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zoom RSS 『煙突屋ペロー』(1930)戦争の影が忍び寄る昭和初期に制作されていたアニメ短編。

<<   作成日時 : 2014/05/20 23:03   >>

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 先日、ベラデンさんからのリクエストにより、『煙突屋ペロー』という一本のアニメーション映画についての記事を書くことになり、さっそく本日、動画サイトへ視聴しに行きました。

 タイトルは『煙突屋ペロー』でスタイルは影絵アニメーションでした。ぼくはこのアニメの存在を知りませんでしたので、今回が初めての視聴となります。上映時間は約23分間です。現在の感覚での23分間というとたいして長くもないと思われるでしょうが、制作されたのは1930年です。しかもこの当時は映画自体が最新の娯楽だったわけで、アニメなどはまだまだ世間で認知されている存在でもありません。

 ディズニーは『蒸気船ウィリー』や『プレーン・クレイジー』などを皮切りにして、大スターのミッキーマウスをすでに映画館に登場させていましたが、長編となると『白雪姫』まで待たねばなりません。

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 そんななか、中野喜次がほぼすべての制作の権限を任されて、出来上がったのが子供向けという括りの『煙突屋ペロー』でした。上映当初は子供向けということもあり、検閲などの目も厳しくはなかったようなのですが、この作品の完成度に着目した左翼系の人々により政治利用されてしまいます。

 中野自身の思想がどうだったのかは分かりませんが、プロレタリアート系の人だったのは事実のようです。ただ何故、子供向けだったはずのこの作品が左翼によって大人向けにも利用され、またそれに伴い、軍部ににらまれるような顛末になってしまったのだろうか。その答えは作品の持つテーマの深刻さとメッセージの力強さにあるのではないか。テーマは反戦と平和です。

 軍部が突っ走っていく大正後期から戦争終結までの昭和20年くらいまでは表現の自由などは軍国主義の前では無意味であり、現在も続いている新聞社もすべてが軍部を支持していた時代です。現在は中国とロシアの利益のために意図した情報の伝え方をしている某新聞社も当時は軍部支持をしていました。

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 長い物には巻かれろという時代にほぼアマチュアの人々ばかりが集まって、出来上がったのがこの作品であり、今でも革新系候補者が強い京都という土地柄も影響したのか、すぐにこの映画の持つメッセージの強さに着目した左翼系の人々はエイゼンシュテイン作品などを上映する際に一緒にスクリーンに掛けたようです。

 もともと商業用映画ではないので、検閲自体は強くなかったはずですが、あの時代に「戦争反対」を叫ぶことがどれだけ危険かを知れば、その意志と覚悟は認めるべきであろう。

 作品は前半と後半に分かれていて、前半部では王族の汽車を破壊してしまった罪で死刑囚にされてしまった主人公の煙突修理工ペローが鷲に追われていた鳩の命を匿ったお礼にもらった魔法の卵を使って、侵略者を撃退するところまでが描かれる。

 御伽噺として作られていますが、見れば風刺作品であることは誰でも理解出来るでしょう。鷲が鳩を襲うというシーンがありますが、どうせならば鷹が鳩を襲った方が分かりやすかったかもしれません。

 後半部では期せずして救国の英雄となったペローが故郷へ帰る道すがら、火災で木々が枯れ果てた山々の風景、建物が破壊されつくされ、多くの負傷者や兵士の惨たらしい死にざまを晒しているのを見るにつけ、自分がやったことは英雄的行為ではなく、ただの大量殺戮だったのに気付き、すべての褒美と魔法を投げ捨てる。

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 故郷に帰ってからのペローは毎日、畑作りに励み、母親とともに平和に暮らしていくという場面で物語は閉じられる。お話そのものが当時の軍国主義的な風潮の中では異端であるかもしれません。そのため、当時は検閲が入り、ペローが褒美をもらう場面までで終わる編集もあったようです。

 そうなると作者が伝えたいことが全く誤解されてしまう、正反対な内容になってしまいます。じっさいに戦火に焼かれたのか、ハサミを入れられてしまったからなのか、後半部分のプリントは行方不明になってしまいますし、前半部でさえも長らく不明のままでした。

 その前半部が発見された後に有志によって復元され、当時はサイレント作品だったのを理解しやすくするためにサウンドトラックを入れて、『まんが日本昔ばなし』で有名な常田富士男が弁士代わりにナレーションを吹き込んでいます。僕が戸惑ったのはまずはこの点で、1930年製作なのにあまりにもクリアなサウンドと聞き慣れた常田富士夫の声に違和感がありました。

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 そしてフィルムの保管が悪かったであろう当時の作品にしては映像もかなり綺麗だったので不審に思い、色々と調べていくと結局は後半部分については原版が見つからず、スチールなどをもとに制作し直したようなのです。それらを知り、ようやく合点がいきました。

 つぎに作品のクオリティを見ていきます。見ればご理解いただけるとおもいますが、影絵の出来栄えが素晴らしく、小さいころに見た千代田生命の影絵アニメと遜色はなく、高レベルに仕上がっています。またアニメ技術など何も伝わっていなかったであろう当時にあいて、これほどのスムーズな動きを成し遂げた制作陣には尊敬の念を覚えます。ただいくつか残念な点もあり、砲撃シーンにおいて、イマジナリーラインがごちゃごちゃになってしまっている部分があります。

 それらにも増して、このアニメ作品に凄みを感じる点が二つありまして、まずは白と黒だけではない灰色の素晴らしさです。白と黒だけではどうしても単調になってしまうところを中間色であるさまざまな灰色を加えることによってより躍動感が伝わってきます。もう一点は縦横と上下の動きだけではなく、画面の前後の動きという奥行きを与える動きを意識している点です。つまり遠近感もしっかりと伝わってきます。

 製作者は何気なく進行させていきますが、驚きのテクニックがこの短編には詰め込まれています。左翼系に利用されて、軍部に睨まれていたためにあまり有名とは言えない存在ではありますが、主張と政治臭さは抜きにしても再評価すべきではないか。

 ベラデンさんもご指摘の通り、『西部戦線異状なし』(ペローの方が先に公開。)についても『シヴィリゼーション』などの影響もあるのでしょうが、実写でやるのとアニメでやるのとでは全く作業の質が違います。兵士が大量に戦死していく様子はもとより、とばっちりで死んでいく市民の様子、放置された多くの亡骸まで描写している点は斬新です。純朴だったであろう当時の子供たちにとってはトラウマになりそうな映像体験だったのではないか。

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 子供向けだったとはいえ、大人の視聴にも十分に耐えられる秀逸な影絵アニメーションがわが国にも存在していたことをアニメファンも知っておくべきでしょう。表現の自由が規制されていた時に反戦を語る難しさは僕らの想像以上でしょう。

 最近は『美味しんぼ』問題などもあり、表現の自由にも色々と批判が浴びせられています。僕もこの漫画は大好きで、よく読んでいましたが、今に始まったことではなくこの漫画はけっこう政治的な問題も取り上げていて、捕鯨に関するエピソードや農薬使用に関するエピソードなどもあり、古くはコメの自由化などについても描いていたこともあり、時事問題にもあれこれ言ってくるマンガではあります。

 今回は勇み足的な感じにはなっていますが、問題提起ということでは一定の評価を与えても良いのではないか。もちろん放射能問題は深刻です。チェルノブイリと比べて、本当のところはどうなのだろうか。帰れないならば、推進してきた国は移住をきちんと説明すべきなのでは。知りたいのはそこなのです。

総合評価 80点


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コメント(8件)

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管理人さん、私がリクエストした作品を記事にしてくださって本当に本当にどうもありがとうございます!!O(≧∇≦)O

本作品の明記に関しても詳細によくお調べして頂いて本当に感心致しました。

「煙突屋ぺロー」で一番印象に残った場面は、戦場で敵の銃弾に撃たれた兵士達が死の間際に「お父さん!!」「お母さん!!」「姉さん!!」と家族の名を叫びながら息絶えるシーンです。あの当時の子供向けのアニメでここまでリアルな描写を「ガンダム」より遥か以前に描いていた事実に驚愕しましたよ!!

因みに「ぺロー」以前にも、海外でこうした戦争の悲惨さを訴えた反戦アニメってあったんでしょうかね?そこらへんどうなんでしょうか?
ベラデン
2014/05/22 01:13
それにしても見返せば見返す程、この作品は本当によく作られてると思います。今見ても全く古びてません。前述しましたが「ガンダム」や「ヤマト」の遥か以前に勧善懲悪を否定したアニメが既に存在した事に驚くばかりです。特にラストのぺローが汽車の窓から戦禍の傷跡を見て心を痛める場面は「宇宙戦艦ヤマト」の荒廃したガミラスの惨状に嗚咽する古代進の場面と重なりますし、敵兵の侵行に乗じて領土確保の野心を提案する独裁者の姿は「ガンダムシリーズ」の地球連邦政府やジオン政府の腹黒い姿と重なります。
「ぺロー」はそれら全てのリアルアニメの元祖でしょう!!わずか20分の子供向けアニメでリアルアニメ全ての要素を誕生させたのですから!!

手塚治虫先生がその元祖と言われてますが、上には上がいたんですね〜。この素晴らしいアニメが大して取り上げられない現状が凄く理不尽に思います。もっと多くの人達に知って貰いたいですね。早くDVD化を強く希望します。
ベラデン
2014/05/22 01:49
度々しつこく投稿してすみません(;^_^A

このぺローに注目したいのは、今のアニメの王道パターンである「1.主人公が平凡な少年」 「2.そんな主人公がヒョンな事から国家的(または世界的、宇宙的)大事件に巻き込まれる」 「3.いつの間にか主人公が無敵の力を手にしてしまう」 「4.その無敵の力で巨大な敵の軍勢相手に勝利する」 「5.主人公はヒーローとなるが、過酷な戦いによって心が傷つき根暗のヘタレに成り下がり苦悩する(笑)」
…と、いった「ガンダム」や「エヴァ」などのリアルアニメの王道パターンの要素を80年以上前に確立していた事です!!
製作者は本当に天才としか云いようがありません。
ベラデン
2014/05/22 02:17
 おはようございます!熱いメッセージをありがとうございます。

 この作品の完成度は驚きですよね。紹介してくださってありがとうございました。ビデオ時代は教育用ビデオとして発売されていたようですが、定価が一万円だったようです。

 DVD時代の現在の感覚からすると高く見えますが、ビデオ時代の定価としたら、それほどびっくりする価格ではありません。

 現在は書籍のみが販売されているようです。廉価版で戦前アニメ大全みたいなDVDを発売してほしいですね。海外版では初期映画運動期の短編をまとめて収録していたりする商品もありますので、歴史的価値を後世に伝えるためにもリリースを期待したいですね。

ではまた!
用心棒
2014/05/22 09:37
ありがとうございます。
ところで前述しました、「ぺロー」以前にも海外とかで反戦を描いたアニメ作品ってあったんでしょうかね?
ベラデン
2014/05/22 11:19
 こんにちは!

>反戦
う〜ん。どうなんでしょうかね?
あまり伝わってきていないですよね。アニメ自体が海外作品はディズニーとかのイメージばかりですし、もしかするとチェコだったり、東欧圏とかロシア圏などの東側ではあるのかもしれませんね。

 それと大昔のアニメということで、もしかすると『海の神兵』のビデオが手に入るかもしれませんので、見ましたら感想を書いていく予定にしています。
 ではまた!
用心棒
2014/05/22 12:34
もしかすると思うのですが、実は手塚治虫さんも幼い頃にぺローを見ていたのではないでしょうか?ぺローは1930年〜34年に上映禁止されるまで関西を中心に地方で上映されたと聞きます。なので関西出身の手塚先生も恐らく幼少の物心つく前に子供会などで見ていた可能性はあると思います。
勿論、手塚治虫自身、大量のアニメや映画を見ていたのでぺローを見た記憶は朧気だと思いますが、あの例のラストシーンだけは朧気ながら記憶に残っていたんじゃないでしょうか。それと太平洋戦争のトラウマとも相まって、数々の勧善懲悪を否定した名作を産む原動力となったんではないでしょうか?
ベラデン
2014/05/25 14:13
 こんにちは!

>手塚
関西にいたわけですから、もしかすると見ていたかもしれませんね。小さい時に見た作品って、題名を覚えていなくともどこかしらのシーンが頭に残っている場合が少なからずあります。

それがオリジナルなのかどうかは分からない時もあるでしょうね。ポール・マッカートニーは「Yesterday」の旋律がふと降りてきたときに周りのスタッフにそのメロディがオリジナルか既存曲で存在するかを確かめたそうです。

>勧善懲悪
常に正義が勝つわけではないのは中国の傲慢な不作法が国際社会でもまかり通っていることでも明らかですし、リアリストとしての接し方を平和ボケしているマスコミが意図的に避けている報道もどうなのかと思います。

現実は厳しいわけですから、最悪を想定した動きを政治が準備するのは国民を守るためには必然でしょうし、攻め込まれてから、「あの時にやっときゃよかった。」では遅いですしね。

戦争のない世界は素晴らしいですが、戦争を避けるための抑止力は必要でしょう。どこまでが自衛でどこからが侵略なのかは難しいですが、いざ他国が侵略行為をしてきた場合、対応せねばならないのは国家の責務でしょうし、財産保護の観点からも反撃できる体制構築は必要でしょうし、難しいですね。

ではまた!
用心棒
2014/05/25 17:51

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『煙突屋ペロー』(1930)戦争の影が忍び寄る昭和初期に制作されていたアニメ短編。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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