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zoom RSS 『アシク・ケリブ』(1988)パラジャーノフ最後の輝き。ついに自分の望む形での製作が可能に。

<<   作成日時 : 2014/08/23 17:02   >>

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 パラジャーノフ後期の、というよりも遺作となってしまった『アシク・ケリブ』はかつてDVD化されていましたが、現在は廃盤のようで、その他のパラジャーノフ作品同様にAmazonやヤフオクで高額で取引されています。

 それでも代表作である『火の馬』や『ざくろの色』に比べれば、かなり安い方です。いつもお世話になっているTSUTAYAお取り寄せで検索してもこの作品の取り扱いはない。

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 こうなると観るのをあきらめてしまうか、大枚をはたいてネットで購入するか、訳が分からないロシア語版動画を意味を想像しながら見るしかない。

 そんな状況でしたが、地元大阪の九条シネ・ヌーヴォでのパラジャーノフ集中上映企画が今月から来月の初めにかけて開催されているため、多くの作品をなんとか楽しめそうです。

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 大阪九条へのアクセスは以前は炎天下を掻い潜り、近鉄と阪神を乗り継ぎながら、汗だくになって、お目当ての映画を観に行かねばなりませんでしたが、現在は近鉄と阪神が三宮から奈良までが一本で直通になり、ぼくが住んでいる最寄り駅からスイスイ乗れるようになりました。

 交通アクセスの良し悪しはしょっちゅう通い詰めるとなると重要です。このためになかなか出掛けようという気にはならずに1年に一回行ければ良いほうでしたが、ちょくちょく行くようになっています。

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 近くにカレー屋さんがあり、懐かしい感じの店の雰囲気のなか、頑固だが人の良さそうなおばちゃんが出してくれるカレーと珈琲をいただくのも楽しみのひとつです。

 カレーと珈琲の間にはお腹をまろやかにしてくれるからとおばちゃんが煎茶を出してくれたり、おつまみを出してくれます。

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 上映開始が午後三時からとわりと遅めのスケジュールでしたので、てくてくと歩いて、カレーを食べに行きました。今日、お店をやっているかどうかは分かりませんでしたが、近くまでたどり着いたときにカレー独特のスパイシーな薫りが漂ってきましたのでホッとしました。

 食べ終えると僕らの名画座シネ・ヌーヴォに向かい、整理券をもらい、列に並びます。そう、ここは昔懐かしの早い者勝ちの座席システムなのです。

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 最近は大きなシネコンが圧倒的に増えてしまったために座席指定が普通になり、こういうスタイルはあまり見かけなくなりましたが、僕らが高校生くらいまではこんな感じで映画が始まるかなり前の時間から並んでいて、一日中見続けるのが一般的でした。

 残念なのはシネ・ヌーヴォも一回ずつの入れ替え制になっていて、ずっと同じのを見ていられないことです。それでも懐かしい雰囲気を持つ、この名画座にくると原点に戻ってきたようで、なんだか落ち着きます。

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 『アシク・ケリブ』はこれまで抑圧され、制限され続けてきた表現の自由がグルジアの大立者になったシュワルナゼ外相から与えられ、喜びのなかで撮りたいものを撮りたいように撮影していたパラジャーノフの感情と個性が爆発している作品です。

 『火の馬』以後の『ざくろの色』『スラム砦の伝説』ではほぼ固定カメラで真っ直ぐに対象を捉えてきた彼の視点はこの作品では自由奔放に動き回り、さまざまな撮影を工夫しながら楽しんでいるのがはっきりと分かります。

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 もともと大好きだった六大芸術のひとつ、つまり人間が制作した道具のデザインや静物である果物や魚といったパラジャーノフ本人が見せたい嗜好性が思う存分感じられます。「あれを見せたいんだ。」「これも見せたいんだ。」という衝動を抑えきれない感じが微笑ましい。

 クレーンを使用していると思われる構図の作り方が特徴的で何度か同じ撮り方を試しています。自宅の植え込みの奥辺りに設置しているカメラはアシク・ケリブらが向かってくると高さを変え、上から見下ろす位置にあったのが植え込みから彼らが抜け出してくる頃には仰角で捉えている。

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 それをワン・シーン・ワン・カットで行っています。また最大のイタズラが仕掛けられていて、それはラストの婚礼シーンの前後にきます。なんとフィルムを装填した撮影に使用しているカメラをも写してしまうのです。

 まるでインドのマサラ映画のように賑やかに踊っているシーンがラストに配置されているのも異色で、ハッピーエンドで彼の映画が終わるのは数少ない。冒険譚『アンドリエーシ』は悪魔退治で終わり、『ウクライナ狂騒曲』も恋人に再会して終わるはずだったのでこれら三本だけだろうか。

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 民族衣装も似合う人とそうではない人がいるようで、まるでハクション大魔王にしか見えない者も多く出演していて、格好も体格も魔王にしか見えなくなり、笑ってしまうカットもありました。

 その他にもマシンガンを構えるシーン(いつの時代を扱った作品なんだろう?)などもあり、
楽しくて仕方ない様子がフィルムのあちこちに見て取れます。もちろん、いつも通りの彼独特の色彩感覚は健在で、色とりどりの民族衣装が背景の荒涼とした岩肌との対比でより美しく見えます。

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 音楽の多用はパラジャーノフ映画の重要な特徴でもあり、民族音楽の生命力に満ちた力強さに驚くかもしれません。彼が考えるミュージカルだったのでしょうか。

 この作品では『ツィゴイネルワイゼン』『アヴェ・マリア』をエキゾチックにアレンジした楽曲が用いられていて、彼の思想的立場がけっして民族独立という反共だけだったのではなく、民族融合だったのではないかと思わせてくれます。

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 彼が長い間、やりたいことも満足にできなくなるきっかけとなる民族衣装や宗教文化の描写ではありますが、彼はもしかするとただただ道具のデザインの美しさと機能性の素晴らしさから、こういったエキゾチックな音楽や衣装を好んでいただけだったのかもしれません。

 本日は『スラム砦の伝説』『アシク・ケリブ』『火の馬』の三本を一気に観てきたので、かなり疲れてしまいました。よく映研の学生らしき人たちもいますが、彼らはいつも修行中の若いお坊さんのような感じでフィルムに向かい合っているみたいです。

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 今週は残りの三本『ざくろの色』『アンドリエーシ』『石の上の花』を観に行く予定です。修行僧になった気分で九条シネ・ヌーヴォを後にしました。帰りも電車に揺られて家路につきますが、一本で行けるからストレスもない。

 パラジャーノフの綺麗な映像は日頃の仕事で汚れきった僕らの目を洗ってくれたに違いない。とりあえずは今日の夜は残像に浸りながら、毎日日課にしているウォーキングに出掛けよう。まあ、ゆったり気分なので、夜の散歩になるでしょう。

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 遺作になってしまった『アシク・ケリブ』はパラジャーノフ魔術の総決算的な意味合いもある。
今回、一気に一日に四本ものパラジャーノフ映画を観たことで、そこかしこに繰り返し出てくるモチーフや繋ぎのクセがかなり多いことに気づきました。

自身が映画表現として納得して撮っていたであろうカメラを正面に据えての左右均衡する構図や室内から野外の様子(つまり奥でも演技をしている。)を捉える構図の多用に代表される映像表現、恋人を奪われるモチーフや魔術や宗教の肯定。

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 静物や道具のデザインという日常に埋没している芸術に向き合い、再度挑むように馬の疾走、羊の群れ、ざくろの果実、色鮮やかな民族衣装、生命力にあふれる民族音楽で映画を満たしていく。

 馬のギャロップは彼の映画では多く採用されていて、『スラム砦の伝説』などにも出てきましたが、今回の聖者の馬に導かれて千里を駆け抜けるシークエンスは完成度を増し、とても印象深いシーンとして記憶しています。

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 自叙伝的な映画を撮りたいと彼の主演女優、ソフィコ・チアウレリに語っていたというセルゲイ・パラジャーノフでしたが、その夢を果たすことなく、映画の最後に盟友アンドレイ・タルコフスキーへの追悼を述べて、彼の映画人生は終わります。

 風変わりな才能を当局が抑圧しなければ、壮年期にあと数本は世に送り出してくれたでしょうし、『ざくろの色』の完全版がパラジャーノフが望む通りの形で公開されていれば、世界に衝撃を与えたかもしれません。

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総合評価 85点


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