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zoom RSS 『十誡』(1923)映画史上、二度の変革期を生き延びたデミルのサイレント時代の傑作。

<<   作成日時 : 2011/10/09 19:19   >>

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 メリエスが活躍した20世紀初頭から始まり、ついにもっとも人気のある大衆娯楽に成長した映画業界は技術的にも出尽くしたような表現の向上を見せ、20年代にはサイレント映画黄金期を迎えていました。

 しかしながら、我が世の栄華を享受していた大手メジャーは1927年に突如、ワーナーが『ジャズ・シンガー』を発表したことにより大きく変化せざるを得なくなる。

 つまり、ワーナーがはじめて“しゃべる”映画、トーキーを世に放ったことにより、それまでの製作手法や俳優の起用法を含めた変更を余儀なくされることになったのです。

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 たとえ目の醒めるような容姿淡麗な美人や女性の心を鷲掴みするような美男であっても、肝心な台詞が下手で、不自然な演技しか出来ないような俳優は一斉にお払い箱になったのです。

 アメリカ人が普通にしゃべるような発音と違い、訛った英語の発音や無声映画時代に持たれていたイメージと違う声を人前に晒してスクリーンに立たねばならなくなった移民や育ちの悪い役者たちは観客の笑い者に成り果て、キャリアを終えていきました。

 役者や製作者が大きな波に淘汰されていったトーキー黎明期、さらに第二次大戦を経験し、ようやく落ち着いてきたと思ったら、次はカラー時代の本格化という映画史上で2回あった激変の時代をしたたかに、そして見事に対応し得た希有な映画人にセシル・B・デミル監督がいます。

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 デミル監督の作品といえば、豪華絢爛なセットや衣装、宝石類をふんだんに使用したゴージャスな演出で有名で、しかもお風呂に美人女優を入れるようなお色気シーンも取り込み、男も女も劇場に足を運ぶようなサービス精神を持っていました。

 そのかわり、反動で宗教団体や道徳を大切にする保守的な人々からはたいそう叩かれたようです。そういった対応を避けるために製作したのが一連の宗教映画だったのかもしれません。こういう姿勢は保守派ではない、ニューヨークから自由を求めて逃げてきた本来のハリウッドの映画人からは嫌われたでしょうし、茶坊主と思われたかもしれません。

 また自らの成功に酔いしれ、ハリウッドを闊歩していた彼を嫌う者も当然いたでしょう。50年代の赤狩りのときに政府の意向に沿うようなデミルに対しては自由を重んじるジョン・フォードらが対立し、デミルの立場は怪しくなっていく。勝ち馬に乗り続けていたデミルも最後には微妙な立場に追いやられてしまう。

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 サイレント時代に映画の父として君臨していた大立者、D・W・グリフィス監督がトーキー時代の流れについていけずに没落したのと対照的にデミルはハリウッドの重鎮としてのキャリアを伸ばし続けていきました。

 『クレオパトラ』『男性と女性』、そしてこの『十戒』はデミルのサイレント時代の傑作として名高い。モノクロのトーキー時代にも『平原児』のような西部劇を撮っている。また彼はカラー時代にもセルフ・リメイクとなる『十戒』、『サムソンとデリラ』、『地上最大のショー』などの名作を残しています。

 有名な作品を撮り続けた彼なのに、なぜか彼を尊敬しているという映画人を知らない。大きな作品を撮るには予算が必要になる。そして予算が下りるということは彼が会社から信頼を得ていることを意味します。

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 とりわけ十誡へのこだわりは二度製作したくらいですので、かなり強いようです。個人的には海が割れる有名なシーンがある一大スペクタクルのカラー版よりも(一応このモノクロ版にも海が割れるシーンがある。)、こちらのモノクロ版が好みです。このモノクロ版では海のうねりの迫力を出すための特撮にゼラチンを使用し、徐々に熱しながら溶かしていったそうです。

 またこちらの作品でも豪華絢爛なエジプト王のラムセスの宮殿や城門の巨大なセットが組まれている。通常なら必要最小限に制作されているのがセットではありますが、グリフィスやシュトロハイムで懲りたはずの映画会社は同じことを繰り返し、デミルの映画に巨額の予算を注ぎ込んでいく。

 数千人ものエキストラを使い、数百頭の家畜を画面いっぱいに埋めるように配置していく。紅海に呑まれる前の追撃シーンでの戦車隊の迫力は黒澤映画の騎馬の進撃を見ているような凄さでした。

 ただお金は掛けるが、問題作を作るわけではないデミルのほうが会社としては有り難かったのではないか。豪華絢爛という代名詞が似合うのがセシル・B・デミルでした。今でいえば、エメリッヒやキャメロンみたいな立場でしょうか。図体がデカイ映画を撮るのも一種の才能でしょう。たとえそれがデカイだけでも。

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 モーゼらユダヤ人たちを追走しているエジプト軍の戦車部隊の迫力を当時の観客は楽しんだであろう。海が割れるシーンも今の目で見ればチャチに映るかもしれません。個人的には宗教説話を振りにして前半から現代に一気に舞台を移した最終話のインパクトがかなり強い。

  違法な手抜き工事の末に完成した教会の天井はもろくも崩れ去り、多くの死傷者を出す。無一文になり、破産した弟(ロッド・ラ・ロック。弟なのにカインのようです。)はかつての情婦から金を巻き上げようとして、暴力に訴える。

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 こんなロッド・ラ・ロックに対し、ニタ・ナルディはレプラ(ライ病)を感染させてやったとうそぶく。結局、彼女を撃ち殺した後に追っ手をかけられた彼は船で海に逃げるもののラムセスの軍勢と同じように(弟はユダヤ人の末裔のはずなのに)嵐に巻き込まれて絶命する。

 ユダヤ人ならみんな救われるという子供だましの内容にせずに、悪い奴は死ぬという展開はなんか皮肉たっぷりにも思えます。モーゼの妹役を演じていたエステル・テイラーはヴァンプ女優の一人でしたが、彼女は劇中では死んでいない。

 このころのヴァンプと呼ばれた女優たちは映画の作中でも生き永らえることが多かったが、現代編に出てきたもう一人のヴァンプのニタ・ナルディは今回、射殺されるという結末を迎える。

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<十誡>

一戒 汝は私以外を神としてはならない。

二戒 汝は己の為に像を刻んではならない。

三戒 汝は神・主の名をみだりに唱えてはならない。

四戒 安息日を憶えてこれを聖日とせよ。

五戒 汝の父母を敬え。

六戒 汝殺すなかれ。

七戒 汝姦淫するなかれ。

八戒 汝盗むなかれ。

九戒 汝偽証するなかれ。

十戒 汝の隣人の家をむさぼるなかれ。



 宗教を信じる者にとっては当たり前に思われるかもしれませんし、神様を信じない人には厳しすぎると思われるかもしれませんが、住むのに難儀する砂漠の中、そして常に迫害の危機があったユダヤの民にとっては厳しい戒律を設けないとすぐに堕落して、教えが長く続かないし、アイデンティティを保てないという理由もあったのではないかと思います。

 十戒とはユダヤ人たちが人生を送る上での基本的ルールであり、シンプルに生きていく上で必要だったのでしょう。宗教映画が必要とされるのは社会が混沌としているときに古臭いと言われようとも、行動指針を与えてくれるからでしょうか。

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 この作品はサイレント黄金期に作られた大作で上映時間は136分と2時間を超え、2時間半近い超大作になっています。黄金期とはいえ、音のない時代に回転が落ちるこれを出してくるというのは製作会社及びデミル監督に作品への余程の自信があることの表れでしょう。

 セルフ・リメイクとなるカラー版のようなスペクタクル・シーンが好みのファンにとってはサイレント版第二部の現代編はただのメロドラマにすぎず、あまり興味がないのかもしれません。

 しかしながら、宗教が現代の生活でも大きな指針と制御に成りえているのかを知るにはこの現代編こそを見るべきでしょう。旧約聖書に出てきたカインとアベルのお話では兄が悪で、弟が善でしたが、この現代編では逆になる。

 現実にありえる教会の天井落ちのシーンはある意味、紅海が割れるシーンよりも衝撃的でした。違法建築、手抜き建築による事故というのは昔から存在する不正だったことを知ったのは新鮮に映りました。

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 デミル監督を高く評価するファンをあまり知りません。有名な作品を多数製作している割りには次世代のクリエーターへ与えた影響は低い。ただ好き嫌いを別にすると過小評価されすぎている気もします。大作を任せられる安定感もまた、大いなる才能なのかもしれませんので。

 おそらくほとんどの観客はスペクタクルとしての十戒がメインに描かれるものだと思っていたのでしょうが、130分強の上映時間中、モーゼの場面が出てくるのは開始後40分位までである。

 しかもそれは教訓話を現代劇である後半のメロドラマへ繋げていくための“つかみ”でしかなかったのです。ただ後半にも教会の天井落ちシーンやモーター・ボート“挑戦(無謀な)”号での暗礁への激突シーンなどの派手な見せ場を作っているので退屈さは感じません。

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 個人的に興味深かったのは弟の妻役のリートリス・ジョイが作業用エレベーターで屋上に挙がってくるシーンでのカメラ・ワークと編集でした。早く上に昇りたい彼女の視線は地上階からずっと幾何学模様のようなエレベーターの枠内をずっと上に向いている。

 19階建ての真ん中を過ぎた辺りでふと彼女の視線は横に移動し、当時は珍しかったであろうエレベーター内からの外の景色に目を留める。そして屋上につくと視点が変わり、堅物の兄(リチャード・ディックス)のそれに移っていく。その流れがとてもスムーズだったのがなぜかとても印象に残っています。

 通俗的で派手な演出や権力者寄りな態度などで批判されることの多いデミルではありますが、大衆が見たいと思うゴージャスな雰囲気を持った映画を作っていたことをもっと評価されて良いでしょう。日常から離れて、豪奢な空間を楽しむにはデミルの映画しかなかった中産階級より下の大衆には夢を見させてくれていたのではないか。そう思うと一概に下世話で通俗的だとばかりは言い切れない。


総合評価 79点


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