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zoom RSS 『かわいい毒草』(1968)サイコ俳優アンソニー・パーキンス主演。また女に振り回される異常者役…。

<<   作成日時 : 2012/03/09 22:56   >>

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 誰もが知るアルフレッド・ヒッチコック監督の代表作のひとつ『サイコ』。主演のアンソニー・パーキンスの異様な演技、シャワー・シーンでハーマンの音楽と絶叫とともに殺害されるジャネット・リー。あまりにも有名な映画に出演してしまうと、その後のイメージが決定付けられてしまい、芸の幅が制限されてしまう。

 本格派と呼ばれ、映画史に名を残すような俳優は固定化されたイメージを打ち破り、より大きな作品に出演し、多くのファンを獲得していく。ただそんな人は一握りで、たいがいの俳優たちは時間の経過とともに忘れられていく。

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 60年代を代表する衝撃的な問題作『サイコ』に出演して、世界中の映画ファンに強く印象を残したアンソニー・パーキンスが主演を務め、再びタイプの違ったサイコ野郎役にチャレンジしたのがこの『かわいい毒草』です。

 冒頭の精神病院でのパーキンスと医師のやり取りを聞くだけで、この映画もまた気分爽快になったり、ハッピーエンドで幕を閉じる作品ではないことが理解できます。

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 病院を退院した後に世話をしてもらった化学工場での仕事に馴染めなかったパーキンスはふたたび妄想世界に逃げ込んでいくのですが、その世界では彼はシークレット・エージェント・マン、つまりCIAの工作員なのだと思い込んでいきます。

 環境を破壊し続けるこの工場はテロリストの巣窟であり、ここを叩くことが自分に与えられた使命なのだという妄想を膨らませていく。実際の工場破壊工作も進めていき、汚染水を垂れ流すパイプに細工をして、工場を操業不能状態に追い込んでいく。

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 そのためには一人では出来ないので、協力者が必要となる。その協力者がチューズデイ・ウェルドです。自分が諜報部員だという虚言癖、もしくは妄想を地元高校のチアガールのイカれた女の子(チューズデイ・ウェルド)に聞かせ、彼女を犯罪に巻き込んでいく様はとても奇妙に思える。

 職場での言動、ボンヤリした仕事態度、赤い液体を見ると血を連想する心理描写が多々出てきます。このようにいかにも奇天列なパーキンスになぜノコノコと付いていくのだろう。この時点でチューズデイ自身もイカれているのだろうと推測できます。犯罪に巻き込まれていく彼女に本来ならば観客の同情が集まりそうなのですが、そうはならない。

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 パーキンスよりも、この女の子の方がより悪質で、性格が破綻していることが徐々に観客には分かる仕掛けになっている。最初は興味本位でパーキンスに近づいていった彼女が一番凶悪で、警備員に破壊工作を見つけられるとすぐさま彼を殺害し、拳銃まで奪ってしまう。

 誰もいない公園で何を考えているのか見当も付かないが、ひとりでブランコを漕いでいる様子はまるで二階の窓から覗きこんでいたノーマン・ベイツです。このように『サイコ』のパロディのようなシーンもあり、映画ファンをクスクスッと笑わせてくれます。

 しかしまあ、パーキンスはなぜいつも女に振り回される役ばかりなのだろうか。『サイコ』ではババアに振り回され、この作品では小娘に翻弄される。

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 チューズデイは拳銃を使い、自分の母親をパーキンスに殺害させようとするが、腰抜けの彼に処理できないと悟ると、自分で母親を射殺し、遺体を彼に始末させようとする。

 当然すぐにパーキンスは逮捕されるものの、放火殺人の前科(実際には精神病患者が起こした事件なので、精神病院送りにされて、退院してくる。)があるために、誰に真実を語っても信じられることはなく、チューズデイも被害者を装い、彼を犯人に仕立て上げる。見事な悪女ですが、誰も気づかない。

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 結果、パーキンスのみが裁かれ、鉄格子のある刑務所送られていく。そこでふたたび病院関係者と面談して、実際の犯人は彼女ではあるが、現実世界では社会生活を送れないと理解しているパーキンスは自分が刑務所に行く道を選ぶ。事情をほのめかす彼は謎の笑みを浮かべつつ、彼にチューズデイの監視を頼む。

 解き放たれたのは見た目は可愛らしいものの、本性は覚醒された悪魔なのです。フィルム・ノワールの要素であるファム・ファタールをチューズデイは演じています。映画の撮り方も夜の暗闇や薄暗い森の中でのシーンが多く、ノエル・ブラック監督が目指したのは暗黒映画だったのだろうと察します。

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 実際のチューズデイ・ウェルドも薬物やアルコール漬けの相当荒んだ生活を送っていくうちにお決まりの転落人生を歩んでいったようです。日本ではあまり馴染みのないセブンアップはアメリカではメジャーな清涼飲料水なので、例えていくとポカリスエットやアクエリアスのCMに出ていた頃の宮沢りえや内田由紀がグレて、スキャンダルを起こし続けるイメージなのでしょうか。

 この映画のキャラクターもかけ離れた役柄ではない、現実の自分に近い感覚だったので、こういう気味の悪いリアルさで演じられたのでしょう。演技派という括りではなく、“地”で普通に出演しているだけなので、とても自然にフィルムに写っているのでしょう。

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 まだ公害などの環境問題に今ほど大衆の興味がなく、あまり注意が払われていない時代の作品なので、ドギツイ色の工場廃水がドバドバと川に流されており、通りかかったホットドッグ屋のニイチャンも平気でゴミを川に捨てている。つまり、当時の世相がそれほど荒んでいたということなのでしょうか。

 工場から流れまくる汚水も毒であり、街に放たれるチューズデイも毒である。今の目で見ると二つの毒の話にも思えますが、監督の意図は可愛い毒であるチューズデイに焦点を絞っており、環境問題のほうはあくまでも嫌なものを見せてやろうという程度の付け足しだったのでしょう。

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 こういう映画が世に出ていたというのはこのような荒んだ描写がそれほど突拍子もない表現でもなかったから、そして普通にロケしているだけなので制作費も安上がりだったので、普通にB級と呼ばれる作品でも使われていたのでしょう。

 リアリズム描写とは飾らずにありのままを切り取ることだとしても、あまりにも汚い映像を見続けるのは観客としては楽しくはない。

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 ひねくれた一部のファンのためだけに映画が製作されているわけではないので、こういう作品を送り出してくる監督の深層世界の鏡が垣間見えているのでしょうか。

 前に書いた『小人の饗宴』と同じで、共感できる登場人物は誰一人いません。パーキンスはホモ・セクシャルだったはずですが、のちに女性と結婚します。

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 結局、パーキンスは90年代初頭にエイズで死亡するので、バイ・セクシャルだったのでしょう。亡くなった時にも、そんなに騒がれたわけでもないので、歴史的な映画に出演した有名なスターの死に様としては寂しい部類に入ります。

 映画史に残るような名作に出演しても、誰もそのあとに長く続いていく役者人生を保証してはくれません。本人の努力と関係者のサポート、そして強運があってこそはじめて彼の役者人生は輝かしいものになるのでしょう。

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 映画の最後で、犯罪に加担させる(おそらく自分を監視している精神病院関係者を殺害する。)ための新しいカモを見つけ、薄ら笑いを浮かべるチューズデイ・ウェルドが嫌な気分を倍増させる。

 このあとどれほど多くの阿呆な男たちが彼女の毒に当てられて、人生を誤るのだろうか。映画では語られることはないが、これから起こるであろう残忍で自己中心的な犯罪の顛末が予想できる。

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 悪女映画やサイコ野郎が活き活きしてくる異常犯罪映画もまた数多い映画ジャンルのひとつであり、この作品もその二つの系譜に繋がっているのでしょう。なかでもフィルムノワールへの憧れを思い起こさせる。昔はくせのある映画がたくさんありました。

 たぶん今でも、世界中の好き者監督によりこういった作品は製作されているのでしょうが、売れ筋ばかりを追い求め、画一化された作品ばかりしか目にすることができない普通の地方シネコンではこういうくせのある映画はなかなか見ることが出来ない。

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 そのためぼくらは県をまたいで、京都や大阪に行かねばならない。ただ残念ながら、年々仕事が忙しくなっているので、ゆっくりと映画館の暗闇の中でワクワクできる時間が少なくなってしまいました。

 地上波テレビの映画番組もあまり過激なものを放送しなくなりましたので、CSの有料チャンネルで見たいのをチェックしなくてはいけません。そうしてお目当ての、もしくは掘り出し物を探し出す作業はなんとなく、かつて東京12チャンネルや地方局の深夜枠、国営放送の土日の夕方に見たような映画を求めていた日々を思い出させる。

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総合評価 72点


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