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zoom RSS 『愛人関係』(1973)フランス産、悲恋のサイコ・スリラー。脚本に難があるものの光る部分あり。

<<   作成日時 : 2011/09/06 19:25   >>

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 アラン・ドロン出演のラヴ・ストーリー&サイコ・スリラーで、この作品での彼のクレジットは一番目ではありますが、主役として物語を牽引しているわけではなく、どちらかというとミレーユ・ダルクを支える助演でした。

 若い頃に脚光を浴びた二枚目スターが年齢を重ねても、引き続き栄光のキャリアを持続していくときには多くの場合、主役から助演へのシフト、演技派俳優への転換などを図らねばならない潮時がやってきます。

 アランドロンに関してはこの作品などは彼にとって、ちょうどそうした過渡期に当たっていたのではないか。存在感を示しつつ、なおかつ抑制の効いた演技で物語世界に溶け込んでいかねばならない難しい立場となります。

 それでも興行を行う上では宣伝のためにビッグ・ネームを一番上に持ってきますので、観客からすれば、この作品も彼にスポット・ライトを当てた映画の一本なのだと思ったのでしょうが、製作にもかかわっていた彼はあえて脇に回ることで自身のキャリアのあり方を模索したのでしょうか。

 実際、この作品を見ていくと、ストーリーを動かしていくのはアラン・ドロンではなく、ヒロインを演じたミレーユ・ダルクでした。ドロンは彼女に引きずり回されるようなというか、陰で支える役回りに専念しており、積極的にストーリーを転がす動きはしない。ラストで物語を閉じる役目を負ってはいましたが、それ以外は行いません。

 道化役のようなクロード・ブラッスールもがんばっていました。とくにブラッスールは何を考えているか分からない謎のヒロインと渋い二枚目ドロンの二人とは好対照な明るさを出していて、主要な登場人物三人で光と影がはっきりと分かれている。

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 見たのは昨夜で、そのときのドロンはあまり強い印象を残さず、どちらかというと地味な立ち位置をキープしていたというイメージしかなかった。ラスト・シーンにしても、自分が愛した、精神を病んだ悲劇的なヒロインを警察に渡すのが忍びないので心中する男(弁護士役なのに。)の切ない末路を描くという誰も救われない物語でした。

 ストーリー展開と独特の時間をなぜていくようなリズムに気をとられてしまい、冷静に見ていられない作品でもあります。最近のハリウッド映画にどっぷりと浸かっている人がこれを見れば、かなり退屈でしょうし、30分くらいで見切ってしまい席を立ってしまった方もいたかもしれません。

 また最後までついて行った方もハッピーエンドとは程遠い結末には違和感を覚えるかもしれません。そもそも、ほとんどの大人がこの世の中は嫌なことばかりであると理解しています。大人にしか分からない映画、つまり見る人を選ぶ作品でした。

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 作中では精神を病んだ彼女には何件もの殺人容疑が掛かっており、病気のために殺人罪は適用されないが、もう一生涯を病院で暮らすこととなり、社会には戻ってこれない。それでも愛した彼女の将来を悲観し、治る見込みのない彼女を守るためにドロンは風光明媚な展望台に連れて行き、拳銃による心中を選ぶ。

 ミレーユとドロンが心中するシーンは映像としてはありませんが、拳銃の動きと銃声で表現されているので、展望台でそのあとに何が起こっているかはどんな人間でも解る。ドロンは悲劇の人と理解されるのでしょうが、一緒に死を選び、あの世でともにあろうという行動を見ると、一概に不幸であるとは言えないのではないか。

 弾丸が愛情表現だというのは悲劇的ではありますが、映画として受け入れられないような結末ではない。バカげた思い違いかもしれませんが、悲しく衝撃的な幕切れではあります。

 これも物語の終わらせ方のひとつでしょう。なんだか後ろ髪を引かれるような気まずい余韻を残す作品で、見た日よりも次の日にじわじわきました。

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 ただし、当時のアラン・ドロンとミレーユ・ダルクの関係をワイド・ショー的に利用した、下世話な邦題『愛人関係』が作品理解への妨げになっている。余計な先入観を見る前から与えてしまっているので、この映画に限らず、邦題に良くありがちではありますが、配給元のタイトル決定者は映画は後々まで残っていくのを理解し、将来の映画ファンにバカにされないように猛省すべきでしょう。

 ただしこの映画にはドロンも製作に携わっているようですので、ごり押しでミレーユ・ダルクを使い、彼女を売り出しているのも事実なので、映画会社のみを責めるわけにも行かない。スタローンが糟糠の妻を捨て、モデルだった大女(ブリジット・ニールセン)に奔り、彼女を自身が主演する映画に起用していた時期がありましたが、あれと同じなのでしょうか。

 40年近く前の映画ですので、かえって今になってこの作品にまっさらな頭で向き合う方がより深く作品の本質に迫れるのかもしれません。じっさい、映画の外の醜聞など何十年も経ってしまえば誰も覚えていないし、関係もない。

 原題『LES SEINS DE GLACE』、つまり“空虚な心”とでも言い換えればいいのでしょうが、こちらのタイトルを理解した上で作品を鑑賞したほうがしっくりきます。感情を表に出さずに、しかも殺人を犯すほどの激しい衝動を内面に秘めるヒロインは1970年代では異質に映っていたのではないだろうか。

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 今でこそ、精神を病んだキャラクターを主役に持ってきて、その異常性やそんな登場人物にも普遍的な部分があることを物語るような作品を受け入れる土壌が観客側にもあるでしょうが、当時はどうだったのだろう。

 感情をあまり表さなかったミレーユの最後の笑顔は意味深長でしたので、リボルバーの弾丸による唐突な結末がより印象を強くする。アラン・ドロン出演作では『地下室のメロディ』でのプールに沈んでしまった札束を映し出すラスト・シーンも強烈なイメージを残しました。

 そのほかではフィリップ・サルドによるサントラが秀逸で、作品を盛り上げ、ワン・ランク上に導いています。薄暗い照明も素晴らしく、アメリカ映画にない落ち着きを感じました。でもドロンが乗っていた車がアメ車に見えたのは気のせいだったのだろうか。

総合評価 60点



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タイトル (本文) ブログ名/日時
『愛人関係』〜愛し合う男女の超悲劇、ミレーユ・ダルクの素晴らしい代表作品〜
 アラン・ドロンの得意としていたジャンルである「フレンチ・フィルム・ノワール」の特徴によるものかもしれませんが、彼は、往々にして女性に対しては、デリカシーのない役柄が多く、それは恋愛を主題とする「メロドラマ」の代表作品である『高校教師』(1972年)や『個人生活』(1974年)においてさえ同様だったと思います。 ...続きを見る
時代の情景
2011/12/20 00:56
『愛人関係』A〜北海道が誇る釧路出身の直木賞作家「桜木紫乃を作った映画」の1本〜
 北海道釧路出身の桜木紫乃は、自らの出身地である釧路を舞台にして男女の悲哀をテーマにした作風で活躍している売れっ子の作家であり、2014年直木賞作家でもあります。  2014年(平成26年)2月発刊の月刊誌「ダ・ヴィンチ」2月号に彼女の特集が組まれていました。それは、「50万部突破のベストセラー『ホテルローヤル』著書の劇的半生 桜木紫乃という女」の標題による特集記事で、特に私の眼が引きつけられたのが、その記事での「桜木紫乃を作った映画」という項目でした。 ホテルローヤル (集英社文芸単行本... ...続きを見る
時代の情景
2014/04/27 18:32

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
用心棒さん、わたくしの無理なわがままを聞いてくださり、ありがとうございます。
素晴らしい作品評です。
ドロンのファンとしても
>主役から助演へのシフト、演技派俳優への転換
など、おっしゃるとおりで、まさにアラン・ドロンの模索は、この作品からも感じられます。このころは、得意の「フィルム・ノワール」も「恋愛悲劇」もワンパターンに陥ったり、斬新ではあってもアピールする要素が小粒であったりして、ドロンの開拓精神も縮小していたのかと思っています。
原点に立ち返った「ゾロ」も単発で受けただけでしたし・・・
>ごり押しでミレーユ・ダルクを使い、彼女を売り出しているのも・・・
確かに、これも当時のファンには見え見えだったと思います。当時の女性ファンは、わざわざ足を運びたくない作品だったでしょう。こういう脇の甘さがドロンには、良くあるんですよね。ハリウッドでデビューのときに妊娠していたナタリーと電撃結婚していたり。
スターとして、プロデューサーとして、女性ファンに対するマーケティングがおろそかです(笑)。

しかし、わたしとしては、ミレーユ・ダルクの無垢でありながら凶暴である両極端の側面、それが狂気の世界にいる女性という非常に魅力的な役どころに惹かれてしまいます。そういった意味では、ドロンのねらい目は、たいへんよろしかったと思うのですが・・・。

フランス映画作品史の流れはクルーゾからのものでしょうかね?

では、また。

P.S.新記事で、アンドレ・マルローの『希望 テルエルの山々』の記事に直リンさせてもらっています。事後連絡ですみません。
トム(Tom5k)
2011/09/10 02:21
 こんにちは!
ご期待に添えたかどうかは不安でしたが、なんとか形に出来ましたので、記事にしました。

なるべく冷静に一作品として、そしてドロン出演作の中の一本というだけではなく、純粋に欧州映画の佳作として見ていきました。

薄暗いブルーの色調や暖色でも落ち着いた感じになっていて、個人的には好きな色合いでした。

>マルロー
すでに読ませていただきました。いつでも使っていただいて結構ですよ(笑)

あとで伺いますね!

ではまた!
用心棒
2011/09/10 16:32
用心棒さん、ようやく、「愛人関係」の記事をアップできました。
TBします。
用心棒さんのこちらの記事のおかげで、大分客観的にこの作品を鑑賞できるようになりました。
そのあたりを記事にしてみました。
ファンであるが故に作品を素直に観ることができなかったことに気づくことができたように思います。この作品は、なかなか記事にすることができなかったんですよね。用心棒さんには、ずいぶんと力をいただいたように思います。ありがとうございました。
またまた、勝手に随所の引用をしております。お許しください。
では、また。
トム(Tom5k)
2011/12/20 01:03
トムさんからメッセージとTB下さって、こちらにもお邪魔です。
アラン・ドロン関係は最近ではトムさんに背中押されて見ているナァ。タイトル忘れたけど、ドロンとダルクが愛人関係のノワール作品を見た記憶があるけど本作も見た記憶が無い。トムさんの記事読んでいると、ではでは見なくっちゃという気になってしまって…(笑)
年末年始のどっかで見て、用心棒さんの記事拝読は作品を観てからにしますね。それからコメントできるようだったら又お邪魔しますね。
年内はまだお邪魔できるかな?
ともかくもお風邪など召しませんようにご自愛くださいね。
シュエット
2011/12/22 11:35
 トムさん、こんばんは!
>ファンであるが故に
 ぼくも黒澤作品には思い入れがあるので、なかなか書けないんですよ。

 冷静にはなれず、どうしても贔屓目に見てしまいますが、記事を書くうちに“ファンなんだから贔屓目で良いじゃないか!”と開き直るようになりました。

 好きなものは好きなんだから、無理に冷静を気取る必要もなかろうという結論に達しました(笑)

>引用
どうぞ!いつでも使っていただいて結構ですよ(笑)

ではまた!
用心棒
2011/12/22 23:17
 シュエットさん、こんばんは!
>アラン・ドロン関係
 最近というか、ここ数年とくに感じることですが、シネフィルやザ・シネマで彼のマイナー気味の出演作品が相当数オンエアされていますね。

 メルヴィルが好きなので、彼がらみの作品群が放送されるたびに見ていました。

 近所のツタヤでも『愛人関係』『仁義』『リスボン特急』などが新入荷コーナーに置かれてきているので、再評価が進んでいるようです。

 シュエットさんも体調にお気をつけて、のんびりと更新していってください(笑)

ではまた!
用心棒
2011/12/22 23:25
用心棒さん、TBさせてもらいます。
こういった地味な作品にこそある味わいって何とも贅沢な嗜好のような気がしています。
最近、「ボルサリーノ」の完全版とともに、「シシリアン」(フランス語版初ディスク化)も楽しんでいます。英語バージョンしか出ていなかったんで最高ですね。
それからまだ購入を迷っているんですが、「現金に手を出すな」が久しぶりに再販されているようですね。フレンチ・フィルム・ノワール・ファンとしては嬉しい限りです。「
ところで、最近、テレビドラマでノワールものを二本やってますよね。NHKで「ロンググッドバイ」、深夜にテレビ東京の「リバーエッジ大川端探偵事務所」。
どちらも観ていますけれど、なかなか味わいがあります。「リバーエッジ大川端探偵事務所」EGO-WRAPPIN'の主題曲も素晴らしいですよ。
用心棒さんはご覧になってますか?
では、また。
トム(Tom5k)
2014/04/27 19:45
 こんばんは!

どちらも未見です(汗)

ただEGO−WRAPPIN’は昔から好きで、「色彩のブルース」と「くちばしにチェリー」ははじめてPVを見た時に退廃的な雰囲気にびっくりした思い出があります。

>現金

TSUTAYAさんのお薦め作品コーナーで最近見ましたよ。ノワール復権なんですかね。先の見通しがつかない時代に流行る作風なので、ちょっと怖い気もします。

未来への不安が暗黒映画を生んだ土壌だったと思いますので、新作ドラマでノワールの傾向が強いということは興味深いですね。

ではまた!
用心棒
2014/04/29 00:34

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『愛人関係』(1973)フランス産、悲恋のサイコ・スリラー。脚本に難があるものの光る部分あり。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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