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zoom RSS 『日本暗殺秘録』(1969)テロリズムを礼賛した東映の問題作。ただ平成の世でも共感できる点がある…

<<   作成日時 : 2011/07/13 09:56   >>

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 かつて日本映画界にあって、『仁義なき戦い』『緋牡丹博徒』『日本侠客伝』などの大ヒット作品と続編シリーズもあり、俗悪なヤクザ映画で多くの興行収入を稼いでいたのが東映でした。

 興味深いのはそういった“形”としてのヤクザ映画や見せ物映画を製作する中でも、中島貞夫、深作欣二、石井輝男などの個性派はしっかりと各々の才能を示し、のちのキャリアに繋げていることです。

 それはさておき、多くの東映映画が醸し出していた下世話で品がなく、アナーキーでモラルを無視するような暴力を賛美する作品群の中でも異質さで群を抜いていたのがこの『日本暗殺秘録』です。

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 暴力を肯定する風潮が強く出ていた東映作品ではありましたが、暴力団同士の抗争を描くことで一般社会とは隔離されたある意味、御伽噺としてのギリギリの一線を越えないように、規律を保っていました。

 しかしついに暗殺という最終手段まで肯定してしまい、心情を暗殺者側に寄せることで、公開後には作品ごと闇に葬られることになりました。結果、この映画は一度もソフト化されることもなく、40年以上を経過してしまいました。

 血盟団事件以外は大雑把に幕末から戦前までの暗殺をオムニバス形式に描いたものになりますので、見せ物映画的色彩がかなり強いと思われてしまい、正当な評価を受けていないように思います。中身はかなりしっかりと作ってあり、ただのスプラッター描写だけのキワモノではありません。

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 東映はこういった実録や事件物のオムニバス映画が好きなようで、『戦後猟奇犯罪史』という作品もあり、そこには西口彰連続殺人事件、大久保清連続婦女暴行殺人事件や克美しげる事件などを詰め込んでいました。

 ほかには『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』もあり、阿部定事件を扱いながら、本編に阿部定本人が出演するという掟破りの演出までやり遂げています。これもずっと封印されていましたが、現在はDVD化されています。

 この映画『日本暗殺秘録』では9つの主な暗殺事件、すなわち、「桜田門外の変」、「大久保利通暗殺事件」、「大隈重信暗殺未遂事件」、「星亨暗殺事件」、「安田善次郎暗殺事件」、「ギロチン社事件」、「血盟団事件」、「永田鉄山軍務局長暗殺事件」、「二・二六事件」が描かれ、なかでも血盟団事件を中心に扱われる。

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 出演者が超豪華であり、若山富三郎(桜田門外の変で井伊直弼の首を刈る。)、唐十郎、菅原文太、土方巽、千葉真一、片岡千恵蔵、小池朝雄、藤純子、賀川雪絵、橘ますみ、田宮二郎、近藤正臣、鶴田浩二、里見浩太郎、高倉健、川谷拓三らが贅沢に配置され、ナレーターを芥川比呂志が務めている。

 血盟団事件にスポットを当てているため、千葉真一や藤純子、片岡千恵蔵以外の出番はほんの数分程度のスターばかりで、高倉健も鶴田浩二も登場したと思ったら、すぐにどこかへ行ってしまいます。

 この映画は名画座で上映されたり、マニアの話題に上がるものの、なかなかDVD化もされないまま倉庫に埋もれ、長い間、ずっと封印されていた。そしてCS放送の発達とディープな映画ファンの嗜好が一致した結果、ついに有料の衛星放送ではありましたが、オンエアされました。

 確か数年前でCSの東映チャンネルにて画質は悪いままではありましたが、放送中止などのアクシデントも何事もなく、無事に放映されました。そして、今年の春先にDVD発売の告知がされ、数週間の延期があったもののついに発売され、アマゾンから到着しました。

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 江戸時代末期以降の井伊直弼を暗殺した桜田門外の変から始まり、血盟団事件を挟み、226事件まで突き進んで行く。作品では主に血盟団事件のテロリスト(千葉真一)にスポットを当て、彼の生い立ちと境遇、テロリストとなるきっかけとなる出会いと行動が綴られていく。

 ここで注目すべきなのは視点がテロリスト側から語られていて、権力や財閥は敵であり、民衆のために立ち上がるテロリストに同情し、かれらを賛美し、正当化している点にあります。まあ、プロパガンダである一連のエイゼンシュタイン作品やレニ・リーフェンシュタール作品がコミュニズムやファシズムを正当化していました。

 アメリカの作品が常にドイツやロシアを敵側として描き、彼らアメリカ人こそが唯一無二の正義であることを見る者に刷り込み、アメリカの立場を正当化しているわけですから、テロリズムをそう扱っても、本来ならばゴチャゴチャ言われる謂われはないのでしょう。

 本作品ではテロリズム=暗殺を思想として認識しています。が、しかしながら、果たしてテロリズムが思想なのかと言われると、軽々しくは是とは答えられない。

 物心がついたころから経済的か、もしくは人間関係に恵まれず、いつのまにか社会から疎外されて、自暴自棄な考えを持つようになってしまった人にはアナキズムやテロリズムの負の側面である暴力による問題解決は欲求不満を解消する手段として手っ取り早く、自己正当化が出来るので、心地よく響くのかもしれません。

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 しかし、暴力はさらなる暴力と憎悪の連鎖を生むだけで、結果としては加害者と被害者を増やし続けていくだけで、問題の本質は何も変わらない。

 では恵まれない、暴発していった彼ら、追う者であるテロリストの標的となる権力者たちには何の問題も過失もなく、ただの狂信的で無知な男の理不尽な暴力によって、道半ばで倒れた民主主義に殉じた犠牲者であると言えるだろうか。

 もちろん犠牲者が誰でも構わないという無差別テロは言語道断で、ただの大量殺人犯に過ぎません。では国民に寄生し、己と己の身内だけが裕福に生きていければそれで良いというような国賊的な政治家や企業家に天誅を下すことは完全に悪であるとは言えるだろうか。

 そこへの短絡的な手段がテロリズムなのでしょう。ヒトラーにあって、その他の暴力容認論者になかったのが大きなビジョンと全国的な組織活動を機能させた実行力の強さであろう。

 ネットが発達している現在では新たな政治の流れが起こせそうな気もするが、今のところは実行力のある人はまだ出てきていないようです。日本に未来はあるのだろうか。と言いながら、運動を展開する人が支持を集めだすと過激な立場を容認する人々が増えてきそうな気もして、それはそれで嫌な流れになるのかもしれません。

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 方法論は大きく間違ってはいるが、戦前までの過激な若者たちに負けない真摯さを持ち、矢面に立てるような人物はこの国にいるのだろうか。これを見たのがもしバブルの時代だったのであれば、クソ真面目に革命を語るクレイジーさや汗くささに鼻をつまみながら、劇場内で嘲りの笑いが起こったかもしれません。

 昭和40年代ならば、軍国主義なんてもう忘れたいから、さっさと終わってしまえと思ったのかもしれません。では長引く平成不況と未曽有の大災害のあとに必ず来るだろう一時的な景気回復と長期的に続くだろう大不況の近未来に多くの若者や虐げられ続けた労働者たちが流れを打って、支持していこうとする受け皿となるのは既成政党ではありえない。

 また痛みを伴うであろう多くの政策に対し、自分の票数を稼ぐために奇麗事を言うのみで、ただ反対だけする政治家たちはもはやこの国には必要ない。また愚かな政治家たちを隠れ蓑に使い、自分たちの保身のみに躍起になる官僚も必要ない。

 作品では、暗殺を超える思想とはなんだろうか?という問いが投げかけられる。貧乏人は救いがない、法は権力を守るものであり、国民を守るものではないとも語られる。昔でいう奉公人とはいまでいう低所得者層のことであり、ホームレスの描写もすでに作品に出てくる。

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 一人一殺主義が血盟団のロジックだったこともはじめて知りました(劇中の便宜上の演出だったのかも…)。テロリストの死の直前の言葉が多く語られるのも特徴で、226事件で銃殺刑にあった17人のうち、ほとんどが「天皇陛下万歳!」と叫びながら、死んでゆく中、ひとりが「秩父宮万歳!」と叫ぶのが妙にリアルでした。

 国家権力は権力者を守るために存在し、国民を守るものではない。正義とは国民の幸せを守ることである。テロリストは革命の導火線である。テロリストたちの多くが自決を選び、出来なかった者は処刑される。右翼のテロリストたちは組織的な行動を取るよりは個別に各要人を付け狙う。

 映像的に見ていくと、千葉真一が海に向かっていくときの深く沈むような青色の鮮烈さが印象的でした。殺害シーンはさすがに東映らしく、鮮血が飛び散る描写がかなり多い。226事件の首謀者たちの処刑は執拗すぎるくらいで、15人の最後の声を伝えながら、頭部を狙撃していく。

 純粋な彼らが国賊呼ばわりされ、保身を第一とする幹部たちは粛々と命令を下していく。理不尽な対応ではあるが、過激分子や権力者の政敵はどこの国でも粛清されていく。ナチスのレーム、ロシアのトロツキー、そしてわが国の青年将校たち。暗殺は誰のためか?暗殺で正義を体現できるのか?そもそも殺害に正当性などない。

総合評価 80点


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