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zoom RSS 『ひとで』(1928)単なる劇映画とは違う、かつて、あった自由な映画。

<<   作成日時 : 2008/03/19 18:19   >>

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 ハリウッド映画、邦画の別に関わらず、ストーリー性に優れている映画、つまり劇映画こそが唯一の映画だと思っている人がほとんどである現在、かつて存在した種類の映画運動について何かを書くことも必要なのではないか。

 どういうものかを例に取りますと、1920年代の純粋映画(フェルナン・レジェ監督『バレエ・メカニック』、ルネ・クレール監督『幕間』など。)、そして絶対映画(ハンス・リヒター監督『リズム21』『午後の幽霊』、ヴァイキング・エッゲリング監督『対角線交響曲』など。)をまずは挙げておきます。

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 さらにシュール・レアリズム(ブニュエル監督の『アンダルシアの犬』(*)など。当ブログでも記事にしておりますのでお立ち寄りください。*は記事有り。)、またフォト・ジェニー(アベル・ガンス監督『ナポレオン』、ルイ・デリック監督『狂熱』(*)など。)などが一般にアヴァンギャルド映画と呼ばれています。

 これら一連の作品群について記事として書かれているのは、せいぜい奇才ブニュエル監督の『アンダルシアの犬』という例外を除き、映画サイトでも稀である。そもそもほとんど観る機会すらもありません。名画座や美術館が所蔵していて、一般公開がひっそりと行われている時くらいしか目に触れることはないでしょう。

 そのなかで、今回記事にしたのはマン・レイ監督の『ひとで』でした。ちなみに英語題は『Starfish Surrel』。マン・レイといってもピンとこないし、聞いた事もないというのが普通でしょう。アヴァンギャルド映画史上では重要な人物で、代表作には『さいころ城の秘密』『エマク・バキア』『理性への回帰』などとともに、この『ひとで』があります。

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 シュール・レアリズムに分類されるだろう、この作品には自由な精神と生命が宿っている。冒頭の歪んだ円窓に入り込むと物語は始まる。このシーンで完全にフィルム世界に引きずり込まれることでしょう。感性と情感を刺激するなんともいえない不思議な魅力に溢れるエロチックなフィルムである。

 スターフィッシュ、つまりヒトデのイメージが何度も出てきますが、これは女性器を含めた秘め事の暗喩なのでしょうか。映像は1920年代にもかかわらず、フェチシズム的な描写やヌードでのベッド・インもあり、かなりストレートで、インパクトが強い。

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 そのほか、風に舞い踊る破れた新聞紙のイメージはとても刹那的で、もの悲しい。サイレント映画独特の大げさな演技は皆無で、むしろ現在の演技よりもクールであった。そのクールな表層とは裏腹の激しい内面をクロース・アップ、パン、アイリス・イン・アウト、モンタージュ、カット割り、図形や風景のイメージ挿入などの撮影テクニックで表現している。

 また、あえて、ぼやけさせたような映像がとても幻想的で、夢の中の世界、非現実的な世界を構築している。このへんは現在のクリエーター達にも見習って欲しい部分でした。サイレントで、基本的に動かない撮影状況下においても、十分に人間の感情を揺り動かすことは可能であるというのを見事に実証しています。

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 図形イメージの活用も見逃せない。分割画面を早くも採用して、ルーレット、オルゴール、ヒトデなどが回転し、すべてが結びつくと何故か歯車のようにも見える、奇妙な映像が示される。バナナ?とワインとヒトデ。性交そのものである。なんとも淫靡な映像でした。全体通して見ていても、常にエロチックな雰囲気が漂っています。

 嫉妬によって殺されようとするのは女なのか、それとも男なのか。異常に長い包丁を持って、寝室に忍び寄ろうとする怖さ。ホラーです。そして断片的に字幕に現れるメッセージ。「女の歯は魅力的な対象である。」「なんて美しい女だ!」「これは夢ではない。」

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 すべてが妄想なのか、夢物語なのか、現実なのか、境界線はぼやけてくる。不安感が芽生えてくる映像作りです。「ガラスの中の花(スターフィッシュのこと。)のように美しい!」「彼女はなんて美しかったんだ!」が「彼女はなんて美しいんだ!」に変わった刹那、「美しい!」と大きく字幕が出てきて、ガラスは砕け散り、女の表情は分からなくなる。

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 これは彼らの関係性が引き裂かれたことを表すのか、そもそもすべてが妄想だったので、その淡い妄想が実らなかっただけなのか。オープニングのように円窓が閉じられてフィルムは唐突に終わる。観終わった後でも脳裏に焼きつく映像であった。そしてこのフィルムは観るものに挑戦してくる。「簡単に理解できないよ。」と。もしかすると「もともと意味なんか考えているうちはダメだよ!」とマン・レイ監督自身が嘲笑っているのかもしれません。

 総合評価 85点

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コメント(13件)

内 容 ニックネーム/日時
 こんばんは!

 クレールの「幕間」は「イタリア麦の帽子」という秀作と一緒にフィルムセンターで、大昔、二十歳頃に観ましたよ。
 当時の拙文では「シュールリアリスティック」「アヴァンギャルド」「映像のマジック」という言葉が躍っていますが、評価はブログ式に言えば5点くらいです。
 呼称は何であれ用心棒さんが挙げた作品群は映画の実験室なので、そういう外的な評価は余り意味がないのでしょうけどね。

 話変わってマン・レイ。
 一昨年フィルムセンターで前衛映画の特集があった時にその横にあるMS銀行の次長を務めている親友に会ったついでに観ようかと思いつつ、結局重い腰を上げられず、見逃しました。
 デュラックの「貝殻と僧侶」も映画マニアなら是非観たいところですね。
オカピー
2008/03/21 02:32
マン・レイって写真しか知りませんでした。
映像、ゾクゾクしそうですね。こんなマニアックな作品特集組んで上映しそうな劇場、大阪に一つありますわ。映像をぼ〜っと眺めているだけで、好きな人は好きでしょうね。私も好きそう(笑)写真家のメイプルソープの世界とも通じるような…これも例のフリーソフトでダウンロードされたんですか?
シュエット
2008/03/21 16:56
お顔から、写真家でもあるマン・レイですよね?
シュエット
2008/03/21 16:58
 オカピーさん、こんばんは!
 確かに作品として評価するのは困難なのですが、未知の芸術であった映画の可能性を追求していた彼らの姿勢に対しては今こそ高評価を与えるべきであろうと思い、記事にしました。
 最近は『幕間』『アネミック・シネマ』『黄金時代』などオリジナルな映画ばかりを観ています。ではまた!
用心棒
2008/03/21 23:50
 シュエットさん、こんばんは!
>上映しそうな劇場
 それはもしかして、シネ・ヌーヴォでしょうか?あそこへは何回か行ってます。ロシア映画祭とか溝口健二特集とか、去年ならベルイマン特集とかやってましたね。ブニュエル特集とかやって欲しいですよ!必ず行きますよ。
>ダウンロード
そうです(笑)GUBA、YOUTUBE、VEOHなどで、「MAN RAY」「BUNUEL」を検索してみてください。フル・ヴァージョンの動画をゲットできますよ。原題が分からないと辛いですが、ウィキペディアとかのデータサイトで調べると、代表作などは分かりますし、監督名を英語で入れるとほぼ関連する動画を検索できますので、お試しください。
 一時間とか二時間とかあっという間に過ぎますよ!ではまた!
用心棒
2008/03/22 00:00
シネ・ヌーヴォは常連でございます(笑)。ここはアップリンクの作品なども頑張って上映してくれるし貴重な劇場ですね。ブニュエル特集はして欲しいですね。
ここよりも中崎町にある「プラネット1」は、もっとマニアック作品頑張ってます。グリフィス特集はここでした。
ダウンロードどこかでと思いつつ、録画作品もみたいし、記事も書かないといけないし、お邪魔しておしゃべりもしたいし…、会社にも行かないといけないし(笑)
シュエット
2008/03/22 04:12
 シュエットさん、こんにちは!
>会社にも行かないといけないし
そうですね!(笑)本当に時間のやりくりが大変ですよね。スカパー、WOWOW、BS2、レンタル、公開作品、そして動画サイトとありまして、撮り貯めしているファイルは増える一方です。
 でも好きなことだから、無理やり時間を作って見ていくのもまた楽しいですね。
用心棒
2008/03/22 12:29
突然のコメント、誠に申し訳ございません。

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eye2u
2008/04/03 12:27
>用心棒さん、連続のコメントお許しを。
げっ、何とオカピーさんやシュエットさんのコメントが・・・。
凄いよなあ。
わたしは、このマン・レイも未見ですが、アヴァンギャルド映画においては、あまりの芸術至上主義であったために、大衆との乖離に結びついていったものであり、批判すべき体系である、とある著作物で読んだことがあります。そして、この体系の貢献者レオン・ムーシナックは、モンタージュの意義として映像におけるリズムの重要性を称えて、映像におけるリズムの効果をモンタージュの目的として理論化したそうです。これは素晴らしいモンタージュ理論でかつフォトジェニー理論と異なり具体的な定義ですが、実践としての多くは閉鎖的な前衛運動に結びついていってしまったようです。
トム(Tom5k)
2008/07/20 13:55
ただ、この体系には、オータン・ララ、ブニュエル、グレミヨン、クレールなど、その後、目覚しい活躍をしていった作家たちも多く、この運動の意義もそこにあったように思います。
それにしても用心棒さんの記事やオカピーさん、シュエットさんのコメントを読むと、非常に興味が湧き上ってきますねえ。そして、田舎と都市部の文化格差を痛感します。

あっそれから更新記事で用心棒さんの『パリは燃えているか』を直リンさせていただいてます。いつも事後報告ですみません。
では、また。
トム(Tom5k)
2008/07/20 13:55
 こんばんは!
 一時はどんどんアヴァンギャルド路線にはまっていました!(いまでも?)
 『貝殻と僧侶』『黄金時代』『アネミック・シネマ』など、まだまだアップしていない前衛映画の記事があります。
 あまりにもマニアックなため、映画ブログでも、ほとんどどなたも記事を上げられていないのか、参照数は結構多いですね。
 ただどなたも現物を観られていないようで、結果コメントはあまりいただけません。
>田舎と都市部
 そんなことないですよ。youtubeやdaiiymotionで動画を探してみてください。ブニュエルやら前衛映画の動画がごろごろ落ちていますよ。
>直リン
どうぞ、トムさんなら好きに使っていただいて結構ですよ。
 ではまた! 
用心棒
2008/07/20 23:05
用心棒さん、こんばんは。
「リズム21」と「ひとで」の記事、またまた直リンさせていただいてます。
ギャバン&ドロンの「地下室のメロディー」を劇場鑑賞してきたところです。
新しい発見としては、この作品にも時代の反映なのか、ブレッソンの影響を垣間見てきました。そして、アヴァンギャルド作品の影響も間違いなくあるように見て取れましたよ。またまた手前勝手な解釈かもしれませんけれど・・・。
フランス人のそれは、視覚的リズムにおいて、自由で機知に富んだものだと読んだ覚えがありますが、この「地下室のメロディー」でもそれは顕著です。ラスト・シークエンスのプールサイド一面に浮かんだお札は、そこだけ取り上げると本当にシュールな映像でした。これはもっと着目すべき点だと思いましたよ。
ところで、用心棒さんは、この作品ご覧になったことがありましたか?
では、また。
トム(Tom5k)
2010/06/08 23:06
 こんばんは!
フランス映画をはじめとする欧州映画にはアメリカの映画が失った個性的なセンスがいまも息づいてますね。

>この作品
未見なんですよ。何度か録画する機会があったんですけど、そのたびに忘れたり、録画に失敗したりで見てないんですよ。

今度こそはと思いつつ、スカパーかBSでの放送を待っております。

ではまた!
用心棒
2010/06/09 00:16

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