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zoom RSS 『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(1991)妻が撮った『地獄の黙示録』のドキュメント。

<<   作成日時 : 2010/11/18 22:08   >>

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 今回は『地獄の黙示録』の補足として、コッポラの妻が映画撮影中に回していたカメラをもとに製作されたドキュメンタリーを書いていきます。DVD化されていない現状ではなかなか見る機会のない作品で、陽の目を見ないものになってしまうのでしょうが、妻をはじめ身内が撮影していたので、スタッフもカメラを気にすることなく、かなりリラックスして自然にカメラに収まっている。

 1979年に世界中の映画ファンに大きな衝撃と戸惑いを与えたフランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』は2001年に特別編が公開され、50分余りの未公開シーンがようやく復活したことにより、映画ファンの間でふたたび話題になりました。

 しかし今回は特別編についての記事ではありません。じつはこの映画では本編用とは別にもう一つのカメラとテープ・レコーダーがコッポラの妻であるエレノアらによって回されていて、それら身内のスタッフの手による映像に、新たに撮られた出演者やジョージ・ルーカスを始めとする関係者たちのインタビューを加えて、一本のドキュメンタリー映画として1991年に『ハート・ダークネス/コッポラの黙示録』として公開されました。

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 90年代当時はまだ特別編が公開される前でしたので、このドキュメンタリーに入っているフランス人のコロニー・シーンは新鮮でした。アメリカ人が自国に攻め込まれた訳でもないのに、縁もゆかりもない東南アジアで戦う理由に疑問を感じるなかで、フランス人たちは植民地に根付いているので、二世以降は祖国で彼らの土地を守るために戦うのは当然というロジックが提示されている。

 先住民であるベトナム人からすれば、欧米人はどちらも侵略者にすぎないので、彼らの仮説、つまり彼らの祖国であるという考え方自体が間違いなのだと突き付けてくるであろう。

 戦う理由が明確に示され、白人の身勝手さも示される重要なシーンではありましたが、コッポラはこの部分の予算を渋られてしまう。映画会社はこのシーンのセットには金を掛けても、コッポラの望み通りの俳優たちをブッキングすることに難色をしめしたのです。

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 レベルの落ちる出演者を用意されたことに苛立ったコッポラはこのシーンを全くなかったことにしてしまう。ですから特別編にこのシーンが収録されたことは個人的には意外ではありました。おそらく他のスタッフや身内が辛抱強く、コッポラを説得したのでしょうか。

 まあ、今では普通に特別編に収録されているシーンではありますが、もし特別編がなければ、このドキュメンタリーでしか見ることの出来ないシーンであったので、今以上にこのドキュメンタリーのDVD化が望まれていたことでしょう。

 出演者たちのモチベーションの低さや金銭への執着がフィルムで露呈されているのも興味深い。マーロン・ブランドの体重オーバーと台詞をまったく覚えていないことは有名ですが、彼は撮影前から手付けに100万ドルを受け取っておきながら撮影をキャンセルしようとするくせに、貰った100万ドルは返さないなどというムチャクチャなことをコッポラに告げます。

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 デニス・ホッパーの薬物依存症もひどく、原作を読んでいないし、台詞も入っていません。コッポラと両者の口論の様子もカメラに収められている。またその様子をつまらなさそうに口を開けて欠伸をしているマーティン・シーンの顔も新鮮でした。

 大型台風などの天候にも苦しめられ、カーツの王国のセットも半壊し、作り直しを余儀なくされる。外貨を獲得したかったマルコス大統領は自ら協力を約束しながらも、フィリピン国内はゲリラに翻弄されていて、内憂外患のフィリピンを露呈する。

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 ゲリラを掃討するとの軍の指令により、撮影中でもお構いなしにヘリが作戦に向かってしまうという適当さに苦しめられ、出演者たちのモチベーションの低さに苦しめられ、映画会社の予算問題に苦しめられたコッポラが追い詰められて、精神的に極限状態に陥って、常軌を逸するような行動を取るのはしょうがないとこれを見たら納得し、さまざまな問題点があったことを理解するでしょう。

 もともとこの作品はジョージ・ルーカスが監督し、ジョン・ミリアスが脚本を書くことが決定していたのがコッポラにお鉢が回ってきた作品です。結果論で言えば、コッポラはこの企画を受けて正解でしたが、当時は五里霧中だったのではないでしょうか。

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 インタビューがまた興味深い。なんといっても伝説の映画の当事者たちの肉声を聞ける機会は今でこそDVDのオーディオ・コメンタリーなどがあり、珍しくはありませんが、当時はそう多くはありませんでした。結果として、この映画の撮影には1976年に始まってから8ヶ月の時間がかかり、予算は2000万ドルに達し、編集に2年近くかかり、公開されたのは1979年でした。

 このような撮影はもう二度とは出来ないでしょうし、そもそも企画が通らないでしょう。ちなみに最初にこの映画の原作であるコンラッドの『闇の奥』を映画化しようとしたのは1939年のオーソン・ウェルズでした。もし彼が撮っていたら、どのような作品になっていたのだろうか。『偉大なるアンバーソン家の人々』の完全版と並び、映画ファンの興味は尽きない。

 2000万ドルの予算というと、円高の今では18億円くらいでしょうが、1970年代の貨幣価値ならば、50億円以上にはなるでしょうし、人件費や物資調達の容易さを考えれば、さらにこれ以上の使い道はあったろうと推察出来ます。

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 そういうことも併せて考えれば、この『地獄の黙示録』がメジャーの映画会社の企画として成立し、映画監督の自由裁量で、ある程度は好き勝手に撮影出来た最後の時代だったと言えるでしょう。

 宣伝活動や興行収入などの金にまつわる話ばかりが目立つ現状からすれば、同じ金の話題でも映画の質を高めるために必要な予算を取ることに四苦八苦していた時代のほうが精神的に健全だったのではなかろうか。

 しかし、まあ色んなことを話題にできる映画ではある。音楽と映像との補完性についても、もし詳しい人がやろうと思えば、ドアーズの『ジ・エンド』の歌詞が父殺しと母への近親相姦を扱っていることに注目し、ウイラードとカーツとの関係性について新しい意見を述べることも出来るでしょう。

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 映画の最初と最後でこの曲を流す意味についても、色々考えるのも楽しい。例えば映画の内容は『ジ・エンド』の世界観のなかで存在している悪夢なのだとか、まるで妄想ではありますが想像を働かすのは自由です。

 また『ワルキューレの騎行』の使い方についても、ただ流すだけでも大迫力のシーンであるのに、曲の2つ目の盛り上がりになっていくコーラスが叫ぶパートに掛かるタイミングで、キルゴアのヘリ部隊が一斉に攻撃を仕掛けるという演出センスの素晴らしさは言葉に表すのが非常に難しい。

 この映画の映像はとても強烈な印象を残すが、一面ではさまざまな憶測や見方が出来ることから解るように、じつはとても隙だらけの作品でもあります。つまり遊びを許してくれる度量の広い映画なのです。見たことのない方、敬遠し続けた方にこそ見て欲しい。どこかに必ず受け入れてくれる瞬間が来ます。そこを探しましょう。

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 『ジ・エンド』のオリジナル・テイクは『ハートに火をつけて』のレコードのB面5曲目に、つまり最後の締めに収録されていました。ちなみに『ハートに火をつけて』はA面の最後に収められていますので、彼らの代表的な二つの楽曲の位置は聴く者により強く印象に残る。アルバムを根気よく聴いた者にだけ至福が訪れる。この映画ではオープニングとエンディングで二度も流される。終わりの物語を始めて、再び終わりの歌が流される。無限のループであり、恐怖は終わることがないということなのでしょうか。

 映画の本編はもちろん強烈な映像の塊ですが、本編よりも興味深いドキュメンタリー映画もあるというのをはじめて知りました。『地獄の黙示録』を深く知りたい方には必見の映画でしょう。


総合評価 90点



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タイトル (本文) ブログ名/日時
「ドアーズ/まぼろしの世界」
WHEN YOU'RE STRANGE 2009年/アメリカ/82分/ドキュメンタリー at:シネマート心斎橋 監督: トム・ディチロ ナレーション: ジョニー・デップ 出演: ザ・ドアーズ<ジム・モリソン/ジョン・デンズモア/ロビー・クリーガー/レイ・マンザレク>里帰り出産の娘を置いて仕事帰りに映画も気が引けるこの頃。観たい!と思う映画もあまりないし、見逃した映画は数ヶ月先のWOWOW放映で我慢しましょうと思っているけれど、このドキュメンタリー映画はWOWOWで放映されるかどうか... ...続きを見る
寄り道カフェ
2010/11/24 15:56

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
TBありがとうございました!
用心棒さんの「地獄の黙示録」に向けられた情熱の半端ではないのが、こんな作品がでてくるところでもよく分かる。
撮影中のトラブルは公開前からさんざん言われてましたよね。でもそれらさえも、行開当時の衝撃も醒め、落ち着いた眼で見直してもなお、こうしたトラブルの一つ一つも不思議と映像のワンピースとして必要不可欠なものとして映る。というかそうしたことも凌駕するほどの力を映像そのものが持っている。そう思いません?
ジョージ・ルーカスが予定通り撮っていたら…
しかしルーカスは僕の手に負える作品ではないと言ったとか…正しい選択。もし彼が獲っていたら、ひょっとしたらスター・ウォーズができていなかったかも。ルーカスは現実よりも神話を、スターウォーズを撮りたかったかったんでしょうね。アマゾンで価格確かめよう。こういう時に備えてまだまだビデオデッキは健在なんですよね(笑)
シュエット
2010/11/24 15:35
>本編よりも興味深いドキュメンタリー映画もあるというのをはじめて知りました。
この言葉につられて早速に用心棒さんところからアマゾンに行ってみたら2千円台が1本だけあったから即ゲット。他は5千円近いんだよ。
昨日の祝日、ドキュメンタリー映画「ドアーズ/まぼろしの世界」観にいってきました。ジムモリスンの破滅への道とアメリカのそれとが重なるようで…。ジョニー・デップのナレーションが好印象。
ジム・モリスンの父親って軍人なんですね。ベトナム戦争でも派兵指揮していたんですって。メジャー・デビューした彼のプロフィールには父母は死亡とあって両親は驚いたとか。彼は自分のアイデンティティ全てを憎み殺したかったのかしら。全ては滅びても、詩と歌だけは残る…これが彼のメッセージ。
拙文ですが映画感想TBしますね。
シュエット
2010/11/24 15:55
 こんばんは!
ドアーズのドキュメンタリーに行かれたんですね。楽しまれたことと思います。

タイトルが良いですね。『ハートに火をつけて』ではなく、『まぼろしの世界』というのがセンスがイイなあと感心します。

けっこうこのタイトルのほうがしっくりする方って、多いんじゃないですか?

コッポラとジム・モリソンの関係、ジムと両親との関係など興味深いことは多いですよね。

>アマゾン
おおっ!倍以上も値段が違うというのもなんだかスゴイですね。ぼくも前に『黒蜥蜴』をヤフオクで落としたんですけど6000円くらいで高いかなあと思っていたんですが、そのあとのオークションで15000円とかになっていて、かなり驚きました。

内容は興味深く、「おお…!」とか「そうだったんやあ…」が多いドキュメンタリーでした。古いVHSなんで画像が悪いのが残念でしたが、ノイズはなかったんで、良しとせねばならないのでしょう。

ぼくは明日ハリー・ポッターにでも行こうかなあと思っていますよ(笑)

ではまた!
用心棒
2010/11/24 22:24
新年明けましておめでとうございます。
今年もまた折に触れこちらのブログに遊びに参り
たいと思っております。
ところで『地獄の黙示録』は当時,劇場にて観賞し,
『ハート・オブ・ダークネス』は十数年前にレンタル
VHSにて観賞致しました。
実は脚本担当ジョン・ミリアスの『コナン・ザ・グレ
ート』が大好きな小生なのですがオリバー・ストーン
が脚本に参加した『コナン』の印象は「これって,
『地獄の黙示録』テーマじゃないのか?」というもの
でした。その後ミリアスは『ダブルボーダー』や
傑作『戦場』を世に送り出すことになりますが
この人『オデッセイ』や『冒険ダン吉』に通ずる
テーマにこだわる人なのではないかと思うのです。
『地獄の黙示録』の原作『闇の中』はベトナム戦争
を題材にしたドキュメンタリーではなかったわけで
つまりは『ハート・オブ・ダークネス』に描かれた
スケジュールの破綻が“狂気”というひとつの
概念のもとにひとつの完結した作品を産み出す
結果となったといえないでしょうか。
『地獄の黙示録』劇場公開時NHK教育TVが大島渚監督
司会でコッポラ監督の特番を組んだ際にゲスト出演
されたベトナム戦争従軍ジャーナリスト氏が『地獄の
黙示録』をつまらない映画として批判していました。
ベトナム戦争映画ではなくベトナムの戦場を題材に
した『オデッセイ』でありそれが『新世紀エヴァン
ゲリオン』の如く制作が破綻してしまいそれを
ムリヤリ風呂敷をたたもうとした作品というところ
でしょうか。
『ハート・オブ・ダークネス』はコッポラ監督にとり
かの作品の制作が,ベトナム戦争みたいにたいへん
だったことをあらわしたとても興味深い作品と思います。
乱筆乱文ご容赦を!
snowman
2011/01/01 22:43
 新年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

>戦争従軍ジャーナリスト
『地獄の黙示録』という映画はいわゆるベトナム戦争映画とは一線を画す作品で、御伽噺を見るような感覚で、見たほうが理解できるのかもしれませんね。

>制作が破綻
この作品もエヴァもどうまとめたらいいか作っている方が分からなくなってしまっているためか、後半に進むにつれて、バランスが悪くなっている感があります。

ただまとめられなくなっていることが観る者にさまざまな読み方をする自由を与えてくれてもいるようにも思えます。

見れば見るほど、迷宮にはまり込むような特異な作品が『地獄の黙示録』なのでしょうか。

ではまた!
 
用心棒
2011/01/02 14:40

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『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(1991)妻が撮った『地獄の黙示録』のドキュメント。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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