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zoom RSS 『情無用のジャンゴ』(1966)残虐描写で悪名高いマカロニ映画表現の極北。

<<   作成日時 : 2012/08/30 19:21   >>

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 これまでに、いったい何本くらいマカロニ・ウェスタン映画が撮影されたのかは定かではありませんが、そのなかには『荒野の用心棒』『ジャンゴ』のように名作として後世に残るものがある一方で、誰にも顧みられることなく、映画会社の倉庫に埋もれ、フィルムが散逸してしまったものも多いでしょう。

 さきほど“ジャンゴ”と書きましたが、ご存じのように『DJANGO』には『続 荒野の用心棒』という縁もゆかりもない邦題がつけられています 。

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 マカロニ作品に限らず、西部劇にはたいがい“荒野”“決闘”“用心棒”“無頼”“ガンマン”などとともに“ジャンゴ”という言葉が入ったタイトルがつけられているものが多い。

 それだけこれらのワードが観客に西部劇やマカロニ風味の言語として認知されていることの証拠なのでしょう。イタリアでの公開当時はこの映画のオリジナル題は『SE SEI VIVO SPARA』、訳すと「生きているなら撃て!」、リバイバルのときは『ORO HONDO』、同じく訳すと「深い金」となります。

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 オリジナルとリバイバルで名前が違うのは、おっちょこちょいが間違えて、もう一回同じ映画を見させるための姑息な手段でしょう。ところが、すでにイタリアだけで二つも名前があります。

 それに加えて、英語版では大ヒットした『ジャンゴ』の人気にあやかって、映画のプロモーションをやりやすくするためか、この映画に『DJANGO KILL! IF YOU LIVE SHOOT』というまるで続編かとの印象を観客に誤解させるようなゴマカシの題名になっています。

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 邦題ももちろんこれを倣い、『情無用のジャンゴ』というタイトルがつけられています。シリーズ映画でもないのに「ジャンゴ」には他に『皆殺しのジャンゴ』『血斗のジャンゴ』という映画もある。

 いったい自分が昔見たのはどのジャンゴなのだろうとか、どの荒野なのだろうとか、またはどの用心棒なのだろうとか混乱させられる。イタリア製作が基本なので、売れりゃなんでもいいのでしょう。

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 『荒野の用心棒』は黒澤明の『用心棒』のパクリ映画として知られていますが、この作品のストーリー展開や場面の描写(主人公が名無しの権兵衛だったり、お墓が出てきたり、街並みの様子が宿場に似ていたり、主人公がボコボコに拷問されたり、山田五十鈴のような因業ババアが出てくるところなど。)もけっこう似ています。

 また10大残酷シーンと呼ばれた、見世物描写でも話題となった作品です。しかしながら公開当時にノーカットで上映出来たのは暴力描写の規制が弛かった日本くらいだったと言われています。10大残酷シーンとは具体的にどのシーンのことを指すのだろうか。

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1 人種差別が原因となる、ならず者同志の内ゲバによる処刑

2 金を独り占めしたはずの強盗たちがさらに残忍な地獄の街の連中に銃撃戦の末に吊し首の私刑を受けるシーン

3 金の弾丸を全身に浴びたならず者を治療するはずの医者たちが金を我が物にするために半死半生の彼の腹を切り刻んで絶命させるシーン

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4 馬にダイナマイトを巻き付け、木っ端微塵にして、飛び散った臓物を激しいカット割りで見せつけるシーン

5 ホモ・セクシャルの関係を黒シャツ隊と持ったのち、美青年レイ・ラヴロックが恥じを知り、誰に告げることもなく静に自殺するシーン

6 まるでイエス・キリストになぞらえるかのように死から甦った主人公が拷問の苦難を受けるシーン

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7 主人公の仲間のインディアンが頭の皮をナイフで剥ぎ取られて、血飛沫を上げながら絶命するシーン

8 欲張りの街の名士がこっそりと隠しておいた金塊を火事の真っ最中に無理やり移動させようとして、業火の高熱で溶けた金塊を頭から浴びて、絶叫して死んでいくシーン

 とここまで書いてきて、あとの二つは何だったのだろうと思い巡らせると、おそらくは最初の軍隊襲撃シーン、墓暴きシーンが入ってくるのかなあという感じです。今の映画ファンの目からすると、もっと直接的な残酷描写や暴力場面を見慣れてしまっているので、過度に期待すると肩透かしを食らうことでしょう。

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 この映画はただただ残酷描写やホモ・セクシャル描写だけのモンド映画かと思われがちではありますが、シュール・レアリズム作品としても名高い。真っ白な殺伐とした砂漠で展開される粛清場面がトーマス・ミリアン之フラッシュバックで回想されている。

 純粋な人間として描かれるレイ・ラヴロックを性的に嬲り者にするのが黒シャツの若者たちですが、イタリア映画だということを考慮に入れると、おそらく彼らはファシストの象徴でしょう。ムッソリーニのファシスト党の制服が黒だったこともあり、彼らは黒シャツ隊と呼ばれていました。不自由や抑圧の象徴がファシズム表現でしょうから、彼は死を持って娑婆からの逃亡を図ったのでしょうか。

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 軍隊が運んでいた軍資金を略奪するほどのならず者だったはずの主人公(トーマス・ミリアン)が仲間割れから処刑されて、インディアンの儀式(?)で復活してからは、ミリアンは自分を名乗ることも主張することもなく、金銭欲も失くしてしまっている。

 ただし性欲と復讐心はすこぶる健在で、彼岸まで行って舞い戻ってきたのに人妻とすぐに不倫関係に陥るし、かなり女々しい。また復活したのに意志は弱く、ちょっと拷問されるとすぐに口を割ってしまう。

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 主人公に名前がないのも特徴のひとつで、流れ者としてしか呼ばれないし、自分から名乗りもしない。一度死んで復活しているという設定なので、名前という概念を必要としないということなのかもしれません。

 ストーリー展開はキリスト復活を明らかに意識していますし、ベルトリッチの編集者だったフランコ・アルカッリを脚本と編集に起用し、彼に出来上がりを任せたために、独特なリズムと構成の妙を得て、マカロニの極北の地位を不動にしています。

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 サブリミナルのような激しいカット割りやアングルが独特なので、奇妙な雰囲気が漂う。地球上のどこかではなく、地獄の様子を見る感じに仕上がっています。感情が昂っていくシーンでは台詞ではなく、カット割りの激しさで彼の激情を表現していきます。

 残酷描写も、もちろん今の目で見れば、いかにも真っ赤な血糊は滑稽に映るかもしれませんし、唐突な場面の繋がり方に違和感を覚えるでしょう。因習的というか、ハリウッド的な場面の繋ぎ方をしていなかったために歴史に埋もれることなく生き続けられたのかもしれません。

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 それ以外にもあまり語られることもないでしょうが、イヴァン・ヴァンドールが付けた音楽はエンニオ・モリコーネとはまた違った魅力に溢れる印象的な旋律で、かなりレベルが高く、個人的には気に入っています。

 ただ、こういったマカロニ・ウェスタン映画は評論家先生や自宅のソファーにふんぞり返って、斜に構えてあら探しをする者にはすこぶる評判が悪いでしょう。しかし、こういったマカロニなどの娯楽作品は朝から晩まで働いて、ムシャクシャしながら家に帰る前の労働者たちが憂さ晴らしをするため、ほんの二時間でも嫌なことを忘れてしまうために作られた映画だったはずなのです。

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 そのために分かりやすい残酷描写が必要だったのでしょう。もともとがゲテモノという評価か、反対に物好きたちによってカルト作品として崇められるかという極端な意見ばかりになってしまったのは不幸です。

 1960年代後半、『俺たちに明日はない』以降の残酷描写規制が緩和されたアメリカですら、ノーカットで上映されることがなかったほどに徹底的に悪趣味に徹しているさまからは牧口雄二の『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』を思い出す。

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 ベトナム戦争での残酷なニュース映像に馴らされてしまった一般大衆が求めたのは更なる刺激だったのでしょうか。残酷描写はその後『悪魔のいけにえ』『スナッフ』『ラストハウス・オン・ザ・デッドエンド・ストリート』などで頂点を迎えていましたが、西部劇というジャンル映画でのスプラッターの極北がこの『情無用のジャンゴ』だったのでしょう。

 10年ほど前までは昔のVHSで見ても、残念ながらアメリカ編集版しか残っていなかったようで、例の残酷シーンのうち、インディアンの頭皮剥ぎシーンや金の弾丸を強奪するために内臓に手を突っ込むシーンなどがカットされていましたが、今回のDVDにはめでたく収録されています。

 ただし英語字幕で見るとカットされていた場面は英語音声が収録されていませんし、同様に日本語吹き替えもカットされていた場面には何も吹き替えがないので、オリジナル言語であるイタリア語音声での視聴が一番見やすいでしょう。

総合評価 78点


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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
本作は数年前にレンタル・ソフトにて鑑賞致しました。
先ず,首尾よく大金を手に入れた強盗団がもっと悪い町の住民たちの手で血祭りにあうシーンで「コレはただ事ではない」と感じました。マカロニ・ウエスタンでは悪くない人が悪い人のおかげでヒドイ目にあい,それゆえに復讐を遂げるという形式があるとの先入観で観ていたのでビックリでした。今こうしてマカロニ・ウエスタンに思いをはせていると久しぶりに他の諸作品も観たくなってまいりました。本邦TV時代劇の音楽など大きな影響を与えてきたジャンルとして映画史を飾ったと思うしだいです。
snowman
2013/03/20 11:35
 こんにちは。

大昔にテレビで見たこの映画は妙に印象に残っていましたので、VHSをレンタルして自宅で見たときに覚えていたシーンがかなりカットされていたのにガッカリした思い出があります。DVDがリリースされたのを機に購入して、ようやく昔見たシーンが収録されていたので感慨深いですよ。

 マカロニって批判されがちなジャンルですが、個人的には西部劇では好きな部類に入ります。

 ではまた!
用心棒
2013/03/21 15:30

こんにちは

最近、マカロニウエスタンセレクションでリリースされたのを観ました

本当は同時に収録された作品の落Eしが静かにやってくるがお目当てでしたが…

それはさておき、トーマス・ミリアンは好きな俳優

作品としては異色のマカロニウエスタン

翼Kラスの部屋のレイモンド・ラヴロックが共演

出演俳優の中で唯一まともな配役かなぁ

ドキュメンタリー出身の監督らしい視点ですがテンポが今一つ…

マカロニファンの僕にとってはやや消化不良な内容

この作品に影響を受けた映画関係者が多数いるのは何となくわかります

しかし女性にはオススメできないなぁ(苦笑)


パーソナルベスト
2016/07/21 12:44
こんにちは!

とても個性的な作品で、ぼくは好きですが、大昔に12チャンで見た時はたしか残酷シーンもめでたく放映されていたはずです。ところがビデオ時代に借りてみるとほぼカットされていたのに驚きました。

今回はめでたく昔通りの思い出のシーンが入っていたので個人的には満足しました。だって、買っちゃいましたものww

>女性
男くさいですしね…。でも最近の女の子たちはオヤジ化しているのでたぶん大丈夫ですよww

ではまた!
用心棒
2016/07/21 14:38

こんばんは

管理人さん、コメントありがとうございます

買っちゃいましたか、通ですね

まだ90作品ぐらいはリリースしそうだから楽しみです

近年はマカロニ女子もいるとか…

しかも若い世代で…

自分も世代は違いますが、でも嬉しい限りです

映画が好きになったきっかけはマカロニウエスタンですからテ

イタリア製の西部劇は単純明快

主人公はだいたい無実の罪で…

あるいは復讐のため…

そして賞金稼ぎ、いわゆるバウンティハンター

正義感は皆無に等しい

そして悪役、これがまた普段から悪いことをしているような連中にも見える(笑)

奇想天外なストーリーと武器

国際色豊かなキャスト

魅力的な華麗な音楽

原題とは異なる邦題…

でもなぜか愛すべき作品

300を超える作品の中でよいものは僅かですが1つの時代、ジャンルとして残っているのはそれだけファンが多いということかな

西部劇といえばアメリカ

でもヨーロッパの史劇をアメリカが製作しているのだから逆もありですね

個人的にそう思います

いやぁ映画ってやはりいいですね

あなたのハートに何がのこりましたか

映画解説者の一言を思い出します

またこれからもよろしくお願いします


パーソナルベスト
2016/07/21 21:15
こんばんは!

テレビでの洋画劇場って、1970年代から80年代に小中学生だった僕にとっては最高の栄養になりました。中には体調を崩すような最低なモノもありましたが、それらを含めて映画を見る経験値は上がったのかなあと思います。

なんでも病んだアメリカのせいにする水野さん、大人のイイ女の雰囲気が魅力的だった木村奈保子さんや淀川御大の解説は楽しみでしたね。時に訳が分からない方向に脱線していく淀川さんには笑わせてもらいました。

どの映画だったか忘れましたが、シュワルツェネッガーがゲストで出演したときに歌の練習はしていますかとか、お風呂に入りましょうと言ったような覚えがあります。彼もドン引きでしたよww

『殺しが静かにやって来る』はクライマックスが強烈ですよね。ぼくはこれのDVDがTSUTAYAさんでレンタルされているのを見つけ、地元にはなかったのでお取り寄せで借りました。

ではまた!

用心棒
2016/07/21 21:58
こんばんは

コメントありがとうございます

落Eしが静かにやってくる

ラストシーンは賛否両論ありますが、インパクトは他のイタリア製西部劇とは比較できないくらい強烈です

実はクラスス・キンスキーが主役だったのかなぁとも思えます(苦笑)

セルジオ・コルブッチ監督は多作ですが力量はたいしたものです

絡r野の珍道中は別ですが…

木村奈保子さんは地元CBCの元女子アナです

異色の経歴とも言えます
近年はゴールデンタイムに映画劇場が少ないのが、残念です

解説者、映画評論家の高齢化と若手の有望な人が少ないような気がします
淀川長治、水野晴夫、木村奈保子、荻昌弘

あるいは高島忠夫もそうですが、番組の顔でした
解説を聞くのも楽しみの1つでした



余談ばかりですが…

映画の思い出の1つです


パーソナルベスト
2016/07/24 20:09
こんばんは!

解説者の個性というのは昭和の洋画劇場には欠かせない要素でしたね。おそらく解説者としては納得が出来ない映画であってもそれしか権利が取れなかったのだから、なんとかして良いところを探し出そうとする姿勢は見習うべきですし、現在のあまりにも恵まれた状況にある若い映画ファンにはつまらないなあと感じても最後までしっかりと作品に接して良さを探して欲しいなあと思いますww

>キンスキー
いつでも彼は存在感がありますね。画面に緊張感がみなぎってきます。キンスキー&ヘルツォークのコンビは最高でした。

ではまた!
用心棒
2016/07/25 00:14
用心棒さんこんばんは。マカロニネタは初書き込みです。僕はマカロニも本場も西部劇はよく見ます。マカロニウエスタンDVDコレクションも購読中です。さて、この作品昔ゴールデンタイムで放送されてたんですね。今じゃとても考えられない・・・。今月東京MXテレビで「荒野の用心棒」と「星空の用心棒」を放送してました。この2作品何回放送してるのか・・・。
さすらいの映画人
2016/08/30 20:23
こんばんは!

>コレクション
おおっ!筋金入りのマカロニ好きなんですね。字だけで見るとパスタ好きみたいですがww

ぼくはこれを深夜に見た記憶がありますが、昭和の頃って、残虐映画やエロ映画も普通に放送してましたね。

今がうるさすぎというか、気に入らなかったらすぐにゴチャ言う輩の言うことを聞き過ぎます。クレーマーの言うことは無視するべきだと思いますよ。

>用心棒
どの用心棒なのか、どの荒野なのか分からなくなって、ビデオレンタル時代に一本ずつ見直していったのを覚えています。

ではまた!
用心棒
2016/08/31 00:27

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『情無用のジャンゴ』(1966)残虐描写で悪名高いマカロニ映画表現の極北。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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