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zoom RSS 『恋人たちの曲/悲愴』(1970)音楽家チャイコフスキーって、こんな変なヤツだったのか?

<<   作成日時 : 2014/02/23 20:46   >>

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 『恋人たちの曲/ 悲愴』はかつて日本語字幕版ビデオが販売されていて、大きなレンタル屋さんにはたまに在庫があったりして、ぼくも何でもかんでも見まくっていた学生時代にビデオを借りてきました。

 ロシア・クラシック音楽の巨匠、チャイコフスキーを扱った作品なのでお堅い文芸物だろうと思って借りてきたのですが、まさかの衝撃的な内容で驚きました。

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 どこまで史実に忠実なのかは定かではありません。監督はケン・ラッセルですので、後々考えると『リスト・マニア』と同じように音楽家を神聖視などせずに、単なる奇手烈な俗物として見下す作風になるのは確実です。

 ラッセルの癖を熟知していれば、どういう風に描かれるかを覚悟して見るべきだったのかも知れませんが、当時はネットもなく、誰がどれを監督したのかというフィルモグラフィ的なデータなど皆無でしたので、ビデオ屋さん通いをするようになって、ようやく点(作品)と線(歴史)が繋がるようになってきました。

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 『組曲第二番 スケルツォ・ブルレスク』で始まるオープニングの雪遊びシーンから『ピアノ協奏曲 第一番』に流れ込んでいく構成は圧巻です。この導入部で登場人物の相関関係や立場を映像で表現しています。

 チャイコフスキーと妹との近親相姦関係やお友だちとのホモ・セクシャルを臭わす関係性、後に妻となるアバズレの無教養だが本物を見抜く野生の勘、パトロンなのにまともに挨拶すら交わさないフォン・メック夫人の立ち位置、ルービンシュタイン(マックス・エイドリアン)との確執などが観客にも自然に理解出来ます。

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 ケン・ラッセル監督の実力が最大限に発揮されている名シーンではないか。チェンバレンの回想は音楽と共にあり、楽しいシーンは懐かしむように靄がかかっている。

 一方、トラウマとなっている母親の死に際の回想ははっきりと細部まで映像が写っていて、どれだけ幼少期に受けた心の傷が深いかを表現しているように思いました。

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 チャイコフスキーを演じたのはリチャード・チェンバレンで精神を病んでいる状態でのギョロリとした猛禽類のような眼を持つ異様な迫力は観た者を圧倒し、長く心に残ります。『タワーリング・インフェルノ』や『将軍』しか思い浮かばないのは日本の映画ファンならではでしょうか。

 楽しい空想では白い衣装を身に纏っているが、現在のシーンでは汚ならしく、ドロドロした感情が渦巻いたように見える。『白鳥と湖』では妻と元恋人(ピョートルのボーイフレンド!)のクリストファー・ゲイブルが居合せる悪趣味な席順で何も知らない彼女が「私の夫が作曲したんですよ。」と誇らしげに語るシーンがかなり皮肉に映る。

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 またこの時上演されているのは『白鳥の湖』でのブラック・スワン登場場面ですので、その後の結婚にも暗雲が立ち込めるという暗示でしょう。ただここでも野外ステージが組まれていて、当時に本当にああいった感じでステージが組まれたかどうかは疑わしいのですが、贅沢な貴族の趣味にはぴったりだったのでしょう。

 結局、チャイコフスキー(チェンバレン)を破滅させたのは妻ではなく、元・恋人のクリストファーであることが示されます。グレンダとチェンバレンを引き裂こうとしたり、パトロンだったフォン・メック夫人に彼の性癖やトラブルを告げ口するのも嫉妬に狂ったクリストファーですので、この映画では彼がチャイコフスキーを没落させる張本人であるという解釈のようです。

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 チェンバレンは素晴らしい演技を見せていますが、この映画でのMVPは彼の妻を演じたグレンダ・ジャクソンに尽きます。淫乱で欲得ずくで、無教養な妻を見事に演じていて、彼女の性的衝動とそんな自分を拒絶されたことによって精神に異常をきたすまでがこの作品にリアリティを持たせているような感じがします。

 とりわけ列車内で催した彼女がチェンバレンに狂ったように抱きつき、彼を求めて一匹の雌として襲い掛かるシーンは強烈な印象を残します。貧相な身体つきのグレンダ・ジャクソンですが、性欲の塊になって走行中で揺れまくる車内でチェンバレンに突進する様は凄味があります。

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 ただ残念なのはビデオ時代ということもあり、性交シーンにはモザイクやマリモ(ボカシのことです。)が掛けられまくっており、狂気のシーンを邪魔しています。今後、DVD化される折には修正なしバージョンでお願いしたい。いまどき陰毛が写ったぐらいでガタガタ騒ぐ方がどうかしていると思います。

 このシーンを含め、彼らの夫婦関係では常にグレンダがチェンバレンに直接的な愛情表現をする(つまり、肉体関係を求めていく。)場面が多く、ホモのために要求に応えられないチェンバレンが発作的に首を絞めたりして、彼女との距離が広がっていく不幸な結婚が描かれていく。妻である自分をまったく愛してくれないグレンダはついに精神異常に陥る。またチェンバレンも自殺未遂事件を起こしてしまう。

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 後半、彼女も精神を病み、精神病棟で拘束されます。フリークスも混じる食堂での喧騒や地下の小さな隙間から手を出して、発狂したグレンダの体をまさぐる精神異常者たちに群れは言い方は悪いかもしれないが、まるでゾンビのようなおぞましさでした。そんなときにチャイコフスキーが最後に作曲した『悲愴』が掛かるのです。ドラマチックな死のイメージではありますが、ファンにはこういう演出は許せないでしょう。

 生水を飲んで伝染病に罹ったチェンバレンは母親と同じように熱湯を全身に浴びせられてしまう。数日後、彼は亡くなったそうですが、事実関係は今も謎が多いようです。

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 発狂状態から醒め、小康状態を保っているグレンダが檻のような病室の小さな窓から外を眺めるシーンで映画は閉じられます。

 精神的なストレスが原因で精神に異常をきたしたのか、性病が原因で脳に異常をきたしたのか。ホモだったと言われるチャイコフスキーにも性病説がありましたので、彼女が罹患しても不思議はないですし、性的に奔放だった妻から致命的な性病をもらってしまったのかもしれません。クラシック・ファンにはこういったスキャンダラスな解釈は受け入れられないでしょう。

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 性病が脳に影響を及ぼすこともあると聞いたことがあるので、晩年は精神的に参っていたと言われるチャイコフスキーにさらに性病の影響があったとしても不思議ではないでしょう。

 『白鳥の湖』や『ロミオとジュリエット』の場面での音楽と映像との融合は素晴らしく、ケン・ラッセル監督の才能が頂点に達しているのが分かります。日本でももっと評価されるべき映画人の一人でしょう。

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 『序曲 1812年』がチャイコフスキーと妻の元婚約者の粗暴な男との決闘シーン(幻想。)や周囲の喧騒から逃げ惑い、挙句の果てに大砲で皆の頭を吹き飛ばすシーン(なんだこりゃ?)で使用されているのは個性的です。他にもかなり多くのチャイコフスキー作品が映像と関連付けて流されているようなのです。

 が、そこまでクラシックを知っているわけではありませんので、もしこの映画をクラシック・ファンが聴けば、違った発見や楽しみが出来るでしょう。ただし、チャイコフスキーがホモで、不能で、精神異常者であるというケン・ラッセルの解釈が受け入れられる方限定にはなってしまいます。

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 有名な映画を中心にDVDリリースが一通り完了している現在、今後はケン・ラッセル、アレハンドロ・ホドロフスキー、コーネル・ワイルドらにもっと注目して欲しいですね。

 クラシック界の巨匠のひとりですが、ホモ・セクシャル、乱交、異常性欲、インポテンツ、性病、階級差別、熱湯で生きたまま最終処理(つまり殺害。)されるコレラに犯された母親の不幸な末路など知らなかったことがたくさん出てきます。本人も最終的に熱湯消毒されてしまいます。まるで狐憑きで祈祷師に言われるままに熱湯をかけて殺してしまうような場面でした。

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 もちろん全部が実話とも思えませんが、与えるインパクトは強烈で、見た後では彼が残した『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』『序曲 1812年』『ピアノ協奏曲 第一番』などの至高のクラシック音楽の数々の名作がドロドロした悩ましい経験から生まれてきたのだと気づき、感慨深くなります。

 少し考えてみれば、ほとんどが農民や労働者だった時代に貴族やパトロンの援助がなければ暮らしていけないヒモのようなミュージシャン(笑)という職業を選んだ奴らが一般常識では語り切れない性癖を持っていても不思議ではないのかもしれない。

 またいくつかの名曲はミュージカルのように使用されていて、歴史物と音楽映画の融合というかなり実験的な作風も垣間見えます。

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 10分以上に渡る『ピアノ協奏曲第一番』を含むピクニックシーンは世知辛い現在では編集はおろか、無駄なものとして撮影すら許されないかもしれない。

 現在は視聴が困難な作品であり、Amazonでは輸入品で6000円以上、ヤフオクでもならなかビデオが出回りません。

 今回、なんとか伝を頼り、日本語版ビデオを再び見ることが出来ました。動画サイトには『MUSIC LOVERS』のオリジナル・タイトルで検索すれば、ロシア語のファイルがアップされてはいますが、馴染みのない言語なので、さっぱり訳が分からない。

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 せめて英語字幕でもつけて欲しいところではあります。チャイコフスキー自身の末路は諸説色々出回っていて、暗殺説などもあるようですが、今では死の前日に滞在先のイタリアで飲んだ生水が原因で病気になり、急逝したというのが定説のようです。

 なかなか見れないので、TSUTAYAさんには頑張って欲しいですね。衝撃的内容も相まって、グイグイとケン・ラッセルの思うがままに作品に惹きこまれていきます。彼の最高傑作なのかもしれません。

総合評価 88点


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用心棒さん,今晩は。
本作はTVの『月曜ロードショー』で観た覚えがあります。ケン・ラッセル監督作品は封切り時に『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』(1979年)を劇場で観ておりましたので,その後TVにて本作に接した際には「あ,この人ってムカシからこんな映画を撮っていたんだ」と思ったものです。
おそらく,予備知識ナシで本作に接した方は文芸作品との先入観が先ず頭にあることでしょう。それゆえにあのイメージに遭遇したらビックリですよネ。
腰を据えて再度 観なおしてみたいかなりの曲者映画だと思います。
snowman
2014/03/12 02:21
 こんばんは!

>文芸作品

 ふつうチャイコフスキー映画と言われれば、誰でも名作をちりばめた繊細で綺麗な文芸作品だと思いますよね。ぼくも不意打ちを食らった一人です。

 これのあとに『リストマニア』を見たので、「ああ、この監督はまたやってらあ…。」という免疫が出来ました。ラッセルはマーラーも餌食にしたようなのですが、未見ですよ。かれもめちゃくちゃにされたんですかね?

 表現に問題がありではありますが、それも含めての個性だとすれば、かなりの才能ですよね。

 ではまた!
用心棒
2014/03/12 23:36

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