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zoom RSS 『この世界の片隅に』(2016)2016年最高のアニメはこっちです!

<<   作成日時 : 2017/01/30 21:33   >>

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 『この世界の片隅に』は昨年夏以降、あまりにもというか異常に大ヒットした『君の名は。』や『シン・ゴジラ』の東宝勢の陰に隠れてはいますが昨年11月からの公開で今年の1月末になった現在でもじわじわとまだ上映されているロングヒット作です。

 話題性という点では『あまちゃん』で真っ先にブレイクした能年玲奈が久しぶりに声優としてではあるが復活してきたことでしょう。有村架純や橋本愛が彼女に続き活躍し始めたのに、反比例するように諸般の事情でいつのまにか表舞台から消えてしまったのが能年玲奈でした。

 そして復活したと思ったら、今度は芸名が“のん”に変わっていました。前に所属した事務所から芸名を使うなという要求があったようですが、能年玲奈は彼女の本名なのでこれはさすがに酷いのではないか。なんだかジブリの『千と千尋の神隠し』で名前を奪われた主人公千尋のようです。

 まあ、強いて挙げれば話題性というのはこれくらいです。それでもこれだけロングランで上映されているということはクチコミで内容が素晴らしいと拡散されているからだろうと推測できます。うちの近所の映画館ではもうじき公開終了になりそうなので観に行くことにしました。

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 上映が始まると懐かしい歌が聞こえてきました。それは『悲しくてやりきれない』。ザ・フォーククルセダーズが『帰ってきたヨッパライ』のあと、発売できなかった『イムジン川』に替えてリリースした作品だったっけなあ。

 切ないギターがカッコよかったこともあり、シングル・レコードを中古屋さんで探しました。当時は中学生が買うにしてはめちゃくちゃ高かったので、CD化されてから購入しました。

 もちろん歌っているのはフォークルではなく、別人の女性歌手でした。その他ではドリフでお馴染み(ド!ド!ドリフの大爆笑〜♪)の『隣組』もイイ感じで歌っています。

 映画が描いているのは太平洋戦争前後、日に日に生活物資が圧倒的に不足していく厳しい状況下ながらも工夫しながら生き抜いた人々の普通の暮らしぶりでした。どうしても戦中を描くとなると左翼的な反戦モノとお涙頂戴の悲劇モノばかりが持て囃されるのであまり見る気がしませんでした。

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 しかし今回は戦争の暴力を描きつつも、憲兵を陰で笑い飛ばす当時の世相や民衆のたくましさや可愛らしさ、そして死生観も出ているし、能年ちゃんの声も素朴で好きな感じの声です。

 笑えるのは物資が不足し、モノの値段がどんどん高くなっていくインフレが進み、お菓子やキャラメルが10倍になったら買えなくなるからどうしようとかを真剣に心配している様子(命のほうが先でしょ!それどころじゃないでしょ!と突っ込みたくなります)で、のんちゃんのアホみたいな独白が可愛らしい。

 さすがにそろそろ公開終了になるようですが、70%以上の客席は埋まっていて、結構入っているのも事実ですから、たぶん延長されるでしょう。高い値段でガラガラなのと静かに観られるのではどっちが良いだろうか。ただ今回の150人余りの観客はリピーターと思しき人が多かったこともあり、マナーを守った客層なので楽しめました。

 全編を通した感想としては前半から中盤にかけてのお話の展開はとてもおっとりとしていて、第一次大戦後の軍縮会議による影響のために、軍艦製造が減少し景気が悪くなってしまった幼少期から少女になるころも描かれます。

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 19歳になったころには戦争はすでに始まっているものの、のんきな田舎の若い女の子らしい感覚が微笑ましい。能年玲奈は良い役を手に入れたようです。声にとても魅力があり、聴く者を和ませてくれます。これは大きな才能ですので頑張って欲しい。

 中盤以降、1944年あたりからですのでサイパン陥落後でしょうが、のんちゃんが嫁いだ呉市にも徐々に空爆が始まり、米軍による無差別爆撃が女も子供も容赦なく傷つけて殺戮していく。ディズニーも戦中は『空軍力の勝利』を製作し、映像による成功イメージをチャーチルやルーズベルトに植え付けて、空軍による都市爆撃作戦を後押しして、広島長崎につながる非道な無差別殺戮に間接的に協力していました。

 それを知っていると、ミッキーマウスやドナルド・ダックも偽善にしか見えない。能年ちゃんの役柄の主人公も不発弾(原始的な時限爆弾)の爆発により姪っ子の命と絵が得意だった右手を失う。当時、女性は家事の一切と子育てを仕事にしていましたので、利き手を無くすことは生産性の低下を招き、世間の目を気にする嫁ぎ先からの離縁を意味したことでしょう。

 お話の中でも何度か別れ話が浮かんでは消えていきます。物語のクライマックスは広島への原爆投下でしたが、舞台は呉だったので、広島とは様子が違っています。

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 真っ昼間に一瞬だけ空が光った次の瞬間に地響きが地震のように発生し、外へ出てみると暴風雨を降らせる雨雲のような原爆雲が空を覆う。衝撃はすべてのものを焼き付くし、かつて見た威容を誇った広島県産業奨励館の建物は原爆ドームと化してしまう。

 衝撃波はあらゆるものを空に舞いあげ、広島から飛んできた障子が呉の嫁ぎ先の家の木に突き刺さる。市内は悲惨の地獄絵図で、なんとか生き延びた親子も飛んできたガラス片が全身に食い込み、出血が止まらないために母親は死に絶え、生き残った娘も蛆が湧いてきた母親の躯から離れ、物乞いをする。

 物語の前半で繁栄している広島の様子やのんびりとした生活を見せているので、その対比により悲劇性は際立っています。旦那になる人とのんちゃんはじつは子供時代に広島までお使いに行く道で、人さらいに浚われかけています。

 そんな大ピンチのところを絵が上手いのんちゃんの機転で狼男のような人さらいから逃げ出すことに成功していて、それが一目惚れ結婚のきっかけとなります。もうひとり学校時代の同級生も出てきますが、あとあと人妻となったのんちゃんを誘惑しようとします。

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 戦後、原爆投下後に被爆しながら生き延びた人々にも死の影は迫り、妹は原爆症に苦しみ、爆心地で出会った少女は被爆により母を亡くし、乞食をしていたところをのんちゃん夫婦に助けられ、一緒に暮らすようになります。不潔な環境にいた彼女にはシラミがついていて、大人たちが洗います。

 エンディングでは嫁ぎ先の娘を亡くした小姑にちょこちょこ嫌がらせを受けながらもなんとか上手くやっている様子も描かれ、彼女が昔着ていた服から新しい子供服とモガな洋服、そして自分用の小物を作り出す。エンドロールに出てくる様子なので、最後まで見ましょう。

 エンドロールの最後ではクラウド・ファンディングによる資本提供者を全員クレジットしていきます。資金調達のやり方も変わってきましたね。ただこれって大手映画会社が企画に難色を示して予算を渋ったから、民間に責任と出資を頼った訳ですから、どれだけ興行収入を上げても、映画会社にはデカい顔をする資格はない。

 見ていて「なるほどなあ」と唸らせてくれたのは食糧難時代にどうやって食べられる草花を探し出し、満腹感を得るためにいかに調理の工夫をしていくかを隣組で共有する様子です。その他、皆がお互いさまで防空壕を整備したり、空襲が来ればどこの人だろうと一緒に避難する様子など興味深いシーンがたくさん出てきます。リアルなサバイバルファミリーです。

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 そうなのです。これまでの戦中映画のほとんどは庶民の素朴な生活を描いていないモノばかりでした。軍人や政治家、起業家ばかりにスポットが当てられていて、特に大きな事件や珍しいことの起こらなかった普通の家庭は無視されていたのです。

 戦死や空襲による死は身近にありましたが、身近だったために思い出すから見たくないという方への配慮もおそらくあったのでしょう。ようやくこういうものも描けるようになったのかもしれません。

 後半は焼夷弾や原爆投下に翻弄される悲惨な様子を描いてきますが、前半のノンビリした生活は見ていてホッとします。ホッとする要因の多くを占めるのはのんちゃんのゆったりとした声です。

 死をテーマの一つにした映画ですが、なぜか落ち着く不思議な作品でもあります。それだけ彼女の声には魅力があるということでしょうから、今度は実写映画での復活を遂げて欲しいですね。

総合評価 80点


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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
用心棒さんこんばんは。「のん」は本名が使えないそうですが、本名でもその名前でいいのか?という人がたくさんいます。有名人で同姓同名及び似たような名前はやめるべきだと思います!小沢一郎と青木愛と同名のサッカージャーナリストと元シンクロ選手のタレントは昨夏の選挙が終わるまでテレビやラジオに出られなかったそうです(事務所の自主規制?)。木村拓哉と同名のフジテレビアナウンサーもいますが、ジャニーズ事務所はよく許したなぁと思います。彼が番組の司会を張ることはないと思いますが(笑)ちなみに「バットマン」のマイケル・キートンの本名はマイケル・ダグラスで既に世に出ていたからバスター・キートンから取ったそうです。
さすらいの映画人
2017/01/31 20:30
こんばんは!

彼女の場合、病院で「能年さ〜ん!」て呼ばれたら、みんなが振り返るでしょうねww

1月上旬の経済紙エコノミストに彼女のインタビューがあり、名前は“のん”のほうが良いという趣旨のことを答えていましたよ。

本名なので使う使わないは本人が決めればいいのですが、芸名ならともかく、本名まで事務所が許さないというのはなんだか筋が違う気がします。

>木村
ぜひVS嵐の司会をやって欲しいですねww

>キートン
欧米も芸名が多いのですかね?日本では芸名の人が多いですが、向こうはどうなのでしょう?

ではまた!
用心棒
2017/02/01 00:36
用心棒さん、こんばんわ。
本日鑑賞、感涙止め得ない好作品でしたね。
甲乙で言へば「君の名は。」超えですが、甲乙揃った活況は素晴らしいことです。今日もほぼ満席でした。
クラウドファインディングで制作されたようですね。
単館も名作や封印作品をクラウドファインディング上映!みたいな趣向があっても良いかな、とか思ってしまいました。
さて、ネタバレご寛恕ながら最後に迎えた孤児の逸話ですが、孤児の彼女は、主人公の遊郭お友達の息女なのかな、と思いましたが用心棒サンは如何ですか?
最終局面は青葉艦の幼馴染み等さまざまな人生の交錯が描かれていましたので、敢えて孤児のエピソードというのも、そういうことなのかなぁ、との愚考です。
ちなみに制作陣営にはエンドロールによると朝日新聞の王理恵女史の名もあり、東京テアトル70周年の意欲が溢れ出ている感じでしたね。
きやらはん
2017/02/11 20:06
こんばんは!

これ、最近は賞取りもあり注目を浴びていますが、もっと観られていいですね。等身大の一般市民の生活を描いた好作品だと思います。

>遊郭
たしか遊郭は空襲で焼けちゃったなあみたいなオジサン同士の会話を聞くのんちゃんというカットがあったような気がしますが、はっきりとは覚えていません。

ただもし母親があの遊女だったとして、せっかく空襲を生き残った母娘が結局は新型爆弾の衝撃で突き刺さったガラスで失血死していくのは厳しい別れの描写ですね。

あまりにも死が身近すぎるために誰にも起こり得る普通の感覚として死を捉えている感じは悲しいですね。進駐軍の残飯粥のほうが美味いというのは哀しいけど笑えました。

>王
もしかして王さんの娘さんですか?昔はよくテレビで見たようなww

小学生の夏休みのころ、子ども会主催のプロ野球観戦が後楽園であり、観ていた試合で王さんがホームランを打ってくれました。

巨人は嫌いですが、王さんは別格でした。だって、他の選手はみな呼び捨てですが、王選手だけは王さんと僕ら阪神ファンの子供も呼んでいましたwww

ナボナやボンカレーのCMもなつかしいなあww

ではまた!
用心棒
2017/02/12 01:13
このサイトを偶然見つけ大変楽しく読ませていただいてます。
(特に怪獣もの)
さてこの『この世界の片隅で』もしみじみ沁みるいい映画でしたね。
孤児を家族として迎え入れるシーンは涙が止まりませんでした。
実は実写版もあり、りん役の優香はイメージにあってるかな、と思いました。

さて2016年最高のアニメとの見出しでしたですが
ぜひ『聲の形』もご覧ください!
甲乙つけがたい傑作ですよ。
Ken
2017/02/12 10:16
こんばんは、そしてはじめまして!

怪獣が出てくる特撮映画は昭和世代の子供たちにとっては夢のような作品群ですよね。けっこう厳しすぎると意見されることもありますが、基本は大好きですww

>孤児
母親がむかし言っていましたが、晩御飯になると知らない子供が何人か増えていたけど婆ちゃんは誰が誰だかお構いなしにご飯を出していたそうですよww

当時はみなで子供を育てるという気概があったのでしょうね。

>聲の形
TSUTAYAさんでも陳列していました!今度行ったら、借りてみますね!

ではまた!
用心棒
2017/02/12 18:19
先週、ようやく見に行けました。やはり周りが絶賛するように傑作でしたね。
個人的には「君の名は。」を越えました。

この手の映画は用心棒さんがおっしゃる様にやたら左翼的悲劇性をごり押しする様な作品ばかりでウンザリしますが、この作品は切迫した時代にも関わらず暢気な生活を過ごしている主人公の目線で描かれていたのが新鮮に感じました。

はたしのゲンとは対照的でした。同じ広島を舞台にしてここまで正反対な雰囲気を醸し出しているのが驚きです。

主人公の地元の江波は、はたしのゲンではゲン達をひたすら虐め抜く鬼畜外道な人間の溜まり場にしか映りませんでしたが、この作品ではそんな雰囲気を一切感じられませんでしたね。
まぁゲンの方は父親がガチガチな反天皇主義者で周りから迫害を受けていたので、ゲンにとっては広島は生き地獄にしか映らないのは当然といえるでしょう。
ゲンが闇なら、この世界〜は光でしょう。同じ広島が舞台でもここまで正反対な雰囲気を描いた作品は非常に興味深かったです。
ベラデン
2017/03/28 21:25
こんばんは!

同じ時代、同じ場所に居ても心の持ちようでこの世界は変わるということでしょうかね。

左翼思想が正義という反動的な風潮が戦後ありました(朝日新聞にはいまもww)が、けっきょくはどちらも同じく驕り高ぶり腐敗するという結論が出ているのでは。

思想というのはあくまでも自己正当化するための方便に過ぎないのではないでしょうか。

この映画がヒットし続けているのはようやく市井の大半を占める普通ののんびりと過ごす人々の暮らしぶりを淡々と描いたからでしょう。

のんちゃんののほほんとした声と相まって心に沁みる作品になりましたね。まだロングラン上映されていますのでDVD化されるのはまだすこし先になりそうですね。

ではまた!
用心棒
2017/03/29 17:34
用心棒サン、こんばんわ。
今もなおロングラン上映中の本作品。
本日も鑑賞しましたが…客席8割以上という盛況ぶりでした。
9月にDVD発売予定のようですので、8月いっぱいまでのロングランまたは8月中に再上映という映画館があるようです。
改めて鑑賞しますと、最後に登場する孤児の少女。
その娘を今際の際に連れた母親も右腕を失っていましたね。
それがキッカケで少女は主人公に縋り付くことになる訳ですが、主人公もまた残った左腕で少女を導くことになるのですねぇ。
これによって、亡くなった姪だけでなく、遊郭で出逢った座敷童の少女とも記憶の中で永遠に握られ続けている、という意義だったのだな、と実感しました。
わざとらしく作中で説明せず、最後に鑑賞者への感謝を大いにこめて幕が閉じる直前まで使って描ききったところに、作者も含む制作者と支援者の一体となった熱意を改めて感じます。
ちなみに本作品で歌っているコトリンゴは、最近の少女系アニメでも歌っていますね。

きやらはん
2017/06/17 22:36
こんばんは!

>ロングラン
客席がまだ8割以上も埋まっているとはすごいですね。
のんちゃん復帰もめでたいですし、あのおっとりした声はよく合っていますね。

おそらくリピーターがかなり多いでしょうから、より深い部分まで、より細かいディティールまで鑑賞できるでしょうね。9月にDVDが出るのでしたら、レンタルでまた見たいですよ。

>コトリンゴ
そうなんですね。とても優しい声でしたので、印象深いですよ。

ではまた!
用心棒
2017/06/17 23:08

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『この世界の片隅に』(2016)2016年最高のアニメはこっちです! 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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