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zoom RSS 『カイジ』(2009)ベストセラー漫画を映画化した話題作。長編ならではの難しさがあるが楽しめます。

<<   作成日時 : 2009/10/23 23:10   >>

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 前日は寺尾聰主演の問題作『さまよう刃』を観ましたが、今日は有休が取れたので用事を済ませてから、またまた近所の劇場に向かいました。24日からは山崎豊子原作の『沈まぬ太陽』も始まりますので、今月は毎週のように劇場に通っています。月末からの『サイドウェイズ』も観たいですね。

 原作の漫画シリーズ全部を合わせると、合計で40巻近くになる「カイジ」三部作のエッセンスをもとに製作されているこの映画は主演に若手の人気俳優、藤原竜也を起用しているために、そしてギャンブル漫画原作のために、年配層からみれば偏見もあるでしょうから、必要以上に低く見られている映画かもしれません。

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 ぼくも原作未読でしたので、あまり期待することもなく、スクリーンに向かいました。期待はある意味、裏切られました。しかしそれは良い方に裏切られました。原作ファンが観れば、心理が描けていないとか、薄っぺら過ぎると感じるのでしょうが、二時間程度でこの独特の世界観を見せようとすれば、こういった具合にならざるを得ない。

 説明的台詞が多いのは明らかであるが、原作ファンしか楽しめないような作品ではなく、多くの客層に理解してもらおうとすれば、この特殊な世界を理解させるためにもある程度の説明は必要だったのかもしれません。製作サイドが日本テレビということもあり、TV的な解りやすさを映画に持ち込んでしまう弊害がここでも繰り返されているのでしょう。ストーリーは単純化されているので、世界観が解らないでも楽しめるようには作られている。

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 映画はお金を払った人への娯楽であるので、TVとは違い、映像表現で感情を語ったり、音と動きのみで意味を語るという映画本来の表現をもっと取り入れていくべきでしょう。あとあとのTV使用とかを明らかに意識した台詞が多いのは閉口させられる。

 しかしここで語られる言葉はTV的とは言えないものが多い。言葉尻だけを捕らえると馬鹿な視聴者が意味不明の言いがかりをつけて、放送時に台詞や場面がカットされてしまうことが起こるのかもしれません。負け組は負け組でしかなく、それを隠す必要はないという姿勢は良い。実際問題、厳しさから逃げる暮らしを送り続ける限り、永遠にチャンスは来ないし、年老いていくのみである。

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 負け組に対する厳しい言葉の数々はむしろ優しさに聞こえます。エリートぶった人々の悪趣味や権力者の思い上がり振りなども含めて、情報がかなり濃く、台詞の一つ一つに力を感じました。

 CGも随所に使われていますが、それを全面に出すのではなく、あくまでも必要なシーンのみに使われているので、カクカクした部分もあるにはあるが、気になるレベルではありません。鉄骨渡りのシーンも不自然なくらい長すぎるとも思いますが、極限状態で生の意味と自身の尊厳を取り戻すシーンであることを考えれば、決して長すぎるとも思いません。

 ただどうしても、落下シーンなどがCGを使用している割りにはリアルさがない。こうしたシーンは決定的な部分なので、何とか表現力を増して欲しい。有名俳優を多数使うことばかりに神経を使うのではなく、一人か二人の経費の掛かる俳優を削り、それを映像表現のほうに使ってもらえれば、よりディティールが上がるので、そういった方向に向かって行って欲しい。何十年か経ったときに映画マニアの視聴に耐えられる作品を心がけていくことが邦画のレベルを高いものに保ち続ける。

 藤原や松山ケンイチらが細くて狭い鉄骨の上を必死の思いで渡っているのを特等席で見物している特権階級の悪趣味な大金持ちどもを対比させるシーンはなんだかリアルでした。貧民がどん底から這い上がるという希望を持ち、ビルの向こうで見物しているエリートに近づいていくにはこれほどまでに険しい道を辿っていかねばならないことを表現しているようでした。

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 原作があるというアドバンテージを活かしているため、物語の仕掛けもしっかりしていて、限定じゃんけん、高層ビルの鉄骨渡りゲーム、そして最後のEゲームと単純ではあるが、実際に自分がそういった状況に置かれたらどうしようかという興味深いゲームが続き、観る者を飽きさせない。まあ、単純すぎてつまらないという人もいるのでしょうが、あまり複雑なゲームを映画で表現しようとすると、またぞろ説明的台詞がオン・パレードになってしまい、更なる批判を招くはずですので、ゲームは単純で良い。

 限定じゃんけんでは藤原竜也は山本太郎との戦いに臨む。まるで深作欣二の『バトルロワイアル』を再現しているようでした。今回の山本は詐欺師のような卑劣漢でしたので、ずいぶんと役柄は違っていました。極限状況の中で、色々と人を嵌めたり、嵌められたりの獣のようなエピソードが続いていく。そのなかでも信じられる人間を見つけられるかどうかで、人間性が試される。悪い者はその悪さや狡賢さによって、結局は破滅の道へ突き進んでいく。

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 現実的には狡賢い者のほうが良い目を見ているという不条理が横行するのが人生であり、ハッピーエンドなどはほとんど訪れることはない。それでも希望を失った瞬間に人生は輝かなくなるのも事実である。不幸な人生を送っていても、何とか笑える瞬間を探せる人が強い人なのかもしれません。

 しかしまあ、この映画ではグサリとくる台詞が多い。

 「金は命より重い!」
 「勝ったらいいな、じゃない。勝たなきゃダメなんだ!」
 「勝つことがすべて。勝たなきゃゴミだ!」
 「土壇場で足がすくみ、何も出来ない者と、土壇場で奮い立ち、道を切り開いていく者がいる。」

 などなどのリアルな言葉が次から次へと飛び出してくる。一瞬ドキッとする台詞が出てくるので、ついつい身構えてしまう。ここに出てくるのはオブラートに包まれた表現ではなく、ドロドロした本質ばかりでした。エスポワール号での限定じゃんけんでの人間性を奪われていく様子、また地下強制労働の現場での生々しい会話や人間模様は邦画らしくなくて良い。

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 演技面で印象に残るのは藤原竜也に立ちふさがる悪役で登場する香川照之であろう。彼の怪演によってこそ、この映画は成り立っているといえる。記憶に残る厳しい言葉の多くは彼から発せられる。それだけ彼が渾身の演技をしている証拠であろう。

 よろしくないのはタイトルの中にある「人生逆転ゲーム」のくだりです。「カイジ」だけで留めておけば良いのに、このフレーズを入れることにより、一気にレベルが下がっているように思います。サブタイトルの軽さのせいではないでしょうが、この映画でカイジは何度も試練を切り抜けていくものの、結果としては他人や支配者たちの欲望や嫉妬の道具になっている場面が多い。

 Eゲームにしても、とどのつまり得をしているのは天海祐希だけであり、5億円勝ったはずのカイジの取り分はたったの50万円弱である。なんだかルパン三世の最後のシーンで、せっかく盗み取ったお宝を峰不二子に奪われるルパンのようでした。しかもルパンのような爽快さはなく、このなけなしの金も石田光司の娘にやってしまい、手元には一円も残らない。でも彼は楽しそうだ。

 これはハッピーエンドなのだろうか。あれだけの試練に耐えてきた割りには得たものはあまりにも少ない。お金だけではないのだと言いたいのだろうが、最後の最後に綺麗ごとを言うのはどうなのだろうか。前半から後半までの生々しさとどぎつさが一気に失われてしまい拍子抜けしてしまいました。

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 原作でその後どうなるのかは知りませんが、この映画のみで捉えると、彼は命を張ったやりとりを繰り返し、それを自力で切り抜けることで格段に強くなっていて、この世の常識というか、虚構というか、呪縛のひとつである金のしがらみから抜け出した。金に束縛されない人間は始末に終えない強さを得る。

 原作ファンが観れば、あれは違うこれが違うとなってしまうのでしょうが、まったく原作を知らない人が観れば、十分に楽しめるのではないだろうか。原作の映画化はもともとのファンが劇場に足を運ぶでしょうし、知らなかった人も劇場で接する機会を増やし、それがもとで原作を集める人も出てくるでしょう。

 映画から原作へ、原作から映画へとクロスオーバーしていき、それぞれの良さを味わうことの出来る人間に成れれば、より深く娯楽や芸術を楽しめるのではないだろうか。

総合評価 65点


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