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zoom RSS 『ワルキューレ』(2009)ヒトラー暗殺未遂事件に迫る!かなり期待したかった題材でしたが…。

<<   作成日時 : 2009/03/31 00:43   >>

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 冒頭のナチス党員による宣誓はおそらくニュルンベルグ党大会での言葉を再現したのでしょう。この党大会を描いた、プロパガンダの傑作『意志の勝利』は政治運動における効果的かつ、もっとも邪悪な美しさを持つ映像の使い方を示しました。

 またあの戦争とはいったいなんだったのかをマレーネ・ディートリッヒら錚々たる俳優陣の競演によって具現化した『ニュルンベルグ裁判』、ドイツとは敵方であるフランス解放運動を描いた、アラン・ドロンらヨーロッパの俳優陣が総力を結集し、素晴らしい雰囲気を作り出していた『パリは燃えているか?』、さらにはその後のフランス軍とアルジェリアの解放戦線との不毛な戦いを描いた『アルジェの戦い』などは何度でも観れる素晴らしい作品です。

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 戦争映画には良い意味でも悪い意味でも作り手側の覚悟や思惑が見て取れる。記憶に長く残る戦争映画に共通するのは戦争には絶対的な正義などそもそも存在しない、という考え方であるように思う。上記の作品群のほかにもお気に入りの戦争映画は数多くありますが、上記の作品群を否定される方はいないのではないでしょうか。

 ちなみに出来の悪い戦争映画とは戦意高揚や政府べったりの『ランボー3 怒りのアフガン』のようにインスタントな愛国心を煽る映画を指します。メジャー会社が戦時に製作する映画のほとんどは政府の思惑に沿った映画となり、また政権末期や戦後に政権が代わった後などにはゆり戻しのような戦争の悲劇を描く作品群が増えるように思う。表現の自由とは本当に存在するのかどうかを知るチャンスが戦時なのかもしれません。

 最近では『大いなる陰謀』『告発のとき』などのような自己反省というか、権威の恥部を曝け出す作品が出てきている。つまり流れというか潮目は単純なドンパチ映画ではなく、内省的な戦争映画が求められているといえるのかもしれません。その中でつい最近観たのが今回の『ワルキューレ』となります。

 題材はドイツ国民にとって、とてもデリケートで深刻なもので、ナチス総統であるアドルフ・ヒトラーによる絶対的な独裁及びSSらの暴力的な支配体制が敷かれている中での絶望的な抵抗運動をいかに描いてくれるのだろうという期待がありました。秘密警察ゲシュタポやヒトラー親衛隊SSが常に市民に向けていた監視の目をかいくぐって、いかに目的を達成しようとするのか、また失敗に終わるならば、どこに綻びがあったのかをきちんと描いて欲しい作品でした。

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 あのナチスとて、けっして一枚岩ではなかったことはSAを粛清したことでも明らかでしょうし、国防軍や警察の温度はナチス礼賛一辺倒ではなかったであろう事も容易に推測される。警察という権力がナチス政府によって設立されたSSという新権力に抑えつけられていて、本来の権力を失っている現状にたいして不満がないわけがない。劇中でも、国防軍や警察はクーデターに対して、見て見ぬ振りをするか、消極的というか様子見ながらも、一時は反乱軍に味方をする気配すら見せていたのが描かれている。 

 いまだに第二次大戦映画で描かれるドイツはほぼすべて悪役であり、打倒される対象でしかない。日本軍もほぼ 同じような扱いでしょう。世界が恐れていたナチスドイツの中枢部にも心ある人々、自由と尊厳を求めて、決死の戦いを挑んだ人々がいたのだということをどう描くのかに興味がありました。ナチスにとっての都合が良い愛国者ではなく、国士と呼べるような人々が神聖なるドイツ国家をどう取り返そうとしたかに興味がありました。

 また題名のワルキューレはワーグナーのオペラにも登場する、ドイツの神話伝説の英雄ジークフリードを守ろうとする、天馬ペガサスに乗って飛翔する乙女の戦士(天使?)のことです。劇中の連合軍がドイツの街を空襲するシーンで、このオペラ『ワルキューレ』のなかで演奏される『ワルキューレの騎行』が掛かるのは最大の皮肉でした。ドイツ人を救うのが自分を英雄に見立てたヒトラーではなく、敵方の連合軍という点においてです。

 長々と書いてきましたが、つまりそれだけ期待していたということです。蓋を開けてみると、監督にブライアン・シンガーを用いていたので、平均レベルは超えてくるであろうことは予想できましたし、無駄なカメラワークなどを見せ付けることはないであろうと予測しました。

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 軍用機等も実物を用いているので、かなりのリアル感はありましたし、CGにはない重厚感がありました。では登場する俳優陣はどうだったのでしょう。主演を務めたのはトム・クルーズ。『大いなる陰謀』では野望に燃える政治家を演じた彼でしたが、今回はクーデターを仕掛ける反体制側の実行リーダーを演じることになりました。

 しかしどうしようもないのは軽すぎるということ、また所作動作に貴族であるはずのシュタウフェンベルグ大佐なのに、欧州貴族特有のエレガントさと軍人らしい厳しさを感じないということです。同じ題材を渡された場合、ルキノ・ヴィスコンティ監督ならば、どのようにこの事件を描いたのだろうとかを考えると感慨深い。

 この劇中でもっとも印象に残っているのが、レーマー少佐を演じた、トーマス・クレッチマンだったことも付け加えておきます。もともとこの映画の主役であるシュタウフェンベルグ大佐役は彼がなるはずだったのですが、興行面を考慮した結果、トム・クルーズに落ち着きました。作品の質という面ではかなり落ちてしまいますが、映画はビッグ・ビジネスであるという側面も考慮すると、致し方ないのでしょう。

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 致命的な点はそれだけではなく、国を揺るがすクーデター計画であるにもかかわらず、そこへ向かうシュタウフェンベルグ大佐の動機付けがはっきりしない。そのため感情移入が出来にくいのです。脚本にも無理があるように思えました。そもそもみんなが結果を知っている事件を観ていく上で、サスペンスをどう作り上げるかというのは難しい。

 であるならば、何故失敗したかを丹念に描くべきだったのではないでしょうか。「狼の巣」での会議会場の変更で、コンクリート構造から一般建築に変わったことによってもたらされる爆発威力の低下ともともとの火薬量の少なさと二発目の不発、分厚い机であったために爆発が篭ってしまい、結果として起こったヒトラーの生存、会議へのヒムラーの不参加、そもそもの計画の杜撰さと甘さなど数え上げればきりのないほどの失敗要因を検証すべきだったのではないでしょうか。

 有事の際に、首都ベルリンを守るために存在していた軍事計画であるワルキューレ計画を、つまり敵の力を借りて、それをクーデターに利用するという着眼点はそもそも素晴らしかったのに、いざ実行に移したときには上層部の優柔不断さと杜撰さでもろくも崩れ落ちていく様子は悲劇的ではある。もっと言うならば、そもそも行動部隊を持たずに、机上の理屈のみでクーデター計画を実行してしまったのが最大の失敗の要因でしょう。

 2・26事件では多くの部隊が決起して、実力で事件を起こしましたが、このワルキューレ計画には首謀者がいるのに、それを命がけでサポートする行動部隊が全く付いていないのです。よく考えれば、失敗して当然とも言える。

 誤報でも殺害失敗でも、迅速にクーデターを進めていけば、最終的には鎮圧されるにしろ、首都機能を何週間かは喪失させえたであろうし、鎮圧軍を差し向けねばならないので、ただでさえ手薄な前線がさらに攻撃力を失い、間接的に連合軍を手助けすることにもなったでしょう。

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 さらに当時であれば、比較的に情報操作もしやすかったでしょうから、ラジオ局や通信施設を重視して抑えておけば、連合軍を招き入れることも出来たでしょうし、ヒトラーの場所を通信で教え、爆撃することも可能だったでしょうし、SSらを早期に鎮圧することも可能だったでしょう。またヒトラー自身が行ったように反対派を締め出した上で国会を開催し、合法的に新政府を樹立する道もわずかながらあったかもしれません。

 このクーデターの連座で、多くの人々が犠牲者となりましたが、彼らがもしあと1年我慢して、生き残っていれば、ドイツの戦後復興はもっと素早く進んでいたのかもしれません。すべては結果論でしかありません。

 事件に関してはこういった部分での検証、第一次大戦での敗戦と失ったドイツ帝国のプライド、そしてナチスにより復興したはずだったが、また滅亡へと向かっていたドイツの歴史や国民感情への洞察に欠けるきらいがあるために、そして何よりもトム・クルーズ主演というハリウッドの事情により、少々甘口な掘り下げ方になってしまったのは残念でした。クレッチマンを使っていれば、もっと事件の本質に迫っていれば、全く違った印象を与える今年最高の作品に成り得たかもしれません。

 ※本作の製作年は2008年ですが、あえて公開年である2009年を表記しています。

総合評価 65点

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タイトル (本文) ブログ名/日時
「ワルキューレ」
この映画、トーマス・クレッチマンが出ていなかったら、観に行ってなかった。 「戦場のピアニスト」「マイ・ファーザー」良かったです! 他にも脇役で出てるけど彼がいるシーンって画面が柔らかく引き締まるんですよね。 VALKYRIE 2008年/アメリカ・ドイツ/120分 at:TOHOシネマズ梅田 監督: ブライアン・シンガー 脚本: クリストファー・マッカリー/ネイサン・アレクサンダー 撮影: ニュートン・トーマス・サイジェル 音楽: ジョン・オットマン 出演: トム・クル... ...続きを見る
寄り道カフェ
2009/04/02 13:43
「MY FATHER マイ・ファーザー」?
MY FATHER, RUA ALGUEM 5555 2003年/イタリア・ブラジル・ハンガリー/112分 ...続きを見る
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2009/04/03 10:03
「ワルキューレ」(2008年、アメリカ)
「ワルキューレ」(原題:Valkyrie)は、2008年公開のアメリカの映画です。1944年に起きたドイツ国防軍将校によるヒトラー暗殺計画「ヴァルキューレ作戦」と、祖国を愛するがゆえに独裁... ...続きを見る
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コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
■映画「ワルキューレ」見てきました―これが本当の陰謀というものか?
http://yutakarlson.blogspot.com/2009/03/blog-post_26.html
こんにちは。ワルキューレいろいろな意味で素晴らしい映画だったと思います。ストーリー自体は多くの人に知られている史実ですが、主人公のシュタウフェンベルク大佐の生き方には共感できるものが多々あります。しかし、この映画をみているいるうちに、陰謀・策謀などは、やはり全体主義国家や独裁主義国家でない限り、そう滅多にあるものではないということに気がつきました。現在、小沢さんの検察による「国策捜査」という趣旨の発言が話題になっています。しかし、首相官邸が首謀して検察を「国策捜査」に駆り立てるなど、ほとんど不可能に近いと思います。それから、何でもかんでも、ユダヤの策謀にしたがる人たちもいますが、これも全く問題外であると思います。詳細は是非私のブログをご覧になってください。
yutakarlson
2009/03/31 10:59
 yutakarlsonさん、こんばんは!はじめまして。
 とりあえず2時間も暇が潰れたら良いかあ、という程度の映画が多々ある中では良作の一つに入るのでしょうが、主役はトムである必要性のない映画だと思いました。

>「国策捜査」
無理でしょうね。ただ自民のほうにも叩けば埃の出る方もおられるようなので、ゴチャゴチャ言われないようにするには両者を立件してほしいものです。

 ではまた!
用心棒
2009/04/01 17:37
用心棒さん TBありがとうございました。
月初めちょっと仕事がバタバタしておりましてお返事が遅くなって申し訳ありません。
>戦争映画には良い意味でも悪い意味でも作り手側の覚悟や思惑が見て取れる。
覚悟が感じられる作品が後世にもずっと残り続けるんでしょうね。
>作品の質という面ではかなり落ちてしまいますが、映画はビッグ・ビジネスであるという側面も考慮すると、致し方ないのでしょう。
反乱軍たちがみんなイギリス人俳優で占められていたというのもいかがなもんかとも思いましたし、イギリス人の中にトムというヤンキー一人の軽さも感じられた。
思うにこれはトム側がかなりの圧力でもって本役を撮ったのでは? と下衆の勘繰りをしてしまう。監督としても費用面などで断腸の思いだったんでは?
計画そのもの、そこに関わる人々の思惑などなど掘り下げてほしかったですね。
だからトムを観ているとミッション:インポッシブル?って思えて仕方がなかったです(笑)
脚本もかなり手が入ったんでは?などとまたまた下衆根性でみてしまう。
シュエット
2009/04/03 10:02
続き。
数多くのヒトラー暗殺計画も、ドイツ軍とナチス親衛隊との軋轢、ヒトラー率いる親衛隊に対する反撥が底流にあったでしょうね。シュタウフェンベルグ大佐始め反乱を企てた将校たちはドイツの名門出身者。ヒトラーは彼らからみたら所詮成り上がり。視点を変えれば、彼らにはそういう強い階級意識も、ヒトラー暗殺を目論む彼らの心情の底にはあったでしょうね。階級闘争とまではいかなくとも。視点や解釈によって位置づけがかわってくる。歴史物ってだから面白い。そんな面白さを堪能したかったです、本作でも!
さてトーマス・クレッチマン!
この中で彼が一番引き締まってましたよね。
彼とチャールトン・ヘストンが共演した「マイ・ファーザー」もTBしますね。ドイツの戦犯の父と息子を描いた映画で、アルツハイマーを押してのへストンの出演。圧倒的な存在感でした。
「オペレーション・ワルキューレ」は英雄視し過ぎていなければいいですけどね。
シュエット
2009/04/03 10:03
 シュエットさん、こんにちは。
 ぼくも先月から今月にかけては決算月ということもあり、煩雑な仕事が多く、落ち着けませんでした。これもストレス発散で無理やり書いた記事なので、出来が悪いのはご了承ください。
>所詮成り上がり
 もっと言えば、ヒトラーはオーストリア人ですものね。厳格なドイツ人からすれば、彼はドイツ人ですらない。出自だけで語るのは暴論でしょうが、当時の階級意識はおそらく今よりも厳然として存在していたでしょうから、口には出さずとも貴族階級や資産家の人々は意識の奥底では「成り上がり!」と思っていたでしょうね。
 >「オペレーション・ワルキューレ」
WOWOWチャンネルにスカパーでまた入りました!楽しみですね。シネフィルも『戦艦ポチョムキン』の復刻版を放送するようですが、何年か前にシネヌーヴォで掛かっていたときのフィルムとは違うんでしょうかね。ぜひオリジナルの音楽を使用して盛り上げて欲しいものです。

 ではまた!
用心棒
2009/04/03 10:23
用心棒さん、どうも。
前向きにとらえれば、今の時代にこの題材の選定自体に価値があるのかもしれませんよ。
過去の秀作には及ばないことも仕方の無いことで、「わたしは貝になりたい」など、リメイクの問題はさておき、現代人には必須のテーマ、特に若い映画ファンには関心を持ってもらいたいものです。
また、ゲバラやヒトラー、レーニン、ニクソンなどで、現代の課題を描こうとする話題作が多いこと自体に展望も見えるようにも思うんです。
わたしは最近、今井正の「ひめゆりの塔」を観ました。確かに、凄い映画を観すぎると、せっかくの展望もかすんじゃいますね(笑)。
ではでは。
トム(Tom5k)
2009/04/12 18:15
 こんばんは!
 まだ記事にはしてはおりませんが、少し前に『チェ 28歳の革命』を観ました。不満は少なからずありますが、若い世代に戦争の悲惨さを疑似体験させるには映画は良い題材になる可能性を秘めております。
 ただ自分たちの暴力や自分たちの正義を正当化する傾向の強いアメリカ映画を観るときにはそこらへんを差し引いて観るということをアドバイスとして付け加えたいと思います。
 『太陽』もありましたし、そろそろロシアあたりで、スターリンやらロシア革命の真実を描くタブー映画も出てくる状況になってくるのでしょうかね。文革批判の映画も必要でしょうね。
 ではまた!
用心棒
2009/04/12 22:08

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『ワルキューレ』(2009)ヒトラー暗殺未遂事件に迫る!かなり期待したかった題材でしたが…。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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