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zoom RSS 『丑三つの村』(1983)軍部がわが国を支配していた頃、実際に起こった、津山三十人殺しを扱った映画。

<<   作成日時 : 2010/04/15 22:54   >>

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 津山三十人殺しは軍部が政権を掌握していた1938年に、岡山県の津山で一人の地元青年(役柄では犬丸継男)によって計画的に実行された、比類のない大量殺人事件であり、しかもすべてが一夜のうちに起こされているという凄まじさであった。この話は戦中ということもあり、この地に疎開していた横溝正史が地元住民との酒盛りの席で聞かされ、彼はそれをもとに脚色し、有名な『八つ墓村』を書き上げた。

 横溝作品は猟奇犯罪を扱ったものが多く、独特の世界観を形成していましたが、この作品は群を抜いているためか、映画化が二回行われました。当然、フィクションという設定のために、より猟奇色を増して描かれてはいましたが、まさかこの作品に実在のモデルがあるとは大学生になるまでは知りませんでした。

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 ぼくがこのモデルとなった事件である津山三十人殺しを知ったきっかけとなったのは当時の大学の友人の話でした。彼はこの津山の出身者だったのです。最初はこの話を聞かせてはくれませんでしたが、二回生の夏の頃、彼と色々と話しているうちに、彼が真顔でこの話を語り始めました。

 彼の田舎では長い間、この話は禁忌だったそうで、人前ではほとんど話したことはないそうです。ましてや、よそ者にはなかなか話さない類のものでした。戦後年月が経った今でこそ、当時の横溝ブームのおかげ等もあり、比較的知られるようになりましたが、20年以上前に聞かされたときは衝撃的でした。

 閉鎖的な村の中では、当時の若者たちは亭主が留守の人妻と寝ても、亭主が気に留めなければ、特に問題にはならなかったようでした。大らかな性風俗が残っていたようで、村の秀才であった継男も普通に彼女たちと交わっていたようなのですが、兵役検査で肺結核という病気があり、出征できないと分かった途端に、周りの態度はこの健常者とは認められない彼に冷たくなり、彼の家は村で孤立して行ったようです。

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 この住民たちの態度の豹変に深い恨みと激しい怒りを抱いた彼は村の住民を皆殺しにする計画を立てていきます。秀才が精魂込めて考え出した虐殺計画は用意周到で、水も漏らさぬ虐殺シフトを作り上げる。どのような武器がどのくらい必要で、どういう改良がいるのかを考え、武器を調達し、改造していく。

 その次に、どこの電話線と電線を切断すれば、村全体が孤立化するかというところから、殺していく順番までを周到に練った、彼の復讐劇が実行されようとしていく。彼に対して、こういう状態になっても、嫌がらせをしなかった少数派の村人たちはこの虐殺リストには入っておらず、少数派たちは虐殺を実行していた彼と遭遇しても、傷つけられることはありませんでした。

 映画で凄まじいのは殺害シーンです。事後の心配を掛けまいとして、まずは自分を育ててくれたお祖母さんの首を斧で切り落とし、それから徴兵検査で不合格になるまでは彼が何度も抱いた女たちを始末しに行く。女たちはなんとか昔のよしみで助かろうとするが、怒りに燃えた彼には標的にしか過ぎない。改造銃と日本刀、そして二本の懐中電灯を頭部に装着した異様ないでたちの彼は、彼をバカにし続け、酷い態度を取り続けた村人たちを容赦なく、殺害していった。なかでも一番猟奇的に殺害されるのが池波志乃で、彼女は股間に発砲されて、絶命していく。

 すべての殺害を終えた彼は丘に登り、「皆様方よ今に見ておれ、でございますよ」の台詞を観客に投げかけ、改造銃を自身に向けて自害する。最後の最後に、観客に登場人物が語りかけるというのはコメディなどでよく使われる方法ですが、ここで使われたのは意外でした。

 見ている者も彼と同じような立場に陥る可能性がありますよというメッセージだろうか。語りかけられると身近に感じるという効果を狙ったのでしょうか。

 書いていっただけでも凄まじいシーンの連続であることが予想できると思います。今は無き、古尾谷雅人が犯人役を熱演し、見る者を圧倒する。女たちには大場久美子、池波志乃、五月みどりなど当時の人気女優たちが起用され、皆惜しげなく濡れ場を演じます。

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 そしてその中でも別格だったのが、当時はまだ無名であった田中美佐子で、少女の面影の残る彼女が古尾谷に抱かれるときに「すきにして!かめへんよ。こんなもん、減るもんじゃないもん!」的な台詞を吐くのです。下手なポルノよりもエロチックなシーンでした。彼女って、『ダイアモンドは傷つかない』などでもヌードを披露していますが、あまり抵抗の無い人なんでしょうね。

 『八つ墓村』とは違い、ホラー的要素が全く無く、ただただ凄まじい彼の怒りが全編を覆い尽くす。この映画は当然今の放送コードでは引っかかり、到底無理でしょう。実際、なかなかDVD化されることも無く、昔のビデオが高額で取引されていましたが、数年前になって、なんと無事にDVD化されたときにはかなり驚きました。

 『犬神の悪霊』もそういえば、同じ頃にDVD化されていました。こういう猟奇モノって、発売されたり、されなかったりの基準が曖昧で、何が良くて、何が駄目なのかというのが全く分からない。村社会や部落の風習が差別的だという理由で駄目なのだろうなあというのであれば、今回のDVD化は驚きです。ではなぜ『獣人雪男』は駄目なのだろう。

 『犬神の悪霊』は発売されたのに、『ウルフガイ 燃えろ!狼男』『混血児 リカ』のように、ある種の血が禍をもたらすというのが差別的だという理由などいろいろありますが、いまいち説得力が無く、よく分からない。

 臭い物には蓋をせよというのがまだ風習として出版業界や映画業界に残っているのでしょう。しかしまあ、よくぞ、事件後数十年しか経っていない当時にこれほどの凄まじい残酷さを誇る作品が製作できたものだと思います。やりたい放題の映画で、描写が直接的で、タランティーノ作品での明るいスプラッターとはまるで違う、異質の怨念の篭った血飛沫が乱れ飛びます。子どもが見たら、トラウマになるかもしれません。

総合評価 72点


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
お忘れかも知れませんが
お久しぶりでございます。
貴重な記事、
拝読させていただきました。

衝撃的な作品でございましたね。
私は主に清張さんの中篇から
引用した拙記事でした。
おかげさまで貴記事により
今は懐かしい過去記事に
触れることができました。
vivajiji
2010/04/17 07:17
 お久しぶりです!
>お忘れかも
 なにをおっしゃいますか!ちょくちょくのぞきに行ってますよ(笑)なかなかコメする勇気がなくてすいません。きちんとコメしますね。

 津山がらみは『八つ墓村』を見たのが最初でそのときは小二か小三だったんで、滅茶苦茶怖かったし、気持ち悪かったです。

 こっちの丑三つはさらに強烈で、ビデオで見たのが最初でしたが、鮮血描写の凄まじさに驚いたのを覚えています。

 清張さんの作品って、僕も色々読みましたし、多くの映像作品を見ましたが、好きなのは『天城越え』『張り込み』などでした。『点と線』『ゼロの焦点』なども何度も映像化されていますね。

 この作品って、スプラッター的な要素やエロチックな要素ばかりが話題になっていますが、内容はしっかりしていて、因習やしがらみ、それから逃れようとしたときの軋轢、若者の孤立感とかよく描けているように思いました。

 中身もしっかりと理解した上での感想を読みたいですね。ではまた!
用心棒
2010/04/17 21:50

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