良い映画を褒める会。

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zoom RSS 『チェイサー』(2008)ひと殺しの携帯は4・8・8・5! 後味が悪いのですが、出来は素晴らしい。

<<   作成日時 : 2009/06/03 21:46   >>

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 先週、金曜日に会社が夕方五時の定時で終わったものの、その夜の飲み会が八時からのスタートとなったので、急に三時間ほど空き時間が出来ました。迷うことなく、「じゃあ映画だ!」となったぼくはすぐに近くの劇場に飛び込みました。そうしたら、たまたま都合良く、五時過ぎから掛かっていたのがこの映画でした。

 『猟奇的な彼女』以来、韓国映画を観るのは久しぶりとなりましたが、いつものように映画の内容をまったく知らずに観ました。まさか、あれほど過激で、残酷な描写ばかりとは思っていなかったので、正直かなり面食らいました。まあ、ぼくは過去にいくつもの封印作品を観ているので、想定内ではありましたが、それでもこのような不意打ちは堪えました。

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 ハリウッド映画によくあるように、途中は苦しみばかりでも、最終的には救いのある展開になるのと思いきや、ハッピーエンドとは程遠いエンディングでした。アメリカン・ニュー・シネマ的な終わり方なのです。観たあとの後味ということではかなり悪い作品ではありますが、脚本としてはかなりレベルの高い出来映えだったと思います。こういう作品が出てくるということは韓国ではこういうエンディングも許容されるということなので、観客のレベルがかなり高いということの証なのではないでしょうか。

 また、作り手も映画をよく研究しているからこそ、ニューシネマ的な終わり方も試せるということでしょう。配給会社も含め、韓国映画の強気な映画製作姿勢は、及び腰が当たりまえのわが国の姿勢からすると、羨ましい限りです。見せ物映画的なものならば、わが国でもたくさんあるが、脚本も演技もしっかりしている映画を出してくるのは韓国映画が熟成期に入っているといえるのではないでしょうか。

 この作品にはヒーローは存在せず、ほとんどが汚れていて、底辺で生き抜く者ばかりです。ひたすら走り、しんどそうだし、切られたり、殴られたり、痛そうな感じでした。主人公はメタボで狡っ辛い元警官の売春組織の小悪党、救出しようとするのも子持ちの売春婦、事件の犯人もインポの変人という最悪の設定でした。

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 熱いが、ひとに褒められるような生活を送っていない主人公に感情移入できるかで、最後まで観られるかがかかっている。カッコよくありません。スマートでもありません。頭もよくありません。ただ動物的な感情と刑事時代の感覚のみで犯人を追い詰めていく。

 切れが良くない彼は愚直に犯人を走ったり、恫喝したりしながら追い込んでいきます。追い込み方が泥臭いのがこの映画の魅力かもしれません。カラーの劇場の大画面での血しぶきや切断、そして打撃は観ていて気持ち良いものではありません。しかし、こういった描写よりも、スローモーションや残酷描写時のモノクロ映像のほうが不思議に印象に残ります。

 『キル・ビル』や『オールド・ボーイ』を思い出す映画でした。
 
 ナ・ホンジン監督は本作が長編デビューとなる。彼は脚本も手がけており、その手腕は高い。主演はキム・ユンソクで、印象としてはダサく、メタボなのだが、それが逆に現実的とも言え、リアリティは大いに増している。犯人役のハ・ジョンウが普通の青年風なので、彼のする異常行為は余計にそのギャップで際立つ。殺される売春婦役のソ・ヨンヒはとにかく痛そうなシーンばかりで、最後は『オールナイト・ロング』『ギニーピッグ2 血肉の華』なみに分割され、水槽に飾られてしまう。

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 他に印象に残ったのは女刑事を演じていたパク・ヒョ・ジュで個人的に好みのタイプだったので、殺される設定じゃなくて良かったなあ、などとアホなことを考えながら観ていました。

 気持ち悪いシーン、追いかけるシーンが延々と続く。前半はどちらかといえばゆったりと進むが、後半は怒涛のスピードで押し捲る。脚本で興味深いのが「チェイサー」、つまり追いかける者というタイトルが付いているのに、犯人が始まってすぐに警察に身柄を確保されるところである。この設定が最大のポイントで、容疑者が殺害場所を白状しない中で、まだ生きているかもしれない犠牲者たちをひたすら探し続ける仕掛けになっています。

 実際に起こった事件を元に製作されたそうですが、日本で言えば、宮崎事件や秋葉原事件を映画化するようなものなので、遺族感情を考慮する日本映画の状況では到底映画化は出来ないでしょう。さすが韓国だなあと変なところで感心してしまいます。臭いものには蓋をするのではなく、見せて判断させるというスタンスには好感が持てます。封印ばかりの邦画環境の方が不健全に思えます。

 はらはらさせながら、しかもあくまでも愚直に犯人の隠れ家に徐々に迫っていく描写とテンポが素晴らしいので、グロテスクな描写が苦手な方も出来ればご覧ください。しょうもないハリウッド映画を観るよりはずっと有意義に時間を過ごせます。イケメン俳優も美人女優も全く出てきません。どちらかというと脇役俳優ばかりで作ったような映画なのかもしれません。それでもこのレベルは尋常ではない。

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 韓国映画の奥深さというか、表現の幅を見せつけられた思いです。韓国ではこの映画はR-18かR-15で公開されたものの大ヒットを記録したそうです。理由は観れば分かります。宣伝はほとんど見ない映画ではありますが、ミニシアター系とか深夜興行で劇場に掛けたならば、ミッドナイト・ムーヴィーとしてヒットするのではないでしょうか。
 
 深夜に観たほうが相応しい映画もあるということかもしれません。まあ、スプラッターやサイコ系が嫌いな方にはキツイ映画であることは間違いありません。しかしタランティーノのように不必要に血が出るのはなく、あくまでも展開上必要だから出血シーンがあるので、残酷描写だけで判断してもらいたくない作品でした。

 総合評価 72点


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チェイサー
     チェイサー(2008) THE CHASER 125分 韓国 ...続きを見る
映画と暮らす、日々に暮らす。
2010/04/24 09:20
「チェイサー」
THE CHASER 2008年/韓国/125分/R-15監督: ナ・ホンジン 脚本: ナ・ホンジン/イ・シンホ 撮影: イ・スンジェ 音楽: キム・ジュンソク/チェ・ヨンラク 出演: キム・ユンソク/ハ・ジョンウ/ソ・ヨンヒ/チョン・インギ/パク・ヒョジュ/キム・ユジョン 2004年に韓国で実際に起きたという、10か月に21人を殺害した疑いで逮捕された、韓国で“殺人機械”と言われたユ・ヨンチョルの事件をベースにした作品。 日本でも昨年に公開され、評価の高い映画だったけれ... ...続きを見る
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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
>後味が悪いのですが、出来は素晴らしい。

韓国映画は一般に
用心棒さんのこの言葉に集約されますね。^^

ホメてるのかそうでないのか
判然としない拙記事TBさせていただきました。
(シュエットさんをお待ちしていたのでしょう?
私で、申し訳ございませ〜ん。シュエットさん宅へ
お寄りしましたら用心棒さんコメントが・・・(笑))
あ、そうです。
拙宅拙記事にはTBだけでホント結構ですよ〜
vivajiji
2010/04/24 09:32
 こんばんは!
 劇場を出るときの爽快感って、格別なものですが、こういう引っかかりのある終わり方もまた良しで、最近のクレーマー対策を万全にしすぎて、何を言いたいのか分からない、毒気の抜けたハリウッド映画とは違い、ガツガツくる韓国映画のエネルギーは良いなあ。

日本映画は残念ながら、ガッツに欠けるというか、パンチの効いた映画が少なく、寂しいですね。

>ホメてる
多分、僕よりはたくさん韓国映画を観ていられので、基準が高くなってしまっているのではないでしょうか。高く基準を持つのは良いことですので、ぼくももうちょっと韓国映画をたくさん観て、楽しまねばと思っているところです。

ではまた!
用心棒
2010/04/25 00:15
用心棒さん メッセージとTBありがとうございました。ちょっと風邪気味で週末は怠惰を決め込んで、遅くなりました。
>アメリカン・ニュー・シネマ的な終わり方なのです。
私、韓国映画の強烈さ、衝撃的なまでのリアルな暴力描写に、かつて先進国が60年代に放っていた輝きを見ます。誰もが映画を通して描くべきテーマを持っていて、映画を通して自分を出し続けてきた時代。それが遅れてきた韓国映画の今なんでしょうね。
サム・ペキンパーの過激すぎる暴力描写も酷評されたけれど、私は彼の描く暴力って嫌いではない。観ていると悲しさとやるせなささえ覚える。「ワイルドバンチ」のあのラストシーンも、あのシーンは『明日に向かって撃て」の続きのシーンでもあって、時代から振り落とされていった者たちの哀歌、挽歌のようにさえ思う。ペキンパーの思いが伝わってくる。
韓国映画で描かれるリアルな映像も、韓国に生きる彼らの今を強烈に描いている…映画観ていてそんな思いがします。先日鑑賞した「息もできない」でも感じたけど、韓国映画みていると、彼らの精神風土とも言える「恨」の文化を感じます。それが韓国映画の特異性でもあり、強烈さでもあるんでしょうね。
映画のパワーって抑圧された思いに比例して素晴らしいものが生み出される。配給会社の頑張りで第三世界の映画も見る機会が多く、彼らの汗と土埃の匂いさえ感じられる作品を観るたびにそう思います。ぬるま湯的な今の日本社会にあって琴線を震わすような作品を期待するのが無理なのかしらってちょっと悲観的にもなります。
シュエット
2010/04/25 10:43
 こんばんは。
日本映画がすでに失って久しいエネルギーがビシビシ伝わってくるのが韓国映画なのかもしれませんね。

あと10年もしたら、圧倒的な完成度を持つ中国映画がどんどん出てくるんでしょうね。その頃、日本映画って、どうなっているのだろう。TVドラマのスペシャル版を映画にして欲しくないのですが、それしかないから、増えることはあっても、減ることは無いでしょうし、有名タレントを主役にした話題先行作品だけが上映館を増やし、ぼくが見たいようなのはDVD化されるまで待たねばならないのでしょう。残念です。

ワイダ監督の『カティンの森』はゴールデンウィーク明けにレンタル開始らしいので、もう一度見てから記事にしたいと思います。ではまた!
用心棒
2010/04/26 02:09
WOWOWで観たので、映画評を持ってきました。

サスペンスの馬力には圧倒されましたが、ストーリーの詰めの甘さが気になりました。
特に、女刑事が見張りをしながら犯行を止められず、犯人を取り逃がしてしまうシークェンスの扱いが疑問です。
@どうやって犯人はあの見張りから逃げおおせることができたのか?
A何故あの女刑事が犯人が一向に出て来ないのにすぐにチェックしに向かわなかったのか?

@は最終的に逃げられるにしても描く必要があるでしょうし、Aは僕の常識ではちょっと理解できません。

ホームランと思った打球が逸れてファウルになってしまったような印象です。(笑)
オカピー
2010/04/29 00:39
 おはようございます!
 WOWOWで放送されたんですね。これが放送できるのはさすが衛星放送ですね。地上波では絶対無理っぽそうですものね。

 パク・ヒョ・ジュの駄目刑事ぶりが際立っていましたが、実話を基にしているとのことなので、実際はどうだったんでしょうね?

 一人で行くのは危険なので、電話を署に入れて、待機させられていたとかでしょうかね?ただそれならば、電話するシーンは必要でしょうし、じっと見ているとあちこちにおかしなシーンはありますね。

>ファウル
観客席はダイレクトキャッチしたから、韓国では大ヒットしたんでしょうか?
用心棒
2010/04/29 09:29

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