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zoom RSS 『大閲兵』(1986)チェン・カイコーとチャン・イーモウが組んだ、才気溢れる素晴らしき青春映画。

<<   作成日時 : 2011/10/30 11:34   >>

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 この作品をはじめて知ったのは今から24年以上前の学生の頃で、別にどれを見たいという目的が特になかったものの、とりあえずの暇つぶしに向かったレンタルビデオ屋さんで目に入ったときでした。

 とりわけ目立つコーナーに置いてあったわけではなく、お店の奥の方にあった、当時ではまだ珍しかったアジア映画コーナーにブルース・リー映画やジャッキー・チェン映画などとともに無造作に並べられていました。

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 今ではインターネットの普及により、全世界の情報は一夜に駆け抜けますが、昔はそうではありません。共産党の一党支配が続いている中国の様子はまるで分からず、軍事関連の実態になるとさらにさっぱりでした。

 この映画は建国35年式典での閲兵式ではほんの百歩にも満たない96歩という短い距離を行進する兵士達の過酷な訓練にスポットを当てた地味な作品ではあります。軍隊の行進風景というとレ二・リーフェンシュタールの『意志の勝利』を思い出しました。規則正しいディシプリンに満ちた集団の統制された動きにはなぜか美しさがある。

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 延べ10000キロ(距離に換算すると中国の上から下までを往復する距離で、まさに長征!)に及ぶ行進訓練をひたすら繰り返していく機械化された兵隊の動きは命令に絶対服従させる強権政治の中では美徳なのでしょうか。これを見て思い出したのは北朝鮮のマス・ゲームでした。

 どちらも個人の自由意志よりも、国家の意向が絶対的に重要視される点で一致します。ただこの映画は凡庸な演出はされておらず、当初は没個性的な集団でしかなかった兵士たちの各々が抱える事情を語り出していく。プロパガンダ映画ではあるのでしょうが、清清しい青春映画の色合いが濃い。

 訓練の実態はかなり過酷であり、先ほど述べたように10000キロに及ぶ行進訓練だけではなく、炎天下での3時間に渡る直立訓練がある。コンクリートの照り返しがある中でただまっすぐに立っているというだけの訓練に何の意味があるかは分からない。

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 陽炎が漂う真夏の日中に歩幅1.2m、前からも後ろからも横からも斜めからもまっすぐに見えねばならないというレベルにならねば天安門広場の本番には出られない過酷さは驚きで、実際の大閲兵もこうした訓練が行われているのだろうか。大

 閲兵に関しては内外から批判も多いようで、独裁者へ忠誠を誓っているようで気味が悪いのかもしれません。大閲兵の本番シーンではこの前後左右斜めの様子を見せるためにカメラが前後左右に回り込み、彼らの行進の美しさを映し出していく。

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 田舎のお母さんを喜ばせるために頑張る素直な少年兵、士官学校に受かるまでの辛抱と言い聞かせつつ厳しい訓練に耐えようとする者(呉若甫)がいる。

 教官(孫淳)に執拗なまでの厳しい仕打ちを受けるが、その兵士(鹿(金雷))は実は教官の戦友であり、命の恩人でもあるために何とか大閲兵に参加できるように尽力していたというエピソードは武骨な男同士の友情に触れられる。孫淳はとくに軍服が似合っていて、キリリとして役柄にマッチしています。実際、この映画のジャケットも夕焼けの中での彼の大写しの顔がフューチャーされています。

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 また脱走した少年兵が麦畑で農民と触れ合う場面はほっとする。壮年にさしかかった下級士官(王学圻)が最後の出世の糸口にするため、死に物狂いの努力をして厳しい訓練に耐えていくものの土壇場で病に倒れて人生を諦めるエピソードには中年の悲哀を感じる。王学圻は『黄色い大地』にも出演していた記憶がありますので、チェン・カイコーのお気に入りだったのでしょうか。

 軍隊だから個性がないのではなく、命令で抑圧され、機械化しているのです。興味深いのは多くの兵士たちが訓練に耐えきれずに落伍しかけるのですが、そのたびに鬼のように厳しい孫教官がなだめに入り、何事もなかったかのように再び訓練に入っていく。訓練時間が終わり、お風呂や食事の時間になると自由に明るくしゃべり出す。

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 後半になるにしたがい、登場人物が生き生きとしてくる。これは製作者の才能であろう。注目すべきポイントはこの作品を製作したのが若き日の陳凱歌(チェン・カイコー)監督だということなのです。しかも撮影には張藝謀(チャン・イーモウ)も加わっています。

 綺麗なショットを数多く見ることが出来ます。物語だけではなく、あちこちの捨てショットのなかにも撮影を務めたチャン・イーモウのたしかなセンスを感じます。

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 今では巨匠と呼ばれる彼らが撮っている初期の貴重な作品であるにもかかわらず、今だにDVDが発売されておらず、画質が劣化してきている大昔のVHSビデオでしか見ることの出来ない。

 ただこの出来上がった作品はチェン・カイコー監督の手を離れ、撮りたかったようにはなっておらず、かなりの修正が加えられているようです。

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 今回の記事を書く前に再びこの作品を見たメディアはヤフオクで落としたVHSビデオでした。なぜDVD化されないのかはチェン・カイコーとチャン・イーモウの両サイドの権利関係か他人には言えないプライドや人間関係の問題なのか、中国当局の意向なのか、出演者等の問題なのかは定かではありませんが、大昔のVHSビデオは結構な高額で取り引きされています。

 ぼくも今回はじつにほぼ四半世紀ぶり(自分でもビックリ!)の鑑賞となりました。規律正しく躍動する若き肉体美を堪能し、厳しさの中で忍耐力を養い、成長していく兵士たちの姿を見て、自分たちも見習えというプロパガンダ的色彩が強い作品と取る向きもあるでしょうが、そんなせせこましい作品ではなく、かなりレベルの高い脚本のひねりがあります。

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 あちこちのシーンに“走出国威”“走出軍威”などのプロパガンダの色彩が色濃く出ているのに、それでもこの作品にはチェン・カイコー監督のキラリと光る皮肉っぽいセンスと映像美、軍国コードを使いつつも人間の悲喜こもごもを描いている脚本の素晴らしさを随所に楽しめます。修正があちこちにあるにもかかわらず、出来栄えは素晴らしい。

 なかでも脱走した兵士が黄金色に輝く農村で見つかるエピソードは本来あるべき中国の姿とそれからの脱却を目指す中共のギャップを鮮明にする。このシーンはぼんやりとしたソフトな感じの映像で撮られていて、夢の世界のように見えます。

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 士官学校試験に落ちた呂純(呉若甫)がその知らせを受けたときには彼の心情を表すかのように画面全体にハレーションが掛かり、まさに画面が真っ白になっていく。

 黒澤明監督は戦時中に戦意高揚映画として『一番美しく』を撮っていたにもかかわらず、どうみても反戦までは行かないまでも厭戦映画にしか思えない作品を生み出しました。

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 セリフは軍国主義を礼賛するものが多いものの表情やカメラの撮り方、編集のつながりでトータルすると悲惨で惨めな戦争から早く抜け出したいというメッセージが汲み取れる。

 チェン・カイコーの『大閲兵』も中共の軍事力をアピールするためのプロパガンダではありますが、エリートではない叩き上げの兵隊たちの苦闘とひたむきで素直な人間性への憐れみが湧いてきます。

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 軍備を増強し続ける軍隊さえなければ、こんなつらい炎天下の非人道的な訓練なぞしなくても良いのにと思えてきます。国家の繁栄は虚栄心に満ちており、そのしわ寄せは中共幹部の子弟ではなく、貧しい農村出身者に行くように出来ている。

 しかし、なぜこの作品はこれほどまでにぼくの心に長い間に渡って、引っ掛かり続けたのだろう。軍隊の話しなのに何故か暖かみを感じられる稀有な作品なのです。

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 各エピソードの合間には駐屯地からの夕焼けだったり、雨模様だったり、朝焼けだったり、燦々と照りつける太陽がインサートされます。このインサートが入るとほっと一息つけます。

 しかもこのインサート映像はとても美しい。肉体美ということでは最大の見せ場である天安門広場での大閲兵シーンに尽きます。この晴れの舞台の見せ場には空挺部隊の兵士たちが晴れ晴れとした顔で行進をする。そのあとには他の部隊の面々も続けて行進していく。

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 ここまでこの映画を見てきた観客は行進する彼らにもさまざまな葛藤や苦闘があったことを容易に想像できる。個性がないのではなく、抑圧されているだけなのです。このへんも完成後も長い間に渡り、封印され続け、多くのシーンに修正を加えられてからようやく公開されました。

 日本での公開も完成後に2年も経った後にひっそりと公開されました。実際、この完成品に対してチェン・カイコー監督は「これはオリジナルではない。」と述べています。もしかするとこういった経緯もあって、彼がDVD化を拒んでいるのかもしれません。

総合評価 90点


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