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zoom RSS 『火の馬』(1964)全作品中でももっとも解りやすいかもしれない代表作の一つだが…。

<<   作成日時 : 2014/08/27 00:52   >>

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 セルゲイ・パラジャーノフ翻案によるロシア版の『ロミオとジュリエット』という趣があるのが代表作となった『火の馬』です。タイトルは火の馬ですが、じっさいの映像で火の馬が登場するわけではなく、どちらかというと死に行く兄弟が虚空に見た、“血の馬”のほうが似合う。

 オリジナル・タイトルは『忘れられた祖先の影』です。親子二代にわたる悲劇の映画化です。代表作と呼ばれるだけのことはあり、この映画の非凡さは群を抜いています。

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 物語は悲劇的で冒頭の冬山での木こりの場面で主人公は過失を伴う不慮の事故で上の兄弟を失い、彼の葬式では貧困を嘲笑された父親が金持ちの当主に手斧で殺害される。

 一家はさらに没落し、うらぶれた挙げ句に母親も貧困のなかで死んでしまう。楽しげな幼少期や共産圏映画としてはかなりエロティックな青年期場面では青年イワン(イワン・ミコライチェック)が出稼ぎの旅に出て行った間(修行期間中)に突然、彼の子供を身ごもったヒロイン(ラリサ・カドチニーコワ)が転落事故で亡くなってしまう。

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 ラリサが亡くなって以降に非凡さは明らかになってきます。通常こういった悲しい恋愛が小説や映画で描かれる場合、悲劇的な別れの場面が訪れて終幕となりますが、この映画では生き残ったイワン・ニコライチェックが送る、その後の脱け殻の人生を描くことに主点を置いています。

 まるで心中騒ぎや自殺未遂を繰り返し、心情を小説で記述した太宰治の恥の多い後日談のようです。若い魂が抜け落ちたようなイワンは快活さを失い、姿格好はボロボロになり、急速に老けていく。

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 精悍な目付きをしていたのが、伏し目がちになり、何を考えているかも分からなくなっていく。結婚はしても、心は常に亡くなった恋人と共にあり、浮気されても気にも留めない。

 呪術師とグルになった妻には丑三つ時の藁人形のような呪いをかけられてしまう。酒場では酔った挙げ句、仲間をバカにした浮気相手に喧嘩を吹っ掛けるも、父親と同じように手斧の一撃で致命傷を受け、よろめきながら最後を迎える。

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 誰も幸せにならない悲惨な幕切れです。共産主義政権下であるにもかかわらず、何度も十字架や宗教色が色濃く出てくる礼拝、エキゾチックな民族音楽が画面を埋め尽くすのはいかにもパラジャーノフらしいが、このために15年もの長きに渡り、作品を世に送り出すことなく、投獄や強制労働の日々を送ります。

 卓越した才能を持っていても、生まれる国と時代が合わないと才能を活かせないのは残念なことです。ただまがいなりにも完全版ではなくとも、意図とは違うものを公開しなければならなかったとしても、彼の映画は魔術的な輝きを失っていませんので、独特な世界観にどっぷりと浸りたい。

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 彼のカメラは逮捕後の『ざくろの色』『スラム砦の伝説』ではまったく動かなくなりますが、この作品では自由に動き回っています。鮮やかな色彩感覚は前面に出ていて、民族衣装を身に纏い、礼拝する庶民の姿や十字架がたくさん登場します。

 パラジャーノフ作品群ではもっとも有名であり、この作品をきっかけに彼の苦難の映画人生が始まってしまう、曰く付きの一本でもある。

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 共産主義を振りかざすスターリンは民衆に根付いていた宗教を弾圧し、信仰の自由を制限します。その代わりとなる新たな価値観(宗教)として持ってきたのがマルクス主義なので、国家権力による合法的な暴力を押し出しながら、庶民や文化人に猛威を振るう野蛮な新興宗教のような感じだったのでしょうか。

 もし仮にパラジャーノフがさっさと西側に亡命できていたとすれば、彼のフィルモグラフィはより独創的で自由な気質に溢れていたかもしれません。駿馬のギャロップ、鮮やかな色彩、煌びやかな民族衣装、生命力あふれる民族音楽をより進化させて、観客を独自の世界に引き込んでくれたことでしょう。

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総合評価 85点



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