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help リーダーに追加 RSS 『深夜の告白』(1944)名匠ビリー・ワイルダーの、そしてフィルム・ノワールの傑作。

<<   作成日時 : 2006/11/28 01:09   >>

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 ビリー・ワイルダー監督の三作目の監督作品にして、フィルム・ノワール作品の中でもベストの部類に入る傑作がこの『深夜の告白』です。脚本にレイモンド・チャンドラーを迎え、音楽には次の作品『失われた週末』でも起用するミクロス・ローザが参加しています。

 意味深な標識の言葉、真夜中の車道を信号すら無視して無謀に猛進する乗用車、スリリングな音楽と暗闇が醸しだす怪しい雰囲気を感じ取った観客はすでにワイルダー監督の映画世界に飲み込まれている。見事なオープニングでした。


 <ネタバレを含みますので、未見の方は要注意。>


 人物の顔をはっきり見せずに背中や暗闇のなかで語りかける登場人物たちにたいして、観客は非常に大きな不安を覚える。登場人物が何を考えているのか分からない不安な感覚は映画の観客が本来有する神の視点を奪い、作品世界の人物たちと同じレベルに観客を落とし込む。観客を巻き込んでいく斬新なスタイルだったのではないでしょうか。

 ぼんやりとした明るさと圧倒的な漆黒の闇の世界。ギザギザした図形イメージはこの作品には予定調和がないことを予感させる。また決定的な人生の選択を迫られる時には画面は強烈なコントラストの光と影で描かれる。

 おそらくは戦時という時代の影響からくるのであろうが、内地にいながらも確実に存在する得体の知れない不安感、フレッド・マクマレイとバーバラ・スタンウィックの際どい会話、客観的にクールを装うのだが激情を隠せないフレッド・マクマレイのフラッシュ・バックは堕ちていった男の最後の言葉である。

 そして男を食い尽くすファム・ファタールの魔性を撒き散らすバーバラ・スタンウィックの美しさ。さすがにヘア・スタイルには時代を感じてしまいますが、この女優は確かに美しい。『深夜の告白』にはフィルム・ノワールに必要不可欠の要素がすべて盛り込まれている。

完全犯罪を目論む男女の悪巧みと裏切り。ワイルダーとチャンドラーによって練りに練られたストーリーは今の目からすると、ありふれたものに見えるかもしれませんが、これが製作されたのは第二次大戦中なのです。1944年という戦時中にこのような反モラルな犯罪映画を公開できたアメリカ国内の精神的な余裕とわが国の切羽詰った悲惨な状況とでは雲泥の差があります。

 バーバラ・スタンウィック演じる、悪魔のような後添えの妻が愛情のかけらもなく、また良心の呵責もなく、平然と夫に高額保険金を掛け、その保険金を得るために情夫と殺人計画を練り、殺人を実行する。さらに性質の悪いことにこの情夫は素人ではない。

 彼すなわちフレッド・マクマレイは業界内部、それも保険会社の腕利きセールスマンであり、バーバラはその色気で彼をたらし込み、業界の実情に詳しい彼に計画を立てさせて完全犯罪を目論む。こうした犯罪を成功させようとする反社会的なストーリー展開だけでも当時の世相では相当ショッキングである。

 殺人を企てたバーバラは以前にも夫の前妻に対して同じようなことをしていたという娘(ジーン・へザー)の衝撃の告白はフレッドを疑心暗鬼に陥らせる。たんなる愛欲と憎悪から殺人を犯したのではなく常習犯に近い異常性を持っているバーバラに気付いたフレッドは一気に問題解決を図ろうとする。

 こうした二重三重に張った伏線もこの作品に奥行きを与えている。用済みになったフレッドにも同じ運命が待ち受けていることを暗示する。ただの単純な犯罪映画ではありません。

 ファム・ファタールのバーバラ・スタンウィックは夫を殺すために主人公フレッド・マクマレイを彼の人生をも狂わすであろう策謀に引きずり込んでいく。まずはこの両者の愛欲の関係が憎悪の関係に変わっていく人間模様が第一の軸になる。

 第二の軸はバーバラと彼女の義理の娘(ジーン・へザー)との相克であり、この義母はかつてへザーの母親を殺し、こんどはボーイフレンド(トム・パワーズ)までも巻き込んで、彼に夫殺しの罪を被せようとするなどして自己の保身を図り、ことを進めようとするずる賢さを見せる。

 かつて母親を殺され、恋人までも奪われようとするへザー。修正など望むべくもない義母と義娘の関係だけでも厄介だが、深く接していくうちにバーバラよりも娘へザーの方に愛情を感じてしまうフレッドの微妙な感情も見逃せない。身の回りすべてが底なし沼のように、袋小路のようにフレッドを追い詰めていく。

 第三の軸はフレッドとエドワード・G・ロビンソンとの上司と部下という関係を超える男同士の友情である。保険会社の部署内で、犯人とクレーム対処係であり真相究明者であるロビンソンがともに働き、犯人であるフレッドがロビンソンの推理と検証によって徐々に追い詰められていくのを見るのはなんとも絶妙なシチュエーションであり、不幸な状況でもある。

 発覚するのは時間の問題になっていく過程はまさにサスペンスである。煙草を吸うときに指でマッチの火を点けるさまはカッコよく、フィルム・ノワールでの堕ちていく男に相応しい仕草でした。いつもロビンソンの葉巻に火を灯していたフレッドが死に際に、彼に火を点けてもらう様は死に水を取ってもらっているようであり、映画の終わり方としてもスタイリッシュである。

 この作品で最も味のある演技を見せていたのはエドワード・G・ロビンソンでした。渋さと優しさ、そして哀しさを感じさせてくれる好演でした。

 ミクロス・ローザが付けた音楽も素晴らしく、サスペンスを煽り、作品を盛り上げていく。実に効果的な音楽を付けていた彼でしたが、ワイルダーとの仕事はこれと次の『失われた週末』で最後になってしまったのは残念でした。

 映画の見せ方という意味でも優れた作品でもあります。ヘイズ・コードがあったのが大きな要因だったのでしょうが、殺人や銃撃などの過激なシーンやラブシーンを直接映さずに観客に想像させるスタイルは洗練されていて、最近の作品にありがちな汚らしさがない。そしてこのような規制の中でさまざまなシーンを表現しなければならない状況だからこそ、監督たちのセンスの良し悪しがはっきりと分かる。

 ビリー・ワイルダーという人はコメディ、サスペンス、ラブストーリー、フィルム・ノワールなどさまざまなジャンルの映画を撮りましたが、どれも印象に残る素晴らしい映画に仕上げています。娯楽と芸術が上手く同居しています。

 思い出すだけでも『アパートの鍵貸します』『第十七捕虜収容所』『サンセット大通り』『昼下がりの情事』『情婦』『お熱いのがお好き』『あなただけ今晩は』など優れた作品ばかりです。毎日一本ずつ彼の作品を見続けても、毎日唸らされる素晴らしさが彼の作品にはあります。

 ワイルダー監督作品はとてもいいですよ。映画の撮り方の素晴らしさ、語りの素晴らしさ、そして音楽の素晴らしさを存分に味わえます。

総合評価 90点
深夜の告白【字幕版】
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失われた週末
1945年度アカデミー賞作品 / 監督 / 脚本 / 主演男優賞を受賞。名匠ビリー・ワイルダー監督が、アルコール依存症に陥った男の不安心理をシリアスに描いた秀作である。売れない小説家のドン(レイ・ミランド)は、自分の恋人と兄を音楽会に行かせ、その隙に外に出て酒をのんだことから兄を怒らせ、週末をひとりで過ごすはめに。それでも懲りずに酒を求めて再び街に出てさまよう彼は、ふと気が付くとアル中収容所の中におり、恐怖のあまり脱出して家に帰るが、今度は幻覚を見るようになり…。 当時としてはあまり... ...続きを見る
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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
用心棒さん、待ってましたよ。『深夜の告白』ですね。
ジェームズ・M・ケイン原作、ビリー・ワイルダー監督・脚本、レイモンド・チャンドラー脚本。このスタッフだけで、よだれが出そうです。
バーバラ・スタンウィックと較べるとシャロン・ストーンなんぞは、まだまだ、「お嬢さま」「箱入り娘」ですね。
ファム・ファタル、フラッシュ・バック、ローキー、ローアングル、照明における光と影の光芒、テーマにおける中産階級の退廃・・・。フィルム・ノワールの最高傑作ですね。
>第三の軸はフレッドとエドワード・G・ロビンソン
彼らには、何か父と子の潜在意識のようなものを感じました。
主題における父性は単なる親子愛的なものだけでなく、正しいもの、誤ったものを正していく父親としての父性を描いていたのではないでしょうか?
そして、バーバラはフレッドを本当は愛していたのではないでしょうか?

本来ならば、素敵なホームドラマになるはずの設定が、フィルム・ノワールになってしまう。アメリカの闇は暗すぎます。
では、また。
トム(Tom5k)
2006/12/02 13:44
 トムさん、こんばんは。
 フィルム・ノワールが成立するための条件の中で、どうしても映画ファンの目が行きがちな妖艶なファム・ファタールの陰に隠れてしまい、見過ごされがちな重要要素と呼べるのが、男の行動規範ではないでしょうか。
 プライドといっても良いのでしょうが、主人公のディシプリンが最後まで崩れないフィルムでは彼が生き残る可能性が増すか、もしくは尊厳のある死を与えられ、それがファムファタールに負けて崩れ去ってしまう者に待ち受けているのは裏切られた末の犬死にが多いような気がします。
 今週は『失われた週末』『過去を逃れて』『ボディ・ダブル』などを鑑賞しました。
 新作まで手が回りません。ではまた。
用心棒
2006/12/02 23:24
男の行動規範・プライドは、確かにファムファタルとの闘いにならざるを得ないのでしょうね。
これは女性の性的魅力に勝つことができるか否かに懸かっています。すなわち、女性の本質的な素晴らしさ美しさ純粋さを知っているか否かだと思うのです。そういう本当の女性の魅力を知っている男はセックスには惑わされない、豊かな恋愛を全うできるロマンティストなのでしょうね。
硬質で男性的な男性が、意外にもロマンティストであることは、珍しいことではないのかもしれません。
では、また。
トム(Tom5k)
2006/12/03 18:45
 トムさん、こんばんは。
 最近はフィルム・ノワール作品ばかりを見てしまいます。危険な香りのする男と女を、時にクールに、またある時は果ての無い情欲とともに描く、あの独特の魅力は最近の映画ではなかなか味わえないのが残念ですが、コーエン兄弟やデパルマ監督に期待しながら年の瀬も映画を見ていこうかと思います。
 ではまた。
用心棒
2006/12/03 19:35
書かれていたんですね。忘れていました。
色々なブログで見かけ、しかも大好きなワイルダーを取り上げていないので、急遽メモから転載致しました。
比較的最近のメモなのである程度きちんと書いてありますが、本当はもう一度観てブログ用に書き下ろすべきだった作品です。

限定的な規制は、特に映画のような芸術では、良い結果をもたらすことが多いかもしれません。ロマン・ポルノ出身の監督にカメラワークの上手い人が多いのはそうした規制の効果でしょう。
CGは逆に映画作りを下手にします(そう書いたらお前の考えは古いとまた罵詈雑言。今回は消しました)。
オカピー
2007/01/23 01:29
 規制があればあるほどに、そのなかで輝く才能があります。以前アマレスとプロレスの比較について話題になったことがありましたが、減量と厳しいルールの下で行われる格闘技では規制があるほうが見ていて楽しい部分があるように思えます。
 プロレスや総合はもちろん面白いのですが、より集中して見ていく競技のひとつにボクシングがあります。減量をクリアしてはじめてリングに上がることが出来、しかも手しか武器が認められていない、もっともストイックな格闘技がボクシングです。
 にっかつロマンポルノ出身者は「18禁」でまずは見る年齢対象を限定され、アングルを制限され、ドラマを構築する必要があり、しかも見せ場は作らねばならず、ほとんど陽の目を見ないという厳しい制作現場ですが、そのなかから飛び出してくる製作者は回り道をしている分だけ豊かな映像を作る人がいるのではないでしょうか。ではまた。
用心棒
2007/01/24 01:44
遅まきながらビリーワイルダー監督の本作を見ました。
本作を下敷きにした「白いドレスの女」から私の映画鑑賞は始まっていたもんで…。でもこれを見たら他の作品がずっと退いてしまう。
ラストの男同士のあのシーンも泣けてくる。こんなシーンは女の私は妬ける。

人間を描いていて、人間のもつ弱さとか哀しさとかが余韻として残る。最近作は人間そのものよりも現象とか自県に視線が言ってるんでしょうね。本作のような深い余韻を引き摺らないんですよね。
シュエット
2009/04/22 23:06
 こんにちは!雨降りは鬱陶しいですね…。
>人間を描いていて
 最近の映画がもっとも忘れている部分であり、本来もっとも重視すべきポイントですね。

 ストーリーや表現が画一化及び、平均化してしまい、最大公約数をターゲットにしているのでしょうが、結局どっちつかずで、一般ファンからも、マニアからも見捨てられる映画が増えていると感じております。

 今週は『スラムドッグ$ミリオネア』『マーリー』『グラン・トリノ』を観ました。スポーツとニュースしか興味がないといわれる日本の30代後半から40代の男としては、けっこう多い鑑賞数かも…。
用心棒
2009/04/25 17:32

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