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zoom RSS 『告白』(2010)中島監督の新境地。見応え十分な作品でした。

<<   作成日時 : 2010/07/02 23:13   >>

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 松たか子ばかりがクローズアップされているようですが、ぼくが一番気になったのはファッション誌のセブンティーンの現役専属モデルを務める橋本愛でした。彼女のクールで悲しそうな目はタイプは違いますが、『バトル・ロワイアル』に出演したときの柴咲コウを思い出しました。

 透明な清潔感があり、しかもあの引き込まれそうな目には期待したい。上手く育ってくれれば、次世代の東宝を引っ張る実力は持っているのではないだろうか。しかもどちらかと言えば、彼女の役柄は汚れ役でしたし、大勢いる生徒役の中でも、彼女はきらりと光り輝いていました。

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 長い年月を女優として生き抜こうと思えば、明るい役柄をワン・パターンにやり続けるよりは暗い役や汚れ役をやっていく方が幅が広がるし、同世代の女優陣よりも早く成長できると思います。楽しみな女優です。

 もちろん、松たか子の演技は凄みを帯びていました。前半から中盤に掛けての淡々としながら、心の奥底に怒りと憎悪を秘める抑えた演技、そして後半に進むに従い、増して行く怨念の深さと他人を使って犯人を精神的に追い込んでいく様子は迫力があります。

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 映画上映から45分くらいまで、ひたすら彼女は教壇で語り続けます。45分もの間をほぼ一人で支えきった彼女の凄みを劇場で観てもらいたい。撮り方もカメラの位置やカット割り、スローモーションなどの演出面での工夫で彼女の45分をフォローしている。

 観られた方は分かってくださるでしょうが、彼女が抑えに抑えた感情が爆発するときの嗚咽の大きさには驚かれるのではないでしょうか。また吹っ切れた後に訪れるクライマックス・シーンでの「どかーん!」の狂気を味わって欲しい。彼女自身も演技の幅を広げ、女優としても一段突き抜けたのではないかと思いました。

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 この映画を知ったのは休日に近くの本屋さんに行った時に、偶然、ドニゼッティのオペラ『ドン=パスクァーレ』で使われる「召使いの合唱」を耳にして、興味を持ったからでした。印象的なコーラスなので、耳にした方も多かったのではないでしょうか。それほどインパクトのある曲でした。

 予告編ではブラームスの曲(たしかパガニーニの主題による変奏曲)とドボルザークの「新世界」も一緒に使われていましたが、「召使の合唱」の印象がかなり強い。

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 ぼくは内容を知らないまま、この曲の印象の強さに誘われて、劇場まで行ってしまいました。一体全体、どこであの曲を劇中で使うのであろうかということに興味がありましたが、実際にはあれは予告編のみに使われているもので、劇中には使用されていませんでした。版権とかで揉めたのでしょうか。

 音楽が多く使われていて、AKB48やレディオ・ヘッドを始め、クラシックの名曲を積極的に挿入していました。うるさいと思うときもありましたが、陰鬱な雰囲気が支配する中で使われる明るい曲の数々が対位法的効果を生み、ギャップの大きさがより作品世界を薄気味悪いものにしていました。

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 色彩感覚も素晴らしく、中島監督らしい度派手な色彩は影を潜め、陰隠滅滅した黒や灰色、群青色と自然光をメインに多くの暗色のバリエーションで、むしろ中島監督の持っている色への思いがより強く出ているように感じました。黒や灰色のさまざまな色使いがあるので、水墨画のような監督の色彩感覚を楽しめる作品となっています。

 明るい色を使うだけがカラフルではなく、暗色を多く用いることにより、原作小説の持つ独特な世界観が出ていたのではないでしょうか。写真としても良い出来だったと思いましたし、中島監督作品ではかなり重要な位置を占めるようになる作品でしょうし、転換期となる作品でもあったのではないか。

 画調が暗めなので気づきにくいのですが、画面の作りこみも丁寧ですし、照明の当て方もドラマチックでした。『ザッツ・ザ・ウェイ』が流れる中、急に始まるミュージカル的なシーンも中島監督らしい凝った作りでした。教室、プレハブ小屋、大学の研究室、体育館、深夜のファミレス、引きこもりの部屋、シーズン・オフのプール、暗い保健室などこの映画に出てくる舞台はどれも劇的空間とは程遠い環境ではありますが、それを映画的に成立させてしまう力量を持っているのが中島監督なのでしょう。

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 内容に触れていきますと、主要な登場人物である松たか子、中学生の少年役の二人、橋本愛、木村佳乃が幼稚な動機のもとに行われた、愉快犯的な幼児殺害事件に対して、各々が自分の置かれている立場から、主観で捉えた事実を独白で綴っていくという小説的なスタイルを持っている。

 村上龍が『ラッフルズ・ホテル』『KYOKO』で用いた手法です。どれが真実なのかは分かりません。登場人物の主観的視点で語られる、個人にとっての事実が語られた後に、別の当事者が彼らの視点による事実を述べていく。

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 各々の視点は最初の人物の語った事実を補完するのだと観客は無条件に思い込んでいるが、登場人物が真実を語っているとは限らないことに気付かされると、思わずハッとなるかもしれません。

 誰の話が真実なのだろうか、それは闇の中である。唯一、自分の視点を与えられていない岡田将生が善意で起こした行動によって、生徒を追い立てて、悲劇的な末路に落ちていく様は皮肉である。

 悪意に満ちた登場人物たちの行動が思うように進まないのに対して、善の心を持っている人たちが追い込まれて取った行動がより世間的に見るとショッキングに映るのも何とも皮肉である。

 そのなかでももっとも滑稽で奇異に映るのは勘違い気味の熱血教師ウェルテルを演じた岡田将生でした。彼は若き教師を普通に演じているのですが、この映画のどす黒さの中では完全に浮き上がっている。これは褒め言葉でして、周囲に引きずられない彼の存在感は貴重でした。

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 しかもこの映画は少年法に守られた悪質な中学生にどう制裁を加えるかという最近の社会問題にも問題提起をしてくる。法の限界を知っている松は無知な彼ら世代や犯人の二人の少年がもっとも嫌がるやり方を研究し、その痛みを突いていく。

 前半45分までの告白の後、しばらく姿を消す松ではあるが、後になるとすべては松が仕組んだことであることが明かされる。母親に愛されなかったが、母親からの愛情に飢えているという苦しみを自爆テロに近い学校爆破事件を起こすという愚かな方法で晴らし、注目を集めようとする幼稚な少年Aには彼のプライドを粉々にして、しかも彼が自身で作った爆弾で母親を殺させる。

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 気が弱くて、あまり頭が良くない少年Bには繰り返し、繰り返し、熱血教師やクラスメート、そして過保護な母親を使い、彼を追い込み、親子で殺し合いをするように仕向ける。

 ついに対面する少年Aと松であるが、彼女の怒りは彼を追い詰め続ける。映画はその後の少年Aと松に起こるであろう殺人容疑による警察の動きなどには全く触れることなく、幕を閉じる。後がどうなるのかは観客各々が判断し、想像すれば良いというスタンスです。

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 いつも言っているように何でも見せるのが良いとは思わないので、この終わり方も良しとします。またスプラッター的な描写が多く、グロテスクであるとの声も上がっていますが、それほど酷いとは思わない。クエンティン・タランティーノ作品を何本も観ている者からすれば、この程度の血しぶきや切断は演出として割り切って観られます。

 時間軸を組み換える見せ方はクエンティン・タランティーノ監督の十八番でありますが、すでにマンネリ化して久しく、新鮮味はない。そこに興味を持たせるやり方が必要となり、中島監督が選んだのが、今回の小説的な独白を活かした撮り方だったように思えました。

 繰り返し出てくる水のイメージが何を表すのかは難しく、水しぶきや大粒の雨、そして赤い血が飛び散るイメージが何度も使われる。涙、血液、シャボン玉がさまざまな意味を持つようでもありそうなのですが、登場人物すべてが真実を語っているとは思えないので、より真相は闇の中にあるのかもしれない。

 中島監督の撮った作品で僕が見たのは『嫌われ松子の一生』『下妻物語』『パコと魔法の絵本』でした。明るく、鮮烈な色彩を多用する監督というイメージでしたが、先ほども申しましたとおり、今回は大きく裏切り、新たなステージに進んでいったようでした。


総合評価 81点





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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
たった今,レンタルDVDにて観賞をし終えたところです。
かなりの興奮状態です。
とんでもないモノを観てしまった,そんな感じです。
アレコレ考えさせられる作品でありまして,その辺の
ところは本作が監督さんから観る側の者に対して
突きつけた紙パック入り牛乳だということなので
ありましょう。
いやァ,ついこのあいだ妙にヘッポコな座頭市映画を
観て「なんだコレは」と思ってしまいましたが
本作には全くもって圧倒されてしまいましてつい
「なんだコレは」と思ってしまいましたデス。
snowman
2011/04/07 01:01
 こんにちは。
ぼくはこれを劇場で観たあとにすぐにこの記事を書きあげた覚えがあります。

間違いなくこの映画は中島監督の代表作になるでしょうし、snowmanさんと同じように久々に邦画で圧倒された作品でした。

今年の日本アカデミー賞では『悪人』とこの作品が主な賞を取っていましたが、順当だったと思っています。

>ヘッポコ
 勝新太郎の名を不動にした、輝かしい座頭市シリーズの終わりが、忍者ハットリくんを主演に持ってくるというミスキャストも甚だしい、まさかのクズだったのは諦めきれないですね。

 コントで座頭市を閉めて欲しくはないですね。

ではまた!
用心棒
2011/04/07 15:58
「ブラックスワン」→ここに来ました。
劇場で観て、再度DVDで観たところです。
原作は、休みの日一日中読みふけって、一気に読みました。興奮してハァハァしちゃって、気持ちがグラグラ揺さぶられて、歩いてどこかへ…あてもなく歩きたくなったのでした。
映画化を楽しみにしていました。
劇場で観た後は、何もかもが嫌になり、この気持ちを引きずって帰ってよいものかと。やっぱりあてもなく歩きたくなりました。…やるせなさです。

子どもを育てるのが恐ろしいと思いました。
わかってます、映画です。
ある程度大人な私です。だからなのか、でもなのか、中学生の世界は、怖すぎました。

こんな気持ちにさせられる…いえ、させてもらえる映画は、なかなかありません。
このやるせなさをしっかり味わいたい。
そう思いました。


いちこ
2011/06/22 00:56
 いちこさん、こんばんは。

 この映画は衝撃的でしたね。内容もさることながら、暗色のカラフルさに驚きつつ、中島監督の新境地に浸りました。

 この映画、そして『ブラック・スワン』はミュージカル映画の要素が色濃く出ている作品で、普通ミュージカル映画というと明るいイメージのモノが多いのですが、両方とも感情の暗部にスポットを当てた傑作だったような気がします。

 暗い気持ちであれ、明るい気持ちであれ、あとに感情を引きずられる作品は映像とストーリーにパワーがあるからなのでしょうね。

 ではまた!
用心棒
2011/06/23 00:12

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