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zoom RSS 『風が吹くとき』(1986)平穏な暮らしは突然崩れ、戻ることはない。

<<   作成日時 : 2012/05/10 22:34   >>

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 日本のアニメを見慣れた目には少々物足りなく映るかもしれませんが、公開された当時はなかなかの話題作としてマスコミなどにも取り上げられていたのがこの『風が吹くとき』です。

 核爆弾が落ちようとする寸前、イギリス(チャーチルやスターリン、ヒトラーのことを語る。ロシア人が攻めてくるかもという会話をしているのでイギリスだろう。)の田舎町に住む人たちは核爆弾に備えるようにという政府発表があっても、のんびりと日常生活を続けている。

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 政府自体もいい加減で、どう考えても効力がないと思われる放射能対策をラジオやテレビで放送する。当然、民衆はさらに情報が少ないので、生き残る確率は低くなる。

 彼らは危機意識の低さが根源にあり、すぐにでも核戦争が始まるという恐怖に直面しても、きちんと効果的には動けない。これは核に限ったことではなく、天変地異すべての対応に必要とされる知識がないということがどれだけ致命的であるかをくどいほどに繰り返し思い知らせてくれます。

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 核爆弾が投下されようとしているとき、田舎のお爺ちゃんは政府の手引きを片手に素直に核シェルターを手作りすると言い出し、家中の扉を集める。

 そして出来上がるのはただ木のドアを立て掛けて置いて、いざ衝撃波による爆風が来たら、いそいそとそこへ隠れるだけという、長崎県で暮らして、平和公園の記念館で原爆被害の凄まじい記録を見てきたぼくには信じられない対策を真面目な顔で実践する。

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 この映画で語られるのは無知の恐ろしさと国家の欺瞞です。有史以来、最大の被害を生んだ第二次大戦をも凌駕する規模での殲滅戦がいざ始まってしまえば、民間人だろうが軍属だろうが、核爆弾が着弾すれば、一瞬のうちに爆心地の人びとは死に絶えてしまう。

 たとえそこから多少離れていても、爆風や黒い雨を浴びてしまえば、目には見えないが確実に身体を蝕んでいく放射能によって命を奪われてしまう。

 国家が必ず助けに来てくれると信じて、自治体や警察が必ず助けに来てくれると信じて、牛乳屋や新聞の配達が来てくれると信じながら、体力の限界を超えて神に祈りを捧げながら倒れていくさまは悲惨です。

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 日常的で淡々とした生活描写がだらだらと最初から30分以上も続いたあとに核爆弾投下後の場面が始まる。呑気に構えていた老夫婦も飲用水や食べ物が尽きるとともに一気に衰弱していく様子はリアルでした。

 彼らは電気がつかない、テレビやラジオが聴こえない、冷蔵庫の食べ物が傷んで困るとブツブツ言っている。放射能なんか見えないから、家の周りには来てないんだと決め込み、雨水を貯めて、腐っているとお腹に悪いからと念のために煮沸すれば大丈夫と思い込んで飲んでしまうという下りがあります。

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 無知を象徴する場面ではありますが、程度や現象の差はあったとしても誰も彼らを笑えない。こんな調子でずっと映画は続いていくので、どんどん陰鬱な気分に陥ってしまいます。この映画にはまったく救いはなく、ハッピーエンドには程遠い。

 むしろアメリカン・ニュー・シネマ的な話の進め方です。好き嫌いはあるでしょうが、考えさせてくれる作品ではあります。音楽はピンク・フロイドのリーダーだったロジャー・ウォータースが務め、主題歌の『風が吹くとき』を歌っているのはデヴィッド・ボウイ、挿入歌にジェネシスなども参加しています。

 日本語翻訳版では大島渚が監修を務め、吹き替えでは森繁久彌と加藤治子が声を当てていて、なかなかしっかりとした安定感があります。

総合評価 68点


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。おひさしぶりです。
本作は数年前にNHK-BSにて鑑賞しました。
核戦争による人類絶滅を描いた作品としてはネビル・
シュートの小説やその映画化作品である『渚にて』
と並ぶ気合の入った作品だと思います。
監督は日系人のジミー・T・ムラカミさん。
世界大戦時はロッキーの山中の収容施設で苦労された
そうで映画界入りして『宇宙の7人』を監督したとの
話を淀川さんが『日曜洋画劇場』でしておられました。
ちなみにムラカミ監督の作品には本作と同じく
レイモンド・ブリッグスの原作を元にした『スノー
マン』がありましてアレもよかったですね。
というわけでsnowmanを名乗ることにした長崎県人の
小生なのでありました。お粗末。
snowman
2012/05/13 21:47
おひさしぶりです!

内容を知らないでこれを見たら、かなりショッキングでしょうね。核爆弾投下前と後とでガラッと雰囲気が変わる構成は見事でした。

>淀川さん
亡くなってからかなり経つので、若い人はもう彼を知らない世代も出てきているのは寂しい限りですね。ああいうマスコミにも登場する名物的な批評家もいなくなり、地上波のテレビ映画劇場も見なくなりました。

長崎ですか?

大昔に浜の町にあったルーデリーというカレー屋さんに行きたくなり、グーグルで探したら、もう店じまいしているようだったのがとても残念でした。

ではまた!
用心棒
2012/05/14 00:58
用心棒さん、こんにちは。
この作品は私の大学生の頃にレイモンド ブリッグズ原作の絵本を読みました。
詳細な内容は忘れてしまいましたが、まだ、世の中も今よりのんびりしていたと思います。激動の70年代を終え、戦後で一番安心・安定していた、悪く言えば平和ボケが最も顕著だった時代でしょうか?就活で遠方(札幌)まで行くとその会社から交通費が支給されていた時代でした(わたしもその恩恵に何度もあずかっていました(笑))。
参議院では土井たか子の社会党が勝利、フランスはミッテラン政権だったように思いますが、イギリスは新自由主義のサッチャー政権、フォークランド紛争のときの絵本だったと思います。
彼女は経済も政治も外交も血も涙もない立て直しを図り、成果をあげると同時にその弊害も甚大だったと思うのですが、
「核兵器の無い世界ではなく、戦争の無い世界を目指すべき」
という言葉も残しています。
そんななかで生まれた絵本ですが、文化史的には今後も人類の遺産として読み続けられていく絵本だと思います。それにしても民主党の原発0と仕切れなかった閣議決定・・・情けない・・・。
では、また。
トム(Tom5k)
2012/09/22 14:07
 こんばんは!

バブルの頃って、いろいろな問題が噴出していましたが、今よりもかなりお気楽なことで悩んでいたような気もします。クリスマスに予約が取れないとか、タクシーに乗るのが難しいとか(笑)

>原発0
 本当に情けないですね。少々不便になっても、被爆国でもある我が国がこれ以上の核被害を受ける可能性を減らす意味でも、核に替わるエネルギーを開発するなどを率先して、たとえ一時落ち込んだとしても未来志向でがんばって欲しかったのでとても残念です。

 それとこの作品の実写化の企画が進んでいて、なんと若松孝二監督だそうですので、相当に毒のある作品に生まれ変わるでしょうし、ぜひ観に行きたいと期待しております。

ではまた!
用心棒
2012/09/23 01:08

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