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zoom RSS 『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(1972)カラーになっても、コメディを撮っても変わらない奇人。

<<   作成日時 : 2006/12/12 14:09   >>

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 『アンダルシアの犬』『昼顔』などで有名なスペインの生んだ天才映画作家、ルイス・ブニュエル監督後期の傑作と言えるのが、この『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』ではないでしょうか。コメディ映画とはこうあるべきであるという模範とも言えるこの作品には、現在でも通用する風刺の鋭さがある。

 ブニュエル監督らしい悪戯を全篇に盛り込み、彼の支持者達を存分に楽しませてくれる。ストーリーとしては、主人公達が食事をしようとすると必ず何らかの邪魔が入り、何時までたっても、豪華な料理を食べられないという(食欲は満たされないが性欲は必ず満たされる!)奇妙で自虐的なコメディーで、けっしてアメリカ人のセンスでは描ききれない、シュールで、そしてセンスの良さを感じさせる内容でした。

 ブニュエル監督は多くの作品を残していますが、彼は自由で奇抜な芸術性を思う存分に表現するために、そして気分転換もあったとは思いますが、メキシコ、そしてフランスと創作拠点を次々に替えています。

 彼が拠点を変えるきっかけになったのが母国スペインでの『黄金時代』(1930)を巡るトラブルでした。『アンダルシアの犬』(1928)の成功の後、満を持して、この『黄金時代』を発表するにあたり、己の芸術と当時のかの国の検閲、宗教、右翼との間で激しいいざこざがあり、結果として公開禁止処分を受けてからは彼はスペインを去っていきました。

 『黄金時代』(1930)ではカップルがセックスしようとするたびに邪魔が入ったり、乱痴気騒ぎから抜け出すキリストのような人物を描いたためにこのような騒動に発展しました。『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』ではセックスは叶えられるが、食事がなかなか出来ない、聖職者はだらしないなど同じような状況を描いています。(この映画を見ることは現在不可能のようなので、文献から内容について予測して書いております)

 しかし『ブルジョアジーの秘かな愉しみ』を撮った時代は1970年代、そしてなによりもブニュエル自身が彼の偏屈さを軸にして、徹底した風刺を使って、同じことを再び表現したこともあり、今度はコメディの傑作として後世に名を残す映画になりました。

 この『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』は晩年の作品であり、この当時の拠点はフランスでした。フランスの良い部分とブニュエルの円熟した芸術性が融合したまろやかな薫りのする素晴らしいフィルムです。

 個人的にもっとも印象に残るのは登場人物たちがパーティーに招待されて、テーブルで待っていると、バリバリと音を立てて、レストランの内装の壁が無くなり、突然に彼らの食卓が大勢の観客の見守る舞台に早代わりしてしまい、気取った主人公一行が観客の好奇と侮蔑の視線にさらされるというシーンでした。

 日頃はお澄ましした態度で大衆を見下しているブルジョア達が反対に大衆の後期と侮蔑に包囲される状況は彼らにとっては耐え難い恥を与えられているということであり、ブニュエルの「みんなはお前らを見ているよ!」「お前らの中身なんて、お澄まししていてもお見通しだよ!」という痛烈なメッセージが伝わってくるようでした。

 ビートルズの『ザ・ビートルズ』(ホワイト・アルバム)に収められているジョージ・ハリスンの佳作『ピッギーズ』を何故か見ていて思い出しました。皮肉っぽい内容からだったのかもしれません。ハリスンもヨーロッパ人の感覚からすれば、インド思想やシンセサイザーの実験アルバムを出すなど、少々変わっていて、偏屈っぽいところがありました。

 また高所からの俯瞰ショットで撮られる、全員で意味も無く、ただただ何度も繰り返し、舗装されていない田舎の麦畑の道を歩き続けるシーンは、まるで「あんたたちって、いったいなんで生きてるの?」「意味なく飲み食いして、満腹になったらセックスするのが人生なの?」という神様からの問いかけのような視点を感じました。

 虚無的であり、退廃的である。ヴィスコンティほどは深刻にならず、笑い飛ばしてくれているのが救いかもしれません。スペイン時代の雰囲気で、ブルジョアというテーマで制作していれば、より深刻な映画が生まれていたでしょうが、果たして支持されていたであろうか。時代時代で求められる映画は違うので、なんとも言えません。

 見ず知らずの若い将校がテーブルにやってきて、幽霊話を含む自身の話を何の前触れもなく始めたり、聖職者が間男をしたりといかにも反権威をモットーとするブニュエル監督らしいシュ-ルでやんちゃな行もあり、昔からの彼のファンであれば、きっと納得できる作品です。大爆笑はありませんが、どこかしらでニヤリとさせてくれる良い作品でした。

総合評価 82点
 ブルジョワジーの秘かな愉しみ【字幕版】
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「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」
LE CHARME DISCRET DE LA BOURGEOISIE 1972年/フランス/102分 ...続きを見る
寄り道カフェ
2008/03/04 19:50
『小間使の日記』(1963)フェティシズムを映像で表現した、ブニュエル後期の名作。
 ルイス・ブニュエル監督作品のなかでは難解なものという括りでいうとスペイン時代、分かりやすいのはフランス時代、そしてその中間となっているのがメキシコ時代の監督作品群であろうか。各々の時代にブニュエルの意志があり、フィルモグラフィとして残されたものはとても重要な価値のある作品ばかりである。 ...続きを見る
良い映画を褒める会。
2009/08/08 02:09

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
楽しく拝読させていただきました。
ブニュエル作品は好きですが、それほど見ている訳ではないので、彼がどんなテイストなのかってあまりよく分からないのですが、本作も楽しくなってくる好きな作品です。よくもこれだけコケにできたものだと、突然、ディナーの席が舞台に、なんてシーンは全く、憎いほどの見事さで…。
シュエット
2008/03/04 19:58
 こんばんは!
>突然、ディナーの席が舞台に
 あのシーンって、「8時だよ!全員集合」の最初のコントの最後のオチ(ジャ〜〜〜ン♪チャンチャンチャン♪とかいう感じで歌のステージに切り替わる時の演出に似ていて、最初観た時は僕の頭の中ではドリフ・メンバーが駆け回っていました。ではまた!
用心棒
2008/03/05 01:46

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