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zoom RSS 『動物農場』(1954)共産主義も全体主義も権力者は豚、治安警察は犬。痛烈な描写が心地よい。

<<   作成日時 : 2009/06/27 00:12   >>

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 「今、豚は太っていない」という思わせぶりな宣伝文句とともに、スタジオ・ジブリがディズニーとタッグを組んで、販売にかかわっているクラシック・アニメ映画で、つい最近DVD化されたのが『動物農場』です。製作国はイギリスで、ヨーロッパのクリエーターに大きな影響を与えたといわれているハラス&バチュラーによって見事な作品に仕上げられました。このDVDにはこの『動物農場』の他に実験的な短編が3本ほど収録されています。

 ヨーロッパのアニメの印象はどちらかというとアーティスティックではあるが、見た目に地味というのが真っ先にくる。ディズニーの派手さや日本アニメのような細やかさではない別のものなのではないかという印象です。絵画を動かすとどうなるのかということから出発する実験精神を感じることが多い。とっつきにくいかもしれませんが、これもまたアニメの進化を知る上で大切な映画である。

 原作はジョージ・オーウェルで昔、小説を読みましたが、結構アニメと原作は描写が違っています。まずはストーリーを追っていきますと、粗暴でちょっとしたことで動物たちに八つ当たりしていた人間(資本家や王族を表す。)が支配していた荘園農場で、我慢の限界を超えた豚の長老メージャー爺さんを首謀者として動物会議が行われる。

 革命前に息を引き取ったメージャー爺さんのあとを受けた、ナポレオンやスノーボールを中心とする若い豚たちが実働リーダーとなって他の動物たちを扇動し、彼らを組織化して、ついには革命を起こす。人間の支配から開放された動物たちは我が世の春が来たのかと歓喜に沸く。

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 しかし革命に成功した豚たちは幼い犬たちを教育して、彼らを治安部隊としながら、他の動物を支配体制を作り出す。最初は人間の支配から解放された動物たちであったが、徐々に豚は本性を顕してくる。支配者となった豚は不倶戴天の敵だったはずの人間と取引を行い、私腹を肥やしていく。

 豚(もとは労働者)は人間(資本家や王族)の生活に憧れ、酒を喰らい、ベッドで眠るようになる。その過程では粛清が行われ、反抗的な動物たちだけでは収まらず、豚同士でも政治的な邪魔者を始末してていく。彼らは革命の精神と犠牲をさっさと忘れ、自分たちの都合の良いように法律や歴史を変えていく。

 成功はすべて自分たちのおかげだといわんばかりに増長する豚どもにたいして、他の動物たちは徐々に怒りを覚え、馬がずたぼろになるまで働かされたあとになめし革として売られていくことによって我慢の沸点を迎えようとしていた。人間を倒し、生命を謳歌した豚ではあったが、驢馬を中心として再び立った動物たちによって、豚の王国は打倒される。

 これが大まかな内容です。この物語が書かれた1944年はまだ戦時中であり、全体主義や共産主義は新たな思想として、世界を二分するほどの勢いで覆い尽くしていました。これはアメリカやイギリスにとっては脅威ではありましたが、ソ連は同じ連合軍でもありましたので、おおっぴらには批判は出来ませんでした。

 しかしながら第二次大戦を経ると、徐々に共産主義の欺瞞や横暴も明らかになってきます。民主主義も共産主義も、いわんや全体主義も所詮、自らが権力を掌握した後は同じだという痛烈な風刺である。今では陳腐と思う人もいるでしょうが、これの原作は1940年代、アニメが製作された1954年でもすでに半世紀以上経っている。

 権力は腐敗する。スターリンによる独裁、毛沢東の文革なども横暴であり、腐敗である。権力者はきれい好きで貪り喰らう豚だと言い切っているのは痛快である。また従順な家来となっている犬は本来知能的にも体力的にも優れているが、誤った教育によって、権力の維持に用いられるというのも皮肉ではあるが、小気味良い。

 豚を使った寓話のかたちをとってはいるが、いうまでもなく現実とリンクしていて、すべての権力者は腐敗するのだと喝破する。なんとも絶望的なお話ですが、それでも抑圧されている側は少しでも理想的な世界を作り出すために革命を起こし続ける。

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 希望とは一気に叶うものではなく、少しずつ手に入るものなのかもしれません。また一つの幸せや自由を手に入れるためには多くの犠牲が伴うことを明らかにする。暗く、陰惨な描写が多く、こういった内容はけっして子供向けとは思えない。当時のヨーロッパでのアニメの位置付けはよく分かりませんが、ミッキーマウスを生み出したアメリカとは別の捉え方をしていたのでしょうか。

 アニメに限らず、ヨーロッパも日本も概して五十年代まではアメリカのような能天気な明るさはなく、厳しさや暗さが画面から滲み出ている作品が多い。それとは対照的に明るく、楽天的なのがアメリカ映画やアニメでした。

 その差はどこから来るのだろうか。首都にいても、爆撃や地上戦が日常茶飯事で、常に人の死と向き合わねばならなかった欧日英と一度も本土の首都に爆撃を受けなかったアメリカの差ではないでしょうか。アメリカは常に外地で戦いを求めてきましたが、他国は首都を蹂躙された経験を持っている。

 欧日英ではどこか達観した意識が国民レベルで共有されていたのではなかろうか。それが近年無くなってきたから、また軍隊や極右の勢いが各国で強まってきているのであろうか。

 お話に戻りますと、主要な豚の3匹にはそれぞれモデルがあり、狡猾な独裁者ナポレオンはスターリンであろう。労働者たちに機械化の夢を与えるも途中で追放され、殺されるスノーボールは明らかにトロツキー。4本足は美しく正しく、2本足は良くないと説く 「動物主義」による革命を宣言するメージャー爺さんはもちろんレーニン。
 
 狂ったように働く馬は革命を支えた実行力のある労働者たち、豚に育てられた犬たちは秘密警察かKGBを思い出す。他の農場はイギリスやドイツを表すようである。

 単純な勧善懲悪ではない、ほろ苦い寓話。こういった作品を説教じみているとか、堅苦しいとか思ってしまった段階で、強権政治への危機感や恐怖を持っていないナイーブな感性しか持ち合わせていないという証拠かもしれません。考えながら見ることの重要性を子どもの頃から理解させるべきではないでしょうか。

総合評価 68点


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