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zoom RSS 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2016)大恐慌は突然やってくるように見えるが…。

<<   作成日時 : 2016/03/14 19:43   >>

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 ブラッド・ピット主演で話題となった映画『マネー・ボール』をきっかけに名前を知るようになったマイケル・ルイス原作の『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』『ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる』や『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』を読んだのが数年前でそのときは金融業界を活き活きと圧倒的な臨場感とサスペンスに満ちた緊張感により描いた一連の著作を集中して一気に読んでいました。

 読んでいたころはまさかこの作品『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』を映画化するとは思いもよりませんでした。映画化を聞いたときはどうやって複雑怪奇な金融商品を使ってのやり取りを映像にしていくのか大いに疑問がありました。

 金融業界の小難しい専門用語をセリフで連発する度に観客の心はスクリーンから離れていくのではないかという疑念です。今回に関してはギリギリのところで映画として成立させていますが、これは脚本と演出の勝利でしょう。有名人をカメオ出演させることでブレークタイムを作り出し、やさしく解説していく。

 映画で描かれるのは難しい投機手法です。一般的な投資と言えば株式が頭に思い浮かびますので株式で説明しますと、ある人が株式を購入するとなると彼は「この株は上がるだろう。」との見通しから株を“買う”のが普通でしょう。

 それとは別に「この株は下がるだろう。」という読みから株式を“売る”という選択肢が取れるのが今回の作品のキーワードとなる空売りです。つまりまったく株式などの有価証券を所有していなくとも合算しての差金決済が可能な取引やデフォルトに賭ける金融商品(保険)があるということです。

 そもそも嫌なことが起これば、お金が入ってくるのは保険ですね。生命保険などは掛けられている本人が死なないとお金が入ってこない不幸の宝くじみたいなものです。個人的には空売りというやり方は投資手法ではなく投機手法であると思います。

 短期的な売買は投機取引(トレード)であり、キャピタル・ゲインとインカム・ゲインを狙うのが投資だと考えています。当然、通貨の上げ下げのみを対象にするFXを投資とは思っていません。ヘッジとしてドル建てMMFなどを多少持つのは良いでしょうが、短期の上げ下げを予測することは難しいですし、スイス・フランのように急騰してしまうと一晩で資産が溶けてなくなる可能性もあります。

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 リスクヘッジとしてロスカットのルールを決めていたとしても、たとえば株式取引では損切り価格を決めていたとしてもそれ以下に急速に暴落してしまうと取引は成立しないままただただPC画面を呆然と見つめることになります。一日に下がるにしてもせいぜい10%くらいかなあと判断して損切り価格を設定していても、結果として売れないこともあるのです。

 たしかに主人公たち、クリスチャン・ベール(投資ファンドのマネージャー)、スティーブ・カレル(銀行傘下のヘッジ・ファンドのマネージャー)、ブラッド・ピットが手助けする田舎者2人組は元手を20倍以上にするギリギリの賭けに勝利しました。

 しかしながら彼らが賭けた住宅バブル崩壊と連鎖するリーマン・ショックの裏には多くの犠牲者がいます。一連の崩壊では全米で八百万人もの失業者を発生させ、六百万人のアメリカ国民が人生で最も大きな買い物である不動産資産を失ってしまい、中産階級から貧困層に、貧困層からホームレスに落ちぶれてしまいました。好況と言われている現在でも彼らの怨嗟の声が聞こえてくるようです。

 現在の大統領選でのドナルド・トランプやバーニー・サンダースの盛り上がりは強欲な金融機関の後始末だけを押し付けられ、加害者のくせに今でも高い椅子にふんぞり返って民衆の富を奪い取ろうと狙い続けている金融機関への怒りや国民の年金資金を枯渇させかけても誰も罰しようとしない政府への失望を感じます。

 登場してくるキャラクターたちの金儲けの手段が市場破綻に賭ける保険といった他人の不幸からお金を吸い上げるのは投資の本流ではなく反主流なのは明白で、綻びに気づいた先見の明には脱帽しますが、無条件に尊敬できるような素晴らしい投資とは言い難い。

 投資の本来の姿は資本主義の発展のために少しずつでも企業にお金を回していこうということだと思っていますので、レバレッジをかけての空売りや他人の不幸に掛け金を積むCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は禁止すべきではないかと思います。

 ちなみにオマハの賢人と呼ばれ、世界一の投資家として知られているウォーレン・バフェットはCDSを金融版大量破壊兵器と表現しています。ちなみにサブプライム危機やリーマンショックを招いた原因の一つに格付け機関のいい加減さがあります。

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 ムーディーズやS&Pなどの格付け機関は手数料目当てに銀行から送られてくる金融証券を中身も確かめずにAAAの格付けを与えてきましたので、危ない証券も海外の金融機関や個人投資家は彼ら格付け機関の判断を信じて購入していたようです。

 この当時のいい加減な事情を知る者は格付け機関など信じていないでしょうし、ぼくら一般人にまで伝わってきているので債券を買うときには参考になる目安がない。欲をかいて数パーセントの利回りを余分に追い求めるのは危険です。

 10億ドル以上の儲けをたたき出すクリスチャン・ベールたちではありますが、その儲けの大元は銀行の資産、つまりもともとは一般市民から預かったお金です。邦銀の公的資金注入もそうでしたが、運用を誤った銀行の業突く張りどもはだれも責任を取らずに税金を注入されみな無事で、国民は貸し渋りによりリストラされていくだけである。

 今後またこういう〇〇ショックがあった時は預金者の財産のみはきちんと守り、投資銀行や金融機関は問答無用に倒産させるべきである。当然、経営者は獄中に入るべきです。

 シリアスで一般には分かりにくい金融商品であるCDS(企業の破綻に賭ける保険)やCDO(債務担保証券)をやり取りするゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、リーマン・ブラザース、ベア・スターンズなどの大手の金融機関名を把握するだけでも馴染みのない日本の観客には敷居が高くなってしまうかもしれません。

 がそこらへんはアメリカでも事情は変わらないようで、俳優が観客に向けて話し出すというコメディ風の演出を多用し、有名人を解説役に引っ張り出してきて、唐突にドラマ部分に突っ込んでいく。

 これを風変わりな違和感と取ってしまうと作品に集中できなくなるが、観客をリードするには必要だった演出なのだと納得すれば、特に邪魔にも思わない。『ハイ・フィデリティ』のジョン・キューザックやドラえもんにたまに登場してくる藤子不二雄みたいな感じです。

 内容は住宅バブルに浮かれて、土地価格は永久に上がり続けるものだとの厚い信仰心を持っていたアメリカ政府、証券及び住宅業界、そして国民の不動産投資が熱狂と共に頂点に達してしまうと、ついには市場が暴落し、社会不安から崩壊していくさまをいくつかの投資ファンドのマネージャーたちの信念と行動でバブルの滑稽さと哀しみを描き出す。

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 熱狂・暴落・崩壊というパターンは悲劇とその影響が大きければ大きいほどコメディとしては秀逸になる。実際に投資していた者からすると笑えないでしょう。

 個人的にはリーマン・ショックから東日本大震災までの4年間は持っていた投資信託のうち、先進国株式は50%以上下落し、新興国株式は70%下落していく惨状でした。自社株は半分以下、日本株式に連動する投信も日経平均7000円台と80円以下の円高に痛めつけられ、散々でした。

 あまりの下がり方に頭が真っ白になり、持っていた株式や証券を売り払った人も多かったでしょう。リスクとリターンの捉え方の目安に標準偏差という考え方があり、たとえば先進国株式なら期待リターンは年率6%でリスクは20%、日本株式で期待リターンが4.8%でリスクは18%、新興国株式では期待リターンが8%でリスクが28%程度のようです。

 どういうことかというと先進国株式の場合、65%の確率(1σ。10年のうち6回はこの程度で収まる。)で上振れると年率で25%程度、下ぶれると利回りがマイナス20%程度となる。

 そして95%の確率(2σ。50年のうち、48年くらいはこの範囲で収まる。)で上振れると年率で45%程度儲かる可能性がある一方で、最悪35%程度暴落する可能性があるということです。

 それ以上の損失を食らう場合は諦めるというスタンスです。じっさい、リーマンショックの時は50%以上下げていますので、あきらめなさいの世界ですね。ただ暴落しても慌てて売らずに5年も待てば損失はリカバーされてきますので、すぐに使うお金でないのならば、持っていることを忘れましょう。

 また普段から不思議に思っていることがあります。たとえば食事に行くときは値段は高い方が良いか、それとも安い方がいいかと聞かれれば、ほとんどの人は安い方がいいというでしょう。洋服を買いに行ったとすれば、バーゲンの方がいいというでしょう。

 ではなぜ有価証券を買うときだけ、多くの人はバーゲン(暴落)の時に買わずに株式がバブルに向かうとき、つまり高い時に買いたがるのだろうか。不思議です。

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 個別企業の株式を買う場合はこの通りに行かないでしょうが、市場インデックスへの投資、たとえばMSCIコクサイ指数(欧米の主要1300社程度。)や新興国株式指数(BRICSなど新興国の主要860社程度。)、TOPIX(東証上場企業全体のインデックス。1900社程度。)に分散投資していれば、下がったモノはいつかは上がります。

 上記のMSCI指数を組み合わせると世界市場の時価総額の80%くらいはカバーできるようですが、より忠実に世界全体の株式市場に投資しようとすれば、ラッセル2000指数やウィルシャー5000指数、バンガード(オール・ワールド。3400社程度!)やシュワブ(アメリカ市場。1700社程度。)のスモールキャップETFに連動するETFなどを組み合わせることが必要でしょう。

 おおまかに世界株式の多くに投資できる先進国と新興国のMSCI指数で十分ではないでしょうか。マニアックに分散を求めるならば、上記に加えて、投信でEXE-iグローバル中小株式ファンドを購入すれば、2つの中小型株式ETFを組み合わせた運用(1700社プラス3400社。)が出来るので考慮しても良いでしょう。ただし割合は10〜15%を越えないようにしたい。

 面倒ではないならば、ネット証券に口座を開き、アメリカ市場取引をしてバンガードの有名なETFであるVTを購入すれば、一本で全世界株式の95%程度に分散投資できることになります。マネックスや楽天証券で取引できます。

 債券については10年物米国債の利回りが2%を下回り、独仏英の債券も利回りが低いなか、投資するのはリターンよりも為替リスクが大きすぎるので二の足を踏んでしまいます。国内債券で見ていくといま心配しているのはマイナス金利導入により、国内債券ファンドが利回りを確保できるのかということです。

 国内債券に関しては個人型の10年物変動国債で十分でしょう。仮に金利が上がったとしても、変動国債は金利に6割くらいついていく設定になっている優れた商品ですので、雑音に紛らわされずに粛々と購入し続けたい。

 このほかには不動産REITや純金などのコモディティ投資があります。まず不動産REITに関しては市場が株式市場の100分の1というかなり小さな規模ですので、いざ暴落したときに売るに売れない状態になる可能性が高いので、総投資額の10%以下にするべきでしょう。これはアメリカ市場も同様です。

 東証上場のREITは人気が高いようですが、1日の取引数量を見ていると恐ろしいくらい商いが薄っぺらく、少なすぎます。これは世界一とされる米国市場も同じで一日の取引量は1500億円程度です。比較的株価が安定している現状でもこれだけ取引が少ないようだと暴落時には取引不成立という流動性リスクに絡み取られます。

 またこれから金利が上がっていく局面では負債が大きいREITは資金繰りがきつくなってくる可能性がありますので、持ち過ぎには注意が必要でしょう。同じようにハイイールド債市場も小さいこと及び金利上昇局面では借り換えが難しくなりますので要注意です。

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 最後に純金ですが、これは別に売価が下がっても許せる不思議な資産です。まあ最悪、暴落しても貯めた純金(まさに貯金!)で奥さんや彼女のためにアクセサリーでも作ってあげればいいかなあという程度で付き合いましょう。

 投資をもっと勉強したいという方には『ウォール街のランダムウォーカー』『敗者のゲーム』『超簡単!お金の運用術』『臆病者のための億万長者入門』『となりの億万長者』などがお薦めです。

 かなり脱線してしまいましたが、日経新聞を読んでいる方ならば、そんなに身構えなくとも楽しめるでしょうが、経済音痴の方にはかなりハードルが高いでしょう。

 映画が終わるとエンディングで懐かしいナンバーが流れてきます。レッド・ツェッペリンが1971年に発表した傑作アルバム『W』のラスト・ナンバー『レヴィー・ブレイクス』がかかるのです。堤防が決壊するとき、俺はここにはいられないというのはまさにこの映画にピッタリですね。

 パーティが終わる時という意味もあるようですので、ダブル・ミーニングなのかもしれませんね。その他、日本食レストランで食事するときのバックで徳永英明の『最後の言い訳』が流れているのも日本人としては楽しい。

 総合評価 78点




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「マネー・ショート 華麗なる大逆転」
アメリカが、国民のみならず政府までその経済的な成長を疑う事なく経済発展の春を謳歌していた2005年、最も安定性が高いと言われていた不動産市場の崩壊を予測し、不動産債権で空売りを仕掛けて莫大な利益を得たアナリスト、金融マンの物語。確かに、誰も疑うことのなかった不動産債権の格付けのカラクリを見抜き、他から嘲笑われ罵られても自論を曲げずに成功したのは「大逆転」と言っていいし、痛快である。しかししかし、…引退した元トレーダーベン(ブラッド・ピット)が言うように、この成功を声高に喜んではいけない。何故なら... ...続きを見る
ここなつ映画レビュー
2016/04/08 20:02

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