねたことになります。一般人であれば、死後40年も経ってしまうと二代か三代の子孫が繋がってきますのでせいぜい孫の代がうっすらと覚えているのみでしょう。

 もう一代重ねるともはや誰も自分のことなど全く知らず、お墓に入っている先祖代々に過ぎなくなります。自分が世界の中心だという強烈な錯覚を持っているのは自分だけであり、普通はこのように世間から忘れられていく。

 それを受け入れられる人は強いが、ほとんどの人はそこまで考えたくもないだろうし、それを避けるために娯楽に興じる。受け入れた人に待っているのは虚無だろうか、それとも卓越した精神の境地だろうか。

 物語では不衛生極まりない貧民街に居住する、精神的に幼いまま大人になってしまった六ちゃん(頭師佳孝)が登場するオープニングの印象があまりにも強いため、全編彼の話が描かれるのかと思いきや、彼は狂言回しに過ぎない。

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 ここで描かれる世界観は夫婦交換(スワッピング)、近親相姦(実際は継父による強姦)、殺人未遂、ホームレスの悲惨な末路、不倫と不貞、貧困による子供の死(弱者差別)など予定調和とは真逆の人間が見せる凄まじい汚さと救いのなさが全編を覆い尽くします。

 その中でも三波伸介が演じる父ちゃんの御人好し過ぎる優しさ(子供5人の父親がすべて違う)、芥川比呂志と奈良岡朋子の埋められない距離、三谷昇と川瀬裕之が演じる乞食の親子のインパクトが強い。

 映像としては何気に部屋中を埋め尽くす六ちゃんが描いた電車の絵(実際は小学生の子供たちが描いたものが大半を占める)が妙に崇高で、教会に飾られている宗教画のように見えてしまう。

 かつてはお洒落だったであろうシトロエンをねぐらに使い、仕事もせずに子供に食べ物を物乞いさせるどうしようもない親は現在ならば、娘に万引きや売春をさせて食いつなぐ虐待親でしょう。

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 仲良くお話をする乞食親子の顔や髪の毛のメイクにも凄みがあります。貧民街に吹く風でビニール袋が流れて行く様子が西部劇でよく見た、枯れ草が流されていくお決まりのシーンのようでなんだか可笑しくなりましたが、冷たい笑いです。

 登場人物は以下の通りです。一癖も二癖もある俳優陣は一般受けはしにくいでしょうが、すでに鬼籍に入ってしまった人も多く感慨深い。先ほども書いたとおり、ぼくらが小学生のころによく見ていた俳優さんたちがどんどん病気で出てこられなくなったり、亡くなっていくのを見るのはつらいものです。

 頭師佳孝(六ちゃん)、三波伸介(沢上良太郎)、菅井きん(おくに)、芥川比呂志(平さん)、伴淳三郎(悠吉)、丹下キヨ子(ワイフ)、田中邦衛(初太郎)、井川比佐志(益夫)、三谷昇(乞食の父親)、松村達雄(一番最低なキャラクター綿中京太を演じていますが、黒澤監督最後の作品『まあだだよ』では主役を演じています)らはとくに思い出深い。

 その他には渡辺篤(たんばさん)、根岸明美(渋皮のむけた女)、塩沢とき(ウエイトレス)、ジェリー藤尾(くまん蜂の吉)、藤原釜足(老人)、奈良岡朋子(お蝶)、下川辰平(野本)、らが個性的な表情を見せてくれています。

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 とにかく癖の強い作品ですので戸惑う方もいるでしょうが、黒澤監督としては気心の知れた日本人スタッフに囲まれて、意外に色々と楽しく試せた作品でもあるかもしれない。

 ただし、どうしてもその後の自殺未遂事件と重ねてしまうので暗い気持ちになってしまいます。モノクロからカラーにフィルムは変わり、映画業界自体もテレビに押されて斜陽を通り越して衰退に向かい、予算は激減し、企画も通りにくくなっている冬の時代です。

 そういう中でも何とかして仕上げていったのが晩年の黒沢監督でした。カラー時代の黒澤作品、というか後期作品に対してはあまり評判が良くないのも事実でしょうが、晩年の作品の公開時期になんとか間に合った最後の世代の観客としてはただただ新作がスクリーンで観られるだけで嬉しかったのも事実です。

 若いファンの方には早く大好きな監督や俳優さんを見つけたら、彼らが良い時も苦境に陥っているときも、最盛期を過ぎたとしても、変わらずに観客として、フリークとして彼らを支えて行ってほしいと願います。

総合評価 65点



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コメント(20件)

内 容 ニックネーム/日時
頭師佳孝と言えば「飛び出せ!青春」のあまりパッとしない生徒役。
この映画では主役かと思ったら、狂言回しでした

>仕事もせずに子供に食べ物を物乞いさせるどうしようもない親

1983年のドラマ「みんな大好き!」で同じようなエピソードがありました。この映画からパクっていたんですね妙な感慨がありました

>ポールは「ジャンク」とかビートルズでボツになった分をソロで使っていた

本当に対照的なジョンとポールです。
蟷螂の斧
2017/05/04 07:46
こんばんは!

映画からテレビへと活躍の場を移していく俳優が増え、スケジュールを押さえられなくなったため、無名の人を多用せざるを得なくなっていたのがこの映画の真相でしょう。

>パクって
すべての映画や映像作品は過去作から何らかのアイデアを得ているので、やむなしでしょうww

ぼくはジョンの才能のピークは三作目の「ア・ハード・デイズ・ナイト」だと思っていますww

ではまた!
用心棒
2017/05/06 00:25
黒澤映画と言えば白黒映画。例えば「蜘蛛巣城」は水墨画のような美しさがあります
この映画は・・・。

>あえて薄暗くて、どんよりとくすんだ色

そう言うイメージです

>スケジュールを押さえられなくなったため、無名の人を多用せざるを得なくなっていた

そう言う事情もあったんですね

>一癖も二癖もある俳優陣

沖山秀子が目立ちますね。やはり。
個性的な女優さんです
蟷螂の斧
2017/05/06 14:26
こんばんは!

カラーですが、綺麗な画を撮るのではなく、あえて現実の汚れた画を撮ることで生々しさを浮かび上がらせることに成功したとも言えるのかなあとも思います。

映画では食えない時代が加速していく時期ですものね。丁寧な仕事をしてきた世代にはつらい時代になっていったのでしょう。

>沖山
個性的な女優さんでしたね。

ではまた!
用心棒
2017/05/06 21:46
>凸凹大学校や笑点の名物司会者だった三波伸介

今でも思い出します。昭和57年の12月に三波さんが急死みんな騒然としていました
また正月番組の司会者としては欠かせない人。既に収録済みの番組があって、別の司会者で撮り直し。

>御人好し過ぎる優しさ(子供5人の父親がすべて違う)

全てがそうだとは言いませんが、やっぱり男よりも女の方が強かなのかなあ・・・?黒澤監督はそのあたりを描きたかったのかも知れません

>平さん(芥川比呂志)

昔、自分を裏切った女を許す事が出来ないのかな?

GW終了。明日からまた頑張りましょう。適当に
蟷螂の斧
2017/05/07 20:50
こんばんは!

>急死
びっくりしましたよね。林家三平や三遊亭小圓遊も同じような時期に立て続けに亡くなった覚えがあります。

最近というか、ここ数年はマイケル・ジャクソン、プリンス、デヴィッド・ボウイ、忌野清志郎など中学時代に好きだったミュージシャンや千代の富士、北の湖、貴乃花(先代)などの力士やサッカー選手(監督)で尊敬していたヨハン・クライフなど応援していたスポーツ選手がどんどん亡くなり、寂しく思います。

>裏切った女
裏切られて許せなかったら、ルパン三世は成り立ちませんねww

ではまた!
用心棒
2017/05/08 00:23
>ルパン三世

緑色ルパン第一作の名言ですな

>ここ数年

そう言う年回りってあります。悲しいけど、ちょっと早いかなと言う感じの世代交代。

>林家三平

最後までお笑いの勉強。ベッドの上で週刊誌やら何やら

>三遊亭小圓遊

落語の最中で・・・

>デヴィッド・ボウイ

一度だけ見た彼のライヴ(1996年)やっぱり凄かった
蟷螂の斧
2017/05/10 22:58
こんばんは!

緑ジャケットのルパンが一番好きですよ。数年に一度はDVDを見たりします。

落語家の人って、今の若い子たちにはピンとこないのでしょうが、当時の笑点はいまよりも人気がある番組でしたので亡くなった時はショックでしたね。

>小圓遊
落語は名前を継ぐのが伝統ですが、4人いた小圓遊のうち、三人が不慮の死を遂げているので、誰も継がない状態になっていますね。

>ボウイ
『レッツ・ダンス』や『トゥナイト』はリアルタイムで聴いていましたし、『ダイアモンドの犬』とか『スペース・オディティ』とかは友人に借りて聴いた覚えがあります。

ではまた!
用心棒
2017/05/10 23:42
>レッツ・ダンス

ロック史に残る名曲ですプロモクリップも最高です

>4人いた小圓遊のうち、三人が不慮の死を遂げている

そうなんですか・・・怖いです・・・。

>当時の笑点

僕が好きだったのは三遊亭圓窓師匠。
他のメンバーに比べると地味ですが、力量がある人でした

>ジェリー藤尾

喧嘩最強
蟷螂の斧
2017/05/13 21:19
こんばんは!

笑点って、なんだかんだ言いながら放送していたら見てしまいますww

マンネリなんですが、日曜日にはサザエさんなどのマンネリが目白押しで、大河ドラマも含めれますねww

まあ、全然見なくなりましたが、安定感はさすがです。

>ジェリー
かなり昔になりますが、家族で番組を持っていたりしましたので、なつかしいタレントさんでもあります。仲良し家族みたいだったんですけど仮面だったんですねww

ではまた!
用心棒
2017/05/15 00:44
>マンネリ

その方が安心して見れるかも知れません
僕が子供の頃、好きだったパターン。
司会者が出演者一人一人を紹介する。
一番最後の人(例えばアホの坂田)の前で「それではゲームに入りたいと思います。」
「おいちょっと、待って〜なあ〜
お客さんが大爆笑

>仲良し家族みたい

年末年始のCM。
奥さんが頬を押さえながら「あったか〜い お正月」
映画「上を向いて歩こう」では可愛かったですよ
まあ、実像と虚像の違いはあります。
ルー大柴が実は気配りの人だとかね
蟷螂の斧
2017/05/15 21:07
こんばんは!

>お客さんが
関西では今でも普通にやっていますよwww
まったく進歩は見られませんw

>実像と虚像
それはあるでしょうね。昔、プロレスラーの鉄の爪エリックの次男デビッドが急逝したとき、お葬式でブルーザー・ブロディが大泣きしていたのが印象に残っています。

ではまた!
用心棒
2017/05/16 00:00
0時ジャストのレスをありがとうございます。

>関西では今でも普通にやっていますよwww

やっぱりそうですか
実は10年以上前に「そこはか通信」と言うサイトで僕が同じ事を書いたら、そこの管理人さんが「そのパターンは現在では『クイズ! 紳助くん』において島田紳助と円広志が継承しています。」とコメントしていました。今でも続いているんですねうれしいです

>ブルーザー・ブロディ

見かけと違って優しい男。その彼も非業の死・・・

佐々木健介氏は、どうなんでしょう・・・
蟷螂の斧
2017/05/16 05:13
こんばんは!

>紳助
なつかしいですねえ。漫才ブームのころによくテレビに出ていました。竜助はすでに亡くなりましたし、紳助も芸能界から消えましたし、寂しい限りです。

>円
関西以外では多分もう誰も知らないレベルの芸能人なのでしょうが、大阪から立候補したら確実に当選するくらいの知名度と人気を今でも誇っていますよww

円以外にも全国区であれば、たむらけんじなどは獅子舞のハダカのオッサン程度の認識でしょうが、関西では真面目にレポーターをしたり、ビジネスマンとしての顔の方が有名ですよww

ではまた!
用心棒
2017/05/16 23:51
>竜助

もう亡くなってから11年も過ぎたんですね・・・。
漫才ブームを今でも思い出します。
ビートたけしがオールナイトニッポンで話した竜介のエピソードも笑えました

>円

僕は「夢想花」よりも「愛しのキャリアガール」の方が好きです。
他の人に書いた曲ならば川中美幸「ちょうちんの花」(1996年)もいいですね
蟷螂の斧
2017/05/17 20:28
こんばんは!

数年前にCSでNHK人形劇『三国志』を放送していたのですが、紳助竜助がパーソナリティを務めていて、本放送は1983年くらいだったのですが、時の流れに驚くばかりでした。

>円
ぼくは森昌子に提供した『越冬つばめ』が好きですよww

ではまた!
用心棒
2017/05/18 00:16
>田中邦衛

加山雄三主演「若大将シリーズ」の青大将
いつもマドンナ澄子(星由里子)に向かって「すびちゃんすびちゃんてばよ〜
「椿三十郎」では加山雄三と共に若い侍役(脇役

>NHK人形劇『三国志』

中華民国風のエンディングテーマが良かったです。
作曲は細野先生

>越冬つばめ

これも名曲。円さん、何だかんだ言いながら優雅な印税生活
蟷螂の斧
2017/05/18 20:52
こんばんは!

オープニングも細野師匠ですし、雄大なイメージが印象的でした。1年半近く放送していましたが、人形の出来も素晴らしく、毎週楽しみに見ていました。

>円
関西では帯番組を持っているので、ゆったりと毎日出演知っていますよ。

ではまた!
用心棒
2017/05/18 21:34
用心棒サン、ご無沙汰です。
御健筆、何よりのことですね。
さて、本日のメレンゲの気持ちという番組に津田寛治という俳優が出てました。シン・ゴジラにも出演でしたかね。
彼が曰く
「連ドラは映画の撮影みたいですよ。」
これでは大作を撮る映画監督は俳優確保が大変でしょうね。
米国みたいに映画とテレビの出演層が分かれている文化なら兎も角、我が国は一体化ですものね。
「(売れない時代に)皿洗いをしていた喫茶店にたけしサンが来て、プロフを渡す等自分を売り込んだ。そしたら、たけしが喫茶店員なのに派手な髪型(話中から推察すると、佐賀のハナワみたいな髪型だったそう)すんな、といじられる撮影シーンがたけしの一言から、その場で撮影された。」
どですかでん当時の黒澤サンは、社会の暗さが稼げるテレビに流れて恥じない時勢を産み出し、人材を奪われた映画が描きたい作品を描けなくなる時代の訪れを感じ取ったのではないでしょうかね。
たけしの映画なら出演もしようと励む現代ですが、それでも映画でブレイクが主流だとは思われない状況です。
イチかバチかの映画より、テレビで稼いでインスタとかで食事やら育児やらペットのネタで食いつなぐ昨今は、子供や色気を出汁に生きているという、どですかでんの群像と何だか似ているような気もするな〜という感想です。
インスタが悪い、とは思いませんが、映画が軽くなることに加担はしているように思えます。
きやらはん
2017/05/20 17:08
こんばんは!

>インスタ
まあ、ミクシー、フェイスブックなども徐々に衰えて行きましたし、インスタもいつまでも人気が続くわけではないでしょう。

>食事やら
これって、撮り方によっては場所とかすぐに特定されてしまうわけですから、リスク管理をしっかりとしないと余計なトラブルに巻き込まれてしまうかもしれませんね。

じっさい、数年前に女友達からフェイスブックをしていたら、10年以上も会ったこともなく、顔も覚えていないクラスメイトからお友達登録をしてくれと言われているけどどうしたらいいのだろうと相談されたりもしていました。

そのときは何かねずみ講的な商売や投資話、宗教勧誘、ストーカーの可能性もあるので、僕の背中越しに彼女が写っている写真を数枚載せたら、以降何も言ってこなくなりました。以来彼女はフェイスブックを止めました。

個人情報提示を求められる媒体には近寄らない方が良いみたいですね。

ではまた!
用心棒
2017/05/20 22:06

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『どですかでん』(1970)黒澤明が放つ、救いのない世界観。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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