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zoom RSS 『アッシャー家の末裔』(1928)サイレント映画末期の傑作怪奇映画。ブニュエルも参加。

<<   作成日時 : 2014/07/21 20:24   >>

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 ジャン・エプスタイン監督によるサイレント映画黄金時代最後の輝き、もしくは傑作として名高いのが『アッシャー家の末裔』です。

 映画史上に残る作品なので、どれほどの名作なのだろうかと期待を膨らませて見ていくと、大きな肩透かしを食らってしまうか、あっさりとした展開に失望してしまうかもしれません。

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 それでも地元民が行くのも嫌がる不気味な屋敷を囲む霧が晴れて、全貌が明らかになるシーンを見るだけで幻想的な世界観が現れる。このシーンもどこかで見たなあと思ったら、黒澤明監督の『蜘蛛巣城』でのオープニングがそっくりでした。『アッシャー家の末裔』を映画ベスト100に選出していた黒澤監督ですから、このシーンをやってみたかったのでしょう。

 屋敷に叩きつけてくる強風の音や風によって擦れながらたなびくカーテンの音が聞こえてきそうな臨場感は艶かしく、ホラー演出の定番です。サイレントなのに音がしているとしか思えないカットがいくつもあります。それこそがジャン・エプスタインの才能とも言えます。

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 何度も繰り返される燃え盛るローソクや暖炉の火のイメージと荒涼とした風景との二重露光シーンなどは精神的な内面を描いているのではないか。スローモーションを多用した物質落下、つまりポルターガイストのようなシーンには映像に慣れていなかった当時の観客はさぞ驚かされたことでしょう。

 アッシャー家の当主(ジャン・ドビュクール)が一心不乱に描けば描くほどに絵の中の妻(マルグリット・ガンス)は艶めかしくなるものの、現実の妻がどんどん衰弱していく肖像画シーンはまるで絵が生きているような妖気を放ち、不気味になっていきます。

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 ついに倒れた妻を埋葬したはずなのに黄泉の国から復活してくる(じっさいは生きたまま埋葬された。)シーンは当時はショッキングな描写だったでしょう。

 奥さんがまるで亡霊のようでかなり恐ろしかったりして、そういった映像が観客に恐怖を与えたはずです。現在の観客からすると何と言うこともないシーンばかりなのですが、それは裏を返すと引用され過ぎたために映像に既視感が生じていて、驚きを感じなくなってしまったからにちがいない。

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 怪奇的かつ幻想的な映像の魔術を探求した末の到達点であり、その後のホラー演出のお手本になっています。それすら気づかないのはお約束の基本ソフトのようにやり方が当たり前になってしまったからでしょう。

 また一つ一つのカットの積み重ねを意図的に行うモンタージュ手法はセルゲイ・エイゼンシュテインが有名ですが、この映画が喚起してくる詩情の豊かさもモンタージュとは違う映像文化が熟成されてきたからこそかもしれない。

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 常に自然音を感じさせる無音の映像技術とセンスには現在のクリエイターでも見習うべきポイントが数多くあります。

 怪奇映画のベタな演出の始祖的存在がこの『アッシャー家の末裔』なので、現在のファンが見た後の幻滅を味わうのではなく、先祖を知るつもりで接した方がより様々な気づきがあるかもしれません。

 ふいに挟み込まれる川の流れのカット。違和感を覚えるのは固定概念かもしれませんが、川上に向かって逆流しているように感じてしまいました。

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 葉っぱが繁っているようには見えない剥き出しの枝が寒々しい屋敷周りの死にかけたような森は怪奇演出であるだけではなく、主人公の心の風景そのものに感じます。

 妻の肖像画を執拗に描き込んでいく主人公の目には狂気が見えます。歩いていた野良犬にこの屋敷から出てきた友人(シャルル・ラミ)が手招きしても、禍々しく、不穏なものに近づきたくはないとでも言いたげにそっぽを向いて遠ざかっていくカットは何気ない映像ではありますが、無垢な動物が何かを感じて逃げていくことでより薄気味悪さを倍加させてくれます。

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 いかにもシュール・レアリズム的なヒラヒラと漂うヴェールは意思を持つように動き回り、前半部分から何度も登場するカーテンの揺れと連動するようです。ただならぬ雰囲気を堪能できれば、この映画の良さを理解したのだと言えるかもしれない。

 シュール・レアリズムの巨匠、ルイス・ブニュエルがこの作品の脚本に関わっていて、彼独自のセンスも映画の妖気を醸し出す手伝いをしています。

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 ダリとヒッチコックの融合は必ずしも機能していたとは言い難いのですが、この作品でのジャン・エプスタインとブニュエルはしっかりと機能している。

 物語はどこか中途半端に感じますし、映像に新鮮さを感じることは難しいのは仕方がないのでしょうが、映画の発展に寄与したのも事実だからこそ、映画史に名を残す作品として今でも語り継がれているのも事実です。ちなみにロジャー・コーマン監督の『アッシャー家の崩壊』はこの作品の続編だそうです。

総合評価 80点


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映画評「アッシャー家の末裔」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中) 1928年フランス映画 監督ジャン・エプスタン ネタバレあり ...続きを見る
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2016/11/17 19:08

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
TB返しに参上致しました。

予想以上に良かったです。
特に終盤、クライマックスの雷鳴轟き稲光きらめく場面では音が聞こえるようで、興奮しましたねえ。お世辞で言うことはよくありますけれど、幻聴を誘発しましたよ。

>『蜘蛛巣城』
なるほど。言われてみれば。

>生きたまま埋葬
ポーさん、これが好きで、幾つも書いています。
「黒猫」も、そのヴァリエーションでしょうし。

>現実の妻がどんどん衰弱していく肖像画シーン
オスカー・ワイルドはこの逆パターンを「ドリアン・グレイの肖像」で考えましたね。絵のほうが精気を失う代わりに、実際の人物は永遠に若い。

で、モデルになっているヒロインが倒れるところは、描いている主人公はリアルスピードで、彼女はスローモーションで、切り返されていたと思います。
これは結構斬新ではないですか?
サム・ペキンパーが「ワイルド・バンチ」で、客観ショットと主観ショットの切り返しで同じようなことをやっていたのを思い出しました。

それでは、また。
オカピー
2016/11/17 19:32
こんばんは!

無声映画時代というのは本当に映画芸術にとっての黄金時代で、映画表現のほとんどはすでに出尽くしていますね。

>切り返し
こういう表現は現代でも十分に使えますので、映画製作者のひとたちはもっとクラシックをしっかりと見直して、より洗練されて、スマートな映像表現を学んでほしいですね。

ではまた!
用心棒
2016/11/17 20:11

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『アッシャー家の末裔』(1928)サイレント映画末期の傑作怪奇映画。ブニュエルも参加。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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